最後まで奏でられなかった音楽

どこかお間抜けDQNな不良さんのゆったり更生日誌(笑)
殴り書き書店
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216 不良さん、梅干を食べる、そして……

公開日時: 2021年9月10日(金) 00:21
更新日時: 2023年9月6日(水) 14:10
文字数:5,012

●前回のおさらい●


 奈緒さんと過ごせる日にちが後5日。

そんな中、中々マニアックな会話をしながら、食事を摂る2人だったが……

「あぁそうだ、そうだ。そう言えばさ、クラ。私が家で漬けた梅干があるんだけど。……良かったら、それも食べる?食べてみる?」

「梅干ッスか?あぁ頂きます。実は俺、結構、梅干好きなんッスよ」

「そうなんだ。じゃあ、ちょっと取ってくるね」

「あぁすんません」


そう言って、奈緒さんはチョコチョコと台所に行き。

キッチンの下からゴソゴソと梅干が漬かった瓶を取り出し、重たそうに持って来る。


そんで部屋に戻って来たら、それを小分けにして俺の前に出してくれた。


その出してくれた梅干って言うのが、また上手くシワシワになって、見るからに、なんとも美味そうな感じなんだよな。



「沢山作ってあるから、遠慮せずに、いっぱい食べても良いよ」


満面の笑みを浮かべる奈緒さんに、薦められるまま、口の中に頬張る。


これがまた、思った通り……『美味い!!』んだよな。

あぁ……こんな美味い梅干を、ワザワザ俺の為に持って来てくれたって事は、あれだな。

奈緒さんの表情からして、さっきの話が気まずくて『奈緒さん秘伝の梅干を出して来てくれた』って所だな。


ホント、どこまでも気を使う人だよな。


にしても、これ、マジで美味いなぁ。

プロが漬けた物と遜色が無いぐらい美味いから、幾らでもいけるぞ。


多分、これって、奈緒さんが漬ける際に、蜂蜜かなんかを上手くブレンドさせてんだろうな。

蜂蜜の甘さが少し勝ってる感はあるが、独特の甘酸っぱい風味が上手く醸し出されていて、兎に角、絶品だ。


ホント、この人だけは、なにやらしても器用な人だな。



俺は、この後も、調子に乗って、何個も何個も梅干を頬張って、鰻も勿論、完食した。

当然、後の事を考えれば、タップリと精力を付ける必要が有ったので、肝の吸い物も残さず全部喰った。


余は満足じゃ♪


***


 痛い……腹が尋常じゃなく痛い。

時折、内臓が『ギョルギュル』と変な音を立てて、うねり倒している感覚に陥るのは、一体、なんでなんだろうな?

しかも、その音と同時に、耐えがたい腹痛が起こるんだが……なんなんだよ、これ?


この痛烈な痛みは、今まで一度も体験した憶えが無い程の痛みだぞ……


ナイフなんかで刺された外部からの怪我等に関しては、多少の事では、なんとも思わない俺だが……事、内部からの痛みに対しては、滅法抵抗力が薄い。

現に今も、あまりの激痛に我慢が出来ず、腹を押さえたまま、畳の上をのた打ち回っている。


付け加えて言えば、俺は、昔から、胃腸が異常なまでに弱いんだよな。

だから多分、なんかに当たったんだろうけど……その原因が、奈緒さんの作った料理とは、なにがあっても思えないんだよな。

だって、あの人、事細かに物をする人だから、調理の際に、そんな初歩的なミスはしない筈だろうしな。


その証拠に、奈緒さんは、何事も無かった様に台所で片付けをしてる。


だとしたら、ひょ、ひょっとして、これって、俗に言う『盲腸』とか言う奴じゃねぇのか?


奈緒さんとの残り時間が、後4日しか無いって言うのに……



ってか、痛ててて……


痛い痛い痛い……


こりゃあ、本格的にヤバイな。


……っと成るとだ。

考えるのは、取り敢えず後だ。

今は、這ってでもトイレに行って、まずは様子を見よう。



俺は、激痛のあまり真っ青な顔をして、トイレに行こうとした。


すると……



「あれぇ~~~、クラ。そんな真っ青な顔して、どうしたのかなぁ~~~?まさか、お腹が痛いのかなぁ~~~?君……ひょっとして、私のエキスとやらに当たったんじゃないのぉ~~~?」


奈緒さんは、俺が此処に来るのを予想していた様にトイレの扉に凭れ掛かって、俺の行く手を阻む。


……って事は。


あぁ~~~!!最悪だぁ!!

