●前回のおさらい●
崇秀と2人で話をしている内に、倉津君の音が、奈緒さんや山中君より良い音が出てると言い出す崇秀。
その真相は一体?
「先に言っておくが、これは、経験だの、技術だの、なんだの言うクダラネェ話じゃねぇ。音そのものの本質の話だ。オマエの音は、あの2人を優に越えている」
「なっ、なにが違うって言うんだよ?」
「持って生まれた『天性の音感』だ。……コイツだけは鍛えようがねぇ」
「待て待て。んな高級な機能が俺に付いてるとは思えんが」
「まぁ付いて様が、付いて無かろうが、俺の見立てが正しきゃ付いてる訳だ。ただそれだけの事だ」
なんともまぁ、コイツにしては、お粗末な言い分だな。
アバウトにも程が有る。
だがよぉ。
仮に、そんなもんが付いてるからと言って、なんになるんだ?
奈緒さんや、山中の方が上手い事は、なにも変わらねぇじゃねぇのか?
「まぁ付いてるなら、付いてるで良いけどよぉ。なんでそれだけで、奈緒さんや、山中より良い音になんだよ?」
「勘違いするなよ。向井さんも、山中も感性は良いんだぜ。ただ鍛え方を間違ってるだけの事だ」
「なら、基本が出来てる人間の方が、上手くなるのも早いんじゃねぇのか?」
「それも違うな」
「なにがだよ?」
「良いか、単細胞?オマエは、まだ音楽を初めて間がない。今のところ『良い習慣』も『悪い癖』も両方付いてない。故に育て易い。……だが、あの2人は違う。一見したら、向井さんはオールマイティに楽器を扱う様に見えるが、その裏『飽き性』な面がある。彼女はある一定のレベルに達してしまったら、その上を目指さずに違う事がしたくなる。それ故に、彼女の音は、全てが中途半端だ。これじゃあ使い物にならない。……これが向井さんの悪い癖だ」
また好き勝手な事を……
まぁ一応、山中の件を聞いてから反論しよう。
此処で下手に反論をしたら、奴も同じ様に反論をして来るから、話が拗れるだけだしな。
我慢しよう。
「じゃあ、山中は、どうなんだよ?」
「山中の問題点は『拘りの無さ』だ。確かにアイツも良い腕はしている。だが、それも上辺だけでの話だ。オマエ、アイツが学校でした大阪の話憶えてるか?」
「あぁ」
「アイツ、こんな事を言っただろ。『それ以前に音楽性の違いだ、なんだの……』これがアイツの本心だ。『拘りの無い』音楽なんざ、ただ弾いてるだけに等しい。これは上手いとは決して言わない。……これが俺の考える山中の悪い癖だ」
良く見ていると言うか、ほんと人の話を良く聞いてるよな。
なんで、そこまで分析する程、そんなに他人に興味が有るんだコイツは?
まぁそれよりもだ。
そんなもん全員が全員判る訳でもあるまいし……問題ねぇ様にも思うんだがな。
「仮にそうだとしてもだ。聞いてる者が、オマエみたいな変態じゃなきゃ、そう言うのってわかんねぇんだろ?なら、問題無いんじゃねぇのか?」
「まぁ、そう言っちまえば、そうなんだがな。実は、それも少し違うんだよな」
「なんでだよ?なにが違うって言うんだよ?」
「薄っぺらい音楽ってのはな。オマエが思ってる以上に、オーディエンスには直ぐに感知されちまうんだよ。……だから、そう言うミュージシャンの在籍するバンド生命は短い。故に、なにがしたいのかを音楽に乗せられない山中は、今のままじゃ長持ちしねぇんだよ」
「じゃあ、全然ダメって事か?」
あれだけの腕を持ってる2人がダメで、なんで俺を良いのか皆目見当が付かない。
「ダメとは言ってねぇ。ただ、あのままじゃ『才能』を無駄に消費するだけだなって話だ。まぁこの辺は、本人が気付かなきゃ治し様がないしな」
「因みにだが、あの2人には、どんな才能が有るんだよ?それに悪い癖とやらは治せるもんなのか?」
「まぁそうだなぁ。順を追って質問に答えるなら。まず才能についてになるんだが、向井さんはオールマイティな部分だと思われがちだが、現段階では、残念ながら楽器の才能は薄い。あの子は、間違いなく声質の方に才能が偏ってる。そんで治し方なんだが、コレは至って簡単だ。ボーカルに固執して飽きなければ良いだけだ。んで山中の良さは、見ての通り『体の柔軟性』が売りだな。そこに柔らかい筋肉を付けりゃ、最高のドラマーに成れるかも知らねぇ。後は自分の音に拘りを持って、自分の伝えたい事を音に乗せれば良い。但し、我儘な音じゃない事が前提でな」
的確だなぁ。
それにしても、あれだよな。
崇秀の見解じゃあ、あれだけなんでも演奏出来る奈緒さんの才能って、楽器じゃないのな。
「そっか。……けどよぉ。そんだけわかってんなら、直接、本人に教えてやりゃあ良いじゃねぇか」
「嫌だね」
「なんでだよ?友達じゃねぇかよぉ」
「オマエって、ほんと、人が好いな。……つぅか、なんで、先で敵になるかもしれない奴等に、そこまで親切、丁寧にモノを教えなきゃイケネェんだよ。馬鹿じゃねぇのか?」
敵って……
これって、俺の目論見が見抜かれてたのか?
