最後まで奏でられなかった音楽

どこかお間抜けDQNな不良さんのゆったり更生日誌(笑)
殴り書き書店
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288 不良さん、底知れない恐怖を感じつつも……

公開日時: 2021年11月22日(月) 21:02
更新日時: 2023年9月7日(木) 18:44
文字数:3,947

●前回のおさらい●


 凹み気味の倉津君は、ステージに呼ばれても中々出られずにいた。

なので崇秀は『前にやった音楽バトルをする為に、倉津君が出て来ない』っと倉津君の行為が演出を匂わす様な言い方を始める。


当然、煽られて黙ってられないのでステージに飛び出して行くが。

崇秀は『このメンバーから好きな人選をチョイスして、俺+1人だけのボーカルでバトルしようぜ』っと、人を喰った様な態度しかとらず、更に煽られる。


だが、その言葉に反応したのは嶋田さん。

彼が倉津君の代理バトルを引き受け、お互いのメンバーが選出されて行き。


そして最終的には……奈緒さん以外のいつものメンバー+椿さん VS 崇秀+奈緒さんの戦いが勃発してしまう。

--♪--♪-♪-♪--♪♪--♪--♪--♪----♪--♪-♪--♪-♪--♪-♪--♪-♪----……


それでも嶋田さんのギター、山中のドラム、素直と椿さんの声が、俺を後押ししてくれたので。

どうやら、最悪の事態だけは免れる事が出来た様だ。


ただ……このみんなの親切な行為が、俺を更に責める事になる。

俺って、みんなに褒められて調子に乗ってベースを弾いてただけで、実は、何も出来てなかったんだな。


現に曲の完成度が、俺以外の音だけでも、以前とは比べ物にならない程、良くなってる。

それに観客達の歓声は、今日一番のものと言って良い程、大きな歓声が巻き起こっている。


その関係を=に置き換えたら『俺の存在意味が無い』って事になる。


俺……なんの為にベース弾いてるんだ?



「ほぉ、流石に吹くだけの事はありますね。悪くない……ただな、悪くないだけで、面白味も無きゃ、完成度も低い。悪いが、この程度じゃ話にもなんねぇな」


そんな盛大な歓声を受けた曲ですら、崇秀は批判する。

この様子からして、嶋田さん達の完成度を持ってしても、崇秀は納得していない様だ。


それ処か『完成度が低い』とまで断言してきやがった。


確かに……俺の演奏のせいで完成度が落ちた事は否めない部分はあるが、完成度が低いってものでは、決してなかった様に思える。

いや、寧ろ、出来の悪かった俺の演奏を除けば、他のみんなは完璧に近いものだった。


言いだしっぺの嶋田さんは、勿論、全力で弾いていたから、いつもよりキレのある音でギターを奏でていたし、山中のリズムも完璧で、なに1つ狂っていなかった。

勿論、素直・椿さんのツィンヴォーカルは文句なしの出来。


だったら何故だ?

何故、崇秀は、これ程出来の良い演奏に文句なんかつけるんだ?


なにが悪いって言うんだ?



「ソッチこそ吹くじゃないか。仲居間さん、君に、これ以上の完成度の演奏は出来無いよ」

「そうッスか?……そりゃあ、ちょっと俺を見縊り過ぎてませんか?俺、今日、まだ一回も真剣に弾いてないッスよ」

「なっ!!」


なっ……なんだと?


冗談にしては、あまりにも性質が悪過ぎる発言だぞ。

あれ程の演奏して尚、まだ奴は『遊び』の域を越えていなかったとでも言うのか?


馬鹿な……そんな常識外れな話が有るか!!



