最後まで奏でられなかった音楽

どこかお間抜けDQNな不良さんのゆったり更生日誌(笑)
殴り書き書店
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071 不良さん 奈緒の笑顔の理由を考えさせられる

公開日時: 2021年4月17日(土) 21:21
更新日時: 2022年11月12日(土) 18:16
文字数:5,335

●前回のおさらい●


 崇秀の曲にアレンジを加えた奈緒さん。

そのアレンジを、みんなで演奏してみる事に成ったのだが……


その結果は如何に!!(笑)

「どぅ……だった?」

「俺は良いと思うッスよ。寧ろ、馬鹿の作った曲なんかより、ずっと奈緒さんがアレンジした物の方が良くなってると思うッス」

「そやな。この方がズッとえぇ感じやな。流石、女子や。男では、わからん女の子の細かな心境の変化を出すのが上手いわ。流石、俺が惚れた女子だけの事はある」


ドイツもコイツも、俺をからかうのが好きだな。


心配しなくても、奈緒さんの事だから反論してやる。



「黙れな。余計な事は言わんでも良い」

「なんやねんな。相も変らず、器の小さい男やな」

「うるせぇよ。俺の奈緒さんに手ぇ出すんじゃねぇよ」

「おぉおぉ……なんか言いきりよったで」

「あっ」


完全に山中に乗せられた。


こんなアホ関西人の猿芝居に乗せられるなんざ、情けねぇにも程があんぞ。



「っで、奈緒ちゃんは、どないやねん?今の心境を聞かせてぇな」

「うん?別に、なんとも思わなかったけど。……カズは、なんでそんな事をワザワザ聞くの?」


が~~~ん!!

そりゃねぇッス奈緒さん!!


この様子からして、矢張り俺は、奈緒さんに遊ばれてたのか。


薄々感じていた部分ではあったのだが。

此処までハッキリ目の前で言われると、辛いを通り越して死にたくなるな。


はぁ……。



「うわぁ、これは流石にないわ。……流石の俺でも、マコに同情するわ」

「えっ?ちょっと待って、なんで同情なんかするのよ?」

「いや、待つのは奈緒ちゃんの方やで。今まで散々2人きりになっててやな。いざマコが『好きや』言うてんのに『なんとも思ってない』なんて言われたら、俺やったら自殺もんやで」

「ハァ、なにを言うかと思えば。それ……違うよ、カズ」

「何が違う言うねん?」

「クラはね、もぉ私だけのものなの。だから私もクラのものなのね。お互い自分のものなんだから、好きなのは当たり前でしょ。だから『なんとも思ってない』って言ったの……変?」

「いや……明らかに変やろ」


変じゃねぇし。

これが、奈緒さん特有の愛情表現なんだよ。


奈緒さんの良さは、素人には難しいんだよ。

(↑さっきまで完全に疑ってた人の意見……俺だな)



「まぁ餓鬼にはわかんねぇだろうな。この奈緒さんの愛の深さはよぉ」

「あぁ?なんやと?女の体も知らん童貞風情が、生意気に知った風な口きくなや」

「あぁ?ちょっと待てよ。今、それ、関係ねぇよな」


オマエ、ふざけんなよ!!

奈緒さんの前で、俺に向って、堂々と童貞とかぬかしてんじゃねぇぞ!!


まぁ、そりゃあ童貞なんだけどな。

童帝十字陵の童帝・サウザーなんだけどよぉ。


今、敢えて言わなくて良くね?



