最後まで奏でられなかった音楽

どこかお間抜けDQNな不良さんのゆったり更生日誌(笑)
殴り書き書店
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245 不良さん、INカラオケスペース

公開日時: 2021年10月9日(土) 00:21
更新日時: 2022年12月11日(日) 12:22
文字数:5,266

●前回のおさらい●


 崇秀の指示に従って、奈緒さん別れた後。

指定された楽器の置いてあるカラオケスペースに行く倉津君。

 指定された部屋に入室すると……っと言っても。

俺の入った部屋ってのは、ただ単に大型のカラオケルームだ。


先程、崇秀の馬鹿が言った様に、ホテルの防音対策として此処がチョイスされたんだろう。

そんで、そんなカラオケルームの中には、早く弾けと言わんばかりに、無造作に楽器類が置かれている。


俺のFender USA American Deluxe Jazz Bassを初め。

崇秀のIbanez uv7/Gibson 61-LesPaul sg custom。

嶋田さんのB.C.Rich Mockingbird 80sハワイアン・コア。

遠藤のZemaitis Front-diskフルオーダーベース。

奈緒さんのFresher/Personal Bass。

ステラのIbanez RocketRollⅡ。

素直のKorg TRINITY pro X 88鍵盤。

山中の……ドラムはわからんがPearlって書いてあるドラム。

(↑本人曰く、ローン中のものだそうだ)。


それらが一同に介し、全ての楽器が、大量のアンプにシールドが突き刺さっている状態だ。



「あぁ、倉津君。お疲れさん」

「あぁウッス。お疲れさんッス」

「はい。じゃあ早速だけど、これ、渡しとくね」

「嶋田さん、なんッスか、これ?」

「明日の曲目と曲順……って言ってもね。全部ウチのバンドの曲だから、いつも通りで良いんだけどね」

「あぁうっす。了解ッス」


一応、全6曲の曲目は、こんな感じだ。


①『Serious stress』

Vo:有野素直/向井奈緒Gu:嶋田浩輔/仲居間崇秀Ba:倉津真琴Dr:山中寛和Si:―


②『Hybrid Memory』

Vo:上条椿Gu:嶋田浩輔Ba:遠藤康弘Dr:山中寛和Si:有野素直


③『Dash eater』

Vo:清水咲/樫田千尋Gu:ステラ=ヴァイBa:遠藤康弘Dr:山中寛和Si:―


④『Business zombies』

Vo&Da:瀬川真美/長谷川元香/藤代理子/塚本美樹Gu:ステラ=ヴァイBa:遠藤康弘Dr:向井奈緒Si:有野素直


⑤『泡沫』

Vo:向井奈緒Gu:仲居間崇秀Ba:―Dr:―Si:―


⑥『Troubling』

Vo:有野素直/樫田千尋/上条椿/清水咲/瀬川真美/長谷川元香/藤代理子/塚本美樹/向井奈緒/ステラ=ヴァイGu:嶋田浩輔/仲居間崇秀Ba:遠藤康弘/倉津真琴Dr:山中寛和Si:―


……ってな感じだ。


けど、これって……



「あっ、あの、嶋田さん。こんな事を聞くのは失礼かも知れないんッスけど。椿さんの所がソロになってますけど。椿さんって歌が唄えるんッスか?」

「唄えるよ。それにアイツ、結構、上手いよ。……って言うかね。元々俺が在籍してたバンドのヴォーカルって、椿がやってたしね」


初耳だ。



「だったら、なんで椿さんはバンド辞めちゃったんッスか?」

「いやね。前のバンドの連中がさ。失敗をナンデモカンデモ俺の責任にしていたのを見て、アイツらが俺の事を追い込んだと、椿が思い込んじゃってね。もう二度とバンドはやらないって大泣きしたんだよ。それが原因に成って、それ以降は、俺が曲を作った時の試し以外では、歌は唄わなくなっちゃったんだよね」

