●前回のおさらい●
崇秀との悪魔の契約により『奈緒さんの思い出作り企画』が始まった。
「さて……漸く、これで、初期段階はケリが着いたな」
「なぁ、おい、崇秀。さっきからオマエ、みんなに一体なにを話てたんだ?」
「んあ?あぁ、なんてこたぁねぇよ。今日と明日の丸2日間を、俺にくれって言っただけだ。……さて、時間が全然ねぇ。次の段階に移るぞ」
「なっ!!」
時間がねぇのはわかるが……なにをそんなに焦ってんだ?
そんなに時間が掛かる程の事を、この残り2日間で全部やろうって言うのか?
なに考えてやがる?
俺には、全くと言って良いほど見えねぇぞ。
「オイ、倉津。早速で悪いんだがな。車で此処に来てる奴等全員に通達だ。『湘南ベイサイド』ってホテルが、この先、少し行った所にある。人数分の予約をとってあるから、そこに全員を運んでくれ。……全員到着次第、ミーティングを始めるぞ」
「へっ?オッ、オイ、崇秀、マジで何をする気なんだ?」
「悪いが、オマエと、向井さんには最後まで教えねぇ。事が済んだら、全て教えてやるから、今はオマエは、向井さんに出来る事を全てやってやれ。……良いな?失敗する可能性もあるから、1つ残らず、全てやって置けよ。じゃないと後悔する事になるぞ」
「なんだよ?やけに弱気じゃねぇか」
「ったり前だつぅの。こんな突発で起すイベントなんざ、成功するって考える方が、どうかしてるぞ。企画つぅもんはな。普通、念入りに考えてからやるもんなんだよ」
「そっ……そうか」
そりゃそうだよな。
俺は、この後、車で来た人間達(俺・遠藤・モヒ・鮫島)と一緒に、崇秀に指定されたホテルに女の子達及び、野郎共を搬送して行く。
全員を送り届けたら、時間は夕方を過ぎていた。
***
「オイ、崇秀。奈緒さんと、俺と、オマエ以外は、全員ホテルに運んだぞ」
「そっか。じゃあ、テメェと、向井さんは、此処の片付けをしてからホテルに来い」
「奈緒さんと、俺で片付けだと?」
「あぁ。じゃなきゃ、此処を誰が片付けるんだよ?俺に片付けろとでも言うつもりか?」
「いやまぁ、そりゃあそうだけどよぉ。奈緒さんに片付けさせるのって可哀想じゃねぇか?」
「オイ、倉津。……オマエ、ちょっと向井さんを甘やかし過ぎなんじゃねぇか?彼女の為に、みんな動いてくれてんだから、その張本人のオマエと、向井さんが雑用しなくてどうするよ?……そう言うのはな、誰にも言われなくても、普通は率先してやるもんだぞ。……ったく、社会の常識ってもんをシラネェのか?」
「・・・・・・」
「あのなぁ……あぁ、もう良いや。兎に角、此処の片付けは、当事者のオマエ等2人でやれ。終わったら、さっさとホテルに来い。じゃあな」
それを言い残して崇秀はNSR250/80`sロスマンスカラーに跨って、即座に消えていく。
しかも、単車自身を相当弄ってるのか。
直線及び、コーナーに入って行く侵入スピードが尋常じゃない。
見たところ……ありゃあ、最低でも750CC位の排気量があるな。
日本じゃ250CCは、車検とかが無いから弄りたい放題だもんな。
まぁその姿は、中々堂に入ったもんだったがな。
所でオマエ……免許は?
あっ、ウチで取ってたな(偽造)。
***
片付けを2人で、始めて15分。
その頃には、漸く片付けも終わる目処が立ち始めた。
けど、その間、奈緒さんは文句の1つも言わずに楽しそうに片付けをしていた。
そんな折……海に、夕日が落ちて、凄く綺麗な風景になっていた。
「ねぇねぇクラ。見て見て、海が凄い綺麗だよ♪」
「ホントっすね。……あぁでも、奈緒さんの方がズッと綺麗ッスよ」
「あぁ……なんか残念なぐらい定番なセリフだね」
ッスね。
すんまそん。
「ところでクラ。みんな、どこに行っちゃったの?」
あぁ……奈緒さんの、この態度から言って、崇秀の奴、奈緒さんには、本当に何も言ってないんだな。
だったら、こう言う場合、なんて言ったら良いんだ?