「関係ないやと?……アホ抜かせ。肉体関係が有ってこそ初めての恋愛や。そんなんも知らん奴の恋愛なんざ、只のママゴトじゃ」

「なにがママゴトだ。そうやって肉体ばっか求めてんじゃねぇぞ、この色情狂がぁ。オマエの行為には愛がねぇんだよ、愛がよぉ」

「プッ!!もぅダメ……ねぇねぇクラにカズ、なんで喧嘩してるの?」


あっ……この状況下にあっても、奈緒さん、また笑ってるよ。


この人、ホントどんな状態でも、自分が面白かったら笑うよな。


まぁこの奈緒さんの感覚に慣れてない山中は、絶対、怒るだろうけどな。



「ちょ!!自分、なに笑ろとんねん!!」

「だってさ……ぷっ……童貞と色情狂が喧嘩してるんだよ。ぷぷっ……そんなの話が合う訳ないじゃない」

「ちょ待て!!誰が色情狂じゃ!!」


豪く凄んで頑張ってるな、山中。


だがそれ、言っておくが……もぉ無駄だぞ。

『奈緒ワールド』に入った笑い上戸な奈緒さんは、マリオに於けるスターを取った状態だ。


即ち無敵。

しかも、落とし穴に落ちても死なないチートキャラ。


止まらねぇんだよ。



「ぷっ……君だよ君……だってクラがそう言ってたじゃない。ぷっ……ってか、他人に色情狂って言われる人、生まれて初めて見たよ。……ぷぷっ、それが自分のバンドのメンバーとか……クスッ、おかしい……ねぇクラ……有り得ないよね。ぷぷっ」


