最後まで奏でられなかった音楽

どこかお間抜けDQNな不良さんのゆったり更生日誌(笑)
殴り書き書店
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096 不良さん 葛藤の果てに

公開日時: 2021年5月13日(木) 00:21
更新日時: 2022年11月17日(木) 18:38
文字数:4,749

●前回のおさらい●


 奈緒さんの考察を2人でした後。

意を決した倉津君は、樫田さんに漸く、本命である『バンドの勧誘』についての悩みを打ち明ける事にした(笑)

「良いけど……急になに?」

「いや……今、この話をする前に、奈緒さんと、山中とバンドをする話になってるんだが……」

「へぇ~~~っ、良かったじゃん。それって、奈緒から誘ってきたの?」


まだ話の途中で、問題には差し掛かっていないから、樫田は、呑気に、そんな事を言っている。


これが本題に入ったら、なんて言うんだろうか?



「あぁ、有り難い事に声を掛けてくれたのは、奈緒さんの方からだ」

「ふ~ん。じゃあなに、ノロケたい訳?」

「いや、違うんだよ。……悩みは此処からだ。因みに『バンドやっていけるか』とか、そんなクソクダラネェ話じゃねぇぞ」

「どう言う……事?」

「実はな。その直後に、崇秀のバンドからも誘いを受けたんだよな」

「ヒデのバンド?馬鹿馬鹿しい。何を言うかと思えば……そんなのヒデが後から言って来たんだから、断っちゃえば良いじゃない」


毎回の事だが崇秀の話ってのは、そう簡単に断れるものじゃない。


それぐらいわからないもんか?


仲居間崇秀と言う男を、オマエは舐め過ぎてるぞ。



「あぁそうしたいのは山々なんだがな。実は、そうもいかねぇんだよ」

「なんでよ?アンタ、奈緒と一緒にバンドが出来るなら本望でしょ……それともアンタ、ホモなの?」

「まさかな。奈緒さんと一緒にバンドをやりたいのは、さっきも言った通り山々だ。ただなぁ。崇秀の勧誘は、それを凌ぐ勢いの話なんだよ」

「なにそれ?自分の好きな女より、友情とやらを取るって言うの?」

「んな訳ねぇだろ」

「じゃあ、なんで悩む必要が有るのよ?」

「アイツの計画には、奈緒さんの事も含まれてるからだよ」

「うん?って言う事はなに。奈緒とアンタがヒデのバンドに入って、山中がハミ子になるって話?」

「いいや、そうじゃねぇ。つぅか、そんなもんなら悩む必要もないだろ」


自分でも酷い事を言ってるとは思う。


ただ山中は、あれだけのドラムの腕を持ってる男だ。

俺みたいな初心者に拘る必要は無い。

寧ろ、他の奴と組んだ方が成長もするだろう。


だが、奈緒さんは違う。

女だとか、彼女だとかを差っ引いても、俺は彼女との約束を守りたい。

あの人は、どうしようもないクズの俺なんかに、初めて心を開いてくれた。


そんな彼女の気持ちを無碍に扱うなんて出来る筈がない。


自分に都合の良い事を言っているのは、重々承知の上だ。

だが、どうあっても奈緒さんは守るべき対象であって、悲しませる対象になってはいけない。


そこだけは変わらないのだが……



「ヒドッ……けど、結局、アンタ何が言いたいのよ?遠回しに言わずに、ハッキリ言えばどぉ?」


樫田の言う通り、俺は問題から逃げている。

何故なら、この問題への回答は、もぉ既に2つのパターンしか存在しないからだ。


①奈緒さんをとった場合。


俺の将来は、高確率でヤクザが決定。

それ=奈緒さんは『ヤクザの彼女』と言うレッテルを張られた上に、俺同様の暗黒の道へ入るしかなくなる。


そう成らない為には、俺が彼女と別れさえすれば全てが丸く収まる訳なんだが……絶対に俺は、彼女を諦められない。


②崇秀と手を組んだ場合。


これも然りだ。

約束を破って、俺に心を開き始めてくれた奈緒さんを裏切る結果になる。


それは、彼女の心を再び閉ざす要因になりかねない。


そんな条件の下、俺は、今の時点で現実から逃げているのかもしれない。

けど、いつまでも逃げていても埒は明かない。


俺は、そう判断をしている。



「そうだな。オマエの言う通りだ。話を遅らせた所で、結果は同じなのにな。なら、今までの経緯を全て包み隠さず話すから、最後まで黙って聞いてくれ。全て聞き終わった後に、オマエの意見を聞きたい」

