●前回のおさらい●
とうとう自分達の番が回って来て、まずはイントロを奏で始めたが。
奈緒さんに、アリスが抱き着いた際に付いた『彼女の甘い香り』を指摘され、ピンチに陥る倉津君。
だが、それは、奈緒さんの理解力があった為、なんとか事なきを得るが。
今度は、それを見せ付けられたアリスがテンションダウンしてしまう。
そして倉津君は、また情が湧いてしまうが。
そこに嶋田さんの激しいギターの音が、倉津君の行動を注意する様に入って来た……
「倉津君さぁ……」
「あっ、はい」
「ヤル気が無いなら、直ぐにでもステージから降りなよ。……此処、君が悩む場所じゃないよね」
「・・・・・・」
言うまでも無く、その通りだ。
嶋田さんの言わんとする事は、よく解るし、まさに正論だ。
演奏を聞きに来た客に、今の俺の糞ショボイまどろんだ音を聞かせるのは失礼極まりない行為。
確かに、そうは思える。
だが、心は、そう簡単には割り切れないし。
この状況をどうすれば良いのか、全く解決の糸口は見つからない。
「大体にして君ね。……人の事を考えられる位、演奏に余裕があるのかい?自分の事が出来てから、初めて他人の事を考えるべきなんじゃないかな?」
「・・・・・・」
「ダンマリねぇ。……まぁ良いよ。兎に角、今、君がすべき事は、自分の音で彼女達を元気付けてあげる事。俺も協力してあげるからさ。まずは、それをやってみなよ」
「……おっ、俺に出来ますか?」
「おかしな事を言うね。『出来る?』じゃなくて『やる』んだよ。結果なんて自ずと付いてくるもんだよ」
嶋田さんは、そう言いながら笑顔を作って即答してくれた。
彼の笑顔は、安堵感を与える笑顔だ。
勿論、腕が確かなのも、その要因の1つなのだろうが、彼の言葉には、どこか信頼が込められている。
単純な俺は、そんな嶋田さんの言葉をアッサリ信用。
なにも出来無いなら、せめて素直が歌い易い様に盛り上げてやるのが、バンド仲間の責任。
俺は嶋田さんに負けないぐらいの音を出す為に、大きくベースをかき鳴らす。
無駄な事を考えるのは後だ。
「うん……それで良い」
再びステージを横断して、嶋田さんは満足気に元居た位置に戻って行く。
こうなれば問題は、素直だけだが……
この音で、俺の気持ちが上手く伝わっていれば良いんだが……
そんな不安を残しながらも、懸命にベースを弾く。
今の俺には、これしか出来無いしな。
そんな俺の不安を他所にイントロが終わり。
とうとう素直が歌を入れるAメロが始まる。
(キリスト受難劇の終末は、先に崩壊しつつある)
(私はアナタの自己破壊の原因)
(恐怖で脈打ち)
(明らかに真っ黒いものを吸う)
(アナタの死を構築する)
(味わえばわかる)
(もっと欲する)
(アナタは夢中になる)
(私のアナタの殺し方に)
(早く這って来て)
(アナタの主に従え)
(アナタの命は早く燃え尽きる)
(アナタの主に従え)
(主に)
(人形師)
(私はアナタの糸を操る)
(アナタの心を曲げ、そして夢を砕く)
(私に眼を塞がれ、アナタは何も見えない)
(私の名前を呼べ、私のせいで悲鳴が聞こえるようだ)
(ご主人様)
(ご主人様と)
(私の名前を呼べ、私のせいで悲鳴が聞こえるようだ)
(ご主人様)
(ご主人様と)
(針仕事をすれば、アナタを決して裏切る事は無い)
(死にきった人生が明らかになりつつ)
(痛みが独占する、悲惨な儀式)
(ミラーの上でご朝食を刻む)
(味わえばわかる)
(もっと欲する)
(アナタは夢中になる)
(私のアナタの殺し方に)
(早く這って来て)
(アナタの主に従え)
(アナタの命は早く燃え尽きる)
(アナタの主に従え)
(主に)
(アナタの心を曲げ、そして夢を砕く)
(私に眼を塞がれ、アナタは何も見えない)
(私の名前を呼べ、私のせいで悲鳴が聞こえるようだ)
(ご主人様)
(ご主人様と)
(私の名前を呼べ、私のせいで悲鳴が聞こえるようだ)
(ご主人様)
(ご主人様と)
(ご主人様、ご主人様、私の追い駆けた夢はどこに行ってしまった?)
(ご主人様、ご主人様、アナタが約束してくれたものは嘘だけ)
(笑い声、笑い声、私には笑い声しか見聞き出来無い)
(笑い声、笑い声、私の嘆きを嘲笑う)
Fix me!
