最後まで奏でられなかった音楽

どこかお間抜けDQNな不良さんのゆったり更生日誌(笑)
殴り書き書店
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172 不良さん、陰獣(山中)の考えに呆れる

公開日時: 2021年7月28日(水) 00:21
更新日時: 2022年11月30日(水) 13:43
文字数:3,969

●前回までのあらすじ●


 奈緒さんとアリスの間での取り決めが決まり。

『倉津君争奪戦』っと言う名を借りて、お互い争いながらも、バンドには迷惑を掛けないようにすると言う事が決定する。


ただその中にあって、アリスが好きな筈の山中君が、なんの反応も見せずに、好調のままリハーサルが始まり。


そのまま終わって行くのだが。

 俺はリハーサルが終わった直後、ちょっとだけ山中を誘い、例の横の通路で話を聞く事にした。



「なんやマコ?こんな所にわざわざ呼び出して、なんぞ用か?」

「いや、あのよぉ……」

「あぁ、わかったで。もぉわかった。その話な。オマエが、俺に何を聞きたいのかが見えたわ」

「なぬ?」


久しぶりに俺は、また新たな新言語を発してしまった。

『なに?』って言おうとしたんだが『なぬ?』と言ってしまった。


なんで俺は動揺すると、こんな簡単に噛むんだろうな?


……にしても、本当にコイツ等って、エスパーなんじゃねぇか?



「ぶっはは!!『なぬ?』ってなんやねん『なぬ?』って?オマエ、どこの漫画の主人公やねん?そんな事を口に出して言う奴は、初めて見たぞ」

「うるせぇよ!!んな事より、なにがわかったって言うんだよ?」

「あぁ、それかいな。それやったら『なんで、あんな話を聞いても平気なんや』って奴やろ。オマエの考えそうなこっちゃ」

「がっ!!」


やっぱ、エスパーのみなさんは凄いな。

なんでそう簡単に、俺の心が読めるんだ?


いや……違うな。


もぉ此処まで来たら。

周りがエスパーなんじゃなくて、寧ろ、俺が『サトラレ』なんじゃないか?


