最後まで奏でられなかった音楽

どこかお間抜けDQNな不良さんのゆったり更生日誌(笑)
殴り書き書店
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113 不良さん 自分也の解決方法を繰り出す

公開日時: 2021年5月30日(日) 00:21
更新日時: 2022年11月20日(日) 14:04
文字数:3,028

●前回のおさらい●


 何度頼んでも奈緒さんは、バンドに戻る事に対して、首を縦に振ってくれない。


それを見兼ねた山中君が、倉津君と、奈緒さんからバンドの誘いを受けている事を盾にし。

2人で話し合いで『その自分の行く末を決めてくれ』と言い残し、他のメンバーを連れて、その場を後にした。

 沈黙が来ると思ったが、奈緒さんは即座に話を始める。



「じゃあクラ……率直に言うわ。カズを頂戴。私が、君に伝えるべき言葉は、それだけ」

「おっ、お断りします」

「そぉ。じゃあ、そうすれば良いよ。カズを先に誘ったのはクラだしね。……これでこの話は御仕舞い。じゃあね」

「ちょっと待って下さい。一方的過ぎませんか?」

「甘えるな!!」

「甘えてるんじゃないです。俺は、アナタが、どうするのかを聞きたいだけです」

「自分の事もおぼつかないクラには関係ないでしょ。それに、君に報告する義務なんか無い」

「勝手に抜けるのに、理由が俺の弾いた曲なんて言われても、納得出来ませんよ」

「そぉ……なら、ハッキリ言ってあげる。私は、君と一緒に居るのが不快なの。君を見るたびに、あの不快な思いをすると思ったら、心底ゾッとする。理由は、それだけ……どう、これで納得出来た?」


『不快』か……



「そうですか。そこまで俺は、奈緒さんにとって不快なんですか。……なら、もぉ仕方が無いですね」

「漸く、わかってくれたみたいだね」

「はい。重々承知しました」


それだけ伝えると、俺は、無言で壁に向っていく。


それで壁際に着いたら、そっと壁に触れ強度を確認する。



「そんな所に行って、何をする気なのよ?」

「なんでもないッス。気にしないで下さい。……これは、俺なりのケジメッスから」

「えっ?」


そう答えた後、もぅ1度だけ壁の強度を確認して。

俺は、容赦なく、思いっ切り両手で何度も壁を殴り、自分の頭蓋骨を割るつもりで頭を壁にブチ当てる。


当然、一瞬にして辺りには鮮血が飛び散り。

壁は、瞬く間に真っ赤に染まっていく。



「ちょ……クラ!!なにしてるのよ。なんのつもりよ?」

「なにって。そんな風に、奈緒さんを不快にした責任を取ってるだけッス」


慌てて奈緒さんが止めに入るが。

俺は、それを振り払って、再び全力で壁を殴り、頭をぶつける。



「やっ、辞めてよ、クラ。そんな事したら楽器が弾けなくなるじゃない!!」

「放って置いて下さい。奈緒さんを不快にする様な音を出す手なんざいらねぇし。奈緒さんを不快にする様な事を考える、こんな頭なんざいらねぇ!!……こんなもん、全部ぶっ潰します」


最初から、被害者である奈緒さんが嫌な思いをする必要なんてなかった。

だから、こうやって壁で拳と頭を潰してしまえば、もぅ二度と、俺が楽器を弾く事は出来無い。


そうすれば、奈緒さんが不快だと思う音も出ないから、彼女が、2度と、そんな気持ちに成る事も無い。


元々奈緒さんと一緒に音楽をやりたくて始めた事。

それが叶わないなら、楽器なんざ弾く意味は皆無だしな。


だから……これで死んでも悔いなんて無い。



……俺は馬鹿だから、考え方はシンプルにしか出来無い。



「辞め……辞めて……辞めてよ、クラ」

「ダメです。奈緒さんが不快だと思うものは、全てぶっ潰します。……但し、俺が音楽を辞めたら、奈緒さんバンドに戻ってくれますよね?不快な音も、不快な人間も居なくなるんだから、そこだけは頼みますよ」

