最後まで奏でられなかった音楽

どこかお間抜けDQNな不良さんのゆったり更生日誌(笑)
殴り書き書店
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179 不良さん、とある人物の変貌に付いて行けない

公開日時: 2021年8月4日(水) 00:21
更新日時: 2022年12月2日(金) 17:32
文字数:2,964

●前回までのあらすじ●


 なんとか、最初のグダグダを払拭しつつも、盛り上がって行くライブ。


残り数曲。

このバンドの命運を賭けたライブは、倉津君にとって、どういう影響を及ぼすのか?

 ……って、ウゲッ!!


そうやって気合を入れたのも束の間、俺は、この直後、ある事に気付いて動揺を隠せなかった。


ってか!!

後半戦最初の一曲目の曲って、奈緒さんがお遊びで作った【Troubling】じゃねぇかッ!?


これはいきなりトンデモナイ・ジョーカーを引いちまってるな!!


そんな風に曲順を思い出しただけで、一気にテンションが下がり、不安感だけがドンドンと募っていく。


なんせ、この曲は、奈緒さんが作った曲の中でも一番の異彩を放つ曲。

POPな曲調なのは、まぁ百譲れば、どうとでも取れるが……この曲って、全体的に幼稚臭いと言うか、アニソンっぽいんだよな。


こんなアニソンもどきの曲を、この場で弾いて大顰蹙を買わねぇか?


そんな風に、脳内で曲調を思い出し。

更に不安になった俺は、他のメンバーを全員を見回す事にした。


みんな、この曲のついて、一体どう思ってるんだ?


まず目に付いたのは、バンド最年長の嶋田さん。

明らかに『どうしたもんか?』と言う曇った表情の上、少々眉間に皺を寄せている。


あのライブ慣れした嶋田さんですら、この曲の危険性を感じているのだろう。


これを見るだけで、俺の不安は倍増……いや、3倍増する。


次に山中を見る。


こちらも、次曲が『Troubling』だと気付き。

大きな溜息を付きながら、ドラムに顔を埋めている。


この様子からして、矢張り、誰もが危険な曲だと判断しているのだろう。


そんで素直は……っと。

そう言えば、此処からの曲って、素直は歌じゃなくシンセサイザーを使うんだったな。


そんな理由から、彼女は、曲云々より自分の事で手一杯の様だ。

忙しそうに、ガキに貰ったシンセを事細かくチェックしている状態だ。


まぁ初体験なんて、そんなもんだろう。


っとなると、後は奈緒さんか……


実を言うと、なにが不安って、この人が一番の不安要素なんだよな。

なにを考えているのか普段ですら解り難いのに、こう言う場面になったら、突然、なにを仕出かすかさえ解らない。


例のロクデモナイ事を仕出かす、っと言う【気紛れ】な悪癖が発動する可能性すら非常に高い。


それを懸念して、俺は必死に、彼女の表情を見ようとしたんだが……

如何せん、今の俺のポジションからは、奈緒さんの表情は、彼女がヴォーカルポジションに居るから何も見えず、今は彼女の背中ぐらいしか見えない。


俺にとっては、ほぼブラインド状態だ。


まぁ背中から、敢えて感じる事と言えば……『嫌な予感』を匂わせるオーラが立ち上っているって事だな。


……この人、ホントに、変な事をするのが好きだからなぁ。


って言う訳で、奈緒さんの動向を探りながら、やな予感を継続させる。



そんな不安を他所に、奈緒さんは、徐にマイクを持って話し出す。



「みんなぁ~~~♪こんばんわぁ~~~♪奈緒だよぉ~~~♪」

「「「「「!!!!!!」」」」」


会場に広がる、謎のアニメ声……


はぁ?なにこれ?


えっ?


えぇぇぇぇぇぇぇええええぇぇぇ~~~!!


突然、なっ、なんッスか?

その深夜アニメに出て来そうな、アニメのヒロイン声は?


どっから、そんなアニメ声を出してんッスか、アンタは?


……ってか奈緒さん!!

突然、こんな無茶な事して、一体どう言うつもりなんッスか!!


ウチって、パンク系のロックバンドじゃなかったんッスか?


オイオイ、本当に奈緒さんは、この場でなにをする気なんだ?

なにが目的で、こんな奇妙な事を始めたんだ?


会場は、俺同様、突然の奈緒さんの奇行に付いて行けず、完全に凍り付いて、静まり返る。



それでも奈緒さんは、尚も、そのアニメ声でMCを続ける。



「あれあれ?みんな、どうしちゃったのかな?そんなに静まり返ってたら、奈緒、唄えないよぉ」

「いや、あの、奈緒様……急に、どうしちゃったんですか?」


おぉ……勇者がいた!!

