最後まで奏でられなかった音楽

どこかお間抜けDQNな不良さんのゆったり更生日誌(笑)
殴り書き書店
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043 不良さん 余計な一言で亀裂を入れる

公開日時: 2021年3月20日(土) 23:48
更新日時: 2022年11月7日(月) 22:28
文字数:4,411

●前回のおさらい●

ついつい口を滑らしてしまい。

崇秀のライブに行きたい奈緒さんに、崇秀が横浜に居る事を言ってしまう不良さん。


だが、今の奈緒さんと2人と言う状況を、もっと満喫したい不良さんは、その話を有耶無耶にしようとして……

「あぁ、別に良いッスけど。でも、奈緒さん、家に帰らなくても大丈夫なんッスか?」

「家に帰る?……あぁ、それなら心配ないよ。どうせアイツ等、私が帰らなくても、絶対になんとも思ってないからね」

「あっ……」


またやってしまった。


話を有耶無耶にする為に『家庭の話』を出してしまったのだが。

家庭に問題がありそうな奈緒さんの気持ちを考えるなら、間違っても、こんな馬鹿な質問をするべきじゃなかったな。


ほんと俺って奴は、どこまで気が利かねぇ人間なんだよ。


けど……奈緒さん。

何で、そんなに両親が嫌いなんだ?


まぁ、知りたくはあるんだが、ここは聞かぬが仏だよな。



「気にしなくて良いよ。そんな事より、クラ。……早く行こ」

「ッス」


奈緒さんは、そう言ってるが、ほんとにそれで良いのか?

こんな遅い時間まで、女の子を連れまわしても……


そうやってモスを出た後も、俺は、そんな小さな葛藤を繰り返していた。


***


「どうしたの?」


モスを出た後。

妙に暗い顔で横を歩く俺に気遣ったのか、奈緒さんの方から声を掛けられる。



「あの……ホントに良いんッスか?」

「んっ?あぁ、アイツ等の事なら、別に、どうでも良いよ」

「けど……せめて、家に電話ぐらい入れた方が良くないッスか?」

「もぉ、しつこいなぁ……私、お節介されるのって嫌いなの。ホントは、クラも興味本位で、そんな事を聞いてるだけなんでしょ」

「えっ?違ッ……いや、あの、すっ、すみません」

「あっ……ごめ……クラ」


奈緒さんは口を押さえている。

恐らく、口が過ぎたと思っているんだろうな。


これによって、少しの間、横浜の雑踏とは異なり無言が続く。



「・・・・・・あの」

「さっきは、急に変な事を言って、ごめんね、クラ……っで、なに?なにかな?」


彼女の表情は、いつものそれだが、矢張り、どこか曇りがある。

幾ら俺が鈍感でアホだからと言っても、それぐらいの事は俺でも察しがつく。


でも、もう、これ以上の詮索は辞めよう……お互いが、変に傷つくだけだ。



「あぁ……いや、ヤッパ、その話は辞めます」

「あぁうん、そうだね。それが、きっと最良だと思うよ」

「でも、この話は終わりとしても。せめて、これだけは言わせて下さい」


でも、これだけは言って置きたい。


自分勝手な話なのかも知れないが。

このまま奈緒さんを放って置けば、何かの拍子に、それが原因と成って、いずれ壊れてしまう様な気がして成らない。


そんな奈緒さんを見る訳にはいかないし……見たくもない。



「うん、良いよ。なに?」

「さっきの話……俺、興味本位とかじゃないッスから」


勿論、弁解するつもりは無い。

ただ正直に、これを口にする必要性が、此処にはある様に思える。


『奈緒さんの味方に成る』なんて言えるほど、俺は、そんな大層な存在ではないが。

少しでも家族との溝が埋まるなら、こんな俺でも居ないよりはマッシだろ。


それに、こんな時に崇秀の話をするのも、なんなんだけど。

アイツなら、こんな時、必ず正直にものを言う。


それでしくじった試しが無いんだから、これは、俺にとっても見習うべき点だと思えた。


まぁ、アイツの様に上手くは言えないけど……



「うん。知ってる。解ってるよ」

「俺……俺も、親には心配掛け捲ってますから……人の事を言えた義理じゃないッスけど……」

「うん、そうだね……でも、さっきも言ったけど。そういうお節介は嫌いだよ」

「そうッスね……でも、でもッスよ。奈緒さんは女の子なんだから……その……今の奈緒さん見てたら、お節介だと解ってても、心配になるのは当たり前じゃないですか?」

「クラ……ホント、君って呆れるぐらい純粋なんだね。でも、私は、そんなお節介なクラなんか大嫌いだよ。……優しくされる方が辛い時だってあるのに、君は何も解ってないね。……私はね。味方なんて誰もイラナイの。……1人の方が気が楽だもん」