奈緒さんの、この表情と、言動は……間違いなく、嵌められた証拠じゃねぇか!!


けど、そうなると、何が原因だ?

俺と奈緒さんの食べた物の違いって、なんだっけな?


・・・・・・


あぁイカン。

腹が痛くて、タダでさえキッチリ動かない思考が、全然なにも想像してくれない。


そこに奈緒さんが、何か入った瓶を手にして、俺の眼の前をプラプラさせる。


なっ、なんだ?



「これ、なぁ~~~んだ?」


俺は腹痛を堪えながら、奈緒さんの手にしている物を凝視する。


中には、皺くちゃになった赤い食べ物が入っている。


うっ、梅干!!


そっ、そうだ!!

俺が喰ってて、奈緒さんが、全く口にしていない物と言えば『梅干』だ!!


けっ、けど、なんで梅干なんだ?

梅干を喰っただけで、容易に腹を壊すって事は『物自体が腐ってた』って事か?


って事は、なにか?

奈緒さんは、何らかの怒りを俺に覚えて、復讐の為だけに梅干の賞味期限が切れてるのを承知の上で、俺に鱈腹喰わしたって言うのか?


いやいやいや……流石に、悪戯女王の奈緒さんでも、そこまで無慈悲な事はしないだろう。


この腹痛の原因は、他になんかあるな。



「こっ、この腹痛……まさか、奈緒さんのせいッスか?もし、そうなら酷過ぎるッスよ」

「どっちがよ。人の事を、散々『味の素』みたいに言ってさぁ。それはきっと天罰だよ天罰。だから君が悪いの」


怒りの原因は、ヤッパリそこかぁ。

奈緒さんの今の言動からもハッキリわかる様に、あの『エキス』って言葉が、相当、気に入らなかったみたいだな。


しかしまぁ……腹が立ってたにも拘らず、よくもまぁあれだけ感情を抑えた上に、あんな満面の笑みで微笑みかけて、俺に梅干を薦められたもんだな。


感心するよ。


……ってか!!

んな、悠長な事を考えてる暇なんてねえよ!!


もぉ限界だ!!

もし此処で、不覚にも屁の一発でもこいたら最後……奈緒さんの前で、見せたくも無い、無様な姿を晒す事になっちまう。


その一発は、俺の命運を掛ける事、間違いなし!!


『うんこ垂れ座衛門』になってしまうか否かは、全てそこに掛かってる。


けど……それだけは、絶対に嫌だ。

死んでも山中とは、同列に見られたくねぇ!!



「あっ、あぁ、あの、お願いッス、奈緒さん。頼みますから、そこを退いて下さい」

「ダメだよ。行かせてあげない」

「なんでッスか?あぁもぉマジダメっす……出るッス!!出るッスよ!!」

「知らない。……ってか、その前に、なぁ~~~んか、私に言う事あるんじゃないの?」

「あっ、あのッスね、奈緒さん……」

「先に言っておくけどね、クラ。言葉には、ちゃ~~~んと気をつけるんだよ。今の君だったら、女の私でも、指先1つで、余裕で喧嘩に勝てちゃうんだからね。……ほれ♪ほれほれ♪」

「ぎゃあぁぁああっぁあぁぁ~~~!!辞めてぇ~奈緒さ~~~ん!!マジで出るぅ~~~!!」


彼女のやった事は、人差し指を立てて、俺の横腹をツンツン突いただけ。

だが、その一見なんのダメージも無い小さなダメージでも、今の俺にとっては、致命傷を与えるに値する大きなダメージになる。


それによって、俺の腹の内部が刺激されて……ああぁぁぁ~~~!!辞めて~~~!!んな事したら、出る!!出る!!マジで出るってば!!


『マジで指先1つでダウンさぁ!!』って!!北斗の継承者かアンタは!!



「ねぇねぇクラ」

「あぅ、あぅ……なんッスか、今度は?もす、勘弁して欲しいッス」

「ぷぅぷぅぷぅぷぅぷぅ、どか~ん!!ぷぅぷぅぷぅぷぅぷぅ、どか~ん!!」


あぁ……もぉ最悪だよ、この人。

なにを言い出すかと思えば、口を窄めて『ぷぅ』と言う『屁』リズムを取り『どか~ん』と言うリズムで『糞』の出るタイミング計る。


マジで辞めて下さい!!


マジで、その正確で、奇妙なリズムを刻むのは辞めて下さい。

ついつい音に合わせて、大変な物が出ちゃいそうですよ!!


