●前回のおさらい●
赤レンガ倉庫でのゲリラライブ中。
最後の曲を奏でる前に、自称・奈緒さん親衛隊隊長・鮫島が、警備員の服で参上!!
「あれ、鮫ちゃんじゃない?なになに仕事?」
「そうッスよ、奈緒様。俺、深夜は、此処で警備員のバイトやってんッスよ」
「そっか、そうなんだ。……じゃあ、鮫ちゃんさぁ、1つお願い。後1曲【泡沫】だけ、此処で唄わせてよ。それ、終わったら帰るからさぁ」
「全然全然、寧ろ、もぉ何曲でも唄っちゃって下さいよ!!当然、他の警備員が来ても心配ないッスよ。奈緒様だけは、俺が責任を持って100%逃がしてあげますから。それこそが親衛隊の勤めッスからね。……けど、そっちの俺をブン殴った野郎はダメっすよ。俺も仕事ッスからね」
「あっそ。……じゃあ辞める。もぉ帰る。もぉ唄わない」
「おぅ、コラ、警備員!!つぅか、テメェが引っ込め!!俺達、赤レンガ倉庫の客が、コイツ等の曲を望んでるんだぞ。勝手に辞めさしてんじゃねぇぞ」
「「「「「「そうだ、そうだ!!帰れ、帰れ!!」」」」」」
まただよ。
前回に引き続き、また鮫島ブーイングが始まっちまったよ。
けどよぉ。
今回の件は、私情が有るにせよ。
職務を全うし様としてる人間に、流石に、これは可哀想過ぎるだろ。
しょうがねぇ。
面倒臭いが、少しフォローしてやるか。
「オイオイオイオイ、オマエ等さぁ。それを言っちゃあ、流石に、コイツが可哀想だろ。コイツだって仕事なんだからよぉ。んな事を言ってやるなよな。じゃねぇと、このゲリラ・ライブ自体、もぉ中止だ中止」
「オマエ……」
「あぁそれとなぁ。次の曲は、しっとりと聞く曲だからよぉ。こんな所で、みんなで集まって聞くより、個人個人で、各々の場所を作って聞いて方がお得だぞ。その方が数倍雰囲気が出るからよぉ。カップルにも家族にも、それがお薦めだぜ」
「おい、アンタ……それ、本当なのか?」
「あぁ、100%、家で、ゆっくり聞く様な曲だ。俺としては、マジでそうやって聞いて欲しい」
「じゃあ、俺は、そうさせて貰おうかな。曲を作った奴等がそう言うんだったら、間違いないだろ」
「「「「「「あぁ、確かにそうだよな」」」」」」
「じゃあよぉ、今からキッカリ10分後に曲を流すから、楽しみにしておいてくれ」
「「「「「「わかった。楽しみにしてるぞ」」」」」」
「おぉ任せとけ」
俺達の周りに集まった大きな円は、俺の言葉と共にパラパラと解散していく。
いやぁ~~~、言葉って、こう言う時、本当に便利だよな。
意思疎通ってもんがやり易いもんな。
「オイ、鮫島……悪いな。いつも貧乏くじ引かせてよ」
「オイ、オマエ、そんな事より、なんで俺を庇ったんだよ?」
「そりゃあオメェ。オマエは、ウチのバンドにとっちゃあ、毎回来てくれる上客だからだよ。だったらフォローしない訳にもいかないだろ。それによ、オマエは、いつも一番必死に奈緒を応援してくれてるしな……まぁ、やりすぎるのが偶に瑕だがな」
「オマエって、案外、良い奴なんだな。……少し見直したぞ」
「馬鹿言ってんじゃねぇぞ。んな訳ねぇだろ。俺はなぁ、オマエを平気な顔でステージから突き落としたり、ライブ途中で、平然と客を殴ったりする様な危ない奴だぞ。そんな奴が良い奴な訳ねぇだろ」
「あぁ、言われて見りゃそうだな……危うく騙される所だったぜ。まぁ良い、それはそうと、次で最後にするんなら、最高の曲を聞かせてくれよ。頼んだぜ」
「まぁ、それは奈緒さん次第だな」
「なら100%大丈夫だな……じゃあ、奈緒様シッカリ頼みましたよ」
「OKOK、任せて鮫ちゃん♪」
鮫島は、笑顔で手を振る奈緒さんを、何度も振り返りながら、職場に戻って行った。
けどまぁ、相手には誤解があったかも知れないが、結局、鮫島も、話してみれば良い奴なんだよな。
こう言う事があると、世の中にも、結構、良い奴が多く存在する事が確認出来る。
こう言うのって、最終的には、相手が誰であっても、接する機会の問題なんだろうな。
***
まぁサメ島との話はこんな感じで終了して、キッカリ10分後に、奈緒さんが『泡沫』を赤レンガ倉庫に響かせて、このゲリラライブは幕を下ろす。
その後……俺と奈緒さんは、シールドや、壊したスピーカーのコードなんかの後片付けをした。
んで、最初に奈緒さんが言っていた希望を叶える為に、海辺の方に足を運んだ。
彼女は、今夜の事が、相当に楽しかったのか、凄くご機嫌だ。
今も足取り軽く、俺の前を歩いている。
「ねぇねぇ。楽しかったね、クラ」
「もぉ、なに言ってんッスか……こちとらヒヤヒヤもんでしたよ」
「そこが良いんじゃない。それが、ゲリラライブの醍醐味ってもんだよ」
「まぁ、奈緒さんが楽しかったんなら、俺も満足ッスけどね」
「十分十分♪けどさぁ、敢えて1つだけ、まだ気に入らない事が有るんだけどなぁ」
「はいはい、わかりましたよ。……どうせ『奈緒』って呼べって言うんでしょ」
「うん。そこが解っているんなら満足満足♪」
ホントに満足してくれてる。
翌々考えたら、奈緒さんが、此処まで満足してくれた事って初めてだな。
なら俺も、ちょっと位なら自信を持っても良いんだろうか?
