●前回のおさらい●
崇秀の指示に従って、奈緒さん別れた後。
指定された楽器の置いてあるカラオケスペースに行く倉津君。
指定された部屋に入室すると……っと言っても。
俺の入った部屋ってのは、ただ単に大型のカラオケルームだ。
先程、崇秀の馬鹿が言った様に、ホテルの防音対策として此処がチョイスされたんだろう。
そんで、そんなカラオケルームの中には、早く弾けと言わんばかりに、無造作に楽器類が置かれている。
俺のFender USA American Deluxe Jazz Bassを初め。
崇秀のIbanez uv7/Gibson 61-LesPaul sg custom。
嶋田さんのB.C.Rich Mockingbird 80sハワイアン・コア。
遠藤のZemaitis Front-diskフルオーダーベース。
奈緒さんのFresher/Personal Bass。
ステラのIbanez RocketRollⅡ。
素直のKorg TRINITY pro X 88鍵盤。
山中の……ドラムはわからんがPearlって書いてあるドラム。
(↑本人曰く、ローン中のものだそうだ)。
それらが一同に介し、全ての楽器が、大量のアンプにシールドが突き刺さっている状態だ。
「あぁ、倉津君。お疲れさん」
「あぁウッス。お疲れさんッス」
「はい。じゃあ早速だけど、これ、渡しとくね」
「嶋田さん、なんッスか、これ?」
「明日の曲目と曲順……って言ってもね。全部ウチのバンドの曲だから、いつも通りで良いんだけどね」
「あぁうっす。了解ッス」
一応、全6曲の曲目は、こんな感じだ。
①『Serious stress』
Vo:有野素直/向井奈緒Gu:嶋田浩輔/仲居間崇秀Ba:倉津真琴Dr:山中寛和Si:―
②『Hybrid Memory』
Vo:上条椿Gu:嶋田浩輔Ba:遠藤康弘Dr:山中寛和Si:有野素直
③『Dash eater』
Vo:清水咲/樫田千尋Gu:ステラ=ヴァイBa:遠藤康弘Dr:山中寛和Si:―
④『Business zombies』
Vo&Da:瀬川真美/長谷川元香/藤代理子/塚本美樹Gu:ステラ=ヴァイBa:遠藤康弘Dr:向井奈緒Si:有野素直
⑤『泡沫』
Vo:向井奈緒Gu:仲居間崇秀Ba:―Dr:―Si:―
⑥『Troubling』
Vo:有野素直/樫田千尋/上条椿/清水咲/瀬川真美/長谷川元香/藤代理子/塚本美樹/向井奈緒/ステラ=ヴァイGu:嶋田浩輔/仲居間崇秀Ba:遠藤康弘/倉津真琴Dr:山中寛和Si:―
……ってな感じだ。
けど、これって……
「あっ、あの、嶋田さん。こんな事を聞くのは失礼かも知れないんッスけど。椿さんの所がソロになってますけど。椿さんって歌が唄えるんッスか?」
「唄えるよ。それにアイツ、結構、上手いよ。……って言うかね。元々俺が在籍してたバンドのヴォーカルって、椿がやってたしね」
初耳だ。
「だったら、なんで椿さんはバンド辞めちゃったんッスか?」
「いやね。前のバンドの連中がさ。失敗をナンデモカンデモ俺の責任にしていたのを見て、アイツらが俺の事を追い込んだと、椿が思い込んじゃってね。もう二度とバンドはやらないって大泣きしたんだよ。それが原因に成って、それ以降は、俺が曲を作った時の試し以外では、歌は唄わなくなっちゃったんだよね」
「なら、嶋田さん。椿さん、なんで今回に限って、急に唄う気になったんッスか?」
「あぁ、多分ねぇ、遊んでる内に、みんなの事が好きになったんじゃないかな。アイツ、あぁ見えて、信用したらトコトンまで行くタイプだからね」
「あぁなるほど」
しかしまぁ……椿さんに、そんな過去があったとはな。
けどな。
多分、元のバンドをやった理由が『椿も、浩ちゃんと一緒にやる』とか言う理由だとしか思いつかないのは、何故なんだろうな。
「嶋田さん、後1つ良いッスか?」
「なんだい?」
「この『Business zombies』の『Vo&Da』って、なんッスか?」
「それは、俺にも、ちょっとわからないな」
「あぁ、それなら多分『ヴォーカル&ダンス』だよ」
「康弘?」
今まで黙々と練習していたのかと思いきや、遠藤はコチラの話をチャッカリ聞いていたらしく。
演奏している手を止めて、突然、嶋田さんと俺の話に割り込んできた。
この分じゃ、美樹さん達の事を、なにか知ってる様子だな。
「ごめん、ごめん。急に話に入って、話の腰を折っちゃったみたいだね」
「いや、良いんだけどよぉ。オマエ、なんか知ってるの?」
「まぁ知ってると言うか。彼女達は、横須賀のストリート・ダンス界隈では実力があるユニットとして、その筋ではかなり有名なんだよ」
