●前回のおさらい●
どうにも不甲斐ない精神から抜け出せないままの倉津君は、少し気の入っていない演奏をしてしまった。
そんな倉津君を見兼ねた崇秀は『奈緒さんを日本に滞在させる計画を実行中』っと教える。
それを聞いた倉津君は一気にテンションが上がり、このステージでの最後の演奏へと向かっていった。
「OK。みんな、所定の位置に付いたか?山中、チェックしたら音を出してくれ」
「あいよぉ!!……おっしゃ、ほんだら行くで『Fool's Rocker』1・2!!」
♪♪-♪♪♪-♪-♪---♪♪♪--♪♪♪-♪♪-♪--♪♪♪♪♪--♪-♪--♪♪♪-♪--♪-……
俺は、奈緒さんの為だけに懸命にベースを弾いた。
いや……それすらも覚えてないぐらい無心になって、ベースをかき鳴らした。
この後、俺は真っ白になって……なにも覚えていない。
***
鳴り止まない拍手……
次の曲を要求する観客のアンコールの声……
……現実に引き戻されたのは、曲が終わった後に聞こえてくる、そんな観客達の歓声だった。
気付くと……アホの樫田も、崇秀の姿もなく。
左渡りのステージに、ただ1人、俺はポツンと取り残されていた。
そんな俺は、なんとも言えない様な疲労感に包まれながらも、メインステージに向って歩き出す。
「良い感じだっただろ」
「「「「「仲居間さん、最高!!アンコールだアンコール!!」」」」」
「ダメだダメだ。俺はこれから、少し告知をしなきゃいけねぇの。アンコールは、気が向いたら、その後だ」
「「「「「ぶぅぶぅぶぅぶぅ」」」」」
恐らく、さっきの曲は、相当な盛り上がったのだろう。
アンコールに応えない崇秀に対してのブーイングは凄まじいものだった。
「ッたく、どこの客もブゥブゥうるせぇなぁ。良いから、ちょっと待てっての」
「待ったら、なんか良い事でも有るのかよ?」
「そりゃあそうだろ。じゃなきゃ、アンコール停めてまで、こんな事は言わねぇよ」
「……ッで、その面白い事って、なんなんだよ、仲居間さん?」
「んあ?……んなもん決まってんだろ。今、俺が呼んだ連中を統括する人間を紹介する。それだけだ」
「オイ、仲居間さん……まさか」
「あぁ、それだそれ。俺が密かにホームページにアップした人間。……このメンバー全員を統括して、プロデュースするのは『ZaP』の前田朔哉だ」
「マジかよ……」
此処で、今崇秀に紹介された前田朔哉について少し話して置こう。
●前田朔哉●
1985年にメジャーデビューしたロックバンド『ZaP』のボーカル。
『たまり場』『行き先の無い道』『憶え立ての煙草』『壁の落書き』『一枚しかない校舎の窓ガラス』『軋み』
などの名曲を配信。
その強い不良視点から奏でられる曲は、俺達の様な落ちこぼれから多くの共感を得る事に成った。
また不良達のカリスマ的存在でもあり、前田は『サク』の愛称で親しまれている。
そんなロック魂とは別に、前田は『愛眼バンク』に登録するなどの、人間性豊かな一面も持ち合わせている。
現在29歳。
前田朔哉は、そんな男だ。
ただ此処数年……時代の流れから人気の低迷を余儀なくされ、陰りが見え始めているのも事実。
理由として挙げられのが……『不良』や『番長』と言った存在がこの世の中から消え始め、絶滅危惧種になっている事。
また、それに伴って『チーマー』『カラーギャング』っと言った、群れを成して悪さをする人間が増え始めたからだ。
これ等の存在の出現により、今現在、前田は『旧世代の遺物』として扱われている。
彼が生き残るには、少々厳しい時代背景になったと言えよう。
そこで恐らく……この辺りを熟知した上で、仲居間崇秀と言う男は、彼を自陣に招聘したのだろう。
奴は、前田の根強い人気層を自分に取り込み。
その上で、時代にあった女の子のユニットを、彼にプロデュースさせ、人気商品を作り上げるつもりだ。
もしこれが事実なら、奴は、本当にロクデモナイ男だ。
「んじゃま、前田の兄貴登場!!……&『アルファー』の高見崎の兄貴!!」
なっ!!
