●前回のおさらい●
みんなの制止も聞かずに、川崎にある真上さんのお店を訪れた倉津君。
だが、みんなが言う様な「黒い噂」が目につかない処か、真上さんは真っすぐに生きており。
『両親が交通事故に遭って入院している』っと言う事実さえ表に出さず、笑顔を振りまき、他人の事を目一杯気遣う、まるで聖人君主の様な生き様。
そんな彼女の生き様を見た倉津君は……
「だったら俺が……」
「あの、同情はしないで下さいね。私、楽しく、店をさせて頂いてますので」
「けどッスね」
「本当に大丈夫ですから……そんな事より、お茶が冷めちゃいますよ。良かったら、早く召し上がって下さい」
「そっ、そうッスね」
強い人だな。
本当に、この人は強い人だ。
俺に有無を言わせない信念が篭った眼で、俺を捉えてる。
こうやって見ると、ヤッパリ、この人は奈緒さんにソックリだ。
自分の弱い所を、他人には絶対に見せないし、自分の行動には全て信念を持ってる。
それに強烈なまでに、自分に対しての自信も持っている。
けど……良く見ると、心なしか辛そうなんだよな。
「あの、真上さん」
「あっ、はい、なんですか?」
「辛くはないんですか?」
「本音を言えば、少し辛いですよ。ですが、ヤッパリ辛くないんです」
「なんでッスか?そんな境遇に置かれてるのに、なんで、そんなに強く居られるんッスか?」
「クスッ。私なんて、決して強くはないですよ。……倉津さんの様に、みなさんが、私の事を必要として頂けるから、必死に頑張れる。だから、辛くないだけなんですよ」
「真上さん……」
真上さんは、自分に降り懸ってくる不幸を呪ったりしない。
それどころか、常に前を向き、ポジティブな思考に変換する。
しかも、それを極自然に……
「さぁ、もぅこんな話は終わりにしましょう。お茶……本当に冷めちゃいますよ」
そういって、ポットから紅茶を抽出すると……また、彼女は微笑んだ。
なら俺も話題を変えよう。
真上さんの言った通り、こんな話は続けるべき話じゃないしな。
俺は、彼女の淹れた紅茶を啜りながら、話のネタを探した。
そう言えば、これ……
「そう言えば、この間からズッと思ってたんッスけど、この紅茶って、凄く美味いッスね」
「そうですか。気に入って頂けて良かったです」
丁度、良いネタがあった。
以前から思ってたんだが、真上さんの淹れる紅茶は、滅茶苦茶美味い。
正確な味が、ドウとか、コウとか言われたらわかんねぇが、純粋に美味い。
だから、これをネタにする事にした。
真上さん、こう言う話が好きそうだしな。
「紅茶のメーカーとかは正直わかんないッスけど。美味いッス」
「そうですか。これ、唯一の私の趣味なんですよ」
「紅茶がッスか?」
「はい、そうなんです。伝統と格式。それに実務。そんな想いが篭ってて、紅茶って、淹れ方次第では、色々な味に変化させる事が出来るんですよ。なんだか、それって、人と接してるみたいじゃないですか」
「そっ、そうッスか?」
紅茶=人?
スーパーで売ってるティーバッグが限界の俺には、その世界観はわからんな。
しかも、紅茶自体を、殆ど飲んだ事が無い。
絶望的な知識差だな。
「後は、紅茶同様に、ハーブなんかを育てるのも好きなんですよ」
「紅茶とハーブ?ハーブティーって奴ですか?」
「そうです、そうです。宜しかったら、なにか一杯、お淹れしましょうか?」
「あっ、はい」
どんな物なのかさえ、全然わかんねぇ。
けど、真上さんが、兎に角、楽しそうだから、彼女のしたい様にさせてあげよう。
***
そして数分後、新しいティポットを持って戻ってくる。
「お待たせしました」
「あっ、はい」
なんでだろうか、やけに緊張するなぁ。
多分、初体験のモノを口にするからなんだろうが、妙な緊張感が走る。
それに伴って、真上さんを見れなくなった俺は、彼女の手に注目しだした。
ゆったりとした動作でカップに紅茶を注いでくれているんだが、彼女の手は少し傷が多い。
……っと言っても、リストカットとかの痕じゃねぇぞ。
彼女の全体的な見た目と違って、仕事をしている『職人の手』なんだよな。
けど、俺には、この手が、凄く彼女に合っていると思えた。
だってよ、手入ればっかりして、なにもしない馬鹿女の手なんかより、よっぽど綺麗な手だからだ。
だから、彼女の手に有っても、なんの違和感も感じない。
自分でも気付かぬ間に、俺は、そんな彼女の手にすら『魅入られ』ていた。
「あの、倉津さん」
「あっ、あぁはい。なんッスかね?」
「そんなに手を見ないで下さい。あまり綺麗な手じゃないんで……」
女の子だから嫌なんだろうか?