「そぅ……なのか?」
「なんやオマエ、神奈川に住んでて、そんな事も知らんのかいな?」
「すまん……全然知らんかった。つぅかな、ダンスとかって、全然興味がねぇから1度も見た事がねぇんだよな」
「アカンわコイツ。自分の応援をしてくれてるファン子に対してですら、この認識力の低さ……話にもならんな。遠藤さん、すんませんけど、このアホに、もぉちょっと説明したってくれませんか?」
「良いよ」
遠藤が説明を始める。
塚本美樹率いるダンスユニット『Fish-Queen』
横須賀をメイングラウンドに置いたチーム。
彼女達の物怖じしない性格から『ドブ板通り』で路上パフォーマンスを繰り広げている。
少し露出の多い格好でダンスをする事もあって、あの辺りに住む米兵や、不良共に受けが良いらしく。
今では、ドブ板通りでは知らない者は『モグリ』だと言われる程、知名度が高いらしい。
因みにだが、彼女達は、横須賀名物の『スカジャン』をこよなく愛しており。
瀬川さんのデザインしたオリジナルのスカジャンを、必ず羽織ってやってくるらしい。
塚本美樹さんは『桜の花』
瀬川真美さんは『タトゥーパターン』
藤代理子さんは『般若』
長谷川元香さんは『芸者』
と言った感じで。
あぁ序に言えば『横浜銀蝿』と『矢沢永吉』が全員好きらしい。
(↑『らしい』と言う言葉が多いのは、俺が直接見ていないから)
そんな情報が、遠藤の口から語られた。
「へぇ、なんかスゲェんだな。……けどよぉ。それって、歌が唄えんのか?ダンスユニットじゃ、普通、歌は唄わないんじゃねぇの?」
「あぁ確かにね。僕も、その辺は聞いた事が無いね」
「不安だな、オイ」
「いや、そうでもないで、マコ。バンド言うたかてやな。なんも楽器鳴らして、歌を唄うだけがバンドやない。考え方によっちゃあ、体で音を表現するのも立派なヴォーカルや……この話、俺は、中々おもろいアイデアやと思うで」
「あぁ、なるほどなぁ。まぁ、そう言う考え方もあるか……それにしてもだな。椿さんや、美樹さん達は大凡大丈夫だとしても、咲さんと、アホの樫田は大丈夫なのか?」
「オマエって、ヤーさんの息子やのに豪い心配性やねんな。そんななぁ、ナンデモカンデモ心配ばっかりしとったら、若い内から禿げんぞ。んでジジィになったらツルッパゲやな」
「るせぇよ!!」
おかしいなぁ……俺って、そんなに心配性か?
普通よぉ、演奏や、歌に不確定要素があったら、その辺は気になるもんじゃねぇのか?
それともあれか、こう言うもんってノリでなんとかなるって奴か?
「それともぅ1つ。オマエ、地元の癖に、ホンマなんも知らんねんなぁ」
「なっ、なにがだよ?」
「あのなぁ。かっしゃんも、咲ちゃんも、地元じゃ、結構、有名な素人コンテスト荒らしやで」
「うっそ?」
「これが現実やから怖いんや。当初は奈緒ちゃんを含めた3人で『荒らし』をやっとったらしいんやけど。奈緒ちゃん脱退後は、2人で、今もやっとるみたいやな。まぁ本人等はプロ志向が一切無いみたいやから、実力はソコソコと言った所や。そやから勿論、アリスや、奈緒ちゃんみたいな本格派と比べたら、この2人は、かなり見劣りするやろうけど、実力は本物や……あの2人も悪ないで」
オイオイ……俺が知らなかったとは言え、みんな、何気に凄い歌唱力を持ってるんだな。
奈緒さん・素直は、現役のヴォーカル。
椿さんは、嶋田さん所の元ヴォーカル。
美樹さん達は、ダンスユニット。
咲さん・アホの樫田は、コンテスト荒らしが出来る程の実力。
スゲェな。
よくもまぁ、こんな人ばっかり上手く集まったもんだ。
感心する。
つぅかな……人の事心配してるより、ひょっとして『俺が一番不安要素』じゃねぇか?
あぁ、そういやぁ、ステラって唄えんのかな?
一応、確認してみよ。
「あのよぉ……」
「ステラは知らんぞ。あの女に関しては、ギター以外は未知数や」
ぐっ!!読まれた。
けどよぉ、俺、今『あのよぉ』としか言ってないのに、完全に思考を読まれたぞ。
どうなってんだ?
「あの、因みに……」
「あぁ、俺も、ステラに関しては、良く知らないなぁ」
「悪いけど、僕も聞いた事が無いなぁ」
「そっ、そッスか……」
だから、俺、まだ、なんも言ってねぇつぅの!!
みんなのこの様子から言って、どうやら俺の『サトラレ』技能は健在らしい。
「ところで……」
「あぁ、遠藤君のベースの実力ね」
「はぁ」
悲しすぎんぞ!!
さっきから『あのよぉ』とか『因みに』とか『ところで』しか喋らして貰ってねぇじゃねぇか!!
なんで、それだけでわかんだよ!!
