●前回のおさらい●
奈緒さんに引き続き、山中君にも聞いて貰っている『倉津君の演奏』
彼は一体、どの様な評価を下すのか?
……いつも通り曲は終わる。
ただ、この誰かに自分の演奏を聞いて貰ってる時間ってのは、異様に緊張する。
勿論、理由は言うまでも無く、相手が口を開くまで、自分の評価がわからないからだ。
まぁ特に今回に限っては、相手が山中だから、奈緒さんの時の様な『高評価』は期待出来ねぇだろうしな。
「ふむ。まぁ初心者にしたら上出来やな。敢えて褒めるんやったら、上手い部類や言うても、えぇんちゃうか」
余り良い評価を期待していなかった俺だったのだが。
意外な事に、聞き終わった山中の口から出た言葉は、褒め言葉。
これを聞いた瞬間、心の中で安堵する自分も同時にいる。
褒められて嫌な奴はいない。
特に俺は、褒められて伸びる人間だからな。
まぁそれでも、これから崇秀を相手にする訳だから、不満が残らない訳でもない。
「上手い部類なぁ。……まぁ良くも悪くも、評価はそんなもんだろうな」
「なんや、その言い方?俺の評価が気に入らん言うのか?」
「いや、そうじゃねぇんだよ。けどよぉ、こんなもんじゃまだまだダメなんだよ」
「なんでやねんな?初心者にしたら、俺は十分な評価やと思うぞ」
「はぁ……まぁなぁ」
褒められるのは良い。
だが、矢張り、崇秀の事が気になっているのか、この程度の評価では、気持ち的にも素直には喜べない。
実際、奈緒さんの件もあるしな。
「ん?だからなんやねんな、オマエは?急に溜息ついたり、凹んだり忙しいやっちゃな……なんぞ悩みでもあるんか?」
そんな中、山中をバンドに誘うチャンスは、有り難い事に相手方から齎された。
このチャンスを生かすか殺すかが、この件の勝負どころ。
今後のバンドにも影響を及ぼすであろう、大事な交渉だ。
「はぁ……」
「だからなんやねん、その鬱陶しい溜息は?なんぞあったんか?」
「いやな……実は奈緒さんが、それ聞いた後に、俺とバンドやろうって言い出だしたんだよ」
「ほぉ~~~っ、オマエとバンドなぁ。あの子、中々のチャレンジャーな事を言うんやな」
「あぁ、それに関しては俺もそう思う。初めて弾いたとは言え、そんな拙い音楽に何を感じたのか、良くわかんねぇしな」
「はぁ?いや、ちょう待てマコ……オマエ、今、なんちゅうた?『初めて弾いた』って言うたか?」
「あぁ」
それが何かあるのか?
「はぁ~~~っ、なるほどなぁ。そう言う事か。そりゃ思った以上におもろい。向井さんが、オマエのベースに惚れ込むのも、あながち解らんでもないわ」
「なんだよ?どういうこった?その音に惚れ込む理由なんてあるのか?」
曲として楽器を弾いたのは初めてだから、奈緒さんが言うのも、山中が言うのも意味がわかんねぇ。
俺のした事って、なにか希少価値でもあるのか?