突然、奇行を引き起こした奈緒さんに、質問して行く勇者が居てくれた。


まぁ見た目は、かなりキモイ、オタ勇者だがな……



「うん?どうもしないよ……あのね。それとね、君。私は『奈緒様』じゃなくって『奈緒ちゃん』だよ。わかったかな?わかったら言ってみて」

「あっ、はい、なっ、奈緒ちゃん」

「うん、うん、ありがとぉ~~~。じゃあ君、名前は?」

「あっ、あの、たっ、高石、高石敬三です」

「高石敬三君ね……じゃあ、今回の奈緒は、とぉ~っても親切な敬三君の為だけに歌を唄います。他の人は、み~んな、奈緒を無視して意地悪したから、なにも唄ってあげないんだからね」


相も変らず、会場内に訳の解らない会話が響き渡っている。


それでも、この後、異常な事態が起こり始めるのは、言うまでもない。



「あっ、あの、奈緒ちゃん」


今、奈緒さんに必死に声を掛けたのは『鮫島良一』って言う奴なんだが。

前回のライブの時から、奈緒さんの熱狂的なファンに成ったらしく、コイツは、奈緒さんが歌を唄ってる時のみ元気になる。


そんな奈緒さんファンの鮫島が、1人の観客の為に奈緒さんが唄うとあっては、黙っていられる筈が無い。


なので、恐らくコイツも、此処で、なにかおかしな事を言ってくる筈だ。


まぁ未だ、奈緒さんの変貌についての意味は不明のままだが、コレはコレで、なにやら面白い展開になりそうだ……

(↑事態も飲み込めてないのに呑気な俺)



「うん?なぁに、鮫ちゃん?」

「おっ、俺も、奈緒ちゃんの歌を聞きたいんだけど。……応援したら、俺の為とかにも唄ってくれるのか?」

「うん、勿論♪聞いてくれる人が居るんなら、奈緒は、全員に唄ってあげたいもん。ひょっとして、みんなも、奈緒の歌を、ちゃんと聞いてくれるのかな?」


なるほど、そうきますか。


まず此処で1つだけ解った事なんだが。

この奈緒さんの変貌は、違った意味での煽りを狙ってるみたいだな。


ただそれ以外は、今のところ不明のままだがな。


イヤ、それにしても奈緒さん。

なんなんッスか、その両手を合わせて嬉しいそうにする可愛い仕草は?


ライブが盛り上がるのは、大いに結構ですが。

あんまり観客を煽り過ぎて、大変な事にならないようにしてくださいよぉ。


アナタは、基本『無自覚人間』なんだから……



「とっ、当然だよ!!っつか、オマエ等!!なにボサッとしてやがんだよ!!奈緒ちゃんの曲を聞くぞ!!オラァ~~~!!コールだコール!!さっさとコールしやがれ!!」

「「「「「……なっ、奈緒ちゃ~~ん?」」」」」


事態が飲み込めない他の連中は。

鮫島の命令に従ってコールはしたものの、頭の上に『?』が付いている。


そんな彼等に、鮫島は更なる要求を突きつける。



「声がちいせぇんだよ!!ブッ殺すぞ、テメェ等!!奈緒ちゃんの為に、声が枯れるぐらい全力で声を出せや、ボンクラ共!!」

「「「「「奈緒ちゃ~~~ん!!頑張れ!!」」」」」

「みんなぁ~~~ありがとぉ~~~♪」

「オラ!!もっとだぁ!!もっと声出せ!!」


鮫島の煽りが効いて。

まずは、男限定の異常な盛り上がりだが、ライブに大きな波が来た!!


男性陣は一気にヒートアップし、少し醒め掛けていた会場が、再び熱くなりはじめる。


だが……そんな風に盛り上がってるとは言っても、今言った通り、会場全体が盛り上がってる訳じゃない。

どちらかと言えば女性陣は、男性陣と違い、奈緒さんのあまりにも酷い変貌に、醒めている様にしか見えない。


兎に角、現状では、性別間での温度差が激しい。


この現状、奈緒さんは、一体どうする気だ?


最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございましたぁ<(_ _)>


奈緒さんの変貌……酷かったですね(笑)


しかし、この奈緒さんの奇行には、一体、どんな意味があるのか?


それはまた次回の講釈。

また良かったら遊びに来て下さいねぇ~~~(*'ω'*)ノ

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