「うん……出来る限り協力してあげるから、言ってみなよ」


この樫田の言葉を信じて、俺の口は、崇秀の言った話の概要を全て話し始めた。


***


「……って事だ。どう思う?」

「う~~~ん、難しい問題だね。正直言えば、私には、少し荷が重いかな」


矢張り、話が重すぎたのか、樫田の回答は無かった。


無理もない。

他人の人生に対して、無責任な事は言えないのは確かだからな。


それでも俺は、樫田に相談出来ただけでも、少し気は楽になった。



「そっか……だよな」

「あぁでも、全然、助言が出来無いって訳でも無いけど」

「なんか……有るのか?」

「そうだね。2・3なら案は有るけど」

「教えて……下さい。お願いします」


自分で答えを判断出来ていない俺は、心底、樫田に懇願した。


例え樫田の言う話が、クダラナイ一般論であっても構わない。

なにか、この底なし沼を抜ける切欠になれば、それだけでもありがたい。


故に樫田に頼った。



「なにを今更畏まってるのよ。前世からの付き合いじゃない」

「これでもよぉ。一応、真剣に聞いてるつもりなんだが……」

「ゴメン、ゴメン……でもね、真琴は真剣に考え過ぎ。奈緒の事を含めたとしても、ヒデの言う事なんて、所詮は絵空事。なんの確証も無いんじゃないの」

「まぁなぁ。……でもよぉ、実は、そうでもねぇんだよ」

「なんでよ?」

「オマエ、本当のアイツを知らないからだよ」

「かもね……でも100%じゃなきゃ、確証とは言わないのも事実。99%出来たとしても、1%でしくじる可能性もある。人間が話してる以上、確証なんてモノはどこにも無いのよ」


確かにそうだが。

確率の高い方に行きたいのは、人間の心情じゃないのか?



「言ってる事はわかるが、それでも確立は大事だ。わざわざ失敗する可能性が高いリスクを犯す必要は無かろうて」

「ハァ……なぁ~んだ。本当にアンタってツマラナイ人間だね。ガッカリした」

「確かに、俺はツマラナイ人間だが、これでも必死なんだよ」

「ふっ、じゃあハッキリ言わせて貰うけどさぁ……そんな人に頼る事バッカリ考えてる人間が、奈緒を守れるとは到底思えないんけど……どぉ?」

「あっ……」


俺は、正真正銘の馬鹿だ。


この話自体が、完全に本質を外してるじゃないか……


これじゃあ、守るべきの奈緒さんを守ってるのは、俺ではなく崇秀。

俺は、その背中に乗って、奈緒さんを守った気になってるだけに過ぎない。


なにを俺は、アイツの話を鵜呑みにしているんだ?


ただ此処で付け加えておきたいのだが。

今のこの話は俺が間抜けなだけで、当然、崇秀に悪意があった訳ではない。

アイツはアイツ也に、俺の為に考えてくれた結果が、そう言う方向になったに過ぎない。


口も性格も最悪なぐらい悪いが。

アイツは、そう言った事を、ただの嫌がらせで考える様な奴ではない。


これだけは、揺ぎ無い確証だ。



故に俺は、樫田の言葉に『目から鱗が落ちた』気分だ。



「ホント、真琴って馬鹿だね」

「……だな」

「しょうがないから、あたしが、どうすれば良いかレクチャーしてあげる。拒否権は無し」

「いや……」

「ヒデみたいに大胆な事は出来無いし、頼りないかも知れないけど。少しは私を頼ったらみたらどぉ?」

「なんか、人に頼ってバッカリで情けねぇな」

「しょうがないじゃない。あんた、ガキで馬鹿なんだから」

「面目ねぇ」


樫田って、救い様の無い電波馬鹿だと思ってたけど、頭良いんだな。


頭の回転が思った以上に速い。


それに比べて俺の脳味噌は、単細胞の葉緑体以下だな……終わってる。


なら、これを期に、少しは勉強してみるか。

奇跡的にも、考える力が付けば儲けモノだしな。



「じゃあ、ちょっとだけお節介するね」

「お願いします」

「あたしが考えた案は3つ。真琴は馬鹿だから、簡単に説明するよ」

「そうッスね」


樫田は口悪く、そんな事を言ってくる。


しかしまぁ、頭に良い奴って、ホント口悪いよな。


まぁそれでも樫田の出した案は、中々良く考えられていた。


①崇秀に頼んで、奈緒さん及び山中をバンドに入れて貰う。

②その逆、自分を大きく言って、崇秀と他のメンバーを自分のバンドに吸収する。

③失敗する事を前提に置いて、奈緒さん及び山中と賭けに出る。


この3つを言い終わると、樫田は1つだけ言葉を付け加えた。



「真琴は、この案を聞いて、多分①と③を選んだと思うんだけど、どぉ?」

「あぁそうだな」

「やっぱりね。アンタの甘えた根性は、まだ直ってない」

「なんでだ?」


樫田自身が出した案なのに、甘えてるだと?