コイツの洞察力を考えれば、有り得ない話ではないが……もしそうなんだったら、エスパー過ぎんぞオマエ。
「敵って……オマエなぁ」
「あぁ、また変に勘違いしてやがるな」
「なにがだよ?」
「あのなぁ倉津。俺にとっちゃ、自分のバンド仲間以外は全て敵なの。特に才能の有る奴に前に出られるのは癪だしな。特別、誰かを指して言ってる訳じゃねぇよ」
うん?
「ちょっと待てよ」
「んあ?なんだよ?」
「オマエさぁ。そう言う事を言う割には、他人にバンドを紹介したり、他人のライブを告知したりしてるじゃないか?それって矛盾じゃね?」
「バカタレ。そりゃあサイトの客としての話だろ。客には満足のいくサービスを提供するのは当たり前だ。だが、向井さんは、既に『JazzR』を紹介して、俺の仕事は済みだ。山中に至っては客ですらない。なら、どうして俺が、そこまでする必要がある。無いんじゃねぇか」
「オイオイ、ドライな奴だな」
そこまで割り切る必要性が有るのか?
友達なら、別に教えてやっても良いじゃねぇのか?
意外とケチ臭いな。
「馬鹿言うなよ。元来、音楽って言うのは個人の戦いだ。他人が甘やかしてくれるって考える方が、どうかしてる。……それは、例えバンドを組んでいても、何も変わらねぇ。馴れ合いからは、良い音なんて出来ねぇんだよ」
「けどよぉ。みんなで作り上げる事は、そんなに悪い事なのか?」
「いいや、重要な事だぞ」
「ならよぉ。オマエの言ってる事は、また矛盾してないか?」
「はぁ~~~……わかってねぇな」
物凄く深い溜息を付く。
表情は言うまでもなく、呆れ返っている。
「良いかミカヅキモ(単細胞生物)?俺は、何もバンドマンを否定してる訳じゃねぇ。意見をぶつけ合って、良い物を造る姿勢は、寧ろ、賞賛に値する」
「だよなぁ」
「……だがな、そう言う連中は、得てして、直ぐに馴れ合うんだよ。最初の目的なんざスッカリ忘れて、いつの間にか、仲良し子良しの糞バンドに成り下がる。そうなったら最後だ。そのメンバーじゃ、二度と良い物なんか創れねぇし、過去の栄光に囚われて、二番煎じの曲ばかり書いて御仕舞いだ……どうだ?オマエのバンド仲間は、これを聞いても、対応出来る連中なのか?」
まだバンドの活動すら始まってもいないんだから、解る訳がない。
それにコイツは、一体、俺に何が言いたいんだ?
「オマエさぁ、さっきからゴチャゴチャ言ってるけどよぉ。結局なにが言いたい訳?」
「簡単な事だ。オマエ、俺と一緒にバンドをやんねぇか?俺が1年で、オマエを完璧なベーシストに育ててやる。それなら悪い条件じゃないだろ」
はい?
なに言ってんだ、オマエ?
最後までお付き合いありがとうございました<(_ _)>
なにやら崇秀は、ゴチャゴチャと奈緒さんや山中君の才能の使い方を示唆している様ですが。
これって見方を変えると『倉津君に彼等の弱点を教えてる』とも捉えられなくもないですよね。
そして、これを先持って倉津君に教える事により。
『倉津君が自分のバンドに入らなかった時の保険』を打ってる様にも見えなくもないですね(笑)
さて、そんな中。
今回のタイトルにもなっている『倉津君の勧誘』が始まる訳なのですが。
彼は、一体、どう言う答えを導き出すのでしょうね?
それはまた、次回の講釈と言う事で。
また良かったら、遊びに来て下さいねぇ~~~(*'ω'*)ノ
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