●前回のおさらい●
ついつい口を滑らしてしまい。
崇秀のライブに行きたい奈緒さんに、崇秀が横浜に居る事を言ってしまう不良さん。
だが、今の奈緒さんと2人と言う状況を、もっと満喫したい不良さんは、その話を有耶無耶にしようとして……
「あぁ、別に良いッスけど。でも、奈緒さん、家に帰らなくても大丈夫なんッスか?」
「家に帰る?……あぁ、それなら心配ないよ。どうせアイツ等、私が帰らなくても、絶対になんとも思ってないからね」
「あっ……」
またやってしまった。
話を有耶無耶にする為に『家庭の話』を出してしまったのだが。
家庭に問題がありそうな奈緒さんの気持ちを考えるなら、間違っても、こんな馬鹿な質問をするべきじゃなかったな。
ほんと俺って奴は、どこまで気が利かねぇ人間なんだよ。
けど……奈緒さん。
何で、そんなに両親が嫌いなんだ?
まぁ、知りたくはあるんだが、ここは聞かぬが仏だよな。
「気にしなくて良いよ。そんな事より、クラ。……早く行こ」
「ッス」
奈緒さんは、そう言ってるが、ほんとにそれで良いのか?
こんな遅い時間まで、女の子を連れまわしても……
そうやってモスを出た後も、俺は、そんな小さな葛藤を繰り返していた。
***
「どうしたの?」
モスを出た後。
妙に暗い顔で横を歩く俺に気遣ったのか、奈緒さんの方から声を掛けられる。
「あの……ホントに良いんッスか?」
「んっ?あぁ、アイツ等の事なら、別に、どうでも良いよ」
「けど……せめて、家に電話ぐらい入れた方が良くないッスか?」
「もぉ、しつこいなぁ……私、お節介されるのって嫌いなの。ホントは、クラも興味本位で、そんな事を聞いてるだけなんでしょ」
「えっ?違ッ……いや、あの、すっ、すみません」
「あっ……ごめ……クラ」
奈緒さんは口を押さえている。
恐らく、口が過ぎたと思っているんだろうな。
これによって、少しの間、横浜の雑踏とは異なり無言が続く。
「・・・・・・あの」
「さっきは、急に変な事を言って、ごめんね、クラ……っで、なに?なにかな?」
彼女の表情は、いつものそれだが、矢張り、どこか曇りがある。
幾ら俺が鈍感でアホだからと言っても、それぐらいの事は俺でも察しがつく。
でも、もう、これ以上の詮索は辞めよう……お互いが、変に傷つくだけだ。
「あぁ……いや、ヤッパ、その話は辞めます」
「あぁうん、そうだね。それが、きっと最良だと思うよ」
「でも、この話は終わりとしても。せめて、これだけは言わせて下さい」
でも、これだけは言って置きたい。
自分勝手な話なのかも知れないが。
このまま奈緒さんを放って置けば、何かの拍子に、それが原因と成って、いずれ壊れてしまう様な気がして成らない。
そんな奈緒さんを見る訳にはいかないし……見たくもない。
「うん、良いよ。なに?」
「さっきの話……俺、興味本位とかじゃないッスから」
勿論、弁解するつもりは無い。
ただ正直に、これを口にする必要性が、此処にはある様に思える。
『奈緒さんの味方に成る』なんて言えるほど、俺は、そんな大層な存在ではないが。
少しでも家族との溝が埋まるなら、こんな俺でも居ないよりはマッシだろ。
それに、こんな時に崇秀の話をするのも、なんなんだけど。
アイツなら、こんな時、必ず正直にものを言う。
それでしくじった試しが無いんだから、これは、俺にとっても見習うべき点だと思えた。
まぁ、アイツの様に上手くは言えないけど……
「うん。知ってる。解ってるよ」
「俺……俺も、親には心配掛け捲ってますから……人の事を言えた義理じゃないッスけど……」
「うん、そうだね……でも、さっきも言ったけど。そういうお節介は嫌いだよ」
「そうッスね……でも、でもッスよ。奈緒さんは女の子なんだから……その……今の奈緒さん見てたら、お節介だと解ってても、心配になるのは当たり前じゃないですか?」
