●前回までのあらすじ●
嶋田さん家に、バンドの現状報告に来た倉津君。
そして、その行動を起こす為に、嶋田さん家のチャイムを押した。
『ピンポーン』
「は~い、どなたぁ?」
「ぶっ!!」
そう来ますか!!
嶋田さんが、勝手に1人暮らしをしてると思い込み『彼女が家に来てる』って発想は、全く考えてなかった。
どうにも自分を基準に物事を考えてしまう俺には『まずにして、自分の家に彼女が来る』なんて発想がない。
第一にして、ヤクザの本家に喜んで遊びに来る女なんざ居ねぇ。
だからきっと、そんな物好きは、金に目が眩んだ馬鹿な女ぐらいのもんだろうしな。
そして、この瞬間、俺は、一般人との感覚のズレを思い知らされた瞬間でもあった。
……しかしまぁ、なんとも、これは予想外の展開だったな。
いつもながら、後先考えずに即行動する自分にはホトホト呆れ果てる。
そんな風に心の準備が出来ていなかった俺は、此処で無駄に動揺する。
……かと言って『此処で黙ってる方が、余計に不審だよな』っと言う事にも、漸く気付く事に成った。
「どっ……どなた?」
その証拠に彼女の声は、さっきとは打って変わって、早くも不信感が滲み出て、なにやらビクビクした感じすら見受けられる。
とっ、兎に角だな。
このまま黙ってたら、イキナリ、警察に通報されそうな勢いだ。
何でも良いから、早くなんか言わねぇと……
「あっ、あの、おっ、俺」
……ハイ、しょぼい。
相も変らず俺は、頭の中で、ある程度の思考が纏まったとしても、それを咄嗟に言葉に変換する機能を持たない。
まったく持って、随時、対処出来無い体質なんだろう。
現にドモルは、声も上ずるは……もぉ情けねぇったらありゃしねぇな、マジで。
「アアノ=オオレさん?」
はっ、はぁ?
突然、何を言い出すかと思えば、何言ってんだ、この人?
ドア越しの女性が変な事を言ってきたぞ。
『アアノ=オオレ』なんて名前、日本中の何所を探しても滅多に居ないぞ。
いや、寧ろ、そんな名前の奴いるのかすら危うい様な名前だな。
天然か?
こりゃあこの人、天然だな。
「いや、あの、そうじゃなくてッスね。俺、嶋田さんのバンド仲間なんッスよ」
「浩ちゃんのお友達?」
「いや、友達って言うか。どちらかと言うと、後輩みたいなもんッスね」
「そうなんだ……あぁでもね、後輩さん。浩ちゃんなら、今、仕事に行って居ないよ」
「がっ」
クソ重たいハードケースを意気揚々と持って、スタジオから一気に上大岡。
んで、住民や、警察からの無駄な妨害に遭いながらも、嶋田さんの家まで来たのは良いが……
『嶋田さんは留守』
オイオイ、こりゃあまた惨めな結末になったもんだな。
これじゃあ、救いも何も有ったもんじゃねぇ。
ただの限度を越えたアホの極みだ。
あぁこんな事になるなら、初めっから連絡してから来りゃ良かったよ。
メモには、電話番号も書いてあったっていうのに……
究極の葉緑体である俺は、ただ、市営住宅の通路で項垂れるしかなかった。
「あぁでもね、でもね。今9時前でしょ。浩ちゃんも、もぉそろそろ仕事から帰って来ると思うよ。後輩さん、良かったら部屋の中で待つ?……外、暑いでしょ?」
「いやいやいやいや、お言葉は有り難いんッスけど。まだ素性のハッキリしない人間を、そんな簡単に部屋に入れちゃあマズイでしょ」
それ以前に、女の人と2人で居る自信がねぇ。
嶋田さんが帰ってくるまでの間、絶対に会話を繋ぐ自信がねぇ。
兎に角、部屋の中に入るのしても難問が多過ぎる。