「あぁ有るで。多分やけど、向井さん、こんな事を言うてへんかったか?」
「なんてだよ?」
「矢鱈滅多ら『凄い』って言うてへんかったか?」
「あぁ、確かに言ってたな」
「まぁそう言うこっちゃ。今の話を聞いて、俺も、オマエの才能には正直かなりビビッた。教えられた事を即座に実行出来る奴なんて早々は居れへん。……崇秀の言うてた『アリス』とか言う奴と、全く一緒やないか」
「あぁ、そう言われれば、確かにそうかも知れんな。だがな山中、俺は、あくまで奈緒さんの動きをトレースしただけに過ぎねぇんだよ。だから、そんな大層な奴と一緒にされても困るんだが」
「あのなぁマコ、ちょっとは自覚せぇよ」
「なにをだよ?」
「えぇか?例え弾き方を教えられても、普通は、そんなもん直ぐに出来るもんやない。最低でも1~2月は掛かる。それをオマエは瞬間的にやってしもうた。……まぁ、あんま言いたくは無いけど、ハッキリ言えば『天才の部類』やな」
「はぁ?俺がか?」
「あぁそうや。自慢してもかまへん能力やと思うぞ」
オイオイオイオイ。
山中をバンドに誘うだけの話だったのに、なんか凄い事になってきたな。
俺からしたら、何も考えず、何気なくやった事なんだが。
山中から、此処までの高評価を受けれるとは思わなかったな。
それに正直言えば、奈緒さんが褒めてくれた時は、かなり疑っていた。
何故ならな。
奈緒さんを信用しないなんて言葉はねぇんだが。
彼女が、お世辞でモノを言ってるものだと思い込んでいたからだ。
大した能力でもないのに、大袈裟に言って俺を鼓舞してくれているものだとも思った。
だが、山中の言葉は違う。
コイツは、女の子ならまだしも、男の俺に、お世辞なんて言う様なタマじゃないからな。
だからこそ、山中がそこまで言うなら、これは凄い才能なんだろう。
まぁしかし、糞みたいな人生を歩んで来た俺だが、意外な面で才能が有ったんだな。
有り難いこった。
「ふむ。なんか自覚しろって言わせても、あんま自覚出来ねぇもんだな」
「まぁ、大体はそんなもんや。自分の才能に気付いて、生かしきれてる人間なんざ少数やしな。それに大半の人間は自分の才能に気付かず、そのまま埋もれて行くのがオチやからな。……っで、オマエは、どないするねん?俺の話を聞いて、向井さんとバンドやる自信が、ちょっとはついたんか?」
「まぁ……」
「なんや、なんや?俺がこんなに褒めたってんのに、まだ自信が無いっちゅう~んか?俺、男なんぞ滅多に褒めへんぞ」
「じゃあよぉ。1つ聞いて良いか?」
「なんや?」
「俺は、音楽で崇秀に勝てるか?」
「褒めた後に、こう言う事をハッキリ言うのも悪いけどなぁ。それは無理やな。明らかに無理や」
間髪いれずに即答してきた。
此処でも『崇秀に勝てる』と言う言葉は聞けなかった。
「んだよ、それ。全然ダメじゃねぇかよぉ。俺の才能とやらも、全然大した事ねぇな」
「アホ抜かせ。オマエの、その才能は大したもんや。そないそないには存在せぇへん」
「じゃあよぉ、なんで馬鹿には勝てねぇんだよ?」
「昨日、アイツの音を聞いてよう解ったんや。アイツだけは、明らかに別格なんや……」
そこまで断言出来るほど、アイツは凄い化物なのか?
確かに、人並み外れた表現力だとは思ったが……
「多分なぁ、年単位で楽器やっとる奴やったら、間違いのぅ、みんな同じ事を言う筈やぞ」
あぁ確かにな。
奈緒さんも、オマエと同じ様な事を言ってたな。
けど、オマエと違って奈緒さんは『絶対勝てない訳じゃない』とも言った。
勿論、勝つと言っても、彼女の言った通り、俺単体で勝つのは難しい。
だから必要条件としては、最低限度人の力を借りなくてはいけない。
故に俺は、山中を、更に勧誘しようと思い始めていた。
奈緒さんと被るドラムのポジションの件は、後で考えれば良い。
まず今悩むべきなのは、コイツとの交渉を成立させるのが最重要優先事項だからな。
「ヤッパそうだよな。普通に考えりゃ解る事だよな」
「おっ?なんや、豪い素直に負けを認めるんやな。オマエらしゅうもない」
「いいや、死んでも負けは認めねぇよ。俺もアイツの事は化物だとは思ってるが、倒せない相手だとは思ってないからな」
「ほぉ、なんや?また急に態度を変え腐りやがって。オマエ、なんぞアイツを倒すおもろいアイデイアでも有るんかいな?」
ノリが良い関西人の事だ。
こう言えば、少なからず、こうなる事は予想出来た。
しかもコイツが、かなり崇秀に対して敵対心(ライバル心)を持っているのも先刻承知。
そこを上手く突けさえすれば、思った以上に勧誘交渉はスムーズに進む筈。
どうやら俺のこの考えに間違いはなかったみたいだな。
後の問題としては、此処からコイツをどう煽るかが最大の問題だがな。
最後までお付き合いありがとうございました<(_ _)>
倉津君は、なにやら出来もしない駆け引きをしようとしていますね。
どうやら相手を煽って、山中君をバンドに引き入れようと言う腹みたいですが……
そんな単純なやり方だけで『あの口喧嘩で崇秀に勝った山中君』を、うまくバンドに引き入れられモノなのでしょうか?(笑)
その答えは、次回ハッキリとします♪
また遊びに来て下さいねぇ~~~(*'ω'*)ノ
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