1人かぁ……


確かに1人は、彼女の言う通り滅茶苦茶楽だ。

人間関係なんて、一番面倒くさいだけのものだからな……


けど、それは『ただ楽なだけで、なにも生まない』

1人で考える事なんて高が知れてる。


俺は、彼女に、自分の必要性を感じて貰えなかったと思い。

此処で悪い事に、少し感情的な言葉を発してしまう。



「だったら奈緒さんは、いつ、人に甘えるんですか?一人が楽なのも解りますが、1人で生きていける人間なんか居る訳ないじゃないですか」

「……ねぇ、なんで君が、そこまでハッキリ言えるの?ねぇ、その答えを教えてよ?今まで君が、どれだけ素晴らしい人間関係を築いて来たって言うの?ねぇ、どうなの?なんか言ってみてよ」


俺の言葉が癇に障ったのか、奈緒さんの言葉もキツクなった。

どうやら俺の発した言葉が、売り言葉に買い言葉になってしまったらしい。


このまま悪い方向に行かなければ良いが……


けど、この人……



「しっ……」

「しっ?なによ?」

「しっ、知るかよ、そんなもん!!俺はな、奈緒さんが好きだから、出来もしねぇお節介も焼いてんだよ。好きな女が困ってたら、四の五の言わず、普通、心配すんだろうがぁ」

「なっ!!それがお節介だって言ってるんでしょ。変に構わないでくれない」

「マジでアンタ馬鹿か?俺は好き好んで、アンタにお節介焼いてんだよ。そんな事もわからねぇなんて救いがねぇな。俺、なんでこんな女が好きなんだよ。クッソ訳わかんねぇ」


あぁ、あぁ、もぉなにを言ってんだよ俺は。

これじゃあ、本当に訳が解らないじゃないかよぉ。


ただの罵り合いだ。



「……うるさいなぁ」

「あぁ?」

「うるさい!!うるさい!!うるさい!!うるさいって言ってるの……アンタ、自分の好きな女の事も解らない馬鹿なの?それで、なにが好きだって言えるのよ?アンタの言ってる事は、ただ叫んでるだけの意味のない言葉。そんなんじゃ、何も心になんか響かないのよ……絶対に響かない。響いてやるもんか!!」


ほらな。

より感情的になってしまっただろ。


俺が訳のわからない事を言い出したから、相当、頭にきたんだろうな。


でも、なんか今『響かない』って言ってたな。

この言葉の意味を考えれば、きっとなにかあるな。


これはもう少し、彼女の感情に合せてみる価値はあるな。



「なんでわかんねぇんだよ、アンタは?どんだけ自分勝手なんだよ。相手を理解しようともせずに、自分の事は理解しろだと?はぁ?自分の殻に閉じこもんのも結構だがな。馬鹿は休み休み言え。アンタが、そこまで言うんだったら、逆に、自分から自分を曝け出してみろよ。全部、俺がアンタの不満を聞いてやるからよ。言ってみろよ」

「あんまりふざけないでよ、クラ。じゃあ、私が全てを曝け出したら、どうなるって言うのよ?アンタが、なにかしてくれる訳?中坊のアンタに何が出来るの?ねぇなに?ねぇ?ねぇ?ねぇ?何が出来るの?」


あぁダメだ、これは逆効果だったかな。

状況は、更に悪化の一途を辿りドンドンヒートアップして行く一方だ。


俺も既に、かなり感情的になってるし、これは、俺も奈緒さんも止まらないな。



「なにが『ねぇ?ねぇ?ねぇ?』だ。じゃあアンタの希望通り事を、俺があんたの願いを全部叶えてやるよ。不本意だが、アンタの為なら、親父の力でも、なんでも使って助けてやる。……これなら文句はねぇだろ。だから、さぁ言えよ。アンタを、そこまで締め付けるもんは、なんなんだよ?」

