最後まで奏でられなかった音楽

どこかお間抜けDQNな不良さんのゆったり更生日誌(笑)
殴り書き書店
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第二十一話 離別

108 不良さん 完全に叩きのめされる

公開日時: 2021年5月25日(火) 00:21
更新日時: 2022年11月20日(日) 13:15
文字数:2,391

第二十一話『離別』が始まりますです(*'ω'*)ノ

 021【離別】


 ……決して、誰かが上手く弾けなかった訳じゃない。

全てが上手くかみ合い、ライブ自体も順風満帆に事が進んでいた筈だった。


その証拠に、山中は、完璧なリズムで上手く曲を構成してくれていたし。

嶋田さんは、弾きなれないギターを使いながらも最善を尽くしてくれた。

素直の歌も、何処にも問題らしきものが見当たらない程に完璧。

勿論、奈緒さんのベースと、歌唱力は、他のバンドを圧倒していた。


まぁそれ以前には、楽屋で少々揉め事があったから。

ステージに上がった当初は、少々グダつきがあったにせよ。

全員がステージに揃ってからの俺達は、演奏もパフォーマンスも悪くは無かった筈だ。


なのに、この惨たる結果は、どうだ?


たった1人で、全員に立ち向かい。

アンプに繋いだだけの音の小さなセミアコースティックギターを弾きだした崇秀に、全てを飲み込まれ惨敗。

しかも最後には、奴の音に乗せられて、ミットモナクも自身達の本心を自ら晒け出すと言う、醜態まで演じてしまった。


序に言えば、俺達とアイツの実力差を白日の下に晒しただけとも言える。


何も得るものはなく、ただ失うばかりのライブだった。



そんな心境の中、俺はステージを降りた後。

そのまま肩を落として、楽屋へと向って行くだけしか出来なかった。


あまりにも惨めだ。


***


 そんな風に引き上げている途中。

1度『ポン』と背中を叩いた山中が、俺の横を歩きながら話しかけて来た。



「いや~~~、あれは、マジでまいったわ。今回に限っては、見事なまでに完敗やな完敗。アイツが、あそこまで『やれる奴』やったとは、流石の俺も計算外やったわ。ホンマ、アイツは規格外の化物やな」

「……だな」


山中の声は、あの惨状を終えた後とは思えぬ程に表情が明るい。

いつも通りの雰囲気で、続け様にペラペラと会話をしてくる。


この様子からして、さっきの演奏中に、何かを悟る事でも有ったのだろうか?



「まぁそやけど。今回は惨敗を喫したものの。最低限の得るもんはあったな」

「得るものだと?……んなもん、俺には、なにも無かったぞ」

「アホか?俺は、アイツのお陰で、完全に目ぇ醒めたぞ。まず中途半端はアカンって事が一点。ハンパもんは、上手い事利用されるだけの存在やってな。……正に今の俺等が、それや」

「あぁ、まぁ、確かにな」

「それになぁ。その他にも、一番重要な事も教わったぞ」

「なんだよ、それ?」

「やっぱり、アイツは『倒すべき敵』って事や。俺は、なにがあっても、絶対アイツの味方にだけはなれへんで。それを確信出来たんが、今回の一番の収穫やな」

「んだよ、オマエ。あんなもん見せつけられて、まだ抵抗する気力が残ってるのか?」

「あぁ、勿論あんで。寧ろ、限界炸裂しそうな勢いや」


やけに楽しそうに話しているが。

何故そんなに、ヤル気が満ち溢れてるんだ?


それにコイツ、俺がバンドに勧誘した時よりも、数倍良い顔をしてズッと楽しそうに語ってやがるじゃねぇか。


どうやら此処にも、違った形で『崇秀依存者』がいる様だ。

山中は、完全に崇秀の術中に嵌っている。


……だが、俺は違う。

コイツの様な敵愾心も無ければ、反発する気力も無い。

先程の奴の演奏で、根こそぎ敵対心を削ぎ落とされた気分。


今、奴に勧誘されたら、なんの抵抗も無く『従属』してしまいそうな勢いだ。



「なんで、そんなに気力があんだよ?」

「はぁ?なに言うとるねん。そんなもん決まりきっとるやないか。アイツが音で、俺に、そう言うて来たからや。……『掛かって来い雑魚共』ってな」


そう……なのか?


音の捉え様は、人それぞれの感性が違うものだから、山中の言ってる事は判る。

だから恐らく、コイツには、あの音が、そう言った挑発に聞こえたのだろう。


だが、俺には明白に『一緒に弾かないのか?』と聞こえたんだがな。


この辺は人間に感性がある以上、否めない話だが、何故、そんな風に聞こえたんだろうな?



「そう……なのか?俺には『一緒に弾かないのか?』って感じたんだが」

「まぁ、単純に、そないな取り方もあるわな。人である以上、それは否めん話や……ただ、それやと、折角アイツが挑発して来とるのに、全然おもろないやんけな。だから俺は、近々アイツにリベンジする方を選ぶ。その方がおもろそうやし」

「山中……」

「まぁそないに湿気た顔すんなや。今日の敗北は、明日への活力や。負けた事を、いつまでもクヨクヨしても始まらん。……まっ、そんな事より大切なんは、次回のライブや。その時は頼むでマコ。次こそは、絶対にあのアホに勝とな」

「あっ……あぁ」


ライブが終わった疲労感と、崇秀に対する惨敗感で、生返事しか出来なかった。

そんな反応の悪い生返事を聞くと、山中は、そのまま楽屋には向かわず、何故か足早で、勝手口から外に出て行った。


少し、この奇妙な行動が気になったので、そちらに行ってみると……



『ガンッ!!カランカランカラン……』

『あぁもぉ!!クソッタレがぁ~~~~!!こんなもん、赤っ恥もえぇところやないか!!情けないのぉ。もぉ、なんやねんな俺は!!』


突然、ゴミバケツを蹴る音と、自分に対する罵倒が聞こえた。


口ではあんな事を言っていたが、矢張り、内心は穏やかじゃなかったみたいだな。

確かに、あれだけの観衆の前で、あれ程までに、明白な実力差を見せつけられたんじゃ、誰だって口惜しくない筈が無い。


特に負けん気の強い山中なら尚更だ。


その後も、何度もバケツを蹴る音と、罵声が木霊していた。


……だが、今の俺では、山中に掛けてやる言葉が見つからない。

せめて、今はそっとして置いてやるのが情けってもんだと思えたからだ。


そんな風に自分の無力さを噛み締めながら、再び楽屋を目指す。



「……真琴さん」


楽屋に戻る途中、素直がコチラを窺いながら話しかけてきた。

どうやら、今一番逢いたくない人物に待ち伏せされたらしい。


運が良いとか、悪いとかは何も感じないが、これはもぉ恐らく必然なのだろう。


最後までお付き合いありがとうございました<(_ _)>


大分、精神的に打ちのめされたようですね(笑)


まぁでも逆に言えば。

まだベースを弾き始めてから数カ月しか経っていないので、善戦した方だと思うんですけどね。


寧ろ、この場合、勝てると思う方が、どうかしてるんですけどね(笑)


さてさて、そんな凹み気味の倉津君なのですが。

此処で追い打ちを掛ける様に、素直ちゃんを遭遇してしまいましたね。


この危機的状況をどうするのかは、次回の講釈です。


また良かったら、遊びに来て下さいねぇ~~~(*'ω'*)ノ

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