●前回のおさらい●
崇秀の曲にアレンジを加えた奈緒さん。
そのアレンジを、みんなで演奏してみる事に成ったのだが……
その結果は如何に!!(笑)
「どぅ……だった?」
「俺は良いと思うッスよ。寧ろ、馬鹿の作った曲なんかより、ずっと奈緒さんがアレンジした物の方が良くなってると思うッス」
「そやな。この方がズッとえぇ感じやな。流石、女子や。男では、わからん女の子の細かな心境の変化を出すのが上手いわ。流石、俺が惚れた女子だけの事はある」
ドイツもコイツも、俺をからかうのが好きだな。
心配しなくても、奈緒さんの事だから反論してやる。
「黙れな。余計な事は言わんでも良い」
「なんやねんな。相も変らず、器の小さい男やな」
「うるせぇよ。俺の奈緒さんに手ぇ出すんじゃねぇよ」
「おぉおぉ……なんか言いきりよったで」
「あっ」
完全に山中に乗せられた。
こんなアホ関西人の猿芝居に乗せられるなんざ、情けねぇにも程があんぞ。
「っで、奈緒ちゃんは、どないやねん?今の心境を聞かせてぇな」
「うん?別に、なんとも思わなかったけど。……カズは、なんでそんな事をワザワザ聞くの?」
が~~~ん!!
そりゃねぇッス奈緒さん!!
この様子からして、矢張り俺は、奈緒さんに遊ばれてたのか。
薄々感じていた部分ではあったのだが。
此処までハッキリ目の前で言われると、辛いを通り越して死にたくなるな。
はぁ……。
「うわぁ、これは流石にないわ。……流石の俺でも、マコに同情するわ」
「えっ?ちょっと待って、なんで同情なんかするのよ?」
「いや、待つのは奈緒ちゃんの方やで。今まで散々2人きりになっててやな。いざマコが『好きや』言うてんのに『なんとも思ってない』なんて言われたら、俺やったら自殺もんやで」
「ハァ、なにを言うかと思えば。それ……違うよ、カズ」
「何が違う言うねん?」
「クラはね、もぉ私だけのものなの。だから私もクラのものなのね。お互い自分のものなんだから、好きなのは当たり前でしょ。だから『なんとも思ってない』って言ったの……変?」
「いや……明らかに変やろ」
変じゃねぇし。
これが、奈緒さん特有の愛情表現なんだよ。
奈緒さんの良さは、素人には難しいんだよ。
(↑さっきまで完全に疑ってた人の意見……俺だな)
「まぁ餓鬼にはわかんねぇだろうな。この奈緒さんの愛の深さはよぉ」
「あぁ?なんやと?女の体も知らん童貞風情が、生意気に知った風な口きくなや」
「あぁ?ちょっと待てよ。今、それ、関係ねぇよな」
オマエ、ふざけんなよ!!
奈緒さんの前で、俺に向って、堂々と童貞とかぬかしてんじゃねぇぞ!!
まぁ、そりゃあ童貞なんだけどな。
童帝十字陵の童帝・サウザーなんだけどよぉ。
今、敢えて言わなくて良くね?
