●前回までのあらすじ●
奈緒さんとアリスの間での取り決めが決まり。
『倉津君争奪戦』っと言う名を借りて、お互い争いながらも、バンドには迷惑を掛けないようにすると言う事が決定する。
ただその中にあって、アリスが好きな筈の山中君が、なんの反応も見せずに、好調のままリハーサルが始まり。
そのまま終わって行くのだが。
俺はリハーサルが終わった直後、ちょっとだけ山中を誘い、例の横の通路で話を聞く事にした。
「なんやマコ?こんな所にわざわざ呼び出して、なんぞ用か?」
「いや、あのよぉ……」
「あぁ、わかったで。もぉわかった。その話な。オマエが、俺に何を聞きたいのかが見えたわ」
「なぬ?」
久しぶりに俺は、また新たな新言語を発してしまった。
『なに?』って言おうとしたんだが『なぬ?』と言ってしまった。
なんで俺は動揺すると、こんな簡単に噛むんだろうな?
……にしても、本当にコイツ等って、エスパーなんじゃねぇか?
「ぶっはは!!『なぬ?』ってなんやねん『なぬ?』って?オマエ、どこの漫画の主人公やねん?そんな事を口に出して言う奴は、初めて見たぞ」
「うるせぇよ!!んな事より、なにがわかったって言うんだよ?」
「あぁ、それかいな。それやったら『なんで、あんな話を聞いても平気なんや』って奴やろ。オマエの考えそうなこっちゃ」
「がっ!!」
やっぱ、エスパーのみなさんは凄いな。
なんでそう簡単に、俺の心が読めるんだ?
いや……違うな。
もぉ此処まで来たら。
周りがエスパーなんじゃなくて、寧ろ、俺が『サトラレ』なんじゃないか?
なにも言わなくても、誰とでも意思疎通が出来る。
……凄いな俺。
マジで考えんのが嫌になってきた。
「適当に言うたのに、マジで当たりかいな?オマエって、ホンマありえへんぐらい単純なやっちゃなぁ」
「るせぇよ」
「ほんで?その質問で、なにが聞きたいねん?こんな質問、答えるんも面倒な話やぞ」
「なんでだよ?奈緒さんと、素直の勝負が始まったら、オマエに付け入る隙が無くなるじゃねぇかよ」
「アホや……正直言うて、これ程までにアホやとは思わんかったわ。近年稀にしか見れん完璧なアホやな」
「なん……でだ?」
ヒデェ……
「良ぇかマコ?前にも言うたけどなぁ。物事は多角的に捉えるもんや。オマエの見方は、何か1つしか見てへん。大雑把過ぎんねん」
「けどよぉ。そうは言っても、今後、奈緒さんと素直は『俺争奪戦』を繰り広げる訳だろ。だったら、オマエが付け入る隙なんか、何所にもねぇじゃん」
「なにが『俺争奪戦』じゃ。ようも恥ずかしげも無く、そんな事が言えるのぉ」
「わかり易く言ってやってんだろうがぁ!!」
「そりゃあ、ご親切に」
「オマエねぇ」
なんなんだよ。
この野郎、本当に全部解ってて、この調子なのかよ。
しかも、これだけ余裕が有るって事は、マジで打開策が有るって言うんだな。
とっ、取り敢えず、気になるから、さっさと教えろ。
そんな風に見事な思考放棄をしながら、怒涛の質問攻めを敢行する事にした。
「あぁ、もぉ良いからよ。時間もねぇんだから、さっさと教えろよ。オマエ、なんで平気なんだよ」
「決まっとるやんけ。奈緒ちゃんが仕掛けた勝負は、俺にとったら好都合やからや」
「だから、そこがわかんねぇんだよ。なにが好都合なんだよ?」
「ボケが……あんなぁ、なんで好都合か位、ちょっと考えたら、直ぐに解りそうなもんやろ」
「あぁわかんねぇ。俺は馬鹿だから、全然わかんねぇよ」