「クラ……ホント、君って呆れるぐらい純粋なんだね。でも、私は、そんなお節介なクラなんか大嫌いだよ。……優しくされる方が辛い時だってあるのに、君は何も解ってないね。……私はね。味方なんて誰もイラナイの。……1人の方が気が楽だもん」
1人かぁ……
確かに1人は、彼女の言う通り滅茶苦茶楽だ。
人間関係なんて、一番面倒くさいだけのものだからな……
けど、それは『ただ楽なだけで、なにも生まない』
1人で考える事なんて高が知れてる。
俺は、彼女に、自分の必要性を感じて貰えなかったと思い。
此処で悪い事に、少し感情的な言葉を発してしまう。
「だったら奈緒さんは、いつ、人に甘えるんですか?一人が楽なのも解りますが、1人で生きていける人間なんか居る訳ないじゃないですか」
「……ねぇ、なんで君が、そこまでハッキリ言えるの?ねぇ、その答えを教えてよ?今まで君が、どれだけ素晴らしい人間関係を築いて来たって言うの?ねぇ、どうなの?なんか言ってみてよ」
俺の言葉が癇に障ったのか、奈緒さんの言葉もキツクなった。
どうやら俺の発した言葉が、売り言葉に買い言葉になってしまったらしい。
このまま悪い方向に行かなければ良いが……
けど、この人……
「しっ……」
「しっ?なによ?」
「しっ、知るかよ、そんなもん!!俺はな、奈緒さんが好きだから、出来もしねぇお節介も焼いてんだよ。好きな女が困ってたら、四の五の言わず、普通、心配すんだろうがぁ」
「なっ!!それがお節介だって言ってるんでしょ。変に構わないでくれない」
「マジでアンタ馬鹿か?俺は好き好んで、アンタにお節介焼いてんだよ。そんな事もわからねぇなんて救いがねぇな。俺、なんでこんな女が好きなんだよ。クッソ訳わかんねぇ」
あぁ、あぁ、もぉなにを言ってんだよ俺は。
これじゃあ、本当に訳が解らないじゃないかよぉ。
ただの罵り合いだ。
「……うるさいなぁ」
「あぁ?」
「うるさい!!うるさい!!うるさい!!うるさいって言ってるの……アンタ、自分の好きな女の事も解らない馬鹿なの?それで、なにが好きだって言えるのよ?アンタの言ってる事は、ただ叫んでるだけの意味のない言葉。そんなんじゃ、何も心になんか響かないのよ……絶対に響かない。響いてやるもんか!!」
ほらな。
より感情的になってしまっただろ。
俺が訳のわからない事を言い出したから、相当、頭にきたんだろうな。
でも、なんか今『響かない』って言ってたな。
この言葉の意味を考えれば、きっとなにかあるな。
これはもう少し、彼女の感情に合せてみる価値はあるな。
「なんでわかんねぇんだよ、アンタは?どんだけ自分勝手なんだよ。相手を理解しようともせずに、自分の事は理解しろだと?はぁ?自分の殻に閉じこもんのも結構だがな。馬鹿は休み休み言え。アンタが、そこまで言うんだったら、逆に、自分から自分を曝け出してみろよ。全部、俺がアンタの不満を聞いてやるからよ。言ってみろよ」
「あんまりふざけないでよ、クラ。じゃあ、私が全てを曝け出したら、どうなるって言うのよ?アンタが、なにかしてくれる訳?中坊のアンタに何が出来るの?ねぇなに?ねぇ?ねぇ?ねぇ?何が出来るの?」
あぁダメだ、これは逆効果だったかな。
状況は、更に悪化の一途を辿りドンドンヒートアップして行く一方だ。
俺も既に、かなり感情的になってるし、これは、俺も奈緒さんも止まらないな。
「なにが『ねぇ?ねぇ?ねぇ?』だ。じゃあアンタの希望通り事を、俺があんたの願いを全部叶えてやるよ。不本意だが、アンタの為なら、親父の力でも、なんでも使って助けてやる。……これなら文句はねぇだろ。だから、さぁ言えよ。アンタを、そこまで締め付けるもんは、なんなんだよ?」
「笑わせないでよ。……私が、アンタに近付いた訳も知らないくせに」
あぁそっか。
此処で、その話が出るか……
「……奈緒さん……他の事は解んねぇかも知んねぇけど。俺、それだけは知ってるよ」
「えっ?」
はぁ、やっぱそうか。