(地獄は、すべての価値がある自然の生息地になり)
(分別無く)
(終わらない迷宮で、限られた日々を流されていくだけ)
(今、あなたの命は、シーズン外)
(私はアナタを占拠)
(私はアナタの死を手伝い)
(私はアナタの中を駆け巡る)
(今私はアナタのルールになっている)
(早く這って来て)
(アナタの主に従え)
(アナタの命は早く燃え尽きる)
(アナタの主に従え)
(主に)
(人形師)
(私はアナタの糸を操る)
(アナタの心を曲げ、そして夢を砕く)
(私に眼を塞がれ、アナタは何も見えない)
(私の名前を呼べ、私のせいで悲鳴が聞こえるようだ)
(ご主人様)
(ご主人様と)
(私の名前を呼べ、私のせいで悲鳴が聞こえるようだ)
(ご主人様)
(ご主人様と)
【注意】***************************
* *
*物語の都合上、Master of Puppetsの歌詞が必要なのですが。 *
*歌詞を、そのまま英語で表記すると、著作権の問題があります。*
*なので敢えて、簡単な和訳のみで表示させて頂いております。 *
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「「「「「スゲェ~~~!!マジ、ヤベェよ」」」」」
最初にグダグダな感じはあったが、オーディエンスの反応には、なんの問題も無かった。
いや、寧ろ、あの出だしから考えれば大成功と言っても過言じゃない。
ただ矢張り、此処でも違った意味での問題は残る。
勿論、そうは言っても、演奏や、歌に、何かしろの問題があった訳では無い。
普通に聞けば、非常に良い演奏だったし、良いパフォーマンスだったとも思える。
なので此処で問題だったのは、たった1つ……素直の歌い方だ。
先程も言ったが、別におかしな唄い方をした訳ではない。
寧ろ、歌詞を忠実に表現した様な激しい唄い方だったと言って過言では無い。
だが、彼女の歌い方は、観客に向けられているものではなく、歌詞そのものを俺にだけ宛てきている。
まるで俺に、自分を『あるもの』で服従する人形の様に扱えと言ってる様に、歌で綴っているからだ。
その『あるもの』とは……
このメタリカのMaster Of Puppetsって曲中で解釈するならば『麻薬』
上記で記した様に、歌詞を和訳すればわかる事なんだが。
この曲の歌詞には、局所に渡って、それを臭わす言葉が混じっている。
そこから思い付く物は、当然。
『Master of Puppets(麻薬)』=『俺』に例え。
『麻薬に操られた人形(人間)』=『素直』っと例えている。
此処から想像出来るものと言えば、俺に対する『恋愛』と『依存』を要求している。
考え過ぎだとは思ったが。
明らかに素直は、曲中、コチラに何度も視線を送ってきている。
たかが入学当時に助けただけで、何故そこまで俺に依存するのかは不明だが、彼女は明らかに歌詞を上手く使ってアピールしている様に思えた。
此処で、また悪い癖が出そうになった。
……だが俺は、このライブが終わるまで、そう言った事を無視すると決めた以上、素直のそういう気持ちを無視して、山中に次の曲を催促する事にした。
奴も、素直の気持ちに感づいているらしく、直ぐ様MC無しでAnarchy In the U.K.を奏で始めた。
俺もそれに倣い、ベースをかき鳴らす。
但し、この曲に関しては、第一部からの変更点が少し有る。
単体のドラムと、奈緒さん素直のツィンボーカルは1部と同じ構成。
ただギターに関しては、崇秀が、このステージ上に居ない為、嶋田さん単体の演奏をして貰い。
その代わりと言っては、なんなんだが。
俺と、奈緒さんのツィンベースで、崇秀と嶋田さんのやった、あの例の交互演奏をベースで再現する。
俺がド素人だけに、この構成には不安要素が無い訳ではないが、そんな事を言っていても、なにも始まらないのも事実。
出来る限りの事をやって、ダメなら、それは仕方がない。
ただ運が良いのか。
今、一番のサビの部分なんだが、今のところ演奏は上手くいっている。
ドラムの山中や、ギターの嶋田さんは勿論。
ツィンボーカルの奈緒さんと素直も上手く噛み合って、最高の演奏が出来ている。
まぁ、その一番の証拠は、客席の盛り上がりが、先程の曲よりも1ランク上の盛り上がりを見せている事だろう。
これは、何物にも変えがたい動かぬ証拠だ。
このままいけば、今日一番の盛り上がりも確保出来そうだな。
上手くいけば、この場で崇秀に一泡吹かせる事も可能かもしれない。
そんな甘えた気持ちが芽生え始めていた。
……あの全てを飲み込む様な、恐ろしい音が聞こえて来るまでは……
最後までお付き合いありがとうございました<(_ _)>
嶋田さんのお陰で、なんとか事なきを得て曲を弾き切ったまでは良かったが。
此処でアリスが攻勢に出て、倉津君に歌詞で『依存』を求めて来る表現をされましたね。
なんとも自分勝手な人間ばかりが集まった、協調性のないバンドです(笑)
さてさて、そんな中、今現在、なんとか二曲目も上手く演奏しているみたいですが。
此処で最後に、なにやら恐ろしい事が起こりそうな予感ですね。
それが何かは、次回の講釈。
また良かったら、遊びに来て下さいねぇ~~~(*'ω'*)ノ
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