第十五話、始まるよぉ~~~(*'ω'*)ノ
015【餞別】
第一部のライブが始まったのは定刻通りのPM18:00。
その時間には既に、ライブハウスは満員御礼をオーバーして尚、沢山の人で満ち溢れている。
そして、そうやって満員に成ったライブハウスは、冒頭で馬鹿秀が最初にソロで1曲ギターを弾いた後は、乱入祭りの開催だ。
前以て予定されたスケジュール通りに、次々と決まった乱入者がステージ上に上がり、各々がそのパフォーマンスを繰り出して行く。
そして、その会場の隅では、芸能プロダクションに所属するスカウトマンらしき人物が数人見受けられる。
どうやら彼等は手帳を片手に、ステージ上のPLAYER達を商品として値踏みをしている様だ。
ある者は『○』またある者は『―』を入れられていく。
その『○』にしても何種類か有り『㊤』『㊥』『㊦』と三段階評価がなされており、俺が見たところ、勿論『㊤』が最高ランクの様だな。
けど、今のところ、その『㊤』を貰った人間は誰1人としていない。
まぁ実際は『㊦』でもスカウトに引っ掛れば良いんだろうが、大半は『―』
このライブ自体のレベルが幾ら高いとは言っても、矢張り、プロの目は厳しい様だ。
それ故に此処は、そんなスカウト達が集まる甲子園の地方大会みたいな場所なんだろう。
そんな中にあって、俺達の出番は第二部後半……しかもオオトリ。
勿論、主催者である馬鹿秀と、そのバンドのメンバーであるアリスが出る以上、これは仕方がない事なのだろうが、その中に俺も混じっている事を、せめて考慮して欲しいものだ。
正直言えば……オオトリなんぞ。
重荷だ。
無理だ。
もぉ逃げてぇ。
の3連コンボが俺の心の中では成り立ってる訳なんだが、これまた今更逃げる訳にもいかない。
理由は簡単、ウチのバンドのメンバーである奈緒さんや、阿呆中に大迷惑を掛けてしまうからだ。
まぁそうは言ってもな。
実際の話で言えば、阿呆中はライブ慣れしているだろうし、ソコソコ冷静で居られるだろうから、別に奴がオオトリで失敗して憤死しても構わない。
寧ろ、ミュージシャンなアイツにとって、ステージ上で死ねるのは本望とも言える筈だ。
なので、この場がアイツにとっては良い死に場所とも言える。
だが、奈緒さんはダメだ。
まずにして、彼女に死なれたら俺が大いに困る。
初めて出来た大切すぎる彼女が『俺との初ライブで死にました』なんて伝説はシャレにもならない。
勿論、そうなったら彼女に対するブーイングもダメだ。
彼女は繊細な心の持ち主だから、ちょっとした事でも気になる。
故に、会場で彼女に向かってブー垂れた奴は問答無用で殺す。
……っとまぁ、こんな風に人を散々言い訳にしてる話をしている訳だが。
実際の問題点と言うのは俺自身。
さっき馬鹿秀に、ライブでの有り方をレクチャーして貰ったものの。
本番で、それが上手く生かせるか、どうかまでは別問題。
今でさえ、この雰囲気に飲み込まれそうな感じすら受けるてるのだから、かなり危険だと思う。
まるでこのドキドキ感は、初めてソープランドに行った童貞の気分だ……まぁ、その気分が、どんな気分なのかは知らねぇがな。
かと言って、今更焦った処で、もぉどうにもならない気付き。
出番までにはまだ時間も有る事だし、うちのバンドのメンバーと打ち合わせでもする事にした。
***
そう思い、キョロキョロと会場内を見回し、奈緒さんと山中を探す。
ところがだ。
此処でも既に思い掛けない光景を目にする。
2人を探した結果、アッサリと山中と奈緒さんを会場内で発見したまでは良かったんだがな。
この2人は、俺が発見した時にはもぉ既に、他のバンドと仲良くお喋り中なご様子。
その雰囲気に、イキナリ俺みたいな厳つい奴が入って行っても、どうも馴染めそうにない。
故に、その中に入っていけない困った俺は、ビールを片手に、煙草を吸うだけの寂しい男になりつつあった。
そこに見知らぬ男が声を掛けてくる。
「此処良いかい?」
声を掛けてきた男は、如何にもバンドマンって感じの男なのだが、意外にも人懐っこい雰囲気を持っている。
どうみても悪人には見えないし。
まぁどうせ、誰も相手にしてくれなさそうだから、この人で暇潰しに話でもするか。
「あっ、どうぞ」
「悪いね」
そう言いながら男は、肩に掛けたソストケースを椅子の横に置き、腰を掛ける。
ただ、その一連の動作が流れる様な動きだった。
この行動から、俺は、彼がかなりのやり手のミュージシャンだと睨む。
コレは、仲良くしておいて損は無さそうな雰囲気だな。
「あぁ、良いッスよ」
「どうも……あぁ、そう言えば君。昨日も見かけたけど、仲居間さんの友達か何かなのかい?」
「そうっすね。けど、友達って言うよりは、どちらかと言えばアイツとは腐れ縁って言った方が正しいかもッスね」
「ふ~ん、腐れ縁って言える程、仲が良いんだね。そう言うのって羨ましいよ」
「いやいや、ちっとも良くないッスよ。寧ろ、アイツは最低な男ッスから」
「ハハッ、そうなんだ。普段の仲居間さんからは想像出来ないね」
この如何にも善人そうな人も、あの魔王に騙されてるんだな……
お可哀想に。
アイツは、みんなが思ってる様な良い奴では決してない。
どちらかと言えば、俺と一緒でクズ、比類なきクズ、人の皮を被ったクズ。
けどまぁ取り敢えず、アイツにも社会的地位みたいなもんが有りそうだから、此処は黙っておいてやるがな。
間違いなくアイツは、正真正銘のクズです。
「まぁアイツは、俺なんかとは違って、人当たり良いッスからね。カモフラージュが上手いんッスよ」
「そうなんだ。……っと、あぁごめん。突然相席させて貰ってるのに自己紹介がまだだったね。俺はギタリストの嶋田浩輔。宜しく」
「あぁ、俺こそ、すみません。倉津真琴ッス」
友好の証に、軽く握手なんかしてみたりする。
バンド同士の付き合いって、こんな感じで大丈夫なのか?