「……ったく。なにを開き直っとんねん。ホンマ、性質の悪いやっちゃで……良ぇかボンクラ?奈緒ちゃんが勝負を仕掛けた事によって『オマエ争奪戦』とか言う、おかしな勝負がバンド内で始まる。そやけど、一応、オマエは、奈緒ちゃんしか見ぃひん訳や。ほんだらアリスはどうなる?当然、悩むはな。そこで俺が相談に乗る訳や。ほんだらアリスは、俺の優しさと、本気さに気付く。後は、タイミングを見計らって告白したら、もぉアリスは俺のもんや。オマエの事なんぞ、なにもかもスッパリ消えてしもうてHappy-endちゅう~訳や。……どや、完璧やろ?」
うわっ!!コイツ、なんちゅう卑怯な手を考えてやがんだ。
『アナタの心の隙間をお埋めします』とか言う、笑ったままのセールスマンみたいな事を考えてやがったんだな。
けど……確かに、俺さえ奈緒さんへの想いがブレ無ければ、成功の見込みはない訳では無いな。
それに、人の心の隙間を付いた卑怯なやり方ではあるが。
これからの素直の人生を思えば、いつまでも俺なんかの為に時間を使うのはよくない。
だから、この計画自体は、実際、俺が思うよりも、そんなに悪くないのかもな。
第一、俺の為に『人生を無駄にする』のは、奈緒さんだけで十分だ。
彼女は、そこを、よく理解してくれている。
だから、こんな無意味な勝負を仕掛けたのかもしれないしな。
だが、そう考えるとだな……奈緒さん、ひょっとして山中の『素直に対する気持ち』に感ずいてるって事にならないか?
俺が邪推し過ぎなんだろうか?
「そう言う事か」
「なんや。豪い簡単に納得したんやな?」
「あぁ、納得した」
「いや……オマエ、ホンマに理解してるか?この話は、そこが一番重要やねんぞ」
「馬鹿言うな。幾ら俺でも、それぐらいは理解してるぞ。オマエの言いたい事は、奈緒さんだけに集中しろって事だろ」
「微妙やな。……どうやらオマエは、俺の立てた計画の恐ろしさが、まだ全然わかってへんみたいやな」
「うん?」
なんでだ?
素直が好きなら、それで、全て事は丸く収まるんじゃねぇのか?
コイツの話は、どうにも謎が多い。
「良ぇかマコ。俺はな、この計画で、なにもアリスだけを狙ってる訳やないで」
「へっ?ちょオマ……」
「俺、昨日、ちゃんと言うたよな。『オマエは、いつも通りにしとったら良ぇ』って」
「オマエ、まさか……」
「そう言うこっちゃ。オマエが、奈緒ちゃんだけを見てるんやったら、それはそれで一番良ぇこっちゃけど、オマエが罷り間違ってアリスを見る様やったら、俺は、アリスを諦めて、奈緒ちゃんを狙う。俺はな、オマエ次第で、臨機応変に対応するつもりやし、立ち回り方次第ではWゲットも可能や。……これが本音やな」
コイツ……マジ人間として終わってる。
その思考は、完全に人の考え方じゃねぇぞ。
獣の考え方だぞ、オマエ。
しかしまぁ、この淫獣だけは、毎度舞面白い事を考えるよな。
奈緒さんと、素直を同時にロックオンしておいて、狙い易くなった獲物を狩る。
なんとも合理的な女の子のGETの仕方じゃねぇか。
俺が奈緒さんを取った場合は、山中が、素直の相談に乗って万事上手くいき。
俺が何かの間違いで素直を取った場合は、フリーになった奈緒さんを狙いにいく。
当然そうなってしまったら、山中が奈緒さんを口説いても、俺が山中に文句を言える筋合いはない。
飛んでもない事を、平気で考えやがるな。
最悪も、此処まで来たら感心する。
―――なんてな。
こんな馬鹿げた口上を真に受けるほど、今日の俺は馬鹿じゃない。
コイツが本当に言いたい事は、奈緒さんから目を離さずに『浮気すんな』って忠告がしたいんだろう。
ややこしい事を言っても、今日の俺には通じねぇぞ。
「馬鹿だコイツ」
「なんでやねんな?良ぇ女が居ったら、男が臨機応変に対応するのは、そんなに変な事か?」