「関係ないやと?……アホ抜かせ。肉体関係が有ってこそ初めての恋愛や。そんなんも知らん奴の恋愛なんざ、只のママゴトじゃ」
「なにがママゴトだ。そうやって肉体ばっか求めてんじゃねぇぞ、この色情狂がぁ。オマエの行為には愛がねぇんだよ、愛がよぉ」
「プッ!!もぅダメ……ねぇねぇクラにカズ、なんで喧嘩してるの?」
あっ……この状況下にあっても、奈緒さん、また笑ってるよ。
この人、ホントどんな状態でも、自分が面白かったら笑うよな。
まぁこの奈緒さんの感覚に慣れてない山中は、絶対、怒るだろうけどな。
「ちょ!!自分、なに笑ろとんねん!!」
「だってさ……ぷっ……童貞と色情狂が喧嘩してるんだよ。ぷぷっ……そんなの話が合う訳ないじゃない」
「ちょ待て!!誰が色情狂じゃ!!」
豪く凄んで頑張ってるな、山中。
だがそれ、言っておくが……もぉ無駄だぞ。
『奈緒ワールド』に入った笑い上戸な奈緒さんは、マリオに於けるスターを取った状態だ。
即ち無敵。
しかも、落とし穴に落ちても死なないチートキャラ。
止まらねぇんだよ。
「ぷっ……君だよ君……だってクラがそう言ってたじゃない。ぷっ……ってか、他人に色情狂って言われる人、生まれて初めて見たよ。……ぷぷっ、それが自分のバンドのメンバーとか……クスッ、おかしい……ねぇクラ……有り得ないよね。ぷぷっ」
ほらな。
「ちょ……なんやねん、このネェちゃん。意味解らん」
とうとう『奈緒ワールド』に迷い込んで混乱したな。
この人はな。
普段は、普通に見えるんだが、あるスィッチが入ると、急に変な人になるんだよ。
しかも性質の悪い事に、何をやっても笑い続ける。
まずは、そこを理解しないと、奈緒さんに惚れたとは言えねぇな。
「まぁ迷える子羊に、敢えて、俺から助言してやれる事が1つだけあるな」
「そっ、それは、なっ、なんやねん?聞いたら、このねぇちゃんの奇行の意味が解るんか?」
「いや、多分、わからねぇだろうな。……俺も解らんからな」
「ちょう待てや。ほんだら、そんなもんに何の意味があるねん」
「大した意味はねぇよ。だから助言でしかねぇんだよ」
「ほんだらなんやねん、それ?」
「『慣れろ』……それしか活路はねぇ」
「はぁ?」
わかんねぇのは当然だ。
彼女のこの特殊な感覚に慣れるには、少し時間が必要。
そんな簡単に解るもんじゃない。
「まぁ心配するな。オマエのその反応は、良くも悪くも『正常な人間』の証拠だ」
「『正常』って、オマエ……」
「まぁ、その訳がわかんねぇってオマエの気持ちも良く解る。けど、奈緒さんの反応は難しいんだよ」
「そやかて……罷り也にもオマエ等、付き合ってんねやろ。普通、平然と自分の彼女を変人扱いするか?」
「しょうがねぇだろ。この人は、そう言う人なんだよ。……まぁ奈緒さん見てみろって」
「なっ、なにを見んねん?」
山中は、奈緒さんを恐る恐る見る。
彼女は予想に反する事無く、まだクスックスッ笑っている。
しかも……
「ぷっ……童貞と色情狂が和解した。……どうなってるの、これ?ぷっ……クスッ、クスッ」
「なっ!!」
驚くのも無理はない。
この状況では、普通は笑わないからな。
「あぁ山中」
「なっ、なんやねん?」
「怒るだけ無駄だぞ。さっきも言った通り、奈緒さんは聞いてねぇから」
「はぁ?ちょ……あっ、あのやな……」
「諦めろ。これは慣れるしかないんだ」
「あっ……あぁ、さよか」
折れたな。
「まぁ、そんなに深く考えるな。時間の無駄だ」
「おっ……おぉ」
「そんな事よりよ。時間もねぇし、さっきのアレンジで練習しようぜ」
「おっ、おぉ」
「奈緒さんも練習しますよ」
「うん、わかった」
「はぁ?」
いつも通りの、急にケロッとするパターンだな。
山中には、このパターンにも慣れて貰わなければならない。
こんな事は日常的に有るからな。
「言いたい事はわかる。……その辺は後で聞いてやるから、今は練習だ」
「おっ……おぉ」
この後、山中が訳の解らないまま、練習は再開。
この後3時間程、ベースを弾きっぱなし状態だ。
***
……っとまぁ本来なら、このまま時間一杯まで練習をする勢いだったのだが……
なにを思ったのか、奈緒さんが突然、帰宅の申請を申し立てる。
さっきから時折、服の臭いを嗅いでいたから、体臭を気にしているんだろう。
今日一度、風呂に言ったとは言え。
これだけ連続的に練習をしていたんだから、誰だって相当な量の汗もかく。
当然、奈緒さんも女の子だからと言って汗を掻かない訳でもないし。
そうなると当然、汗とか臭いとかが気になるのも頷ける。
故に、条件付で申請は許可。
条件とは、ライブの時間までに帰って来る事。
これをキッチリ約束する。
そんで奈緒さんは、自身の匂いが相当気になっていたのか。
急いで身支度をして、この場を後にした。
取り残された俺達は、少し溜まった疲れを癒す為に休憩に入った。
「のぉマコ。さっきの奈緒ちゃんの件やねんけどな」
「あぁ、なんだよ」
「あれ、オマエの勘違いやないか?」
「あぁ?藪から棒になんだよ」
「あの子な。さっき思いっきり笑とった割にはな。目だけは全然笑てへんかってん。……オマエは、これ、どう思う?」
目が笑ってなかっただと?