なにも言わなくても、誰とでも意思疎通が出来る。


……凄いな俺。


マジで考えんのが嫌になってきた。



「適当に言うたのに、マジで当たりかいな?オマエって、ホンマありえへんぐらい単純なやっちゃなぁ」

「るせぇよ」

「ほんで?その質問で、なにが聞きたいねん?こんな質問、答えるんも面倒な話やぞ」

「なんでだよ?奈緒さんと、素直の勝負が始まったら、オマエに付け入る隙が無くなるじゃねぇかよ」

「アホや……正直言うて、これ程までにアホやとは思わんかったわ。近年稀にしか見れん完璧なアホやな」

「なん……でだ?」


ヒデェ……



「良ぇかマコ?前にも言うたけどなぁ。物事は多角的に捉えるもんや。オマエの見方は、何か1つしか見てへん。大雑把過ぎんねん」

「けどよぉ。そうは言っても、今後、奈緒さんと素直は『俺争奪戦』を繰り広げる訳だろ。だったら、オマエが付け入る隙なんか、何所にもねぇじゃん」

「なにが『俺争奪戦』じゃ。ようも恥ずかしげも無く、そんな事が言えるのぉ」

「わかり易く言ってやってんだろうがぁ!!」

「そりゃあ、ご親切に」

「オマエねぇ」


なんなんだよ。

この野郎、本当に全部解ってて、この調子なのかよ。


しかも、これだけ余裕が有るって事は、マジで打開策が有るって言うんだな。


とっ、取り敢えず、気になるから、さっさと教えろ。


そんな風に見事な思考放棄をしながら、怒涛の質問攻めを敢行する事にした。



「あぁ、もぉ良いからよ。時間もねぇんだから、さっさと教えろよ。オマエ、なんで平気なんだよ」

「決まっとるやんけ。奈緒ちゃんが仕掛けた勝負は、俺にとったら好都合やからや」

「だから、そこがわかんねぇんだよ。なにが好都合なんだよ?」

「ボケが……あんなぁ、なんで好都合か位、ちょっと考えたら、直ぐに解りそうなもんやろ」

「あぁわかんねぇ。俺は馬鹿だから、全然わかんねぇよ」

「……ったく。なにを開き直っとんねん。ホンマ、性質の悪いやっちゃで……良ぇかボンクラ?奈緒ちゃんが勝負を仕掛けた事によって『オマエ争奪戦』とか言う、おかしな勝負がバンド内で始まる。そやけど、一応、オマエは、奈緒ちゃんしか見ぃひん訳や。ほんだらアリスはどうなる?当然、悩むはな。そこで俺が相談に乗る訳や。ほんだらアリスは、俺の優しさと、本気さに気付く。後は、タイミングを見計らって告白したら、もぉアリスは俺のもんや。オマエの事なんぞ、なにもかもスッパリ消えてしもうてHappy-endちゅう~訳や。……どや、完璧やろ?」


うわっ!!コイツ、なんちゅう卑怯な手を考えてやがんだ。

『アナタの心の隙間をお埋めします』とか言う、笑ったままのセールスマンみたいな事を考えてやがったんだな。


けど……確かに、俺さえ奈緒さんへの想いがブレ無ければ、成功の見込みはない訳では無いな。


それに、人の心の隙間を付いた卑怯なやり方ではあるが。

これからの素直の人生を思えば、いつまでも俺なんかの為に時間を使うのはよくない。


だから、この計画自体は、実際、俺が思うよりも、そんなに悪くないのかもな。


第一、俺の為に『人生を無駄にする』のは、奈緒さんだけで十分だ。

彼女は、そこを、よく理解してくれている。

だから、こんな無意味な勝負を仕掛けたのかもしれないしな。


だが、そう考えるとだな……奈緒さん、ひょっとして山中の『素直に対する気持ち』に感ずいてるって事にならないか?


俺が邪推し過ぎなんだろうか?



「そう言う事か」

「なんや。豪い簡単に納得したんやな?」

「あぁ、納得した」

「いや……オマエ、ホンマに理解してるか?この話は、そこが一番重要やねんぞ」

「馬鹿言うな。幾ら俺でも、それぐらいは理解してるぞ。オマエの言いたい事は、奈緒さんだけに集中しろって事だろ」

「微妙やな。……どうやらオマエは、俺の立てた計画の恐ろしさが、まだ全然わかってへんみたいやな」

「うん?」


なんでだ?

素直が好きなら、それで、全て事は丸く収まるんじゃねぇのか?


コイツの話は、どうにも謎が多い。



「良ぇかマコ。俺はな、この計画で、なにもアリスだけを狙ってる訳やないで」

「へっ?ちょオマ……」

「俺、昨日、ちゃんと言うたよな。『オマエは、いつも通りにしとったら良ぇ』って」

「オマエ、まさか……」

「そう言うこっちゃ。オマエが、奈緒ちゃんだけを見てるんやったら、それはそれで一番良ぇこっちゃけど、オマエが罷り間違ってアリスを見る様やったら、俺は、アリスを諦めて、奈緒ちゃんを狙う。俺はな、オマエ次第で、臨機応変に対応するつもりやし、立ち回り方次第ではWゲットも可能や。……これが本音やな」


コイツ……マジ人間として終わってる。


その思考は、完全に人の考え方じゃねぇぞ。

獣の考え方だぞ、オマエ。


しかしまぁ、この淫獣だけは、毎度舞面白い事を考えるよな。

奈緒さんと、素直を同時にロックオンしておいて、狙い易くなった獲物を狩る。


なんとも合理的な女の子のGETの仕方じゃねぇか。


俺が奈緒さんを取った場合は、山中が、素直の相談に乗って万事上手くいき。

俺が何かの間違いで素直を取った場合は、フリーになった奈緒さんを狙いにいく。


当然そうなってしまったら、山中が奈緒さんを口説いても、俺が山中に文句を言える筋合いはない。


飛んでもない事を、平気で考えやがるな。


最悪も、此処まで来たら感心する。



―――なんてな。

こんな馬鹿げた口上を真に受けるほど、今日の俺は馬鹿じゃない。


コイツが本当に言いたい事は、奈緒さんから目を離さずに『浮気すんな』って忠告がしたいんだろう。


ややこしい事を言っても、今日の俺には通じねぇぞ。



「馬鹿だコイツ」

「なんでやねんな?良ぇ女が居ったら、男が臨機応変に対応するのは、そんなに変な事か?」

「あぁ変な事だ。自分の好きな女を諦めて、他の女にいくって時点で、オマエの素直に対する気持ちが破綻してるじゃねぇか。そんな気持ちで、他の女に行った所で長続きはしない。……良いか山中?人それを『惰性』って言うんだぞ」