ほらな。



「ちょ……なんやねん、このネェちゃん。意味解らん」


とうとう『奈緒ワールド』に迷い込んで混乱したな。


この人はな。

普段は、普通に見えるんだが、あるスィッチが入ると、急に変な人になるんだよ。

しかも性質の悪い事に、何をやっても笑い続ける。


まずは、そこを理解しないと、奈緒さんに惚れたとは言えねぇな。



「まぁ迷える子羊に、敢えて、俺から助言してやれる事が1つだけあるな」

「そっ、それは、なっ、なんやねん?聞いたら、このねぇちゃんの奇行の意味が解るんか?」

「いや、多分、わからねぇだろうな。……俺も解らんからな」

「ちょう待てや。ほんだら、そんなもんに何の意味があるねん」

「大した意味はねぇよ。だから助言でしかねぇんだよ」

「ほんだらなんやねん、それ?」

「『慣れろ』……それしか活路はねぇ」

「はぁ?」


わかんねぇのは当然だ。


彼女のこの特殊な感覚に慣れるには、少し時間が必要。

そんな簡単に解るもんじゃない。



「まぁ心配するな。オマエのその反応は、良くも悪くも『正常な人間』の証拠だ」

「『正常』って、オマエ……」

「まぁ、その訳がわかんねぇってオマエの気持ちも良く解る。けど、奈緒さんの反応は難しいんだよ」

「そやかて……罷り也にもオマエ等、付き合ってんねやろ。普通、平然と自分の彼女を変人扱いするか?」

「しょうがねぇだろ。この人は、そう言う人なんだよ。……まぁ奈緒さん見てみろって」

「なっ、なにを見んねん?」


山中は、奈緒さんを恐る恐る見る。


彼女は予想に反する事無く、まだクスックスッ笑っている。



しかも……



「ぷっ……童貞と色情狂が和解した。……どうなってるの、これ?ぷっ……クスッ、クスッ」

「なっ!!」


驚くのも無理はない。


この状況では、普通は笑わないからな。



「あぁ山中」

「なっ、なんやねん?」

「怒るだけ無駄だぞ。さっきも言った通り、奈緒さんは聞いてねぇから」

「はぁ?ちょ……あっ、あのやな……」

「諦めろ。これは慣れるしかないんだ」

「あっ……あぁ、さよか」


折れたな。



「まぁ、そんなに深く考えるな。時間の無駄だ」

「おっ……おぉ」

「そんな事よりよ。時間もねぇし、さっきのアレンジで練習しようぜ」

「おっ、おぉ」

「奈緒さんも練習しますよ」

「うん、わかった」

「はぁ?」


いつも通りの、急にケロッとするパターンだな。


山中には、このパターンにも慣れて貰わなければならない。


こんな事は日常的に有るからな。



「言いたい事はわかる。……その辺は後で聞いてやるから、今は練習だ」

「おっ……おぉ」


この後、山中が訳の解らないまま、練習は再開。


この後3時間程、ベースを弾きっぱなし状態だ。


***


 ……っとまぁ本来なら、このまま時間一杯まで練習をする勢いだったのだが……

なにを思ったのか、奈緒さんが突然、帰宅の申請を申し立てる。


さっきから時折、服の臭いを嗅いでいたから、体臭を気にしているんだろう。


今日一度、風呂に言ったとは言え。

これだけ連続的に練習をしていたんだから、誰だって相当な量の汗もかく。


当然、奈緒さんも女の子だからと言って汗を掻かない訳でもないし。

そうなると当然、汗とか臭いとかが気になるのも頷ける。


故に、条件付で申請は許可。

条件とは、ライブの時間までに帰って来る事。


これをキッチリ約束する。


そんで奈緒さんは、自身の匂いが相当気になっていたのか。

急いで身支度をして、この場を後にした。


取り残された俺達は、少し溜まった疲れを癒す為に休憩に入った。



「のぉマコ。さっきの奈緒ちゃんの件やねんけどな」

「あぁ、なんだよ」

「あれ、オマエの勘違いやないか?」

「あぁ?藪から棒になんだよ」

「あの子な。さっき思いっきり笑とった割にはな。目だけは全然笑てへんかってん。……オマエは、これ、どう思う?」


目が笑ってなかっただと?


そりゃあ一体どう言うこった?



「オイオイ、急に、おかしな事を言うなよ」

「オマエなぁ。ほんま、女の子の表情の変化を見てへんな。よう見とったら、こんな程度の事は、直ぐにでも解る事やぞ」

「オイ、山中よぉ、ほんとにそうなのか?」

「あぁ、ほぼ間違いないで」

「しかしよぉ。何の為に、そんな事するんだよ?」

「あの子は、自分の前で諍いを起されんのが嫌なタイプなんちゃうか?」

「ふむ、喧嘩が嫌いなタイプって言われてもなぁ……俺達みたいに、年がら年中喧嘩してる不良でもない限り、普通は女子だったら、誰だってそうなんじゃねぇの?」

「確かに、オマエの言う通りや。けど、あの子のやり方は、ちょっと異常や。……って言うより、正確には、反応が過敏過ぎる」


本当におかしな事を言うな。


別に喧嘩を止める為に笑って、その場を和ませても良いんじゃないのか?

それに過敏になるのだって、特におかしいな事とは思えないんだが……



「まぁ、過敏って言ってもだな……」

「オマエ、なに勘違いしとんねん」

「なにをだよ?」

「俺が話しとるのは、なんで『あんな行動をするんか』って言う所や。なんも喧嘩を止める事を否定しとる訳やないで」

「それって、心理的な行動原理とか言う奴の話か?」

「そうや」


行動の理由だと?


心理系の話は、崇秀の得意分野の話だろ。

そんなもん、俺みたいなボンクラにわかる訳ねぇじゃねぇか。


馬鹿じゃねぇのかオマエ?



「けど悪いが、そう言うのは、良くわかんねぇな」

「アホか?オマエなぁ、奈緒ちゃんと付き合ってんねんやろ?全然知らん奴やったらまだしも、あの子は、自分の彼女やねやろ?それを『自分には解らん』だけで済ますのは、流石に頂けんのちゃうか?……しっかりせぇやボケ」

「いや、まぁ、そうなんだろうが。んな事を急に言われてもよぉ」

「ホンマ、しゃあないやっちゃな、オマエは……。今からそんなんやったら、アッサリ破局すんぞ」


破局って……この話って、そんなに深い話なのか?



「あのなぁマコ。ちょっとは頭を使って、よう考えよ。あの子が、あそこまでする理由なんぞ、そんないにあらへん。一番解り易い解答やったら『過去になんかあった』ちゅう~のが最有力や。まぁ、そん中でも家族関係とかが顕著な理由にあげられるんやないか?」

「・・・・・・」


家族関係で、喧嘩を止める方法が『笑顔』


彼女の家庭環境を、少し知っているだけに嫌な話に成ってきやがったな。



「若しくは……他に理由があるとすれば、前の男やろうな」


なっ!!