そりゃあ一体どう言うこった?
「オイオイ、急に、おかしな事を言うなよ」
「オマエなぁ。ほんま、女の子の表情の変化を見てへんな。よう見とったら、こんな程度の事は、直ぐにでも解る事やぞ」
「オイ、山中よぉ、ほんとにそうなのか?」
「あぁ、ほぼ間違いないで」
「しかしよぉ。何の為に、そんな事するんだよ?」
「あの子は、自分の前で諍いを起されんのが嫌なタイプなんちゃうか?」
「ふむ、喧嘩が嫌いなタイプって言われてもなぁ……俺達みたいに、年がら年中喧嘩してる不良でもない限り、普通は女子だったら、誰だってそうなんじゃねぇの?」
「確かに、オマエの言う通りや。けど、あの子のやり方は、ちょっと異常や。……って言うより、正確には、反応が過敏過ぎる」
本当におかしな事を言うな。
別に喧嘩を止める為に笑って、その場を和ませても良いんじゃないのか?
それに過敏になるのだって、特におかしいな事とは思えないんだが……
「まぁ、過敏って言ってもだな……」
「オマエ、なに勘違いしとんねん」
「なにをだよ?」
「俺が話しとるのは、なんで『あんな行動をするんか』って言う所や。なんも喧嘩を止める事を否定しとる訳やないで」
「それって、心理的な行動原理とか言う奴の話か?」
「そうや」
行動の理由だと?
心理系の話は、崇秀の得意分野の話だろ。
そんなもん、俺みたいなボンクラにわかる訳ねぇじゃねぇか。
馬鹿じゃねぇのかオマエ?
「けど悪いが、そう言うのは、良くわかんねぇな」
「アホか?オマエなぁ、奈緒ちゃんと付き合ってんねんやろ?全然知らん奴やったらまだしも、あの子は、自分の彼女やねやろ?それを『自分には解らん』だけで済ますのは、流石に頂けんのちゃうか?……しっかりせぇやボケ」
「いや、まぁ、そうなんだろうが。んな事を急に言われてもよぉ」
「ホンマ、しゃあないやっちゃな、オマエは……。今からそんなんやったら、アッサリ破局すんぞ」
破局って……この話って、そんなに深い話なのか?
「あのなぁマコ。ちょっとは頭を使って、よう考えよ。あの子が、あそこまでする理由なんぞ、そんないにあらへん。一番解り易い解答やったら『過去になんかあった』ちゅう~のが最有力や。まぁ、そん中でも家族関係とかが顕著な理由にあげられるんやないか?」
「・・・・・・」
家族関係で、喧嘩を止める方法が『笑顔』
彼女の家庭環境を、少し知っているだけに嫌な話に成ってきやがったな。
「若しくは……他に理由があるとすれば、前の男やろうな」
なっ!!