「あぁそうかぁ~~~。そう言えばそうだね」
それにしても、あれだな。
嶋田さんの彼女らしき人は、なんとも警戒心の薄い人だな。
俺が『後輩』って、たった1言、言っただけで全面的に信用している様子。
その上で簡単に扉を開け様ともしてる。
多分、こう言う人って、強引な訪問販売してる奴にとっては、良い鴨なっちまうんだろうな。
ズカズカ家の中に上がられて、言うがままに商品を買わされちゃうんだろうなぁ。
「あぁ、でもね、でもね、後輩さん。外で待つのって暑いでしょ?」
「あぁ大丈夫ッスよ。俺(借金の取立てとかで)結構、こう言うのには慣れてますから」
「そぉ?……う~ん、けどなぁ。外で浩ちゃんの帰りを待って貰うのもなんだしなぁ……まぁ良いか、どうぞ」
『ガチャ』
1人で自己完結した後、彼女は、イキナリ、無警戒に扉を開けた。
そして、一瞬だけ俺を見て放心。
その後は、口を開く事もなく『パタン』っと言う音と共に、扉を閉めた。
ちょ……なんッスかこれ?
オイオイ、まさかとは思うけど……
「あっ、あの、ギターなら間に合ってますから。ウチには、一杯有りますから」
「はぁ?」
「あっ、あの、あの、ホント、大丈夫ですから。楽器の訪問販売とかして貰わなくても、良いギターが一杯有りますから……ホントに、ホントに大丈夫です」
「・・・・・・」
いやいやいやいや、なにを言い出すかと思えば。
俺の予想の範疇を飛び抜けた言葉を発してきたぞ。
……って言うか『ギターの訪問販売』ってなに?
そんなもん、早々有りませんから……
いや、それ以前にですな。
楽器を訪問販売する楽器屋なんて聞いた事もない。
って事は、これって、ただ単に見た目だけで判断されてるよな。
だとしたら、彼女とは扉越しに少し話しただけだが、イキナリ、酷い扱いだなオイ。
それにしても、この人……この対応からして、相当訪問販売で騙されてるな。
んで、嶋田さんには、相当、その事で怒られてるみたいだ。
「あっ、あの、おっ、俺、ギターの訪問販売員じゃないですよ」
「ほっ、ほんと?嘘つかない?」
あぁ……やっぱり思ってた。
「ほんとッス、ほんとッス。大体ッスね。俺が担いでる、このハードケースにしたって、ギターじゃなくて、ベースっすから。だから、ギターの訪問販売なんてしませんよ」
「あの……ウチ……ベースもいらないんだけど」
「あぁそうじゃなくて。これは俺のベースなんですよ。ほら、さっき、バンド仲間って言ったじゃないですか」
「うん?……あぁ、そっか、そっか。うんうん。確かに、そう言ってたね。そうだね、そうだね。……早とちりしちゃったね。ごめんなさい」
きっと扉越しで『コクコク』頷いて、納得してるんだろうな。
なんか、事この人に関してのみ、彼女の行動が手に取る様に解る様な気がするぞ。
「まぁまぁ、良いッス、良いッス。間違いは、誰にでもあるッスからね」
普通では有り得ない様な、酷い間違いッスけどね……
「ごめんね」
「良いッスよ。……んじゃまっ、そう言う事なんで。完全に身分を証明出来無い俺は、嶋田さんが帰って来るまで、此処で待たせて貰うッス」
「えぇ~~っと、えっとね。それでも良いんだけど。ヤッパリ、外暑いよね」
「これ位なんて事ないッスよ。心配する程の暑さじゃないッス」
まぁ実際は、かなり暑いんだが……
本音を言えば、先程の件を含めても、部屋の中に入れて欲しい様な気がしないでもないな……
「でも……他所の人が見たら、椿が、後輩さんに意地悪してる様に見えない?」
??
