●前回までのあらすじ●
なんとか、最初のグダグダを払拭しつつも、盛り上がって行くライブ。
残り数曲。
このバンドの命運を賭けたライブは、倉津君にとって、どういう影響を及ぼすのか?
……って、ウゲッ!!
そうやって気合を入れたのも束の間、俺は、この直後、ある事に気付いて動揺を隠せなかった。
ってか!!
後半戦最初の一曲目の曲って、奈緒さんがお遊びで作った【Troubling】じゃねぇかッ!?
これはいきなりトンデモナイ・ジョーカーを引いちまってるな!!
そんな風に曲順を思い出しただけで、一気にテンションが下がり、不安感だけがドンドンと募っていく。
なんせ、この曲は、奈緒さんが作った曲の中でも一番の異彩を放つ曲。
POPな曲調なのは、まぁ百譲れば、どうとでも取れるが……この曲って、全体的に幼稚臭いと言うか、アニソンっぽいんだよな。
こんなアニソンもどきの曲を、この場で弾いて大顰蹙を買わねぇか?
そんな風に、脳内で曲調を思い出し。
更に不安になった俺は、他のメンバーを全員を見回す事にした。
みんな、この曲のついて、一体どう思ってるんだ?
まず目に付いたのは、バンド最年長の嶋田さん。
明らかに『どうしたもんか?』と言う曇った表情の上、少々眉間に皺を寄せている。
あのライブ慣れした嶋田さんですら、この曲の危険性を感じているのだろう。
これを見るだけで、俺の不安は倍増……いや、3倍増する。
次に山中を見る。
こちらも、次曲が『Troubling』だと気付き。
大きな溜息を付きながら、ドラムに顔を埋めている。
この様子からして、矢張り、誰もが危険な曲だと判断しているのだろう。
そんで素直は……っと。
そう言えば、此処からの曲って、素直は歌じゃなくシンセサイザーを使うんだったな。
そんな理由から、彼女は、曲云々より自分の事で手一杯の様だ。
忙しそうに、ガキに貰ったシンセを事細かくチェックしている状態だ。
まぁ初体験なんて、そんなもんだろう。
っとなると、後は奈緒さんか……
実を言うと、なにが不安って、この人が一番の不安要素なんだよな。
なにを考えているのか普段ですら解り難いのに、こう言う場面になったら、突然、なにを仕出かすかさえ解らない。
例のロクデモナイ事を仕出かす、っと言う【気紛れ】な悪癖が発動する可能性すら非常に高い。
それを懸念して、俺は必死に、彼女の表情を見ようとしたんだが……
如何せん、今の俺のポジションからは、奈緒さんの表情は、彼女がヴォーカルポジションに居るから何も見えず、今は彼女の背中ぐらいしか見えない。
俺にとっては、ほぼブラインド状態だ。
まぁ背中から、敢えて感じる事と言えば……『嫌な予感』を匂わせるオーラが立ち上っているって事だな。
……この人、ホントに、変な事をするのが好きだからなぁ。
って言う訳で、奈緒さんの動向を探りながら、やな予感を継続させる。
そんな不安を他所に、奈緒さんは、徐にマイクを持って話し出す。
「みんなぁ~~~♪こんばんわぁ~~~♪奈緒だよぉ~~~♪」
「「「「「!!!!!!」」」」」
会場に広がる、謎のアニメ声……
はぁ?なにこれ?
えっ?
えぇぇぇぇぇぇぇええええぇぇぇ~~~!!
突然、なっ、なんッスか?
その深夜アニメに出て来そうな、アニメのヒロイン声は?
どっから、そんなアニメ声を出してんッスか、アンタは?
……ってか奈緒さん!!
突然、こんな無茶な事して、一体どう言うつもりなんッスか!!
ウチって、パンク系のロックバンドじゃなかったんッスか?
オイオイ、本当に奈緒さんは、この場でなにをする気なんだ?
なにが目的で、こんな奇妙な事を始めたんだ?
会場は、俺同様、突然の奈緒さんの奇行に付いて行けず、完全に凍り付いて、静まり返る。
それでも奈緒さんは、尚も、そのアニメ声でMCを続ける。
「あれあれ?みんな、どうしちゃったのかな?そんなに静まり返ってたら、奈緒、唄えないよぉ」
「いや、あの、奈緒様……急に、どうしちゃったんですか?」
おぉ……勇者がいた!!