「なら、嶋田さん。椿さん、なんで今回に限って、急に唄う気になったんッスか?」

「あぁ、多分ねぇ、遊んでる内に、みんなの事が好きになったんじゃないかな。アイツ、あぁ見えて、信用したらトコトンまで行くタイプだからね」

「あぁなるほど」


しかしまぁ……椿さんに、そんな過去があったとはな。


けどな。

多分、元のバンドをやった理由が『椿も、浩ちゃんと一緒にやる』とか言う理由だとしか思いつかないのは、何故なんだろうな。



「嶋田さん、後1つ良いッスか?」

「なんだい?」

「この『Business zombies』の『Vo&Da』って、なんッスか?」

「それは、俺にも、ちょっとわからないな」

「あぁ、それなら多分『ヴォーカル&ダンス』だよ」

「康弘?」


今まで黙々と練習していたのかと思いきや、遠藤はコチラの話をチャッカリ聞いていたらしく。

演奏している手を止めて、突然、嶋田さんと俺の話に割り込んできた。


この分じゃ、美樹さん達の事を、なにか知ってる様子だな。



「ごめん、ごめん。急に話に入って、話の腰を折っちゃったみたいだね」

「いや、良いんだけどよぉ。オマエ、なんか知ってるの?」

「まぁ知ってると言うか。彼女達は、横須賀のストリート・ダンス界隈では実力があるユニットとして、その筋ではかなり有名なんだよ」

「そぅ……なのか?」

「なんやオマエ、神奈川に住んでて、そんな事も知らんのかいな?」

「すまん……全然知らんかった。つぅかな、ダンスとかって、全然興味がねぇから1度も見た事がねぇんだよな」

「アカンわコイツ。自分の応援をしてくれてるファン子に対してですら、この認識力の低さ……話にもならんな。遠藤さん、すんませんけど、このアホに、もぉちょっと説明したってくれませんか?」

「良いよ」


遠藤が説明を始める。


塚本美樹率いるダンスユニット『Fish-Queen』


横須賀をメイングラウンドに置いたチーム。

彼女達の物怖じしない性格から『ドブ板通り』で路上パフォーマンスを繰り広げている。


少し露出の多い格好でダンスをする事もあって、あの辺りに住む米兵や、不良共に受けが良いらしく。

今では、ドブ板通りでは知らない者は『モグリ』だと言われる程、知名度が高いらしい。


因みにだが、彼女達は、横須賀名物の『スカジャン』をこよなく愛しており。

瀬川さんのデザインしたオリジナルのスカジャンを、必ず羽織ってやってくるらしい。


塚本美樹さんは『桜の花』

瀬川真美さんは『タトゥーパターン』

藤代理子さんは『般若』

長谷川元香さんは『芸者』

と言った感じで。


あぁ序に言えば『横浜銀蝿』と『矢沢永吉』が全員好きらしい。

(↑『らしい』と言う言葉が多いのは、俺が直接見ていないから)


そんな情報が、遠藤の口から語られた。



「へぇ、なんかスゲェんだな。……けどよぉ。それって、歌が唄えんのか?ダンスユニットじゃ、普通、歌は唄わないんじゃねぇの?」

「あぁ確かにね。僕も、その辺は聞いた事が無いね」

「不安だな、オイ」

「いや、そうでもないで、マコ。バンド言うたかてやな。なんも楽器鳴らして、歌を唄うだけがバンドやない。考え方によっちゃあ、体で音を表現するのも立派なヴォーカルや……この話、俺は、中々おもろいアイデアやと思うで」

「あぁ、なるほどなぁ。まぁ、そう言う考え方もあるか……それにしてもだな。椿さんや、美樹さん達は大凡大丈夫だとしても、咲さんと、アホの樫田は大丈夫なのか?」

「オマエって、ヤーさんの息子やのに豪い心配性やねんな。そんななぁ、ナンデモカンデモ心配ばっかりしとったら、若い内から禿げんぞ。んでジジィになったらツルッパゲやな」

「るせぇよ!!」


おかしいなぁ……俺って、そんなに心配性か?