「俺は、家族関係よりも。寧ろ、こっちの線が濃いいやないかと睨んどる」

「ちょっと待て。家族ならまだしも、元彼で、なんでそんな事になるんだよ?」

「まぁ、こう言う話がお題目になっとるやったら、大半のオチは暴力やろうな」

「暴力だと……なんだよ、それ?奈緒さんが、元彼にDVを受けてたとでも言うのか?」

「さぁな。俺も、そこまでは解らん。けど、あの笑い方、人を喰った様な笑い方をしとるけど、どこか媚びた様な笑いにも見えん事もない。そう言う笑い方をする子の大半は、彼氏に媚びた事が有る可能性が高い。そやから俺は『そうちゃうかな』って思ったんや」

「それって、確証は、どれ位あるんだ?」

「まぁ、精々五分五分ってとこやな。……大阪に居る時、同じ様な子を見た事が有るからな」


可能性的には、あの奈緒さんが、元彼にDVされていただと……


もし本当なら、許せる話じゃねぇ。

奈緒さんをそんな目に遭わすなんざ、そいつをぶっ殺しても物足りねぇな。


俺は知らぬ間に、山中の言葉を鵜呑みにしていた。



「待て待てマコ。なにを怒っとんねん?これは予想の話やぞ。実際は五分の確証も無い。……それにな。俺が言いたいのは、そんな事やないぐらい解るやろ」

「なっ、なんだよ?」

「大事にしたれ。……家族か、元彼かは知らんけど。あぁ言う笑いをする子は、必ずしも心に傷を持っとる。それだけに扱いが難しい。そやからお前が、早ぅから、それを意識してへんかったら、彼女を守ったられへんやろ。俺が言いたいのは、そこや」


山中は、俺の自覚の無さを指摘していたんだな。


確かに、山中がこの話をするまで、全く気が付かなかった。

奈緒さんと付き合い始めて浮かれていたとは言え、間抜けにも程が有る。


まぁそれにしても……



「山中……オマエ、なんで、そんな心配してくれんだよ?そう言うのって、普通は、お互いが確認しあって理解するもんじゃねぇのか?少しお節介なんじゃねぇのか?」

「そやな。そやけどな。俺がお節介になんのにも理由は有る」

「なんだよ、それ?」

「さっき言うた『知り合いの大阪の女』な。……実はな、俺の姉貴の話やねん」

「なっ!!」

「その姉貴な。今でもその時の心の傷が治らんと、部屋に引き籠ってビクビクしたまま生きとおるわ。ほんまアホやで。まぁ、そうならん為のお節介やから、オマエは、そこまで深くは気にすんな」


山中が口にした言葉は、思っていた以上に重い言葉だった。


自分の姉と、奈緒さんのあの笑顔が被って見えたんだろう。



「あぁ」

「さて、しょうもない話は、これで終わりじゃ。最後に一回合わせてから、家帰って着替えよか。……崇秀の鼻を明かすライブは、もぅ直ぐやで」

「だな」


こうやって山中と2人で最後に合わせた音は、奇跡的に俺がミスもなく、中々の仕上がりだった。


この音みたいに、山中が心配してくれたみたいな事もなく、奈緒さんとの関係も上手く行けば良いんだが……



それよりも今は、やけに山中の言葉が身に沁みる……


最後までお付き合いありがとうございました<(_ _)>

これで、第十三話はおしまいです(笑)


奈緒さんと山中君がバンドに入ってくれたり。

崇秀の曲をアレンジして弾いてみたりと、なかなか大変な第十三話だったのですが……


最後の最後で倉津君は、かなり大きな問題を抱える事になったみたいですね。


次回からは、そんな問題を抱えたまま、とうとうライブがスタートしていきます。


どんなライブに成るのか、少しだけ期待してください。

(少ししか期待したらアカンヨ(笑))


でわまた、第十四話でお逢いしましょう♪

また遊びに来て下さいねぇ~~~(*'ω'*)ノ

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

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