突然、奇行を引き起こした奈緒さんに、質問して行く勇者が居てくれた。
まぁ見た目は、かなりキモイ、オタ勇者だがな……
「うん?どうもしないよ……あのね。それとね、君。私は『奈緒様』じゃなくって『奈緒ちゃん』だよ。わかったかな?わかったら言ってみて」
「あっ、はい、なっ、奈緒ちゃん」
「うん、うん、ありがとぉ~~~。じゃあ君、名前は?」
「あっ、あの、たっ、高石、高石敬三です」
「高石敬三君ね……じゃあ、今回の奈緒は、とぉ~っても親切な敬三君の為だけに歌を唄います。他の人は、み~んな、奈緒を無視して意地悪したから、なにも唄ってあげないんだからね」
相も変らず、会場内に訳の解らない会話が響き渡っている。
それでも、この後、異常な事態が起こり始めるのは、言うまでもない。
「あっ、あの、奈緒ちゃん」
今、奈緒さんに必死に声を掛けたのは『鮫島良一』って言う奴なんだが。
前回のライブの時から、奈緒さんの熱狂的なファンに成ったらしく、コイツは、奈緒さんが歌を唄ってる時のみ元気になる。
そんな奈緒さんファンの鮫島が、1人の観客の為に奈緒さんが唄うとあっては、黙っていられる筈が無い。
なので、恐らくコイツも、此処で、なにかおかしな事を言ってくる筈だ。
まぁ未だ、奈緒さんの変貌についての意味は不明のままだが、コレはコレで、なにやら面白い展開になりそうだ……
(↑事態も飲み込めてないのに呑気な俺)
「うん?なぁに、鮫ちゃん?」
「おっ、俺も、奈緒ちゃんの歌を聞きたいんだけど。……応援したら、俺の為とかにも唄ってくれるのか?」
「うん、勿論♪聞いてくれる人が居るんなら、奈緒は、全員に唄ってあげたいもん。ひょっとして、みんなも、奈緒の歌を、ちゃんと聞いてくれるのかな?」
なるほど、そうきますか。
まず此処で1つだけ解った事なんだが。
この奈緒さんの変貌は、違った意味での煽りを狙ってるみたいだな。
ただそれ以外は、今のところ不明のままだがな。
イヤ、それにしても奈緒さん。
なんなんッスか、その両手を合わせて嬉しいそうにする可愛い仕草は?
ライブが盛り上がるのは、大いに結構ですが。
あんまり観客を煽り過ぎて、大変な事にならないようにしてくださいよぉ。
アナタは、基本『無自覚人間』なんだから……
「とっ、当然だよ!!っつか、オマエ等!!なにボサッとしてやがんだよ!!奈緒ちゃんの曲を聞くぞ!!オラァ~~~!!コールだコール!!さっさとコールしやがれ!!」
「「「「「……なっ、奈緒ちゃ~~ん?」」」」」
事態が飲み込めない他の連中は。
鮫島の命令に従ってコールはしたものの、頭の上に『?』が付いている。
そんな彼等に、鮫島は更なる要求を突きつける。
「声がちいせぇんだよ!!ブッ殺すぞ、テメェ等!!奈緒ちゃんの為に、声が枯れるぐらい全力で声を出せや、ボンクラ共!!」
「「「「「奈緒ちゃ~~~ん!!頑張れ!!」」」」」
「みんなぁ~~~ありがとぉ~~~♪」
「オラ!!もっとだぁ!!もっと声出せ!!」
鮫島の煽りが効いて。
まずは、男限定の異常な盛り上がりだが、ライブに大きな波が来た!!
男性陣は一気にヒートアップし、少し醒め掛けていた会場が、再び熱くなりはじめる。
だが……そんな風に盛り上がってるとは言っても、今言った通り、会場全体が盛り上がってる訳じゃない。
どちらかと言えば女性陣は、男性陣と違い、奈緒さんのあまりにも酷い変貌に、醒めている様にしか見えない。
兎に角、現状では、性別間での温度差が激しい。
この現状、奈緒さんは、一体どうする気だ?
最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございましたぁ<(_ _)>
奈緒さんの変貌……酷かったですね(笑)
しかし、この奈緒さんの奇行には、一体、どんな意味があるのか?
それはまた次回の講釈。
また良かったら遊びに来て下さいねぇ~~~(*'ω'*)ノ
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