「まぁ論より証拠。向井さん、やるよ」

「そうですね。目に物見せてやりましょう。……但し、それで貸し借り無しですよ」

「もとより、そのつもりだ。2人で、本当の『Not meet the time』を聞かせてやろうぜ」

「ですね。それも悪くないですね」


奈緒さんの言葉が切れると、同時に崇秀は曲を奏で始めた。


--♪--♪-♪-♪--♪♪--♪--♪--♪----♪--♪-♪--♪-♪--♪-♪--♪-♪----……


その音は、たった一音、会場に鳴り響いただけで、世界が変わった様な錯覚に陥る。


逢えない悲しい気持ちで、会場全体が包まれていったからだ。


この事から、奴の音色は、以前のものとは比べ物にならない程、表現力が凶悪なレベルアップしているのがわかる。

一音一音、丁寧に繰り出される音は、その全てが心に響き渡り、観客を飲み込んでいく。

まるで逢えない時間が、今、この瞬間に訪れようとしているのが手にとってわかる。


とてもギター1本で出してる音とは思えない程の完成度だ。



そんな凶悪な前奏を終え、漸く此処で、奈緒さんの声が入って来る。


だが……それも、ただの奈緒さんの声ではなかった。

崇秀の音に釣られて、奈緒さんの声がより一層感情的に聞こえ、切なく会場に響き渡る。


元々奈緒さんの声も、崇秀同様に表現力が高いので、効果の程は観客を見れば一目瞭然だった。

現に奈緒さんの声を聞いた観客の大半が、逢えない気持ちを表現され過ぎて、自然に涙を流し始めている。


……2人共、桁違いだ。

さっき弾いた俺達とは、別次元の音だ。


人の弾く音や、人が出す声のレベルじゃねぇ。


……神掛かってるぞ!!



……そして、ラストまで、この感覚が続き。

最後には、静かな悲しい音を1つ残して曲は終わる。


だが、曲は、それで終わりではなかった。



「……崇秀……崇秀」

「奈緒。……ズッと待っててくれて、ありがとうな」

「うん……もぅ一緒に居られるんだね。……お帰り」


崇秀は、奈緒さんの頭を撫でながら、少しはにかんだ様に微笑んだ。


そして奈緒さんも、崇秀を見詰ながら涙を流す。

ソレを見た観客は、曲が終わった事すら気付かず、その場で2人の姿に涙を流しながら、いつまでもステージ上の2人を見守っている。


なんだこれは……



「まっ……こんなもんか、向井さん」

「ですね、仲居間さん♪」


いつものボケた言葉が、音の魔法をとぎらせる。


けど、この『ボケ』について、俺はある事に気付いた。

実は、この『ボケ』は、音の魔法を解くキーワードみたいなものなんだという事に……


こうしないと、観客が、いつまでも余韻に浸ってしまい。

次の曲に移れないからこそ、気持ちをリセットする為に、この『ボケ』をやっていたんだな。


アイツの行為は奥が深いな。


現に、この『ボケ』の後に起こった歓声は、今日一番……いや、聞いた事もない様な歓声が沸き起こった。



「まいったなぁ。やっぱ、仲居間さんは凄いね」

「なに言ってんッスか。嶋田さんも手を抜き過ぎですよ。……あれ、確実に60%ぐらいで弾いたでしょ」


なっ!!なんで勝負の合間に60%の実力しか発揮しないなんて真似をしたんッスか?


勝負をしている以上、そんな必要ないじゃないですか!!



「いやいや、真剣に弾いたよ」

「またぁ、そんな事を言ってぇ~。どう考えても、嶋田さんの実力が、あんなもんだとは思えないッスよ。……ほら、現に椿さんが怒ってますよ」

「浩ちゃん!!音は拾いにいっちゃダメでしょ!!負けちゃったじゃない」

「ごめん、ごめん。……けど、仲居間さんも、人の事は言えないよね。仲居間さんも、向井さんも完全に手抜きじゃないか」


なっ!!なんだと?あれで手抜きだと!!



「さぁてね。……まっ、ちょっとした遊びッスから、そこまで真剣にやる事もないでしょうよ」

「だね。余興としては面白かったしね」

「コラ!!折角お客さんが来てくれてるんだから、ちゃんとやらなきゃダメでしょ!!」

「「すんません」」

「「「「「あはははっはははははははっは」」」」」

「怒られて、笑われとる、アホや」


山中はクルクルとスティックを廻しながら、怒られてる2人を笑う。


って事は……コイツも真面目にやってなかったって事か?



