最後まで奏でられなかった音楽

どこかお間抜けDQNな不良さんのゆったり更生日誌(笑)
殴り書き書店
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091 不良さん 勧誘される

公開日時: 2021年5月8日(土) 00:21
更新日時: 2022年11月16日(水) 14:55
文字数:3,696

●前回のおさらい●


 奈緒さん及び山中の弱点を崇秀から教えて貰った倉津君。

そして、その対応方法も教えて貰ったのだが、どうにもそれだけの為に話をしたとも思えず。

崇秀に『なんで、こんな話をした』っと倉津君が尋ねた所……


意外な事に崇秀から『自分のバンドに入らないか?』との誘いを受ける。


さて、この誘いを、どうするのか?

「はぁ?なにを言うかと思えば。なんだよそれ?意味が解んねぇわ。それに、その言い口が気に入らねぇな……なんでテメェから誘ってやがるのに、そう、さっきから上から目線なんだよ」

「オイオイ、質問ばっかしてる、どの口がほざきやがる?音楽で俺に勝てる見込みもねぇクセに、良くもまぁ、そんな事が言えたもんだな。そう言うセリフはな、俺になにか勝ってから言え」

「オイオイ、あんま舐めた口きいてんじゃねぇぞ。テメェの音楽なんざ、自分の利益に塗れた大人の糞音楽じゃねぇか。聞くに堪えねぇ代物だ。調子に乗るのも大概にしろ」

「そうか……じゃあ勝手にしろ。但し俺は、金輪際なにがあっても、オマエを二度とバンドには誘わねぇ。それで良いんだな?もう一度、冷静になって、自分のメリットを良く考えてみろ」


崇秀は、いつも冷静だ。


喧嘩腰になりつつも。

明らかに、俺が何かを見落としている事を指摘している。



「メリットだと?」

「あぁ、メリットだ」

「たかがベースの演奏が上手くなるだけの為に、尻尾を振ってオマエの犬にでもなれって言うのか?」

「違うつぅの。もういい加減勘弁してくれよ。誰もそんな事は言ってないだろ」

「じゃあ、なんなんだよ?」

「オマエ……実は、実家を家業を継ぐのが嫌なんだろ?俺の言ってるのは、その事だよ」


はい?


……ってか、なんでオマエがそんな事を知ってんだよ?

俺、今まで一度も『ヤクザになりたくねぇ』なんて言葉を発した覚えは無いぞ。

どっちかと言えば、いつも諦めに似た意味を込めて『将来ヤクザだな』って吐いてた様に思うんだが……


まぁどうせ、この馬鹿を問い詰めた所で『俺の行動を見てたら解る』とかツマンネェ理屈を言いやがるんだろうが。

流石に今回は、そんな理由だけじゃあ納得は出来ねぇぞ。



「勝手抜かすな。……人の家庭の事情を持ち出してんじゃねぇぞ」

「悪いな。今の俺は、それを駆け引きの材料にしてでも、そのオマエの才能が欲しいんだよ」

「なっ、なん……だと?」

「良いか?オマエは細胞が1つしかない分、余計な事を考えねぇから、なにを教えても飲み込みが早い。だから教えた事を直ぐに吸収する。だからオマエなら1年もありゃあ、立派なベーシストになれる。……なら、なにが出来る?」

「訳わかんネェ事を言ってんじゃねぇよ」

「わかんねぇか?……たったこれだけで、ヤクザにならずに済むんじゃねぇか?」

「なっ、なんだと?」


ベーシストになれば、ヤクザにならずに済むだと?

