●前回のおさらい●
あれから二週間。
不良さんは自分也に一生懸命ベースの練習をし、漸く納得出来るレベル(基本の運指運動が)に成ったと思ったので、向井さんに会いに行く事を決行。
ただ……彼女の連絡先を聞いてなかったので、なにやら無謀な方法で向井さんに会いに来たみたいだ。
あれから2週間ほどの練習を重ね。
崇秀にアホに言われた『録音して自分の音を聞いてみる』も実行し。
漸く、自身でも納得できる音が出せた俺は、向井さんの元に向かうのだが……向かった先は。
『私立蓮田高等学校』
部活が盛んな高校なんだが。
どちらかと言えば体育会系が強く、文科系は、やや華がない感じだ。
だが、偏差値は、かなり高く。
最低でも偏差値が60近くないと合格出来無いとの噂だ。
(良く知らねぇがな)
……要は、向井さんの通う高校だな。
そぅ、この行動からも解る様に。
向井さんの連絡先を知らない俺が思い付いた策と言うのは、単純に【向井さんの通う学校の前で、彼女を待ち伏せする】事だった。
まぁこれ自体は、ストーカー紛いの行為だとは思ったんだが、彼女と会う為だ……背に腹は変えられない。
俺としては、なんとしても向井さんに練習の成果を知って欲しいし、彼女をライブに誘わなければいけないと言う使命も負っているのだからな。
その気持ちだけが俺を突き動かす。
俗に言う、これが『若さ』って言うんだろうな。
まぁ序と言っちゃあなんだが、崇秀に頼まれてる【ライブのアンケートの封筒を渡す】件も無視出来無いしな。
……それにしても、あれだな。
この高校、矢鱈とカッコイイ野郎や、可愛い女子が多いな。
こんなに可愛い子が多い学校だったら、俺もこの高校を受験してみっかな……
まぁ偏差値が高いから、裏口入学でもしない限り100%合格は無理だろうだけどな。
そんな馬鹿げた事を考えながら、校門で、向井さんが出て来るのをチェックしてると。
帰宅して行く生徒たちの視線が、ヤケに俺の方に集まっている事に気付く。
男子生徒は、俺と目が合うと、即座に俺から視線を外そうとして。
女子は女子で、俺を見てクスクス笑いながら、互いの耳元で何やらひそひそ話をしている。
まぁ、奴等が何を言ってるかぐらいの予想は出来る。
どうせ、俺の事を見て、不良がどうとかこうとか言ってやがるに違いないからな。
しかしまぁ、なんだな。
こうやって露骨にやられると、世間の不良に対する風当たりは強さを痛感させられるな。
俺、別に怖くねぇのにな……
そんな中、向井さんが耳にイヤホンを付けながら校門から出て来た。
その右手には、幾つかの楽器のキーホルダーが付いた鞄を持ち。
左肩には、ステッカーが数枚張られたソフト・ケースが掛けられている。
学校にまで楽器を持ってくるなんて、向井さんって、ホントに音楽が好きなんだな。
そんな向井さんを見つけた瞬間。
直ぐ様、声を掛けようと思ったんだが、先程の他の生徒の反応の件もある。
不良の俺が、イキナリ、一般生徒の彼女に声を掛けるのは迷惑だと判断し、一旦、この場は見送る。
T:time…時間
P:place…場所
O:occasion/opportunity…場合/機会
略して『TPO』を弁えてる俺は、彼女が学校から少し離れるのを待つ事にした。
まぁこの時に、向井さんの後ろをコソコソくっ付いて行ってる訳だから、逆に怪しいと言えば、怪しいんだがな。
コレじゃあ、まるで、女子高生を狙ったストーカーみたいだしな。
その上、向井さんに俺の事を忘れられていて、痴漢に間違われたら、どうしようか?
そんな風に思考が、無駄にマイナスに動いていった。
「んっ?……倉津君?そこに居るのって、倉津君だよね」
「あっ、はい」
「こんな所で、なにしてるの?」
おぉ……約3週間ぶりにあった向井さんは、俺の事を忘れては居なかった。
それに相変わらず、お綺麗だ。
しかも、俺に気付いて、彼女の方から声を掛けてくれるなんてな。
正に奇跡の瞬間だと言え様。
「あっ、あの……崇秀に」
「崇秀君?崇秀君って、だぁれ?」
「あぁ、あの、仲居間君に、向井さんへの預かり物を頼まれて……」
「仲居間君?仲居間君って……えっ、えっ、仲居間さんの事?」
「はぁ、仲居間崇秀の事ですよ……なんかアンケートが、どうとかこうとか言ってました」
「嘘……ホントに?ネット上で知り合っただけなのに、私が何気に言ったお願いを、仲居間さん、ホントに守ってくれたんだ」
「へっ?はっ?そっ、そうなんッスか?」
「うん……えっ?ちょっと待って、倉津君の知り合いって事は、この間コンパで逢った、優しそうな彼が仲居間さんなの?」
「はぁ、まぁ、多分そうッスよ」
「えぇえぇぇ~~~」
いや、そんなに驚かなくても……
そりゃあ、向井さんに喜んで貰えるのは、非常に俺も嬉しいんだけど、この会話の内容じゃ馬鹿秀の話がメイン。
なんか2人で会話してる割に、俺の存在完全に消えてませんか?