「コラ!!山中君もだよ!!」

「あぅ……すんまへん」

「椿。折角、素直ちゃんと一生懸命唄ったのに酷いよ」

「あぁっと、もぅせぇへんから勘弁して」

「もぅしちゃダメだよ」

「……はい」


そう言った後、椿さんは俺の方を見た。


ヤバイ眼が合った!!



「それと……」

「はい、そこまで……椿、これ以上は、会場が白けちゃうよ」

「ぶぅ~~~~、後輩さんにも、一言だけ言いたかったのに……」


……助かった。


けど……本当は、此処で思いっきり、俺の体たらくな演奏を怒って貰った方が良かったのかも知れないな。


椿さん、本気だったみたいだし……



「さてと、んじゃま、反省の意味も込めて。此処等で、全員真面目にやってみますか」

「うんうん。そうだね……ところで仲居間さん、何所をどうやるのぉ?」

「んじゃあ、最後に指示を出しますね。まずはメインステージ。ヴォーカル椿&『Fish-Queen』。ギター嶋田さん。ベース遠藤さん。ドラム山中。シンセ、アリス以上。右渡りステージ。ヴォーカル清水。ギターステラ。ベース向井以上。左渡りステージ。ヴォーカル樫田。ギター俺。ベース倉津以上。曲は『Fool's Rocker』……何も考えずに、派手にブチかましな!!」


奴の指示に従って、みんなが機敏な動きで動き出す。


それに倣って俺も、崇秀とアホの樫田と共に、左の渡りのステージに足を向けて走り出した。



すると……



「よぉ、倉津。……オマエ、あんまツマンネェ事バッカリ考えてねぇで、もぅ少し真面目にやったら、どうなんだよ?今日のオマエの音、完全に腐ってるぞ」

「そんな事はオマエに言われなくても、自分でもよくわかってんよ」

「なら、良いんだけどな。一応、もう1回だけ忠告はしとくぞ。……これが上手くいかねぇと、向井さんをオマエの手元に置く事は不可能になるからな。そこんとこ、肝に銘じとけよ」


うん?



「『手元』って……それって『みんなとの心の繋がり』の話じゃねぇのか?」

「このバカタレ。オマエが、そんなもんだけで我慢出来る訳ねぇだろ。俺の言ってる『手元』って言うのは、向井さんを日本に置く事だ。今頃になって、ボケた勘違いしてんじゃねぇぞ」

「えっ?マッ、マジでか?」

「オマエなぁ、俺の話の何を聞いてたんだ?俺は最初から『オマエの手元に向井さんを置いてやる』って言っただろ。馬鹿じゃねぇのか?」

「けどよぉ、契約はどうすんだよ?」

「その為のライブだとも言ったと思うが……オマエって、ホント、人の話を聞いて無いな」


どういう事だ?

どんなマジックを使ったら、そんな真似が出来るって言うんだ?

契約で決まってる以上、奈緒さんの海外進出だけは決定した様なものじゃないのか?


一体コイツは、なにをする気なんだ?



「あのよぉ……」

「つぅかよぉ倉津。そんなイラネェ事は、俺が全て引き受けてやるから、オマエは演奏にだけ集中しろ。……心配しなくても、全力さえ出せば、結果は、自ずと付いてくる筈だからよ」

「あっ、あぁ、そっ、そうだな」


なにもわからねぇが。

俺が一生懸命やる事で、奈緒さんが日本に残る可能性が出て来るって言うなら、全身全霊を掛けて全力でやるだけのこった。


なのでコイツの言う通り、今はもぉイラネェ事は考えずに、演奏だけに集中しよう。


どうやら今は、それだけが最良の様だからな。


最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございますです<(_ _)>


様々なサプライズがありましたが。

結局の所、崇秀にとってのこのライブの価値と言うのは、何処まで行っても『奈緒さんを日本に留める為の作戦』でしかなかったみたいですね。


それ故に、こんな無茶苦茶な構成をしてまで、会場を盛り上げていった訳ですからね(笑)


さてさて、そんな中。

とうとう、その崇秀の意志が倉津君に伝わったみたいなんですが。


此処から倉津君の全力が炸裂するのか?


次回は、その辺を書いて行こうと思いますので。

良かったら、また遊びに来て下さいねぇ~~~(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾

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