コイツ……『ZaP』の前田だけでは飽き足らず『アルファー』高見崎まで引っ張り出して、自分の陣営に組み込んでやがったのか!!
人材とコネが読めないにも程があるぞ!!
あぁでも、そう言えば、奈緒さんを紹介する際に『アルファーの高見崎が惚れ込んだ声』って言った様な気が……
「「「「「前田あぁ~~~ッ!!高見崎いぃ~~~ッ!!」」」」」
「おぉ、良い声援だ……『ZaP』の前田だ。ヨロシク!!」
「「「「「うわぁあぁぁぁぁぁぁ~~~~!!サクうぅぅ~~!!」」」」」
「『アルファー』の高見崎。皆さん、ようこそ『GUILD』へ」
「「「「「わぁあぁぁぁぁぁぁ~~~~っ!!ミザさ~~ん!!」」」」」
「「「「「前田あぁ~~~ッ!!高見崎いぃ~~~ッ!!」」」」」
矢張り、有名人の盛り上がりは、素人の入場とは大違いだな。
今現在、幾ら崇秀が人気があるとは言え、この2人の登場には敵わない様だ。
その観客に応える人気者の2人を見ながら……崇秀は、なにを思ったのか、急に、右手を上げて一言だけ言葉を発した。
勿論、言うまでもなくロクデモナイ一言を……
「んじゃま、お2人さん、後ヨロ」
「ゴラアァァ~~~ッ、崇秀!!イキナリ丸投げにして逃げんじゃねぇぞ」
「うっせぇジジィ!!ゴチャゴチャ言ってねぇで、サッサと『GUILD』設立の経緯でも話しやがれ!!俺は忙しいの」
「オマエだけは……」
こいつマジか?
公衆の面前で『ZaP』の前田にタメ口叩きやがった。
有り得ねぇ!!
「……ッたく、サクは面倒臭ぇなぁ……あぁそうだ、そうだ。だったらミザさん、後ヨロ」
「うん、絶対に嫌だよ。誰が説明なんかするもんか」
「ぐっ!!この人も、意外と面倒臭ぇなぁ。……まぁ良いや、しょうがねぇ。んっじゃま、簡単に俺が説明……なんぞ、誰がするかぁ!!後ヨロ!!後ヨロ!!」
……逃げた。
いつも通りのゴールドセイント張りの光速さで、観客を無視して逃げて行きやがった。
なんて奴だ!!
俺も、この場に居たら、なにやらマキゾイを喰らいそうな気がしたので、崇秀に倣ってバックステージに逃げ込んだ。
***
少しして、観客の歓声が再び復活する。
恐らくは、あの2人が、諦めて『GUILD』の説明を始めたのだろう。
にしても……奴のライブは、やっぱハンパじゃねぇな。
まだ、これ以上の隠し玉を持ってる様な気がしてならねぇ……
マジでおっかねぇな。
最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございますです<(_ _)>
これにて第四十八話『魔王のライブ』は終了に成りますが……今回の崇秀の演出は如何だったでしょうか?
ハッキリ言えば、無茶苦茶でしたね(笑)
ですが、ライブでも、小説でも、エンターティメントならなんでもそうなんですが。
観ている人が予想出来る様な予定調和的な出来事が起こっても、実際は感動や、驚きなんて覚えて貰えない。
矢張り、なにが起こるか解らないからこそ、エンターティメントは面白いのだと思います。
ただこの場合、必要な事がありまして。
観客や読者さんに無茶苦茶だと思わせても、それでいて計算付くである事は大事だと思います。
主催者が考え無しで行動を起こしている様では、話にも成りませんからね(笑)
さてさて、そんな感じで終わった湘南ライブなのですが。
次回からは第四十九話『終わらないライブ』を書いていきたいと思います。
先程の倉津君の願いは叶うのでしょうか?
それは次回の講釈と言う事で。
また良かったら遊びに来て下さいねぇ~~~(*'ω'*)ノ
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