「あぁ変な事だ。自分の好きな女を諦めて、他の女にいくって時点で、オマエの素直に対する気持ちが破綻してるじゃねぇか。そんな気持ちで、他の女に行った所で長続きはしない。……良いか山中?人それを『惰性』って言うんだぞ」
「なんやオマエ、どうしてん?妙に理屈っぽい事ぬかして……そないにいっぺんに頭使うたら、知恵熱出んぞ」
「るせぇ」
大きなお世話だ。
知恵熱なら、昨日、勉強のし過ぎで、密かに出てたわ。
だから、この程度の思考なら、知恵熱なんぞ出ねぇわ。
「そやけどまぁ。解散の賭かったライブの前に、よぅも呑気に、こんな話をして来たもんやな。オマエ、ドンだけ余裕やねん?」
「あぁ?あぁ解散な。そんな話もあったな」
おぉ……スッカリ忘れてた。
今回のライブって『解散』が賭かってたんだっけな。
「うん?おかしな事を言うやないか?なんやねん、その異様なまでの自信は?」
「いや、今回に関しては、自信とか、そう言うんじゃねぇんだよ。ただよぉ、考えてみたら、今まで俺等が絶好調の時って、あの、崇秀のライブを合わせても、まだ一回もねぇんだよな。それが今回は、なんの蟠りも無く全員が100%の演奏が出来んだろ。だったらよぉ、なんも心配なんかする事ねぇんじゃねぇのか?……こりゃあ、俺の楽観視しすぎか?」
「なんやそれ?……全然、悪ないやんけ」
「だろ」
納得なんだな。
そりゃあ、コチラにとっても好都合だ。
「なるほどな。そやから、こんな話する余裕があってんな」
「いや、オマエの気持ちを確認したかっただけだ」
「さよか……そやけど、そんなもんはイラン世話や。俺は、誰かになんぞ言われんでも、いつでも自分で最高の状態に持っていける。それに今回は『解散』や『リベンジ』付け加え『アリスに良ぇ所を見せる』なんて盛り沢山な内容や。こんなもん、なんもせんでも、勝手にテンション上げ上げや」
「つぅ~事は、なにか?今までで、一番良い演奏を期待して良いって事か?」
一番大事なのは此処だ。
今のところ、奈緒さん・嶋田さん・素直、この3人は、恐らく最高の演奏をしてくれる筈。
だから俺は、最後に、山中の本心を聞きたかった。
「なに当たり前の事を言うとんねん。アホか?アホなんか?……大体にしてオマエ等、俺がおらな、ロクなラインも作られへんやんけな。今回は、俺が完璧なラインを作ったるさかい。オマエ等は、大人しく俺に従っとったら良ぇねん」
「ぬかせ。俺のベースラインに、精々喰われねぇ様にしろよ」
「ほざいてろ。……まぁ良ぇ、そのオマエのベースラインとやらは本番で見せて貰う事にするわ。そろそろ時間や。……行くでマコ」
「だな……腰抜かすなよ」
俺は、全ての事を吹っ切り、みんなの待つ楽屋へ向う。
そこには、なんの迷いも緊張もない面々が、俺を出迎えてくれたので、そのままの勢いに任せてステージに向った。
見せてやるよ、崇秀。
……俺達の100%をよ!!
最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございました<(_ _)>
これにて第三十一話『開始前の少しの時間』はお仕舞に成ります。
各々の色々な思考が飛び交う中。
次回から、漸く、バンドの解散が掛かったライブが開催される訳なのですが。
一体、どの様な結果になるのか楽しみですね♪
上手く行くのか?それともうまく行かないのか?
……っと言う訳でして、次回からは
第三十二話『ライブ9/14』がスタートします♪
ですので、また良かったら遊びに来て下さいねぇ~~~(*'ω'*)ノ
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