●前回のおさらい●
爆弾処理(手淫)をしようとした倉津君だが。
奈緒さんとの約束を守る為に、その行為を破棄して、ベースの練習をしていた。
そこに奈緒さんが帰って来て……
「なっ、奈緒さん」
「なに?」
此処までは、恒例になりつつあるいつものパターン。
だが、それは此処までの話であって、この後、会話を続けるのは相当に難しい。
こうやって奈緒さんが返答してくれたのは良いが。
今現在、彼女の怒りのパラメーターがどれほどのものなのか、俺の経験値不足からして全く判ってはいないからな。
困った。
……が、話し掛けたのに、此処でなにも言葉を発しないのは変なので、無理やり口を開く。
「あっ、あの……」
「だからなに?」
手を上げて彼女を呼ぼうとしたが、相当、機嫌が悪い様でこの言い様。
上がった手だけが、虚しくヘナヘナと力なく下りて行く。
「・・・・・・」
それにしても、矢張り、この言い方って『意地の悪い言い方』だよな。
約束破らずに、奈緒さんの言いつけ通り、必死に練習していたんだから、良く良く考えたら、流石に、この扱いはないよな。
彼女の指示に従ったって言うのに……
そんな風に意識が変な方向に行き。
一瞬、積もった怒りが爆発してカッと怒りそうになるんだが……矢張り俺は、この程度(奈緒さん限定)の事では怒らない。
なんだかんだ言っても、そんな奈緒さんも好きだからだ。
それに冷静になって、この原因となった事象を質せば。
矢張り、俺の責任でしかないなのだから、此処で奈緒さんを怒る権利なんて俺にはない。
こうやって考えてみたら、女の子の扱い方を知らな過ぎるのも問題だな。
「うん?何もないの?だったら、朝ごはんにする?」
「はっ?へっ?えっ?……ウッ、ウッス」
袋からゴソゴソと幾つかの食べ物と、烏龍茶のペットボトル及び紙コップを出す。
そして彼女の表情は、何故かニッコリ微笑んでいる。
「ねぇクラ、なに食べる?色々有るよ」
「あっ、あのッスね。そんな事よりも、もぅ怒ってないんッスか?」
「此処に帰って来るまでは怒ってたよ。でもね、もぅ怒ってない。……って言うか、君が、あの状況下でベースの練習してるとは思いもしなかったよ」
「へっ?なっ、なんで奈緒さんには、俺が練習してたって解ったんッスか?俺、まだ何も言ってないッスよ」
まさか、この人もエスパーなのか?
崇秀みたいなややこしい人間は、アイツ1人で十分ですよ。
「……クラ、指から、また血が出てるよ。気付いてる?」
「えっ?あっ、ホントッスね」
アホだ俺は。
あまり痛みを感じなかったから、指から血が出ている事にすら気付かなかった。
どんな無痛症だよ。
「ごめん……ね」
「えっ?なに謝ってんッスか。謝んなくて良いッスよ」
「怒って……ない?」
「怒ってないッス、怒ってないッス。大好きな奈緒さんを怒る理由なんてないッスよ」
「そっか……ふふっ、いつも、そうやって気を使ってくれて、ありがと」
少し照れくさそうに俯いて、小さく感謝の念を伝えてくれた。
これだけでも、約束を破らず、辛い想いまでして練習した甲斐が有った。
俺の株も、これで、ちょっとは上がったんじゃないか?
まぁ世の中、そんなに甘くはないだろうがな。
「ところで奈緒さん、豪く時間が掛かりましたね。なにやってたんッスか?」
「ハァ……また、そうやって余計な事を聞くでしょ。……そう言う事は、疑問に思っても口に出さないの」
「えっ?あっ、あぁ……そうッスね。そうっスよね」
ほらな。
俺って、所詮は、こんなもんなんだって。
親父譲りで、嫌になるほどデリカシーってもんが欠落してやがるからな。
親子って変な所とか、絶対にイラナイ所ばっかり似るよな。
まったくもって迷惑な話だよ。
「あっ、そうだ。……クラ、山中君も、ご飯に呼んであげないと。向こうの部屋で1人で頑張ってるから、お腹空いてるだろうしね」
言葉と共に立ち上がり。
奈緒さんは、身を翻して山中を呼びに行こうとする。
だが俺は、ある事情から彼女を必死に止めた。
「あっ!!奈緒さん、ちょ、ちょっとだけ良いッスか?」
「うん?……なに?」
「あの、山中を呼びに行くのは良いんッスけど、その前に、一応、練習の成果だけでも聞いて貰えませんかね?……どうッスかね?」
奈緒さんを呼び留めた理由は、これだ。
って言うのもな。
山中のボケに、俺の拙い演奏を聞かれるのは、結構、恥ずかしい。
勿論、あの糞ボケに馬鹿にされるのも嫌なのは、言うまでもない。
「あぁそう言えば、そうだったね。クラが、ワザワザ私に逢いに来た一番最初の理由って、それだったのにね。色々有り過ぎて忘れてた。ごめんね」
「あぁ良いんッスよ。良いんッスよ。気にしないで下さい」
「そぅ?」
「ッス」
「うん。じゃあ、色々詰め込んじゃった後だけど。最初は『運指運動』の基本から見せて貰おうかな」
そうか。
そう言えば『運指運動』を見て貰おうと思って、昨日は、奈緒さんに逢いに行ったんだったっけな。
だから彼女が、そう言っても変ではないな。
「あっ、あの」
「んっ?なに?どうかした?」
「はぁ。実は、それなんですがね。さっき奈緒さんが弾いた『Master Of Puppets』を、ちょっとコピーしてみたんッスよ。……だから、良かったらなんッスけど。そっちの方を聞いて貰って良いッスか?」
「えっ?ちょ、私の弾いたMaster Of Puppetsをコピー……したって言うの?」
メッチャ怪訝な顔をしている。
これって、また変な事を言っちまったのか?
