●前回のおさらい●
無情にも崇秀に解雇を言い渡された倉津君。
納得出来ない彼は『それなら奈緒さんを連れて逃げる』と言う自分勝手な言い分を通す為に崇秀と壮絶な殴り合いに成るが……
どれだけ殴っても、崇秀に一切のダメージを与えている手ごたえを感じられない。
更にそこで、天井にぶっ飛ぶほどの崇秀の強烈な一撃を喰らった上に、天井から落ちてきたら追い打ちまで喰う。
すると、そこに奈緒さんがアンコールから帰ってきて、2人を止め様とするが、それでも崇秀は止まらない。
そして、その時に吐いた言葉が『これ以上、倉津君を甘やかすな』っと言う言葉だった。
奈緒さんはそれを聞いて『自分の責任』だと感じるが……倉津君は立ち上がり……
「オイ、崇秀。……さっきの約束は忘れてねぇだろうな。俺が勝ったら、好きにさせて貰うからな」
「あぁ、それなら了承してやるから好きにしろ。但し、俺に勝てたらな」
「ほざいてろ。……つっても、俺にゃあ、もうこの最後の一撃を打つだけの体力しか残ってないみたいだな。だから、これで確実に決めてやる」
「良いぜ。なら、もぉ御託は良いから、それをやってみせろよ」
「言われなくてもやってやらぁ!!……死んじまえ、この糞バケモンがぁあぁぁあぁ~~~!!」
俺は、残りの力を全て拳に乗せて、奴の顔面めがけて打ち出した。
宣告通り……最後の余力を振り絞った一撃だ。
そしてそのパンチは、打ち出した瞬間から……まるで時間が止まった様に、パンチの軌道がスローモーションで流れていき。
俺の拳は、奴にめがけて一直線に伸びていく。
当たれば勝ちだ!!
貰った!!
『ガゴ~~~~ン!!』
トラックが正面衝突したみたいな音が、室内に響き渡る。
「……甘いな、倉津」
「がはぁぁあぁぁぁ~~~ッ!!」
……カウンターか。
しかも奴は、威力の乗った俺の渾身の右ストレートに合わせ。
右肘だけをピンポイントに狙って、パンチを繰り出して来てやがった。
此処を狙ってピンポイントにキッチリとカウンターを合わすなんて、なんて動体視力をしてやがるんだよ。
やっぱ、コイツは人じゃねぇな……
「残念だったな倉津。あばよ……またな」
「……くそっ!!『ガハッ!!』『グハッ!!』『がぁあぁぁあぁ~~!!』……」
奴の容赦ないパンチが俺の脳を揺すり、意識を残したまま、体の制止を促した。
頭のテッペンから、足につま先まで、体はピクリとも動かないまでのダメージを負わされた。
くそぉ!!どこまでも器用な真似をする奴だな……
「ふぅ、これでやっと気が済んだ。後は、2人の好きにしろ」
「ちょ、ちょっと待って、仲居間さん!!……こんな事して、こんな酷い事をして、一体なんの意味があるって言うんですか!!」
「意味なんてもんはねぇよ。ただ単に、お互いの意見が喰い違ったからこそ、最も原始的な方法で決着を付けたまでのこった。だから、意味なんてものはなにもねぇ」
「アナタは、そんな事の為だけにクラを殴ったって言うんですか?もし、そうなら許せない!!」
「んあ?じゃあ、どうするんだ?なんなら、今度は向井さんが俺を殴るか?それで解決出来るなら、それはそれで有りだな」
くそっ!!崇秀の奴、また自分を悪人に仕立てて、奈緒さんの恨みを背負うつもりだな。
流石に、そんな事はさせ……くそっ!!なんだよ?アイツは、一体、俺に何をしたんだよ?
意識だけがハッキリしてるのに、なにをどうやっても、体が言う事をきかねぇ!!
体も、口も、俺の意思に反してピクリとも動かねぇ!!
なんでだよ?
動けよ!!じゃなきゃ、奈緒さんが、崇秀の事を誤解しちまうだろ!!
くそっ!!動け!!動けよぉ!!
