●前回のおさらい●
真上さんの真面目さや、慈悲の心に当てられた倉津君。
早速、その場で反省してサボるのを辞め、音楽室に戻って行くのであった。
真上さんの言葉や態度で改心した俺は、慌てて第二音楽室に戻る。
しかし……戻ったまでは良いが、此処を、どうやって切り抜けるかが問題だ。
正直に『タバコ休憩』と『緊急の電話が入った』って言うのが順当か?
いや、そうだよな。
そうだ、そうだ。
何故、この場で嘘を付く必要性がある。
確かに、勝手に抜け出したのは余り褒められた行為じゃないが、絶対に休憩しちゃダメって訳じゃない。
それに正直に言う方が揉め事を招かねぇし、下手に嘘を言っても始らねぇじゃねぇかよ。
そうだそうだ、そうしよう。
俺の脳内会議は、アッサリ終結。
議題に上がった問題が簡単すぎて、議論の余地もなかった。
「たっ、ただいま~ッス」
「オイ、コラ、マコ!!オマエ、えぇ度胸しとんのぉ。なに奈緒ちゃんと、俺に全投げしてフラフラ遊びに行っとんねん。オドレ、どこをチョロチョロし腐っとってん?」
最初に、俺に睨みを利かせて、口撃を敢行してきたのは山中。
予想の範疇と言うか、実に順当なラインだ。
まぁそれ以前に、コイツが、俺を攻撃してきた理由はあれだ。
山口が『体力の限界』が来て、休憩に入ってたからだなんだがな。
「電話だよ電話」
「電話やと?誰と電話しとってん?」
「取引先との電話だよ。ほら、メイド喫茶の衣装を頼んだ子に電話してたんだよ」
「メイド喫茶?なんやねんな、それ?なんの話や?」
あぁそうか。
山中のバカタレは、此処2週間程、椿さん、嶋田さん、康弘とツアーに廻ってて、文化祭の事は、なにも知らされてなかったんだっけな。
しかし、知らないとは言え。
今までの経緯を全部説明するのは、流石に面倒臭ぇなぁ。
・・・・・・
いやいやいや、イカン。
こう言う時こそ、真上さんから学んだ様な大らかな気持ちで、アホにキッチリと教えてやらないとな。
先程学んだ『仏の心』を、早速実行しよう。
「クラスの文化祭の出し物だ」
「はぁ?そやかてオマエ。外注掛けるほど、文化祭の予算なんぞ無いやろ」
「それがそうでもないんだわ。やり方次第では、どんな低予算でも、外注でモノを済ませられるんだよ」
「なんや、自腹でも切ったんか?」
「違ぇよ。誰が、学校の糞ショウモネェ文化祭なんぞの為に自腹なんかを切るかよ。とあるスポンサーを付けたんだよ」
「はぁ?」
だよな。
山中が転校してきたのは、12月の末。
故に、去年の文化祭には出られる筈もなく。
此処の文化祭が、異常な事を知らないのは当然だ。
だから取り敢えず、此処は簡潔に説明すっか。
***
「うわぁ~、なんちゅうアホな学校や。そないなアホな学校、見た事も、聞いた事ないぞ」
「まぁ、その責任の一端は、此処には居ない、アメリカかぶれの馬鹿のせいだって事だけは追加で伝えとくよ」
「そのアホって、ひょっとして、あの、例のアメリカに居るアホの事か?」
「そうだ。そのアメリカかぶれの例のアホの事だ」
そういうこった。
アイツの退屈出来無い性格が招いた、ある意味、大きな災いだ。
けど、アイツって、説明する時に限ってだけは便利な男だよな。
『アイツがやった』って言えば、大半の事は、みんな、直ぐに納得して通っちまうだもんな。
まぁそれだけに、みんなが、そう言う認識なんだろうな、アイツって。
「っで、その衣装を作ってくれた子が、此処に来ると」
「まぁ、そう言うこった」
「えっ?クラっさん。あの例の衣装って、もう出来たのかよ?」
山中の『衣装』って言葉に、梶原が反応を示した。
モテチャラ男の梶原でも、そんな些細な事が気になるもんなんだな。
「まぁよ。異常に手の早い人でな。昨日には、人数分の衣装が全部が仕上がってたらしいんだよ」
「スゲェな。マジ、スゲェな、その人」
「クラ……あぁ、いやいや、倉津先輩。その人って、なんて名前の方なんですか?」
「王家真上って、名前だけど」
「王家真上……って!!」
あれ?なんだ、この奈緒さんの反応は?
ひょっとして、真上さんと知り合いなのかの?