普通よぉ、演奏や、歌に不確定要素があったら、その辺は気になるもんじゃねぇのか?


それともあれか、こう言うもんってノリでなんとかなるって奴か?



「それともぅ1つ。オマエ、地元の癖に、ホンマなんも知らんねんなぁ」

「なっ、なにがだよ?」

「あのなぁ。かっしゃんも、咲ちゃんも、地元じゃ、結構、有名な素人コンテスト荒らしやで」

「うっそ?」

「これが現実やから怖いんや。当初は奈緒ちゃんを含めた3人で『荒らし』をやっとったらしいんやけど。奈緒ちゃん脱退後は、2人で、今もやっとるみたいやな。まぁ本人等はプロ志向が一切無いみたいやから、実力はソコソコと言った所や。そやから勿論、アリスや、奈緒ちゃんみたいな本格派と比べたら、この2人は、かなり見劣りするやろうけど、実力は本物や……あの2人も悪ないで」


オイオイ……俺が知らなかったとは言え、みんな、何気に凄い歌唱力を持ってるんだな。


奈緒さん・素直は、現役のヴォーカル。

椿さんは、嶋田さん所の元ヴォーカル。

美樹さん達は、ダンスユニット。

咲さん・アホの樫田は、コンテスト荒らしが出来る程の実力。


スゲェな。

よくもまぁ、こんな人ばっかり上手く集まったもんだ。


感心する。


つぅかな……人の事心配してるより、ひょっとして『俺が一番不安要素』じゃねぇか?


あぁ、そういやぁ、ステラって唄えんのかな?


一応、確認してみよ。



「あのよぉ……」

「ステラは知らんぞ。あの女に関しては、ギター以外は未知数や」


ぐっ!!読まれた。


けどよぉ、俺、今『あのよぉ』としか言ってないのに、完全に思考を読まれたぞ。


どうなってんだ?



「あの、因みに……」

「あぁ、俺も、ステラに関しては、良く知らないなぁ」

「悪いけど、僕も聞いた事が無いなぁ」

「そっ、そッスか……」


だから、俺、まだ、なんも言ってねぇつぅの!!


みんなのこの様子から言って、どうやら俺の『サトラレ』技能は健在らしい。



「ところで……」

「あぁ、遠藤君のベースの実力ね」

「はぁ」


悲しすぎんぞ!!

さっきから『あのよぉ』とか『因みに』とか『ところで』しか喋らして貰ってねぇじゃねぇか!!


なんで、それだけでわかんだよ!!

偶には、ちゃんと言葉を喋らせろ!!



「俺の見立てで言うなら、遠藤君のベース技能は、向井さんより遥か上だね。解り易く言えば、仲居間さんのそれに似ている」

「ぶっ!!」


奈緒さんより遥か上って……何所?


いやいや、遠藤って、ベース弾くのが、そんなに上手かったんだな。

いつも偉そうにタメ口を利いてて、すんませんでした。



「いやいやいやいや、僕のベースは、そこまで上手くないですよ。それに仲居間さんを引き合いに出されるのは、ちょっと。……あの人の音楽は、完全に枠を越えてますよ」

「まぁ確かに、遠藤君の言う通り、仲居間さんの音楽は、ちょっと常軌を逸してるね……けど、ホントに上手いよ、遠藤君は」

「そんなそんな。嶋田さんに比べたら、僕なんてヒヨッコ同然ですよ」

「なに言ってんの?その年で、それだけ弾けりゃあ、十分化物の域だよ」

「そうですかね?……まぁ褒めて頂くのは、嬉しいですけどね」


嶋田さんがベタ褒めだよ。


奈緒さんのベースでも、大概上手いと思ってる俺にとっちゃあ、それ以上のレベルなんて想像もつかねぇよ。


一体、どんな音だすんだ、コイツ?