「ふざけてるんですか?そんな事したって……」
「いや、これになら、意味はキッチリあるぞ。寧ろ、向井さんの意見を通す為には必要不可欠な事だ。だから、さぁやれよ。出来なきゃ、アンタの意見は聞かない」
「お断りです!!」
「ケッ、根性無しめ。そんなに俺が怖いのか?2人揃って、ヘタレなカップルだな」
「アナタって人は!!なんでそう、いつもいつも自分を悪者にしたがるんですか?こんなのどうみても、クラの責任で起こった事じゃないですか!!年下が、あんまり私をなめないでよね!!」
「ハァ……やっぱ気付いてたか。向井さんは勘が良過ぎるな。こりゃあまいったな」
「仲居間さんは無碍に暴力を振るう様な、そんな悪い人じゃないですよ。心配しなくても、それぐらいだったら、私にだって解りますよ」
……良かった。
奈緒さんは、最初から崇秀を誤解してなかった様だ。
これで最悪の事態だけは免れたな。
「はぁ……やれやれだ」
「……っで、なにがあったんですか?正直に言って下さい」
「それは言えないな。……だから『喧嘩両成敗』って事で負けといて」
「ダメです」
「意外と頑固だな」
「頑固で悪かったですね。でも、頑固だから、話を聞くまで帰しませんよ」
「まいったなぁ」
話の内容が内容なだけに、奈緒さんには言い難いんだろうな。
けどよぉ、元を正せば俺が悪いんだから、余計なお節介をせずに、全部ぶちまけちまえば良いのにな。
ホント、馬鹿だよな、コイツ。
「そ・れ・で?」
「言わなきゃダメ?」
「ダメです」
「借りって事でダメ?」
「ダメです」
「チッ、頭固いなぁ」
「天丼しても、ダメですからね」
「チッ!!……ったく、しょうがねぇな、この我儘娘だけは。向井さんは、いつからそんな我儘な子になったんだよ?」
「誰が我儘ですか!!」
「おっ、見事なツッコミだ」
「仲居間さん!!」
「はぁ……しゃあねぇなぁ。言うよ言う」
「最初から、そうすれば良いのに……素直じゃないんだから」
……なんかあるな。
このパターンの崇秀は、絶対に素直にモノを言うパターンじゃない。
きっと、この奈緒さんの気が抜けた瞬間に、何かして来る筈だ。
「なんて言うと思ったか……あばよ!!」
「へっ?あっ、あの、ちょ……」
崇秀は予想に反する事無く、奈緒さんの隙を見て逃亡を図った。
慌てて、奈緒さんは対応しようとしたが。
上手く思考が纏まらないらしく、一瞬、呆気に取られて隙に完全に逃亡されてしまった様だ。
そんな奈緒さんを確認した奴は、指を『パチン』っと鳴らす仕草を見せながら逃亡していく。
こうなったら、もぅ追いつけない。
奴は、メフィスト座のゴールド・セイント。
『逃亡』と『悪魔的な思考を廻す』事に関しては、光速の動きさえも越えて活動する様にセットされてるからな。
……やられたな、奈緒さん。
しかしまぁ……見事な作戦だったな。
逃げるタイミングを計って、この場に、俺と、奈緒さんを残す。
これって早い話、2人で話し合って解決しろって事だな。
……ッたく、最後までお節介な奴だな。
にしても……最後の指パッチンは、一体なんだったんだろうな?
「あぁ……もぉ!!またやられたぁ~~!!」
そんな奈緒さんの虚しい叫びだけが、控え室に響いた。
最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございますです<(_ _)>
これにて第四十九話『終わらないライブ』は終了に成ります♪
そして、此処で言われるライブの意味は、演奏をするライブではなく。
倉津君の人生を指して『ライブ』っと言う意味だったんですね(笑)
まぁそうは言いつつも、今回は少し、倉津君には可哀想な事をしてしまったのですが。
結局、今の甘い心掛けの倉津君のままじゃ、いずれ、何処かで挫折した時に、もっと対処出来なくなっていた可能性もありますし。
なにより音楽を奏でる演奏と言うのは『バンド内に1人でも下手な人間が居たら、その下手な人間のレベルに合わせて演奏しなきゃならない』っと言うのがありますので。
これは残念ながら、他のメンバーの事を考えたら、極当たり前の処置と言えるんですよね。
思った以上に、バンドの世界も厳しいのです( ー`дー´)キリッ
さてさて、そんな中。
この一件で、様々な事を思い知らされた倉津君なのですが。
この後、奈緒さんとの会話に、その成長の兆しが見えるのか?
良かったら、次回からは、そこを楽しんでみて下さいです♪
いよいよ、この『物語の序章』も終わりに近づいてきましたので(笑)
ちょ……オマエ、此処までで、まだ序章だったのかよ!!( ゚Д゚) ('ω'*)そだよ
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