「知り合いか?」
「あぁっと、知り合いじゃないですけど。中高生の間じゃ、その人、結構、有名な人ですよ」
「そっ、そうなのか?」
「えぇ。安くでオーダーの服を作ったり。デザイン物のTシャツを販売してるショップの娘さんなんですよ」
へぇ~~~、そうなんだ。
真上さんの人間性は、さっき垣間見たが、店の事は全然知らなかった。
あの人の店って、そう言う有名な店なんだ。
「奈緒ちゃん。それって、まさかOHKAブランドの事?」
「あぁそうです、そうです。川崎で店を出されてるブランド・ショップの事です」
「あぁ、その店なら、俺も知ってるぞクラっさん」
「なっ、なにをだよ?」
「即日即売。出す商品が『次の日まで売れ残った事が無い』って事で有名なブランドだよ」
「うぇ、マジかよ?」
「あぁ、なんでも、殆どの商品を手作りしてるらしくてな。常に品薄。しかもな。どうやってるのか知らないけど、生地の素材も良いから、今、スゲェ話題になってるブランドだぞ」
ウゲッ!!要の奴、また豪い人を紹介してくれたもんだな。
……ってか、真上さん、ちょっとは、そう言う素振り見せてくれねぇかな。
そこまで有名なブランドなんだったら、もうちょっと上から目線で威張るとかしてくれなきゃ、そんな有名人だって気付かないって。
大らか過ぎるんですよ、真上さんは。
ホント、困った人だな。
「っで、倉津先輩。本当に、その王家さんが作ってくれたんですか?」
「あぁ、さっき連絡が有ったから間違いないな」
「凄い。そんな事が出来るのって有名人ぐらいですよ」
「いやいや、凄いって言われてもだな。俺も、知り合いからの経由で知り合った人だから、俺自身は、直接、彼女の事を、そんなに知ってる訳じゃないんだけどな」
「それにしても凄いですよ」
奈緒さんが絶賛してる。
そんなに凄い店なのか?
「あぁ、さっきの奈緒ちゃんの話で思い出したけど。この間のツアーTシャツ。よう考えたらOHKAブランドやったわ。……ホンでか、一瞬にして即売した理由が、今わかったわ」
なんか、意外と、みんな、お洒落さんなんだな。
シルバーアクセサリーとかの造形系の話だったら、多少以上に俺でも出来るけど、衣服の話となると話は別だ。
俺、結構、そう言うの無頓着なんだよな。
それに服の買い物する時は、センスの良い崇秀の馬鹿に選んで貰ってたからな。
だから、全然知らなかったし。
「なんか、スゲェんだな」
「まぁ、俺の見立てでは、全体的にデザインがえぇからなぁ。あれやったら、お世辞抜きに、俺でも買うわ」
「そうなのか?あぁっと、それはそうと、Tシャツ一枚で幾らぐらいするんだ?」
「まぁ、ウチの奴は、バンドTやから5000円ぐらいするけど。大体の平均は1500~2000円ぐらいやな。あれ、個人経営でやってんねやったら、どう考えても、原価ギリギリやぞ」
「って事はだな。メイド服なんか作って貰ったら……」
「大赤字やろな」
いや、そう言われるとだな。
なにも考えずに、ほぼ無料でメイド服なんて作って貰ってたら、流石に居た堪れねぇな。
あの人、なんで、そんな無茶な注文を受けたんだ?
「うわぁ……まじかよ。真上さん無茶するなぁ」
「あっ、なんやコイツ、馴れ馴れしく下の名前で呼んどる」
「仲が良いんですね」
「げっ!!」
服の代金の事で頭が一杯なのに、此処に来て、また女難ですか?
今更そう言うの、いりませんよ。
俺には、マイ・スィートハニー奈緒さんが居ますから。
「あのなぁ、変な誤解するな。あの人は、スゲェ大らかな人なんだよ。つぅか、それ以前に同い年なんだよ」
「同い年だって!!マジかよクラっさん!!」
おっと、此処は言っちゃ不味かったか?
このカジの様子からして、これはあまり知られていない事実なのかもしれないな。
これはまた、余計な事を言っちまったかな……
「梶原先輩、ひょっとして知らなかったんですか?王家さんが中学生だって言うのは、結構、有名な話ですよ」
「奈緒ちゃんは知ってたんだ」
「勿論ですよ。あぁ言う才能のある人には、自然と興味が湧きますからね。随分前からチェック済みですよ」
奈緒さん、奈緒さん。
それ……『仲居間症候群』って言う、この世で、最も性質の悪い病気に罹ってますよ。
早目に自己養生して治療しないと、ロクデモナイ人生を歩んじゃいますよ。
その病気に効く特効薬は無いッスから。
「しかし、奈緒ちゃんも凄いねぇ。なにを聞いても、直ぐに答えられるんだもんなぁ。情報量がハンパ無いわ」
「そんな事ないですよ。こんなの普通ですよ普通。女子中高生なら、誰でも知ってますよ」
「そっ、そうなんだ」
「……って言うか、梶原先輩。倉津先輩も戻って来た事だし、そろそろ練習を再開しませんか?1度、山中先輩と、倉津先輩と、私で音を流しますんで、曲の感じをシッカリ掴んで下さいね」
「あっ……はい」
上手く奈緒さんが、話を切り替えてくれたお陰で、話は完全に音楽の方に逸れた。
いつも、いつも、すみません。
最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございますです<(_ _)>
真上さん……みんなの話からして、なんだか想像以上に凄い子の様ですね。
あの奈緒さんですら、絶賛する様な才能の持ち主の様です。
まぁ、そうは言っても。
そんな才能だけに後押しされているのではなく。
真上さんが、此処までになるには、相当な苦労を重ねていますし、彼女が、こう言う行動をとるのには「ある事情」があるんですけどね。
その辺については、後々語って行きたいとは思います。
さてさて、そんな中、練習再開!!
次回はその辺りを詳しく書いて行きたいと思いますので。
また良かったら遊びに来て下さいねぇ~~~(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾
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