結論的には、矢張りそう言う事でしかなかったんだな。
そうだよな……最初から、なんかおかしいとは思ってたんだよな。
大体して、崇秀じゃ有るまいし、俺が女の子にモテるなんて、ヤッパ変だとは思ったんだよな。
これでまた……崇秀に笑われるな。
まっ、良いっか。
「普通に考えても、奈緒さんみたいな綺麗な人が、俺みたいなクズに……興味なんか持つ訳ないだろ」
「えっ……」
「俺だって、そこまでお間抜けじゃねぇよ。奈緒さんの目的は……俺ん家の金なんだろ。奈緒さんは、俺ん家が金持ちだから近付いて来ただけなんだろ」
「えっ?ちっ、違っ……」
「良いからさ。……いくっ、幾ら欲しいんだよ?俺がさぁ、親父から盗んででも……金……持って来てやるよ」
「違ッ……違う……」
「奈緒さんの親父さん、凄ぇ借金あんだってな。……奈緒さん、ホントは、それを返したいだけなんだろ?そんで、家族一緒に暮らしたいんだろ?もしそうなんだったら、早く言わないと、俺……気が変わちゃうッスよ」
「なんで?……なんで?そこまでクラがするのよ?解らないよ?」
解んないっスか?
「だってさ。俺、奈緒さんには良い夢見させて貰ったもん。それに俺、男だから、夢を見させてくれた女の子には、ちゃんとお礼……しなくっちゃな」
まぁ、男特有のアホな考えなんだが。
奈緒さんには、俺が仄かな夢を見させて貰ったのも事実だし、こんな真似をしたら100%親父にも勘当されるだろうけどもだな。
やっぱり、自分が好きになった女の為なら、例えそれが相手の嘘であっても、お礼はすべきだと思う。
まっ、それにだ。
勘当されたらされたで、それはそれで清々するし、なにも悪い事ばかりじゃない。
だから、これで良いんだよ、これで……
「クラ……本気で私なんかの事……好きだったの?」
「『私なんか』でもないし『だったの?』でもないッスよ。俺、正真正銘の馬鹿だから、今でも奈緒さんの事が十分好きッス……多分、世界一好きッスよ」
「なんで?なんで君は、そんな風に私を許せるの?おかしいよね」
「なに言ってんッスか。奈緒さんじゃなきゃ許さないッスよ。他の女があんな事を言ったら、ひっぱたいて、ボコボコにしばいてますよ」
「えっ?」
「当然でしょ。俺……ヤクザの息子なんッスから」
まぁ、産まれてこの方、女に手を上げた事だけは無いんだけどな。
それでも、こう言った方が、今の奈緒さんには俺の気持ちが伝わりやすいとは思った。
けど、これで完全に終わったな俺。
此処に来て、自分の暴力性とヤクザを主張して、どうするんだよ?
馬鹿を通り越して、超絶大間抜けだ。
「さぁ、奈緒さん。このまま、こんな所で話してるのもなんだし。取り敢えず、馬鹿秀の所に行きましょうか。金銭的な話も、そこでキッチリ聞きますから」
そっと奈緒さんに肩に触れる。
多分、これで彼女に触れるのは最後だな。
『パシッ!!』
「触らないで……」
「うっ!!……はっ、はっはははっ、流石の俺でも、こればっかりはキツイっすね」
俺の手は、奈緒さんの手によって弾かれた。
けど、これもしょうがないか……ヤクザの息子だもんな。
ヤクザの息子だったら、こう言う態度を取られても仕方ないよな。
俺だって一般人だったら、ヤクザと関わるのは御免被りたい所だしな。
奈緒さんの気持ちは痛い程解る。
……でも、好きな女の子に、これをやられるのは、流石にキツイな。
最後までお付き合いありがとうございました<(_ _)>
倉津君の余計な一言から、とんでもない事に成ってしまいましたね。
そして奈緒さんも『金目当てに近づいてきた』と言う隠してきた本性を表し、倉津君が差し伸べた手を弾いてしまった。
……このまま2人は終わってしまうのでしょうか?
次回に、こうご期待(笑)
また遊びに来て下さいねぇ(*'ω'*)ノ
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