「あっ、あの、最後に……」

「奈緒ちゃんのドラムか?」


はい……もぉ良いです。

もぉ幾らでも、俺の心を読んでくれ。

そうすりゃあ、その内、俺はなんも喋らなくても、みんなに意思が伝わると思うからよ。


くそ~~~~!!



「っで、実際の所は、どうなんだよ?」

「あんま、俺からは言いたないなぁ。……遠藤さん悪いけど、このアホに、もう一回説明してくれはりますか?」

「良いよ」


再度、山中に代わって、遠藤の説明が始まる。



「良いかい倉津君?向井さんのドラムは、4ビートをメインにしたジャズドラムなんだ。だから、2拍4拍のアクセントが、とても効いてる。まぁこの辺は、ロックとは少し違うから、君達のバンドには、ロック1本で来ている山中君のドラムの方が、性には合ってる思う。……けどね。正直、技術面で言えば、向井さんの方が、山中君より上だろうね。まぁ、山中君本人を目の前にして、こんな事を言うのは、かなり失礼かもしれないんだけどね」

「いやいや、それで正解やで遠藤さん。奈緒ちゃんのドラムは、マジで俺なんかより上手い。……そやけど、残念な事に、あの子は最近ドラムを叩いてない。だから抜けんレベルではないと、俺は思とる」

「確かにね。1つの事に集中してやるのと、多岐に渡って何かをするのでは、現れる効果が全然違うからね。僕も山中君の方が上手くなる可能性は高いと思うよ」

「けどよぉ。そうなると、なんで奈緒さんはドラムやんねぇんだ?」

「オマエ、嫌な質問を平気でするなぁ。……あのなぁマコ、そんなもんなぁ、俺に気ぃ使っとるからに決まっとるやないか。俺はドラムしか叩けんけど。あの子は、色んな事が出来る。そやから敢えて、ドラムのポジションは俺に譲っとんねんやろ」

「なるほど」

「それになぁ、オドレにベース教える為に、マンツゥマンで教えた方が効率が良ぇ思てる節も見受けられる。……ホンマ、オマエなんぞには勿体無い、気ぃ使いぃの良ぇ子やで」


あの人だけは……どこまで周りに気を使えば気が済むんだ?


ヴォーカルをやれって言えば、ヴォーカルをするし……

ベース弾けって言えば、ベース弾くし……

んで、本職のドラムは、そのパートに山中と被るからって自分はやらないって……


バンド仲間なんだから、もうちょっと、みんなに我儘言っても良いと思うんだがな。


ホント、こう言うのを見てると、奈緒さんの人生を語ってるよな。

あの人って、器用な反面、実はスゲェ不器用なんじゃないのかって思っちまうもんな。


まぁ……それ以前に、実際の原因は、それら全部を簡単に出来ちまうから不幸なのかもな。


まさに『ハイスペック器用貧乏』って奴だな。



「さて、いつまでも、お喋りしてる場合じゃないね。そろそろ練習を始めよっか」

「あぁそうッスね。なんか質問ばっかりして申し訳ないッス」


『カチャ』


そんな折、誰かが扉を開けて部屋に入って来た。


最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございましたぁ<(_ _)>


さてさて、今回は、ステージで歌う事に成っている女性陣のヴォーカル力を聞かされた倉津君なのですが。

レベルは、かなり高そうですね(笑)


まぁ、そうは言っても、本格的なのは、奈緒さん、椿さん、素直ちゃんの3人。

後の子は、普通の子達より、ちょっとうまいのかなぁ、ぐらいの認識で良いと思いますです。


さて、そんな説明が合った後。

どうやら、誰かが、このカラオケスペースに訪れたようですが……誰が来たのでしょうね?


それはまた次回の講釈。

また良かったら遊びに来て下さいねぇ~~~(*'ω'*)ノ

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