俺を憶えてくれてたのは嬉しいけど、妙に悲しい現実だな。
……なんとも複雑な心境だ。
それに向井さん。
なんで、さっきから、アイツみたいな馬鹿に『さん付け』なんかしてるんッスか?
アイツは、そんな大層な生き物じゃないですよ。
寧ろ、馬鹿ですよ。
ただの馬鹿なんですよ。
「あのぉ~~~っ、これ」
「あっ、ごっ、ごめん。あっ、ありがと」
なんか、ヤッパリ動揺してる。
いつものクールな向井さんっぽくないな。
(↑まだ2回しか逢ってないクセに知った風な口を利く俺)
「あのぉ~~~っ、向井さん。1つ聞いても良いッスか?」
「えっ?あぁ、なに?」
「なんで崇秀の方が年下なのに、アイツに『さん付け』なんかにするんッスか?」
「なんでって……あれ?倉津君は知らないの?」
「はぁ、なんの事ッスかね?」
まだなんか、アイツには秘め事が有るのか?
もぅこれ以上『他に何かしてる』とか言うのは、いい加減やめてくれよな、時間の魔術師さんよぉ。
これ以上はマジで洒落に成んねぇぞ。
「彼、関東圏では、かなり有名なギターリストだよ」
「へっ?」
「それにね。自分のホームページで他のバンドの宣伝したり、他人のメンバー募集とかもしたりしててね。かなり親切なのよ。……だから、彼に世話になった人は、尊敬の念を込めて、彼が年下であっても『さん付け』で呼ぶんだよ」
「……って事は」
「そぅ。私も、その1人。まだ逢った事は無いんだけど……あぁそうかぁ……この間、知らない内に一回逢ってたんだった……ちょっと残念」
「あの、向井さん、その話って、本当に崇秀の話なんですか?もし間違いじゃないんなら、誰かと勘違いしてません?」
どう考えても違うだろ。
アイツは、そんな自分に利益の無い高尚な真似をする男じゃない。
寧ろ、女を誑す事しか考えてない、下品で最低な女誑し、女子相手に獣が本性を出さない訳がない。
「どうかな?」
「それって、確信は無いって事ですよね」
「そぅだね。彼とのお付き合いはネット上でのお付き合いでしかないからね。確信って言われると……ちょっと自信がないかな」
はぁ、良かった、良かった。
向井さんは、少し沈んだ顔してるけど。
ここで『確信がある』とか言われたら、精神崩壊をしかねないからな。
まぁ大体して、アイツが、そんな紳士な人間な訳がない。
それにアイツなら、その勘違いに付け込んで向井さんを口説きかねない。
アイツは最悪だ。
なにをしでかすか解らない、ただの女誑しだ……
……って、俺、なんで意気揚々として崇秀の悪口言ってんだ?
突然、我に返った様に、今の自分を見直す。
これは明らかに、崇秀に対するミットモナイ嫉妬だ。
ネット上の仲居間なる人物が、アイツであろうと、なかろうと、アイツには関係ない話なのにも関わらず。
それを自分勝手に崇秀だと思い込み、アイツがモテる事に嫉妬。
その上、喜んでいた向井緒さんの気持ちまで踏み躙った。
なにやってんだよ、俺?
寧ろ、最悪なのは俺の方じゃねぇか。
最後までお付き合いありがとうございました<(_ _)>
倉津君の考えた作戦は。
至ってシンプルな『ただの学校前での待ち伏せ』でしたね(笑)
そして、やっと出会えた向井さんの口から、また新たなる崇秀の知られざる一面を知らされて。
落ち込むと同時に、嫉妬までしてしまい無様な姿を晒してしまいました。
可哀想ですね(笑)
でも、頑張れ!!
まだ失敗した分を取り返すチャンスはある筈!!
っと言う訳で次回。
倉津君は、この失態を晴らす事が出来るのか?
こうご期待ください(*'ω'*)ノ
だから、誰も期待してねぇよ( ゚Д゚)=〇))Д`)ふぎゃ!!
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