●前回までのあらすじ●
奈緒さんの熱烈なファンである鮫島君は。
演出で、奈緒さんをステージ上でスカート捲りをした嶋田さんに対して逆上。
ナイフまで出して、嶋田さんに襲い掛かるが、倉津君が、これに対応して事なきを得た様に見えたが……
倉津君の足には、ナイフが突き刺さっていた(笑)
それを見て、心配する奈緒さんとアリスちゃん。
「あっ、あの、真琴君、ナッ、ナイフを抜いた方が良いんじゃないですか?」
「アカン、アカン。そんなもん抜いてもたら、なんぼ血の気の多いマコでも、ライブの最後まで持てへんで」
確かにな。
小さいとは言えどもナイフはナイフ。
この場でナイフなんざ引き抜いたら、血が一気に噴出して、多分、出血多量で死んじまうだろうな。
けど、逆に言えばだな。
この程度の大きさナイフなら、抜きさえしなきゃ、ライブを最後までやる位は出来んじゃねぇかな?
「ライブの最後って……なに言ってるの、山中君!!足にナイフが刺さって、真琴君、怪我してるですよ!!」
「だからなんやな?そんなもんぐらい、怪我の内にも入るかいな。高々、足にナイフが刺さっただけやろ。腕に刺さってへんねんやったら、演奏ぐらい出来るやろうに」
「酷い……酷いよ、山中君!!真琴君は怪我してるのに、まだ演奏させる気なの?」
「その通りやけど」
「酷い……」
「あのなぁアリス。あんま、そのアホを見縊るもんやないで。そいつはなぁ、どうしょうもないボンクラで、アホやけど。物事を途中で投げ出す様な無様な真似だけはせぇへん。そこら辺の雑魚とはちゃうで」
「だけど、怪我してるんですよ!!」
オイオイ山中……俺の事を評価してくれるのは有り難いがな。
そこ、ちょっと違くねぇか?
大体にして、此処で俺の株価を上げて、どうすんだよ?
そこは、ちょっとぐらい偽善者ぶってでも、素直の中のオマエへの好感度を上げる処だろうに。
俺を心配したフリの1つでもすりゃ、素直の中のオマエの株が上がるって言うのによぉ……そこを敢えて、素直を怒らせる方向ってどうよ?
ホント、オマエって、自分の事になると馬鹿なんだな。
好感度を上げるのは『恋愛ゲームの基本』だぞ!!
(↑本物の馬鹿)
まぁ、やっちまったもんはしゃあねぇな。
今まで山中のアホには、散々、借りを作ってた事だし。
そろそろ、この辺で、大きく利子をつけて返しておいてやるとするか。
「なぁ、素直……」
「あっ、はい」
「俺、さっき、自分で『大丈夫』って言ったよな。なのに、奈緒さんですら、なにも言ってないのに、なんでオマエが、そこまで俺に干渉するんだよ?オマエ、俺の彼女かなんかか?」
「違いますけど……」
「なら、俺の事なんか気にせずに、黙って演奏しろよ。オマエのツマンネェ話を、いつまでも聞きてたんじゃ。本気で、俺が最後まで演奏出来なくなっちまうぞ」
そう言いながら、不意に、足に刺さったショボイナイフを掴む。
「えっ?真琴君ダメ!!」
「やるやんけマコ。そうでなくちゃな」
俺は、素直の静止を聞かず、一気に自分の足に刺さったナイフを抜き、床に投げつける。
勿論、血がドクドクと音を立てて、大量に流れ始める。
これによって俺は、このライブに時間制限を設けた。
俺達のツマラナイ諍いを、いつまでも客に見せてる訳にもいかないからな。
……にしても、ナイフを抜く時って、刺さった時より痛ぇな。
「クハァ~~~。こりゃあ、流石にイテェな。さてさて、これでタイムリミット付きのライブに早代わりした訳だ。俺が出血多量でブッ倒れるのが先か、それとも最後まで演奏し切れるのか……楽しくなってきただろ。さぁ時間がねぇ、さっさと始めるぜ!!『Troubling』」
♪---♪♪♪-♪---♪♪♪-♪---♪♪♪-----♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪-♪♪♪♪♪♪……
強引に10曲目の『Troubling』をスタートさせた。
勿論、ライブ慣れした嶋田さんは、こう言った事態にも度々遭遇しているだろうから、なんの動揺もない。
寧ろ、俺の身を案じたり、心配する様子も一切無い。
どこまでもクールに、観客にギターの演奏を振舞っている。
それと、俺に演奏の継続を促した山中も。
当然そのつもりだったのだろうから、いつも以上にキレのある良い演奏をしている。
当然、問題はない。
だが、残りの女子2名は、かなり問題が有るかも知れない。
先程、素直は、この程度の事で、恐ろしい程に動揺していたし。
奈緒さんは、なにも言わないが、俺の彼女だから心配していても、なにもおかしくはない。
それどころか、下手をすれば彼女達のどちらかがライブを止めて、中断も有り得る状態だ。
現に素直は、動揺が隠せないまま、シンセに触れてすらいない。
それでも俺は、血の気がドンドン失せて行く中、ベースをかき鳴らした。
この2人には、俺の必死さを伝える必要があるからだ。
そんな中、イントロが終わる。
不安を持ったまま、いよいよ声が入るパートに入った。
素直は、今の現状、とても歌を唄える状態にはない。
なので、これで奈緒さんが声を出さなきゃ、このライブは終わりだ。
「♪~~~~」
「「「「「おおおぉぉおぉぉおぉぉおぉおぉぉぉ!!」」」」」
……やっぱりな。
奈緒さんなら、この状態にあっても、きっと唄ってくれると信じてたよ。
この辺は素直より、俺の性格を、よく理解してくれている。
ライブ中にアクシデントが起こった場合、下手に中止にするより、強引にでも演奏を継続した方が、今まで以上に盛り上がる可能性が高い。
特に今回の様な『刃傷沙汰』なら、無茶をした方が、尚更、観客は喜ぶ。
奈緒さんは、その辺を、よく理解して上で歌を唄ってくれている。
例え、それが無謀な事と解ってても……
そう言ってしまえば、まるで彼女が、俺の事を心配していない『冷血人間』だと思われがちだが、それは決してそうじゃない。
彼女は、自分の感情を抑えてでも、俺の意思を尊重してくれている。
此処は、そう解釈すべきだと思える。
だからせめて、そのお礼として、俺も、その彼女の強い意思に精一杯応えるつもりだ。
自分の彼女が此処まで我慢してくれているなら、俺なんかがブッ倒れ様が、大量出血しようが、んなもん関係ねぇ!!
最後まで全力で行ってやらぁ!!
そうやって俺の意識は、再び真っ白くなっていく。
……奈緒さんとの意思疎通が出来た演奏、これもまた悪くないもんだ。
まぁ今回の場合は、出血により血の気が失せているから、少し気持ち悪いがな(笑)
最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございましたぁ<(_ _)>
これにて第三十三話『アクシデント』は終了に成ります。
……にしても、倉津君、やりますね。
馬鹿だからこそ出来る所業なのでしょうが、出血多量で倒れるか否かを明白にして、ライブの時間に制限を設け。
血ダルマに成りながら演奏するなんて、メチャクチャで楽しそうなライブです。
まぁ、この後、どうなったのかは次回の講釈。
次回、倉津君とは生きて会えるのか?
また良かったら、遊びに来て下さい~~~(*'ω'*)ノ
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