偶には、ちゃんと言葉を喋らせろ!!
「俺の見立てで言うなら、遠藤君のベース技能は、向井さんより遥か上だね。解り易く言えば、仲居間さんのそれに似ている」
「ぶっ!!」
奈緒さんより遥か上って……何所?
いやいや、遠藤って、ベース弾くのが、そんなに上手かったんだな。
いつも偉そうにタメ口を利いてて、すんませんでした。
「いやいやいやいや、僕のベースは、そこまで上手くないですよ。それに仲居間さんを引き合いに出されるのは、ちょっと。……あの人の音楽は、完全に枠を越えてますよ」
「まぁ確かに、遠藤君の言う通り、仲居間さんの音楽は、ちょっと常軌を逸してるね……けど、ホントに上手いよ、遠藤君は」
「そんなそんな。嶋田さんに比べたら、僕なんてヒヨッコ同然ですよ」
「なに言ってんの?その年で、それだけ弾けりゃあ、十分化物の域だよ」
「そうですかね?……まぁ褒めて頂くのは、嬉しいですけどね」
嶋田さんがベタ褒めだよ。
奈緒さんのベースでも、大概上手いと思ってる俺にとっちゃあ、それ以上のレベルなんて想像もつかねぇよ。
一体、どんな音だすんだ、コイツ?
「あっ、あの、最後に……」
「奈緒ちゃんのドラムか?」
はい……もぉ良いです。
もぉ幾らでも、俺の心を読んでくれ。
そうすりゃあ、その内、俺はなんも喋らなくても、みんなに意思が伝わると思うからよ。
くそ~~~~!!
「っで、実際の所は、どうなんだよ?」
「あんま、俺からは言いたないなぁ。……遠藤さん悪いけど、このアホに、もう一回説明してくれはりますか?」
「良いよ」
再度、山中に代わって、遠藤の説明が始まる。
「良いかい倉津君?向井さんのドラムは、4ビートをメインにしたジャズドラムなんだ。だから、2拍4拍のアクセントが、とても効いてる。まぁこの辺は、ロックとは少し違うから、君達のバンドには、ロック1本で来ている山中君のドラムの方が、性には合ってる思う。……けどね。正直、技術面で言えば、向井さんの方が、山中君より上だろうね。まぁ、山中君本人を目の前にして、こんな事を言うのは、かなり失礼かもしれないんだけどね」
「いやいや、それで正解やで遠藤さん。奈緒ちゃんのドラムは、マジで俺なんかより上手い。……そやけど、残念な事に、あの子は最近ドラムを叩いてない。だから抜けんレベルではないと、俺は思とる」
「確かにね。1つの事に集中してやるのと、多岐に渡って何かをするのでは、現れる効果が全然違うからね。僕も山中君の方が上手くなる可能性は高いと思うよ」
「けどよぉ。そうなると、なんで奈緒さんはドラムやんねぇんだ?」
「オマエ、嫌な質問を平気でするなぁ。……あのなぁマコ、そんなもんなぁ、俺に気ぃ使っとるからに決まっとるやないか。俺はドラムしか叩けんけど。あの子は、色んな事が出来る。そやから敢えて、ドラムのポジションは俺に譲っとんねんやろ」
「なるほど」
「それになぁ、オドレにベース教える為に、マンツゥマンで教えた方が効率が良ぇ思てる節も見受けられる。……ホンマ、オマエなんぞには勿体無い、気ぃ使いぃの良ぇ子やで」
あの人だけは……どこまで周りに気を使えば気が済むんだ?
ヴォーカルをやれって言えば、ヴォーカルをするし……
ベース弾けって言えば、ベース弾くし……
んで、本職のドラムは、そのパートに山中と被るからって自分はやらないって……
バンド仲間なんだから、もうちょっと、みんなに我儘言っても良いと思うんだがな。
ホント、こう言うのを見てると、奈緒さんの人生を語ってるよな。
あの人って、器用な反面、実はスゲェ不器用なんじゃないのかって思っちまうもんな。
まぁ……それ以前に、実際の原因は、それら全部を簡単に出来ちまうから不幸なのかもな。
まさに『ハイスペック器用貧乏』って奴だな。
「さて、いつまでも、お喋りしてる場合じゃないね。そろそろ練習を始めよっか」
「あぁそうッスね。なんか質問ばっかりして申し訳ないッス」
『カチャ』
そんな折、誰かが扉を開けて部屋に入って来た。
最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございましたぁ<(_ _)>
さてさて、今回は、ステージで歌う事に成っている女性陣のヴォーカル力を聞かされた倉津君なのですが。
レベルは、かなり高そうですね(笑)
まぁ、そうは言っても、本格的なのは、奈緒さん、椿さん、素直ちゃんの3人。
後の子は、普通の子達より、ちょっとうまいのかなぁ、ぐらいの認識で良いと思いますです。
さて、そんな説明が合った後。
どうやら、誰かが、このカラオケスペースに訪れたようですが……誰が来たのでしょうね?
それはまた次回の講釈。
また良かったら遊びに来て下さいねぇ~~~(*'ω'*)ノ
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