確かに①は甘えた根性かもしれないが③を選んでる以上、問題は無い筈なんだが……



「やっぱり、わかってないか」

「どういう事だよ?」

「①は、あたしが仕込んだ罠……気付かない?」

「いや、選択肢に入ってる以上、選んでも、おかしくは無いと思うが」

「だからアンタは、単純馬鹿だって言うの」

「えぇ……なんでだよ?」

「①を選ぶなら、②を選びなさいよ。アンタは、まだ甘えた根性で、崇秀に育てて貰おうとしているじゃない。そんなんじゃ奈緒を守るどころか、自分の将来も見えないよ」


クッ……なんてことだ。

まだ俺からは、甘えが抜け切れていない様だ。


この後に及んで、まだどこかで楽をしようと考えている。


なんて情けない人間なんだよ。

樫田の言われるまで、そんな事にすら気付きもしなかった。



「まっ、罠を張ったあたしにも責任は有るから、そう落ち込まなくても良いんだけどね」

「いや、違う。オマエは悪くない。俺が甘えを捨て切れてない証拠だ」

「あらら、やけに殊勝なのね」

「しょうがねぇだろ。事実、簡単に罠に嵌ったし。③を選んで安心してた自分もいるからな」

「馬鹿のアンタにしちゃ上出来……じゃあ、あたしが②を選ぶべきだって言った理由は判る?」

「あぁ……バンドに対する責任感だろ。後がない俺が、そこを放棄しちゃ行けないって警告だと思うが……どうだ?」


自信がある訳じゃないが、これ以外は何も浮かばないのが事実。



「良し、良し、わかってるじゃない……でも1つだけ肝に命じておいて」

「なんだ?」

「この他にも、考えれば、恐らく幾つでも方法は有ると思う。それは、ただあたしが思い付かないだけに過ぎないと言う事と。それと、このアイディア自体が、あたしが考えたものであって、真琴はそれに賛同しただけって事。そして最後に、本来、こう言う事は、自分で考えなきゃイケナイって事を肝に命じておいて欲しいのよ」

「わかった……今直ぐには出来ねぇかも知れねぇが、努力はする」

「ダメだね真琴は、まだ甘えてる。今から出来なきゃ意味がないのよ。明日からだと、絶対やらないよ」

「わかったよ」

「それもダメ……人に命じられてやったんじゃ最後まで遂行出来無い。だから言葉なんていらないから、自分で決めた事は、自分の心の中にだけ誓えば良いのよ」


樫田って、ただの馬鹿だと思っていたが、本当は厳しい奴なんだな……


俺は少し沈黙したまま、心に誓った。



「・・・・・・」

「うん、OK。じゃあ真琴、頑張んなよ。……困ったら、いつでも相談に乗るし、あたしも応援してあげるからさ。上手く行くと良いね」

「あっ、あぁ」


しかしまぁ……樫田って、こんな女っぽいキャラだったか?


なっ、なんなんだよ、この妙に『ドキドキ』してる心臓の鼓動は……

ひょっとして俺、コイツにトキメイてるのか?


そっ、そんな馬鹿な……


これが俺の言っていた、リアルなギャップ萌って奴か?


・・・・・・


ん?待てよ……


そうだよ。

これって、さっき俺が言った事を、樫田のアホが実験的に実演して試してるだけじゃねぇのか?


この野郎だきゃあ。



「ふふ……ほんとだ。真琴の言った事って、嘘じゃないんだ。今度どっかで使お~~っと」

「テッ、テメェ……」

「ぷっ、冗談よ冗談。ごめんごめん」

「オマエだけは……」

「まっ、冗談はさておき。あたし、ヒデに用事があるから、もぅ行くね」

「何所へなりとも好きな所へ行っちまえ。あぁそれと、あの馬鹿には、余計な事を言うんじゃねぇぞ」

「言う訳ないでしょ……じゃあね。前世から愛してるよ、ま・こ・と」

「死んじまえ!!」


なんて言って見たものの、何故か樫田に対するドキドキが止まらねぇ……


どうなってんだよ、これ?


最後までお付き合いありがとうございました<(_ _)>

これにて第十八話『葛藤』は終了でございます。


倉津君、色々悩んだ結果。

最後には、なんとか自分也の答えを見付ける事が出来たみたいですね。


しかし、結局彼は、一体どんな回答に行きついたのでしょう?


それを踏まえた上で、次回から第十九話『ライブの魔物』をお送りしたいと思います♪


また良かったら、遊びに来て下さいねぇ(*'ω'*)ノ


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