あれ?あれあれ?
今、この人、自分の事を自分の名前で言ったな。
それって女の子では、よくある事なのか?
妙な違和感を感じるなぁ。
それよりも、さっきから気になってたんだが、この人の話の仕方って、やけに子供っぽいよな。
この人……一体、幾つなんだ?
ひょっとして、俺より年下だったりするんじゃねぇか?
「全然、大丈夫ッスよ。意地悪してる様になんか、全然見えないッスよ」
「そぉ……かな?」
「あの……序に、つかぬ事を窺いますが。椿さんって、お幾つですか?」
「うん?椿は20歳だよ……どうして?」
二十歳ですと!!
すげぇ子供っぽい人だな、オイ。
しかも、その喋り方で、二十歳って事は……俺どころか、奈緒さんより年上じゃねぇか!!
しかもしかも、女性って、一般的に、年齢聞かれるのを嫌がる傾向が有るって言うのに、なんの抵抗も無く素直に答えてるし。
ホント、なんか変わった人だな。
「いや~、あの~ッスね。実は、さっき扉が開いた一瞬しか見てなかったんで、良く解らなかったんんッスけど、椿さん、かなりお若く見えたもので」
そうは言ったが、本当は、顔の確認なんて出来て無い。
だが、多分、この調子だと、容姿も子供っぽい筈だ。
容姿は、言動と似るって言うからな。
そうやって勝手な決め付けをしながらも、椿さんとの話を続ける。
「あぁそうかぁ、椿って、子供っぽいもんね」
「なんか、すんません」
「全然、全然。よく言われるし」
なんかなぁ。
きっと扉の向こうじゃ、スゲェ笑顔で応対てるんだろうな、この人。
扉からポワポワと、花でも出てきそうな感じだぞ。
「あのね、後輩さん、後輩さんって良い人みたいだから。もぉこの際、中に入って貰っても大丈夫な気がするの。……後輩さんは、どう思う?」
「いや、俺に聞かれても困るんッスけど。勝手に、男を部屋に上げたら、後で嶋田さんに怒られませんか?」
「うん。多分、浩ちゃんね。後輩さんだったら怒らないと思うんだぁ」
「あぁ……そうッスか?じゃあ、すんませんけど。ヤッパ、外は暑いんで、中で待たせて貰って良いッスかね?」
「うん、良いよ」
そう言って、再び扉を開ける準備をゴソゴソと始めた。
この様子からして。
恐らくは、さっき、俺の容姿に、かなり吃驚して、鍵を閉めた上にチェーンロックまでしていたのだろうな。
やけに時間が掛かる。
そんで、直ぐに扉が開くのかと思ったら……何故か、チェーンロックされたままの状態で、扉が少し開き。
隙間から眼だけが、こちらをジッと見ている。
なんだ?
今度はなんだ?
「あっ、あのね、後輩さん、本当にギター売らないよね」
「売らないッス!!」
「うんうん。だよね、だよね。信用して無い訳じゃないんだよ。確認ね確認」
「・・・・・・」
絶対、信用してねぇな。
明らかに信用されてねぇ~~~。
多分、俺の口調と、容姿が一致しないんだろうな。
まぁこれは仕方が無いこった。
……っと言いながらも、少し俯いた気分になる。
そんな俺は、溜息交じりに、顔も俯いていた。
んで、この会話の途中『ガチャ』っと扉が再び開く。
そこには思わぬものが飛び込んできた。
最後までお付き合い下さり、ありがとうございますです<(_ _)>
死闘の始まり……それは嶋田さんの彼女である『上条椿さん』との死闘だった(*'ω'*)ノ
なんか変な子ですね(笑)
そして次回。
死闘の末、漸く開いた扉で、倉津君は、一体何を見て驚いたのか?
それは次回の講釈。
また良かったら、遊びに来て下さいねぇ~~~(*'ω'*)ノ
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