けど、これで合ってるなら、まぁ中々良いもんだな。
「うん?そう言えば、倉津君は楽器はやってないの?何も言わなかったけど」
「いやまぁ、やってはいるんッスけどね。初めて、まだ一ヶ月も経ってないもんで……楽器やってるって言うには、まだまだおこがましいレベルなんッスよ」
「おやおや、それはまた寂しい事を言うねぇ。楽器やってりゃ、みんな同じミュージシャンだよ。……っで、倉津君は、なにやってるの?」
「はぁ、まぁ一応はベースを」
「ベースかぁ。それは良いね。俺も昔シド・ヴィシャスに憧れて、ベースやろうと思った時期があったんだけど、中々上手く行かなくてね」
うん?
弦楽器は理屈さえ解れば簡単に弾けるって、馬鹿が言ってた様な気がするが……それって、またアイツの特殊技能なのか?
「えっ?けど、嶋田さんって、ギター弾けるんですよね?」
「えっ?まぁ弾けるけど」
「あれ?だったら、ベースもガンガンに弾けるんじゃないんですか?アイツは、弦の数なんか関係ないっとか言ってましたけど」
「あぁ、あの人はちょっと特殊かな。多分、弦楽器なら、なんでもソコソコに弾けると思うしね」
「はぁ、そうなんっスか……アイツ、何気に凄いんッスかね?」
「多分ね。……あぁそうだ、突然で悪いんだけど、倉津君のベースを見せてくれる」
「良いッスよ」
俺は嶋田さんに、ハードケースごとベースを渡した。
それを見た嶋田さんは、少し驚いた様子だ。
「ほぉ、これは凄いねぇ。初心者でハードケース入りのベースだなんて」
「いや、あの、そんな大層な話じゃなくてッスね。見た瞬間、これだって思ちゃってもんで……つい、衝動買いしちゃったんッスよ」
「良いね、そう言う感覚。けど、家が金持ちなの?結構、これ高かったでしょ」
「はぁ、まぁ家が金持ちって言うか、一応は、自分で稼いだ金で買いました」
「うん?稼いだ?……失礼だとは思うけど、倉津君って幾つなの?」
「俺ッスか。老けて見えますけど、これでもまだ中二ッスよ」
「中二で稼いでるんだ。へぇ~~~、凄いんだねぇ」
「いや、あの、それほどでもないッスよ。実家の手伝いしてただけッスから」
嶋田さんって良い人だな。
言葉も丁寧だし、話す時も、いつもニコニコしてる。
出来れば俺も、ヤクザの組長の息子なんぞに生まれず、こんな風に生まれたかったもんだな。
「あっ、ごめん。折角ベース見せて貰ってるのに、話が逸れちゃったね」
「あぁ良いッス、良いッス」
なんだか良い人に巡り合えて、ご機嫌な俺。
「んじゃ失礼して、早速。……おっ、フェンダーのジャズベか。うん。良い趣味してる。ちょっと弾いてみても良いかな?」
「あぁどうぞ、どうぞ、全然良いッスよ」
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うん?
嶋田さんの弾いてるこの曲って、またメタリカの曲だよな。
しかも、これって奈緒さんが弾いてたMaster Of Puppets。
なんだ、最近、巷じゃあメタリカが流行ってんのか?
にしても、この人、平然とした顔でベースを弾いてるんだけど滅茶ウマだな。
本当に本業はギターなのか?
最後までお付き合いありがとうございました<(_ _)>
熱気が溢れる会場内にも拘らず、変に退屈していた倉津君。
そこに嶋田浩輔を名乗る男が近づいて来て、話し込んでいる様ですが……
彼との出会いは、一体、何を暗示するものなのでしょうか?
そして彼は一体、何者なのでしょうか?
そこは、次回の講釈と言う事で(笑)
また、遊びに来て下さいねぇ~~~(*'ω'*)ノ
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