そんな馬鹿げた話が有るか。


一般的なヤクザの家庭ならいざ知らず、俺の実家は、何代も続く広域会系のヤクザ。

しかも俺は、その組の組長の長男だぞ。


そんな勝手な理由でヤクザにならない事が許される訳がねぇ。



「まぁ勿論これは、ミュージシャンとして成功する事が前提には成るんだがな。そうやってオマエの知名度さえ上がってしまえば、自ずとマスコミが動き出す。そうなりゃ、オマエの実家の職業からして、オマエに下手に手を出す事は出来ねぇ様にも成る。……なら、オマエは、そこを上手く利用すれば、ミュージシャンとして生きて行く事も可能だ。どうだ?中学生の悪知恵にしては悪くねぇだろ」

「けっ、けどよぉ……そうやってオマエと組むって事は、自分の勝手の為に、奈緒さんや山中を裏切れって事か?」

「当たり前だ。……そんなもん『今は』アッサリ切り捨てろ。後でなんとでもなる」

「なっ……」


裏切りさえ折込済みか……


なんて奴だ。


ただ、何故コイツが、そこまで俺にする必要があるんだ?

才能を潰したくないとか言う、いつものあれか?



「先を考えれば、オマエのこの1年は重要な1年になる。そこをシッカリ考えろ」

「んなもん、わからねぇよ。それにそれは2人を裏切ってまでする事かよ?」

「じゃなきゃ言わねぇ。……ってかオマエ、ホント、良く考えろよ。例え、今回、裏切ったとしてもだ。1年後、俺のバンドを抜けて2人の元に戻れば、これは全部済む話じゃねぇのか?そうすりゃあ、世は事も無きだろうに」

「まっ、まぁなぁ」

「……だが、オマエが、あの2人とバンドを組んで成功する確率は、かなり低い。そうなりゃ、お前を守ってくれる予定のマスコミの存在を得る事が出来なくなる。これだと一年後には、中学の卒業と共に自動的にやくざの就任が決定だ。テメェは、一生したくもない職業に就く羽目になる。……さてそうなった場合、俺と、あの2人どっちが自分にとって有利な条件か良く考えろ」

「そうだけどよぉ。……そりゃあ言いたい事はわかるが。なんでオマエが、そんなメリットの無い事をするんだよ?」

「なぁにな。オマエとも長い付き合いだ。1度ぐらいならメリットの無い事をしても問題は無い。それに1年後には『戻りたい』なんて気持ちなんざ、どこかに吹き飛んでる筈だ。……これだけでも、俺には十分なメリットがある」


わからねぇな。

どうにも、そんな不確定要素の為だけに、コイツが動くとは思えねぇ。


だったら、なにかまだ裏が有る筈だ。



「はぁ~~~……オマエさぁ、まだ、なんか隠し事してるだろ?だから今回の件は、それを聞いてから考えさせて貰う」

「チッ、気付きやがったか。そう言うところだけは、鼻が利くな」

「ヤクザの息子なんでな。そう言うところには鼻が利かねぇと、やっていけねぇんだよ」

「なるほどな。……まぁコイツは黙ってるつもりだったんだが。オマエが、そこまで聞くなら、敢えて教えてやっても良い……聞きたいか?」

「あぁなんだよ?」

「向井さんの事だよ」

「はぁ?」


なんで此処に来て、奈緒さんの話が出て来るんだよ?


ほんと今日のコイツは、意味が不明だ。



「わかんねぇのかよ?」

「まさか、からかってんじゃねぇだろうな?」

「この期に及んで疑うな」


マジ顔だ。

……って言うより、今までにも増して真面目な顔をしてやがる。


だったら、なに考えてんだコイツ?



「良いか、単細胞の中心核?向井さんは、家庭の事情がどうあれ、一般家庭の女の子だ。そんな女の子に『ヤクザと付き合ってる』なんて、欲しくもない汚名を付けてやりたいのか、オマエは?もぅ少し、自分の彼女の立場ってもんを考えてやれよ……このボケ」

「オッ、オマエ……そこまで奈緒さんの事を考えてやがったのか?」

「当たり前だ。誰がオマエの為だけに、好き好んで、こんな面倒な事を考えるかよ。気持ち悪ぃ。俺はな、良い女が不幸になるのは、オマエ如きがヤクザになるより数倍気に入らねぇんだよ。だから本音で言えば、これはオマエの為じゃねぇ。向井さんの為だ。解ったか、この間抜けな葉緑体?」


この計画が、奈緒さんの為だと言う事は、大体解った。

確かに、これは、コイツの考えそうな事だしな。


にしてもコイツ。

さっきから聞いてりゃ、俺の知能レベルをドンドン下げて行ってやがるな。


単細胞→ミカヅキモ→単細胞の中心核→葉緑体。

……って、どういう事だよ!!