「なっ、なに言ってんのよ、クラ?そんな事より、お願いだから辞めて……君が、そんな事をしても、私はバンドには戻らないよ」

「そうなんッスか?そりゃあ残念。けど、それでも良いッスよ。これは俺也のケジメっすから」


馬鹿でボンクラな俺が、懸命に『打開策』なんて偉そうなものを考える事自体どうかしていた。


悩んでも、どうして良いか解らないのなら。

一層の事、彼女の不快に成るものを全力で潰す事によって、彼女の気持ちも、少しは晴らしてあげれば良かったんだ。


勿論、この程度の事で、奈緒さんを不快にさせた罰が許されるとは思ってはいない。

実際は、こんなものでは、まだ足りないぐらいだ。


なので俺は、彼女の言葉を聞かずに壁を殴り続ける。



「ダメだよクラ。それにそんな事したら、仲居間さんとの約束も果たせないじゃない」

「そんな事ないッスよ。アイツは『バンドを纏めろ』とは言いましたが『音楽を続けろ』とは1言も俺に言ってませんからね。此処で俺が潰れても、なんの問題もないッス」

「うっ、うっ、辞めて……もぉ辞めてよクラ……お願いだから……辞めてよぉ」


奈緒さんは、俺の背中をぐっと抱きしめてきた。



「……奈緒さん」

「もぅ意地悪言わないから、辞めてよ。……クラが、ホントに潰れちゃう。……死んじゃうよ」

「良いんッスよ、奈緒さん。奈緒さんが嫌な思いをしたんだから、こんなの当然の罰です。……寧ろ、死んでお詫びしたいくらいッスよ」

「違う……違うよ、クラ。死ぬなんて軽々しく言わないで。こんなの私が我儘言ってただけだよ」

「それこそ違うッスよ。奈緒さんは、一度たりとも我儘なんて言ってないッス。……いつも、裏切った俺なんかの事バッカリ考えてくれたッス。奈緒さんは優しいッス」

「私は、そんなんじゃないよ。……クラに他所を向かれて拗ねてただけ……優しくなんてない」

「そんな事ないッスよ。奈緒さんは、誰よりも優しいッス。……嫌な想いさせて、ゴメンな、奈緒さん」

「クラ……」


じっと見詰る彼女の頭を、俺はそっと撫でた。


嫌がる様子もなく、彼女は、それを受け止めてくれる。


ただ俺の拳から滴り落ちる血が、奈緒さんの髪に付着しそうになった。



「ごっ、ゴメン、奈緒さん……髪汚しちまった」

「良いよ、そんな事」

「けど」

「良いの。……私だって一杯我慢したんだから、もぅ少し頭を撫でててよ」

「……ウッス」


彼女の要求通り、頭を撫で続けた。


奈緒さんは満足気にしている。



「ねぇクラ……」

「なんッスか?」

「あのね。私、バンドに戻りたいって言ったら、どうする?」

「まじッスか?」

「こんな私だけど……戻っても良いのかな?迷惑じゃないかな?」


結局、奈緒さんは、本気でバンドを辞めたかった訳じゃなかった。

……って言うか、寧ろ、あのメンバーでしたくないって言う方がどうかしている。


ただ、また言い難い事を彼女に言わせたのは失敗だった。

此処は俺の方から、戻り易い様に、再度お願いするところなのに……


この人は……



「なに言ってんッスか?奈緒さんに戻って貰わなきゃ、誰が山中とバンドの骨を組むんッスか?俺の手、ちょっとの間、使えないッスよ」

「あっ……そうだね。ごめん。私のせいだよね」


凹む奈緒さんを見ながら、自分のデリカシーの無さにはホトホト呆れた。


自分で言うのもなんだが、よくもまぁ、こんな時に、そんな事が言えたもんだ。


最悪だな。


……けど、言い訳する訳じゃないんだが。

モスで言った様に、俺の脳には塩水しか入ってないし、単細胞の葉緑体だから勘弁して下さい。



「ゴメンね。……痛かったよね」

「大丈夫ッス。こんなの、全然痛くないッスよ」

「嘘つき……」

「ほんとッス!!ホント、全然痛くないッス」


実際、見た目は酷い事になっているが、痛みは一切無い。

恐らく、痛いのを通り越して、既に、痛覚が麻痺してるんだろうな。



「……クラ」

「あぁ、そんなに心配しなくても。いつも喧嘩ばっかりしてますから、こんなケガぐらい日常茶飯事ッスよ。だから、ホントに痛くないッスよ……そんな事より奈緒さん」

「うん?なに?」

「本当に、バンドに戻って来てくれるんッスか?」

「うん。……みんなが許してくれるなら」

「そいつは良い。俺も、そう願いたいもんだ」

「たっ、崇秀」

「なっ、仲居間さん」


いつも通り、なんの脈略も無く現れる。


このエスパー野郎!!

テメェは、とうとう瞬間移動まで出来る様になったのかよ!!


……ってかオマエ、折角良い雰囲気なのに、何しに来たんだよ!!


最後までお付き合いありがとうございました<(_ _)>


いやはや、倉津君、ちょっとは男気を見せましたね(笑)


まぁ、実際の話で言えば、理屈もへったくれもない解決方法なのですが。

どうして良いか解らずに悩み続けるぐらいなら、こういう粗野なやり方も有りなのかもしれませんね(*'ω'*)


さて、そんな風に、奈緒さんの件が解決に向かった所に。

この問題を定義した崇秀が、再び2人の前に姿を見せた訳なのですが……彼は一体何をする気なのでしょうかね?


それは次回の講釈(笑)

良かったら、また遊びに来て下さいねぇ~~~(*'ω'*)ノ

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