だとしても、これが原因になって、揉め事以前に、奈緒さんを不機嫌にするのは嫌だぞ。
取り敢えず、最低限度の言葉には気を付けよう。
「まっ、まぁ、一応と言うか……実際は、先に、この録音を自分で聞こうと思った時に、奈緒さんがコンビニから帰って来たもんだから、俺もまだ聞いてない状態なんで『出来』は、なんとも言えないんッスけどね」
「そっか……でも、そう言うって事は、罷り也にも出来たんだ」
「いやいやいや、あんまり期待しないで下さいよ。多分、聞くも無惨な酷い出来の筈ですから」
「いや、あの、うん。こう言う場合なんて言えば良いのかなぁ?クラ……言葉に困るよ」
「そうッスよね」
「うん。じゃあ、こんな事ゴチャゴチャ言ってても仕方ないし。取り敢えず、音源、聞かせて貰って良い?」
「ウッス。お願いします」
「クスッ、なにそれ……改まって」
「ッスね」
奈緒さんは体を密接させて、俺の横にチョコンと座る。
その瞬間、彼女の二の腕が触れて。
相変わらずヘタレな俺は、咄嗟に、体を少し離そうとする。
「こら、クラ。そんなに離れたら一緒に聞けないでしょ」
「はぁ。まぁそうなんッスけど」
「ほぉらぁ」
そう言って、再び体を寄せ。
自分の耳に俺のMDのイヤホンを片一方だけつけて、残りの一方を俺の耳につける。
えっ?なんですか?
この2人で1つのイヤホンを使うと言う、なんとも言えない様な幸せな構図は?
俺の中で、恋人とやってみたい事『Best5』に入るシュチュエーションですぞ。
「ねっ♪こうやって聞けば、クラも一緒に聞けるでしょ」
「ウッ、ウッス、ッスね。ッスね。そうッスね」
更に彼女の髪から流れてくるシャンプーと、石鹸の香りがヤバ過ぎる。
この人の体からは、フェロモン系の分泌物しか出ない様に出来てるのか?
それに触れ合ってる腕も体温も、さっきより少し高い様な気がするぞ。
あっ……まさか、この人……
例の事が気になって。
あの怒った状態まま24時間オープンの銭湯を探しに行ってたのか?
それで、強引に風呂を見つけ出して、風呂にサッと入って帰って来るまでに1時間。
もしこれが事実だとしたら、女の子の清潔好きは、ある意味、凄い行動力を齎すんだな。
感心する。
でも、そんな香りは、俺にとって天国の様な地獄。
奈緒さんに対しての意識が高まるだけ……マジで、天使と悪魔が同居している状態だ。
勘弁してくれ。
俺、さっき爆発物の処理を我慢したから、本当に爆発するぞ。
此処に来て再度、例のモノの暴発の危険が迫る。
それでも奈緒さんは、いつも通りの行動を起こす。
「じゃあ、スィッチ入れるね」
「・・・・・・」
諦めた俺は彼女に従い、コクッと頷くだけ。
恐らくは、人が聞くに耐えない酷い音が流れるであろう自分のPLAYを、此処からは大人しく聞く事にした。
少し合間があってから、音が流れ始めた。
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最後までお付き合いありがとうございました<(_ _)>
自らの手で爆弾処理をせずに、約束を守って良かったですね。
そのお陰で『自分の彼女としたいシュチュエーションの五本の指に入る行為』をして貰っちゃえましたしね。
良かったね(笑)
さて、そんな幸せな中、次回は。
倉津君が奏でたベースの音が注目に成ってきます。
どんな評価が下されるのかは……次回の講釈と言う事で(笑)
また遊びに来て下さいねぇ~~~(*'ω'*)ノ
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