「なんやオマエ、どうしてん?妙に理屈っぽい事ぬかして……そないにいっぺんに頭使うたら、知恵熱出んぞ」

「るせぇ」


大きなお世話だ。


知恵熱なら、昨日、勉強のし過ぎで、密かに出てたわ。

だから、この程度の思考なら、知恵熱なんぞ出ねぇわ。



「そやけどまぁ。解散の賭かったライブの前に、よぅも呑気に、こんな話をして来たもんやな。オマエ、ドンだけ余裕やねん?」

「あぁ?あぁ解散な。そんな話もあったな」


おぉ……スッカリ忘れてた。


今回のライブって『解散』が賭かってたんだっけな。



「うん?おかしな事を言うやないか?なんやねん、その異様なまでの自信は?」

「いや、今回に関しては、自信とか、そう言うんじゃねぇんだよ。ただよぉ、考えてみたら、今まで俺等が絶好調の時って、あの、崇秀のライブを合わせても、まだ一回もねぇんだよな。それが今回は、なんの蟠りも無く全員が100%の演奏が出来んだろ。だったらよぉ、なんも心配なんかする事ねぇんじゃねぇのか?……こりゃあ、俺の楽観視しすぎか?」

「なんやそれ?……全然、悪ないやんけ」

「だろ」


納得なんだな。


そりゃあ、コチラにとっても好都合だ。



「なるほどな。そやから、こんな話する余裕があってんな」

「いや、オマエの気持ちを確認したかっただけだ」

「さよか……そやけど、そんなもんはイラン世話や。俺は、誰かになんぞ言われんでも、いつでも自分で最高の状態に持っていける。それに今回は『解散』や『リベンジ』付け加え『アリスに良ぇ所を見せる』なんて盛り沢山な内容や。こんなもん、なんもせんでも、勝手にテンション上げ上げや」

「つぅ~事は、なにか?今までで、一番良い演奏を期待して良いって事か?」


一番大事なのは此処だ。


今のところ、奈緒さん・嶋田さん・素直、この3人は、恐らく最高の演奏をしてくれる筈。


だから俺は、最後に、山中の本心を聞きたかった。



「なに当たり前の事を言うとんねん。アホか?アホなんか?……大体にしてオマエ等、俺がおらな、ロクなラインも作られへんやんけな。今回は、俺が完璧なラインを作ったるさかい。オマエ等は、大人しく俺に従っとったら良ぇねん」

「ぬかせ。俺のベースラインに、精々喰われねぇ様にしろよ」

「ほざいてろ。……まぁ良ぇ、そのオマエのベースラインとやらは本番で見せて貰う事にするわ。そろそろ時間や。……行くでマコ」

「だな……腰抜かすなよ」


俺は、全ての事を吹っ切り、みんなの待つ楽屋へ向う。

そこには、なんの迷いも緊張もない面々が、俺を出迎えてくれたので、そのままの勢いに任せてステージに向った。



見せてやるよ、崇秀。


……俺達の100%をよ!!


最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございました<(_ _)>

これにて第三十一話『開始前の少しの時間』はお仕舞に成ります。


各々の色々な思考が飛び交う中。

次回から、漸く、バンドの解散が掛かったライブが開催される訳なのですが。

一体、どの様な結果になるのか楽しみですね♪


上手く行くのか?それともうまく行かないのか?


……っと言う訳でして、次回からは

第三十二話『ライブ9/14』がスタートします♪


ですので、また良かったら遊びに来て下さいねぇ~~~(*'ω'*)ノ

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

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