これじゃあ既に、単細胞生物の一部じゃねぇか。


まっ、まぁ良い。

この件に関しては、山中の話を聞いてからだ。



「あぁ解った、解った。何も言うな」

「なにがだよ?」

「『じゃあ山中は、どうなるんだよ?』って顔してんだよ」


赤髪魔王は、なんでもお見通しか?


……って言うか。

恐らく俺が、そんな顔を、本当にしてたんだろうな。


俺にポーカーフェイスは出来無い。



「んで?」

「当たりかよ。……信じられねぇ単純さだな」

「るせぃ。チャッチャと説明しろ」

「あぁ……山中には、この1年間、思いっ切り悩んで貰う。元々音楽を続けるか悩んでた所だしな。アイツのとっては良い機会になるんじゃねぇの」

「酷いなオマエ。奈緒さんとの扱いが、全然違うじゃないか」

「当たり前だ。男なら自分で考えて、自分の人生を切り開くのが常識。それになぁ。女は男が守るものだ。良い女なら、それ以外にも機会を作ってやるのも男の仕事ってもんだ……どうだ格好良いだろ」

「いや……人の彼女に、そこまで考えてたら、普通に気持ち悪いぞ。流石に微妙だな」

「うぉ!!微妙か!!」


変な奴だよな。


お節介だし……



「さて、まぁ冗談はさて置き。どうする?マジで悪い話じゃないとは思うが」

「はぁ~~~……悪いが、少しだけ先延ばしだ。流石に話が急過ぎて、まだ、どう転がるにしても、心の準備が出来てねぇ」

「まっ、そらそうだわな。じゃあ取り敢えずは、今日のライブ終了から2時間がタイムリミットだ。それ以降は一切受け付けない。理由は時間の無駄遣いになるからだ。……それで良いか?」

「わかったよ。我儘な野郎だ」

「俺……クラに我儘を言っても良いんだもん」


またやりやがった。


その奈緒さんの物真似は上手いから辞めろっての。



「ヤッパ、オマエとやってく自信ねぇわ」

「悪かったよ。今日はもぅやんねぇ」

「絶対だぞ」

「あぁわかった。わかった」


それだけ言い残すと、奴は大急ぎでライブハウスに入っていく。


多分、時間の配分を間違えて。

思った以上に、俺なんかに時間を掛けてしまったのだろう。


さっさと行かねぇと、ライブ始まんぞ。


ほんと馬鹿な奴だ。

俺の事なんぞ、後回しにすりゃ良いのによ。



そして、俺がそんな事を考えている内に、中では、あの馬鹿の声が反響する。


そうやって、深夜の第二部のライブが始まった。


最後までお付き合いありがとうございました<(_ _)>

これにて第十七話『勧誘』は終了です。


しかしまぁ、これは少し意外な展開に成ってきましたね。

(↑自分で言うなって話ですね(笑))

まさかバンドに誘う理由が『倉津君をヤクザに成らせない為の布石』と『奈緒さんが背負いかねない汚名』を考慮しての提案だったみたいですね。


崇秀は意外とお節介なのです(笑)


さて、そんな理由でバンドへのお誘いを受けた倉津君。

この後、彼は一体どういう判断を下すのでしょうか?


それは第十八話『葛藤』でお話していきますね♪


でわでわ、良かったら、また遊びに来て下さいねぇ~~~(*'ω'*)ノ

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