第二十一話『離別』が始まりますです(*'ω'*)ノ
021【離別】
……決して、誰かが上手く弾けなかった訳じゃない。
全てが上手くかみ合い、ライブ自体も順風満帆に事が進んでいた筈だった。
その証拠に、山中は、完璧なリズムで上手く曲を構成してくれていたし。
嶋田さんは、弾きなれないギターを使いながらも最善を尽くしてくれた。
素直の歌も、何処にも問題らしきものが見当たらない程に完璧。
勿論、奈緒さんのベースと、歌唱力は、他のバンドを圧倒していた。
まぁそれ以前には、楽屋で少々揉め事があったから。
ステージに上がった当初は、少々グダつきがあったにせよ。
全員がステージに揃ってからの俺達は、演奏もパフォーマンスも悪くは無かった筈だ。
なのに、この惨たる結果は、どうだ?
たった1人で、全員に立ち向かい。
アンプに繋いだだけの音の小さなセミアコースティックギターを弾きだした崇秀に、全てを飲み込まれ惨敗。
しかも最後には、奴の音に乗せられて、ミットモナクも自身達の本心を自ら晒け出すと言う、醜態まで演じてしまった。
序に言えば、俺達とアイツの実力差を白日の下に晒しただけとも言える。
何も得るものはなく、ただ失うばかりのライブだった。
そんな心境の中、俺はステージを降りた後。
そのまま肩を落として、楽屋へと向って行くだけしか出来なかった。
あまりにも惨めだ。
***
そんな風に引き上げている途中。
1度『ポン』と背中を叩いた山中が、俺の横を歩きながら話しかけて来た。
「いや~~~、あれは、マジでまいったわ。今回に限っては、見事なまでに完敗やな完敗。アイツが、あそこまで『やれる奴』やったとは、流石の俺も計算外やったわ。ホンマ、アイツは規格外の化物やな」
「……だな」
山中の声は、あの惨状を終えた後とは思えぬ程に表情が明るい。
いつも通りの雰囲気で、続け様にペラペラと会話をしてくる。
この様子からして、さっきの演奏中に、何かを悟る事でも有ったのだろうか?
「まぁそやけど。今回は惨敗を喫したものの。最低限の得るもんはあったな」
「得るものだと?……んなもん、俺には、なにも無かったぞ」
「アホか?俺は、アイツのお陰で、完全に目ぇ醒めたぞ。まず中途半端はアカンって事が一点。ハンパもんは、上手い事利用されるだけの存在やってな。……正に今の俺等が、それや」
「あぁ、まぁ、確かにな」
「それになぁ。その他にも、一番重要な事も教わったぞ」
「なんだよ、それ?」
「やっぱり、アイツは『倒すべき敵』って事や。俺は、なにがあっても、絶対アイツの味方にだけはなれへんで。それを確信出来たんが、今回の一番の収穫やな」
「んだよ、オマエ。あんなもん見せつけられて、まだ抵抗する気力が残ってるのか?」
「あぁ、勿論あんで。寧ろ、限界炸裂しそうな勢いや」
やけに楽しそうに話しているが。
何故そんなに、ヤル気が満ち溢れてるんだ?
それにコイツ、俺がバンドに勧誘した時よりも、数倍良い顔をしてズッと楽しそうに語ってやがるじゃねぇか。
どうやら此処にも、違った形で『崇秀依存者』がいる様だ。
山中は、完全に崇秀の術中に嵌っている。
……だが、俺は違う。
コイツの様な敵愾心も無ければ、反発する気力も無い。
先程の奴の演奏で、根こそぎ敵対心を削ぎ落とされた気分。
今、奴に勧誘されたら、なんの抵抗も無く『従属』してしまいそうな勢いだ。
「なんで、そんなに気力があんだよ?」
「はぁ?なに言うとるねん。そんなもん決まりきっとるやないか。アイツが音で、俺に、そう言うて来たからや。……『掛かって来い雑魚共』ってな」
そう……なのか?
音の捉え様は、人それぞれの感性が違うものだから、山中の言ってる事は判る。
だから恐らく、コイツには、あの音が、そう言った挑発に聞こえたのだろう。
だが、俺には明白に『一緒に弾かないのか?』と聞こえたんだがな。
この辺は人間に感性がある以上、否めない話だが、何故、そんな風に聞こえたんだろうな?
「そう……なのか?俺には『一緒に弾かないのか?』って感じたんだが」
「まぁ、単純に、そないな取り方もあるわな。人である以上、それは否めん話や……ただ、それやと、折角アイツが挑発して来とるのに、全然おもろないやんけな。だから俺は、近々アイツにリベンジする方を選ぶ。その方がおもろそうやし」
「山中……」
「まぁそないに湿気た顔すんなや。今日の敗北は、明日への活力や。負けた事を、いつまでもクヨクヨしても始まらん。……まっ、そんな事より大切なんは、次回のライブや。その時は頼むでマコ。次こそは、絶対にあのアホに勝とな」
「あっ……あぁ」
ライブが終わった疲労感と、崇秀に対する惨敗感で、生返事しか出来なかった。
そんな反応の悪い生返事を聞くと、山中は、そのまま楽屋には向かわず、何故か足早で、勝手口から外に出て行った。
少し、この奇妙な行動が気になったので、そちらに行ってみると……
『ガンッ!!カランカランカラン……』
『あぁもぉ!!クソッタレがぁ~~~~!!こんなもん、赤っ恥もえぇところやないか!!情けないのぉ。もぉ、なんやねんな俺は!!』
突然、ゴミバケツを蹴る音と、自分に対する罵倒が聞こえた。
口ではあんな事を言っていたが、矢張り、内心は穏やかじゃなかったみたいだな。
確かに、あれだけの観衆の前で、あれ程までに、明白な実力差を見せつけられたんじゃ、誰だって口惜しくない筈が無い。
特に負けん気の強い山中なら尚更だ。
その後も、何度もバケツを蹴る音と、罵声が木霊していた。
……だが、今の俺では、山中に掛けてやる言葉が見つからない。
せめて、今はそっとして置いてやるのが情けってもんだと思えたからだ。
そんな風に自分の無力さを噛み締めながら、再び楽屋を目指す。
「……真琴さん」
楽屋に戻る途中、素直がコチラを窺いながら話しかけてきた。
どうやら、今一番逢いたくない人物に待ち伏せされたらしい。
運が良いとか、悪いとかは何も感じないが、これはもぉ恐らく必然なのだろう。
最後までお付き合いありがとうございました<(_ _)>
大分、精神的に打ちのめされたようですね(笑)
まぁでも逆に言えば。
まだベースを弾き始めてから数カ月しか経っていないので、善戦した方だと思うんですけどね。
寧ろ、この場合、勝てると思う方が、どうかしてるんですけどね(笑)
さてさて、そんな凹み気味の倉津君なのですが。
此処で追い打ちを掛ける様に、素直ちゃんを遭遇してしまいましたね。
この危機的状況をどうするのかは、次回の講釈です。
また良かったら、遊びに来て下さいねぇ~~~(*'ω'*)ノ
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