「笑わせないでよ。……私が、アンタに近付いた訳も知らないくせに」


あぁそっか。


此処で、その話が出るか……



「……奈緒さん……他の事は解んねぇかも知んねぇけど。俺、それだけは知ってるよ」

「えっ?」


はぁ、やっぱそうか。

結論的には、矢張りそう言う事でしかなかったんだな。


そうだよな……最初から、なんかおかしいとは思ってたんだよな。

大体して、崇秀じゃ有るまいし、俺が女の子にモテるなんて、ヤッパ変だとは思ったんだよな。


これでまた……崇秀に笑われるな。


まっ、良いっか。



「普通に考えても、奈緒さんみたいな綺麗な人が、俺みたいなクズに……興味なんか持つ訳ないだろ」

「えっ……」

「俺だって、そこまでお間抜けじゃねぇよ。奈緒さんの目的は……俺ん家の金なんだろ。奈緒さんは、俺ん家が金持ちだから近付いて来ただけなんだろ」

「えっ?ちっ、違っ……」

「良いからさ。……いくっ、幾ら欲しいんだよ?俺がさぁ、親父から盗んででも……金……持って来てやるよ」

「違ッ……違う……」

「奈緒さんの親父さん、凄ぇ借金あんだってな。……奈緒さん、ホントは、それを返したいだけなんだろ?そんで、家族一緒に暮らしたいんだろ?もしそうなんだったら、早く言わないと、俺……気が変わちゃうッスよ」

「なんで?……なんで?そこまでクラがするのよ?解らないよ?」


解んないっスか?



「だってさ。俺、奈緒さんには良い夢見させて貰ったもん。それに俺、男だから、夢を見させてくれた女の子には、ちゃんとお礼……しなくっちゃな」


まぁ、男特有のアホな考えなんだが。

奈緒さんには、俺が仄かな夢を見させて貰ったのも事実だし、こんな真似をしたら100%親父にも勘当されるだろうけどもだな。


やっぱり、自分が好きになった女の為なら、例えそれが相手の嘘であっても、お礼はすべきだと思う。


まっ、それにだ。

勘当されたらされたで、それはそれで清々するし、なにも悪い事ばかりじゃない。


だから、これで良いんだよ、これで……



「クラ……本気で私なんかの事……好きだったの?」

「『私なんか』でもないし『だったの?』でもないッスよ。俺、正真正銘の馬鹿だから、今でも奈緒さんの事が十分好きッス……多分、世界一好きッスよ」

「なんで?なんで君は、そんな風に私を許せるの?おかしいよね」

「なに言ってんッスか。奈緒さんじゃなきゃ許さないッスよ。他の女があんな事を言ったら、ひっぱたいて、ボコボコにしばいてますよ」

「えっ?」

「当然でしょ。俺……ヤクザの息子なんッスから」


まぁ、産まれてこの方、女に手を上げた事だけは無いんだけどな。

それでも、こう言った方が、今の奈緒さんには俺の気持ちが伝わりやすいとは思った。


けど、これで完全に終わったな俺。

此処に来て、自分の暴力性とヤクザを主張して、どうするんだよ?


馬鹿を通り越して、超絶大間抜けだ。



「さぁ、奈緒さん。このまま、こんな所で話してるのもなんだし。取り敢えず、馬鹿秀の所に行きましょうか。金銭的な話も、そこでキッチリ聞きますから」


そっと奈緒さんに肩に触れる。


多分、これで彼女に触れるのは最後だな。


『パシッ!!』



「触らないで……」

「うっ!!……はっ、はっはははっ、流石の俺でも、こればっかりはキツイっすね」


俺の手は、奈緒さんの手によって弾かれた。


けど、これもしょうがないか……ヤクザの息子だもんな。

ヤクザの息子だったら、こう言う態度を取られても仕方ないよな。


俺だって一般人だったら、ヤクザと関わるのは御免被りたい所だしな。

奈緒さんの気持ちは痛い程解る。


……でも、好きな女の子に、これをやられるのは、流石にキツイな。


最後までお付き合いありがとうございました<(_ _)>


倉津君の余計な一言から、とんでもない事に成ってしまいましたね。

そして奈緒さんも『金目当てに近づいてきた』と言う隠してきた本性を表し、倉津君が差し伸べた手を弾いてしまった。


……このまま2人は終わってしまうのでしょうか?


次回に、こうご期待(笑)


また遊びに来て下さいねぇ(*'ω'*)ノ

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