下手な事を言えないのは、いつも通りなんだが、中々難しいもんだな。
「あっ、あのッスね。さっき、崇秀に偶々逢ったんッスけどね。この状況を見て、急になにか面白い事を思い付いたらしいんですよ。……それで、みんなが借り出されたって感じッスかね」
「あぁ、仲居間さん来てたんだ。……じゃあ、此処で片付けさせられてるって事は、私だけハミ子なの?」
「違うッスよ。奈緒さんなら『後から来ても大丈夫だろ』っとか言ってましたからね」
「そうなんだ。……なんか豪く買い被られてる感じだなぁ」
「そんな事ないッスよ。それが正当な評価ッス」
「そうかなぁ?私って、みんなが思う程、何も出来無いんだけどなぁ」
「まぁ、あれじゃないッスかね。奈緒さんのイメージみたいなものなんじゃないッスか」
「それ、どういう意味よ?人を、キャリアウーマンのおばさんみたいに言わないでくれる」
ヤバイ方向に取られた。
奈緒さんの『~みたいな』って言葉は、かなり危険信号だ。
前回の『エキス』同様、また意地の悪い事をしかねない。
早めの対処が必要だ。
「んな訳ないじゃないッスか。奈緒さんはオバサンでもなきゃ、キャリアウーマンでもないッス。それに何でも出来そうに思われてる方が格好良いじゃないッスか」
「けどなぁ~。そう思われてるのって、結構、疲れるんだよねぇ。なんて言うかさぁ、出来て当たり前みたいに思われるから、出来なかったら、凄く文句を言われるし……結構、肩が凝っちゃうのよね」
あぁ……確かにな。
そう言う人って、必ず、出来なかったら文句言われるよな。
この辺は、奈緒さんも、嶋田さんに似てるんだろうな。
「じゃあ、弱音とか吐いてみますか?」
「それもあんまり好きじゃないかな。期待されてるなら、精一杯頑張った方が楽しいしね」
「じゃあ、弱音は吐かないと?」
「うぅ……じゃあ、少しだけ吐く」
「良いッスよ。けど、なんで急に気変わりしたんッスか?」
「うん?なんかね。今日、こうやって、みんなで遊んでて、少し寂しくなっちゃったのかな」
「あぁ……」
今日1日が楽しかっただけに、奈緒さんにも思う所が有るんだろうな。
さっきも、それを思わせる表情をしてたしな。
それに……崇秀の話が伝わっていない以上、こうやって楽しい時間を、みんなで共有出来るのも、あと僅かと思い込んでいる。
だから自分も、もっと、この場所で、みんなと一緒に居たくなる気持ちになっても、決して、おかしくはない。
こう言う奈緒さんの気持ちは、俺には痛い程よく解る。
それでいて奈緒さんは、変な所が不器用。
上手く、それを他人に伝える術を知らない。
そうなれば、結論的には、自分で解決してしまうしかない。
これ自体は良い事なんだが、崇秀みたいな変人じゃなきゃ、こう言うのは疲れてしまう。
故に奈緒さんが、今から言う弱音は、彼女の本音だと捕らえるべきだろう。
「ねぇクラ。なんでなんだろうね?なんで私だけ、いつも、こんな目に遭うんだろうね?……『援交』とか馬鹿な事をしたから、罰が当ちゃったのかな?」
「奈緒さん……いや、奈緒だけが、そんな罰が当たるなんておかしいだろ?そんな奴等、日本国中探せば5万と居るぜ。所詮、人間なんて間違いの塊なんだからよ。過ちは、絶対に起すもんだ。……奈緒も、もういつまでも、そんな事を気に病む必要は無いんだぞ」
「だったら、ホントなんでなんだろうね?今のバンドを離れるのは、私、凄く寂しいよ。もっと、みんなと一緒に居たいよ」
奈緒さんの本心は、本当に聞いてて辛くなる。
本当に、なんでこの人だけ、こんなにピンポイントで狙った様に不幸になるんだろうな?
家庭環境がグチャグチャな上に、親も、自分達の為に娘を売ってしまう様な、頭のおかしい人間。
その上、好きなバンドまで奪われたんじゃ救いが無い。
でも奈緒さんは、こう言う機会が無ければ、文句の1つも言わずに、いつも上を向き、そして前を向き歩き出す。
この人は、本当に強い人だからな。
いや……本当は、そう見せてるだけかも知れないな。
「奈緒……ごめんな。俺が強引にでも力になってやれば、最低限こんな事には、ならなかったのかも知れないのに……」
「それは違うよ、クラ。クラはね、私なんかの為に、こうやって一生懸命やってくれたじゃない。だからね、そうやって、自分を責める様な真似をするのだけは、絶対にヤメテ。それに自分で選んだ道なんだから、ホントは、私が愚痴なんか言っちゃダメなんだろうしね」
いつも、こうやって強がりを言う。
矢張り、奈緒さんは、どこかで救いを求めているんだ。
なら、崇秀の言葉通り、他人に力を借りず、今からでも俺自身がなんとかするべきなのだろうか?
っと言ってもだ。
今回は、無理矢理、崇秀に頼んだ以上、そんな無茶な事も出来無いか……
だから俺は、違うやり方で、彼女の心を救ってあげる事を考え付いた。
「OKだ。じゃあ奈緒は、もう愚痴を言わないでくれ。オマエは、そんな情けない事を言う様な女じゃないからな。……もし、これが守れるって言うなら、俺から取って置きのプレゼントがある。奈緒が、少しだけ元気になる、おまじないみたいなもんなんだけど。……受け取ってくれるか?」
「うん。良いよ。なに?」
俺は、鞄に隠し持っていた一枚の紙切れを取り出した。
そして、それを奈緒さんの前に差し出す。
最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございましたぁ<(_ _)>
奈緒さんが自ら愚痴を言うなんて珍しいですね。
あの赤レンガ倉庫での激白以来、今まで隠して来た本音が零れ出た感じだったんでしょうね。
そんな奈緒さんに対して、倉津君は、なにを渡そうと言うのでしょうか?
そこは次回の講釈(笑)
また良かったら遊びに来て下さいねぇ~~~(*'ω'*)ノ
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