「俺は、家族関係よりも。寧ろ、こっちの線が濃いいやないかと睨んどる」
「ちょっと待て。家族ならまだしも、元彼で、なんでそんな事になるんだよ?」
「まぁ、こう言う話がお題目になっとるやったら、大半のオチは暴力やろうな」
「暴力だと……なんだよ、それ?奈緒さんが、元彼にDVを受けてたとでも言うのか?」
「さぁな。俺も、そこまでは解らん。けど、あの笑い方、人を喰った様な笑い方をしとるけど、どこか媚びた様な笑いにも見えん事もない。そう言う笑い方をする子の大半は、彼氏に媚びた事が有る可能性が高い。そやから俺は『そうちゃうかな』って思ったんや」
「それって、確証は、どれ位あるんだ?」
「まぁ、精々五分五分ってとこやな。……大阪に居る時、同じ様な子を見た事が有るからな」
可能性的には、あの奈緒さんが、元彼にDVされていただと……
もし本当なら、許せる話じゃねぇ。
奈緒さんをそんな目に遭わすなんざ、そいつをぶっ殺しても物足りねぇな。
俺は知らぬ間に、山中の言葉を鵜呑みにしていた。
「待て待てマコ。なにを怒っとんねん?これは予想の話やぞ。実際は五分の確証も無い。……それにな。俺が言いたいのは、そんな事やないぐらい解るやろ」
「なっ、なんだよ?」
「大事にしたれ。……家族か、元彼かは知らんけど。あぁ言う笑いをする子は、必ずしも心に傷を持っとる。それだけに扱いが難しい。そやからお前が、早ぅから、それを意識してへんかったら、彼女を守ったられへんやろ。俺が言いたいのは、そこや」
山中は、俺の自覚の無さを指摘していたんだな。
確かに、山中がこの話をするまで、全く気が付かなかった。
奈緒さんと付き合い始めて浮かれていたとは言え、間抜けにも程が有る。
まぁそれにしても……
「山中……オマエ、なんで、そんな心配してくれんだよ?そう言うのって、普通は、お互いが確認しあって理解するもんじゃねぇのか?少しお節介なんじゃねぇのか?」
「そやな。そやけどな。俺がお節介になんのにも理由は有る」
「なんだよ、それ?」
「さっき言うた『知り合いの大阪の女』な。……実はな、俺の姉貴の話やねん」
「なっ!!」
「その姉貴な。今でもその時の心の傷が治らんと、部屋に引き籠ってビクビクしたまま生きとおるわ。ほんまアホやで。まぁ、そうならん為のお節介やから、オマエは、そこまで深くは気にすんな」
山中が口にした言葉は、思っていた以上に重い言葉だった。
自分の姉と、奈緒さんのあの笑顔が被って見えたんだろう。
「あぁ」
「さて、しょうもない話は、これで終わりじゃ。最後に一回合わせてから、家帰って着替えよか。……崇秀の鼻を明かすライブは、もぅ直ぐやで」
「だな」
こうやって山中と2人で最後に合わせた音は、奇跡的に俺がミスもなく、中々の仕上がりだった。
この音みたいに、山中が心配してくれたみたいな事もなく、奈緒さんとの関係も上手く行けば良いんだが……
それよりも今は、やけに山中の言葉が身に沁みる……
最後までお付き合いありがとうございました<(_ _)>
これで、第十三話はおしまいです(笑)
奈緒さんと山中君がバンドに入ってくれたり。
崇秀の曲をアレンジして弾いてみたりと、なかなか大変な第十三話だったのですが……
最後の最後で倉津君は、かなり大きな問題を抱える事になったみたいですね。
次回からは、そんな問題を抱えたまま、とうとうライブがスタートしていきます。
どんなライブに成るのか、少しだけ期待してください。
(少ししか期待したらアカンヨ(笑))
でわまた、第十四話でお逢いしましょう♪
また遊びに来て下さいねぇ~~~(*'ω'*)ノ
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