彼女は、紅茶をカップに淹れ終えると、サッと手を隠した。
「なんでッスか?凄く綺麗な手ですよ」
「えっ?ですけど、こんな手……」
矢張り、手を隠したままだ。
余程、自分の手が嫌いなんだろうな。
「こんな手とか言っちゃダメっすよ。仕事をしている人の手は、なによりも綺麗な手なんッスから。どんなに行き届いた手入れをしている手より、ズッと真上さんの手の方が綺麗だと思いますよ」
「えっ?あっ、ありがとうございます。なんて言って良いんでしょうか。そんな風に言って頂けるのは、生まれて初めてなんで、凄く……嬉しいです」
「なら、もっと自分の手に自信を持って欲しいッスね。その美しさは俺が保証しますから」
「あっ、はい……ありがとうございます」
なんだか『いつもと違う笑顔』で喜んで貰えた。
んじゃま、喜んで貰った所で、彼女の淹れてくれたハーブティとやらをご馳走になるか。
感想で良い表現を出来るかどうかは、非常に疑問なところだが、包み隠さず、率直な意見を言わせて貰おう。
そんな風に考えながら、俺はティーカップに手をやった。
すると、さっきとは立場が逆転。
今度は真上さんの方が、俺をジッと見て、楽しそうな表情を浮かべている。
だが、それすらもなんだか照れくさいのは、言うまでもない。
「真上さん、ガン見しすぎッス。流石に飲みづらいッスよ」
「えっ?あっ、あぁっと、ごっ、ごめんなさい。倉津さんが、あまりにも神妙な顔をしてたもので……つい」
「ははっ、ハーブティなんて飲むの初めてなんで、緊張してるんッスよ」
「くすっ……そんなに大層な物じゃないですよ。それに自家製だから、いつでも作れますので、お気になさらずに、お好きな様に、お飲み下さい」
「そうッスか?じゃあ、気にせず飲みます」
「どうぞ、召し上がれ」
真上さんに促されるまま、口をつけた。
すると、口の中が、一気にスッキリしたた爽快感に覆われて行く。
「これ、なんッスか?これ、なんッスか?口の中がスゥ~~~っとしましたよ!!」
「くすっ。ただのミントですよ。倉津さんは、タバコをお吸いになられる様でしたので、口の中にニコチンが溜まって気持ち悪いのではと思いまして、試しにお淹れしてみました」
「ミント、スゲェ!!」
「……あっ、あの、私も褒めて頂けますか?」
「えっ?」
言葉を発すると同時に、真上さんは我に返ったのか、顔を真っ赤にして照れて俯いた。
この人……
最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございますです<(_ _)>
真上さんは、本当に強い子ですね。
自分の身に起きている不幸を嘆かず、信念を持って行動し、そして何より、人に気遣いが出来て、努力も惜しまない。
まぁ『こんな完璧な人間居る訳ない』って思われるかもしれませんがね。
それは『いない』っと言う方が知らないだけで、結構、こう言うシッカリした子は存在するんですよ♪
現に、この王家真上と言うキャラクターは、私の知り合い子をモチーフにしておりますので(笑)
さてさて、そんな真上さんが最期に、なにやら『私も褒めて欲しい』っと言う、なんとも可愛らしい事を言い出しましたね。
この言葉に倉津君は、どう対応するのでしょうか?
それは次回の講釈。
また良かったら遊びに来て下さいねぇ~~~(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾
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