「ねぇクラ。これからどうしよっか?」
「奈緒は、何かしたい事は無いのか?」
「そうだねぇ~。じゃあ、クラからチュ~して欲しい♪」
「……良いッスよ」
「そっか……じゃあ、して」
奈緒さんは、ほんのり頬をピンク色に染めながら、目を瞑って顔を、少しだけ上に向ける。
ホント、この人って、いつ見ても綺麗な顔してるよな。
俺なんかが、キスして良いものとは思えない程、綺麗な顔だ。
けど、奈緒さんは、俺のものであって、誰のものでもない。
だから、いい加減ヘタレは卒業しないとな。
俺は軽くだけど、二回程、彼女の唇に触れた。
「うん……悪くない。けど、少し物足りないかな」
「あぁ……満足出来てないって事ッスか?」
「そう言う事」
微笑んだ後、奈緒さんは、再び目を閉じる。
俺は、彼女の腰に手を廻し、奈緒の体を引き付けてお互いを密着させる。
今度は、彼女の満足いく様なキスを心がけるつもりだ。
だから、軽く触れただけでは離すつもりはない。
手入れの行き届いた彼女の柔らかな唇を、シッカリ堪能させて貰っている。
すると奈緒さんは、俺の首の後ろに両手を廻し、俺の顔を更に引き寄せ。
俺の口に、自分の艶かしい舌を侵入させてくる。
彼女の舌は、俺の舌に、まるで何かの生き物の様に絡みつき、何度か自分の唾液を注入してくる。
俺は、それを飲み込んだ上で、それに応える様に、彼女の口に舌を入れた。
何度も、お互いの唾液が交換されていく。
少し時間が経って、奈緒は、満足気な笑顔で唇を離して行く。
離れた瞬間には、伸びた唾液が地面に滴り落ちていく。
「うん、満足♪じゃあね、今度は、クラが私にして欲しい事を言ってみてよ」
「あの……笑わないッスか?」
「笑わないよ。なに?」
「あの、こんな時に、非常に申し訳ないお願いなんッスけど……俺と、腕組んで、少し歩いてくれませんか?これ、俺の夢だったんッスよ。1度で良いから、自分の最愛の彼女と腕を組んで、どこかの街を歩きたかったんッスよ」
「良いよ。その代わり、ちょっとベタベタしても良い?」
「あっ、はい。勿論、そうして欲しいッス」
「そっか」
奈緒は、俺の右側に移動し。
惜しみなくベッタリと体をくっつけて、腕を組んでくれた。
「『にゃ~~~』っとか言って欲しい?クラって、実は、凄いオタクなんだってね」
「がっ……なんで知ってるんッスか?」
「ふふ~ん。私、君の家に行った事あるんだよ。物色しない訳ないじゃない」
「この人だけは……」
「奈緒にゃんは、クラの事なら、何でも知ってるにゃん……ほらほら『奈緒にゃん』って言ってみ」
この猫は、意地悪い猫だなオイ。
「奈緒にゃん、勘弁して下さいよ」
「ぷっ……ホントに言っちゃったよ」
がっ……『奈緒さん』って言おうとしたのに、チャッカリ『奈緒にゃん』って言っちまったし。
けどな。
この猫は可愛過ぎなんだよな。
絶対、他の奴が言われても、俺と同じ事になってると思うぞ。
「じゃあ、今度は、奈緒にゃんの番ッスよ。なにして欲しいッスか?」
「奈緒にゃんはねぇ。奈緒にゃんの心臓がドキドキしてるのを、クラに感じて欲しいにゃあ」
そう言って、より一層俺の左腕に、張りのある柔らかい胸を押し当ててくる。
これによって、俺の腕からは、本当に、奈緒さんの心臓の鼓動が聞こえてくる。
小刻みに『ドキドキ』しているし、彼女の高い体温も感じる。
「奈緒さん」
「くすっ……なんかさぁ、自分で頼んでおいてなんだけど。これって、結構、照れくさいよね」
「いや、そんな事ないッスよ。凄く温かいッス」
「そっか……じゃあ、序にもぅ1つお願いして良い?」
「なんッスか?」
「……クラと……Hしたい……って言ったら、どうする?」
「あぁッスよね……けど、正直、戸惑ってるッス」
「そっか……やっぱり、此処がクラの限界か」
「そうッスね。すんません」
すると奈緒さんは、組んでいた俺の腕をするりと離し、俺の正面に立つ。
だが、その表情は微笑んでるが、何故か、やや暗い顔をしている様にも見える。
なんだ?
今、俺……俺なんかしたか?
最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございましたぁ<(_ _)>
さてさて、良い雰囲気でデートをしていたのに。
何故か、突然、暗い顔をし始めた奈緒さん。
この後、なにが起こるかは、次回の講釈。
もし次回も読んで下さるのなら。
かなりショッキングな展開が起こりますので【閲覧注意】です。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!