これは、音楽やってる奴に対しては、かなり効果的な嫌がらせだ!!



「奈緒ざ~ん、ごべんださい。もぉ二度と『エキス』なんて言葉は、口が裂けても言いませんから、お願いですから、そご、退いて下ざ~い」

「ふむ、わかれば宜しい」


奈緒さんは、凭れたいた扉を開放すると、速攻で俺がトイレに駆け込める様に扉を開いてくれた。


そんな親切をしてくれるなら、最初から、こんな意地の悪い事をしないで下さいよぉ。



まぁそれは兎も角、俺は、トイレに飛び込んで……


♪~~~♪~~~♪~~~……

(画像・音声に不備がございますので、少しの間、別の画面をお楽しみ下さい)


***


 『コンコン』

地獄の腹痛から、丁度一段落したぐらいに、扉の向こうから奈緒さんがノックしてきた。


……ってか、ズッと居たのねぇ。



「ぷぷっ……ねぇねぇ、大丈夫、クラ?」

「全然、大丈夫じゃねぇッスよ!!今もまだ、腹の痛みが止まらねぇッスよ」

「ぷっ……そうなんだ。梅干って、ホント効果抜群だね」

「あぁそれっすよ、それ?それって、なんか腹痛を起す、特別な梅干なんッスか?」

「うぅん。違うよ。これは、至って普通の梅干」

「じゃあ、なんで俺は、こんな酷い目に遭ってるんッスか」

「ふふ~~~ん。昔からね。『鰻』と『梅干』は、一緒に食べちゃイケナイって言う話があってね。それを一緒に食べると、お腹を壊すのよ」

「なんッスか、それ?」

「……俗に言う『喰い合わせ』って奴だね。知らなかった?」


そっ、そうなのか?

食い物を合わせて喰うだけで、そんな殺人的な事が簡単に出来ちゃうんッスか?


もしそれが事実なら、喰い物って、おっかねぇし、奥が深いんだな。


それにしても奈緒さん……アナタって人は、ホント、余計な知識バッカリ一杯持ってますね。

戦国の時代とかに生まれたら、きっと名のある策略家になってましたよ。

きっとアナタなら、平然と敵の兵糧に『鰻』と『梅干』を混ぜ合わせた物を入れて、敵を混乱に陥れるんでしょうね。


まぁ……結局、アナタは、人の嫌がる様な悪さバッカリする策略家ですよ、きっと。


けど、あれっしょ。

奈緒さんは可愛いし、美人だから、なにをやっても、全部、許されちゃうんでしょ。


やるせね!!



「もしそんな事を知ってたら、易々と、こんな酷い目には遭ってないッスよ」

「くすっ、だよね」


ダメだ。

この人には、全く反省の色ってものが無い。

いや、それ以前に、彼女には反省する機能が、残念な事に欠落してる。


マジでダメだ、この人……


でも、そんな奈緒さんも好きッスよ。

(↑学習する機能が付いてない俺)



「あっ、あの、奈緒さん」

「うん?なに?」

「つかぬ事をお伺いしますが……これって、いつぐらいに収まるもんなんッスか?」

「あぁそうだねぇ。良くは解らないけど。朝には収まってるんじゃないかな?……多分だけど」


もぅ、鷲巣クラスの巨悪だよ……この人。


普通ッスね、『エキス』って言葉が気に入らないだけで、そこまでしますか?


しませんよね!!


奈緒さんは、可愛い顔して、やる事、なす事、えげつな過ぎますよ。



まぁ……それでも結局、ナンデモカンデモ許してしまう自分がいるんだよな。


マジでダメだな俺……



「じゃあ、あれっすよ。俺、トイレにズッと篭ってますから。奈緒さんが、おしっこに行きたくなっても使えませんからね」


これが、今の俺に出来る精一杯の抵抗。


『トイレ篭城』


……今の現状じゃ、これ以外なんも出来ん!!



「うん、別に良いよ。私、もぉそろそろ寝るし。……それに私、1回寝たら、多分、朝まで起きないしね」

「がっ……」

「それにね。もし私が、おしっこに行きたくなってトイレに行ったら、絶対、クラ出て来てくれるもん」


有り得ねぇ!!

これだけの悪事を働いて置いて、布団で寝る気だよ、この人!!

そんで自分がトイレに起きて来たら、俺が、出る事を前提にしてるし!!


マジ有り得ねぇ!!


って、言ってもぉ。

まぁ……その時は、俺もトイレからは出て来るんッスけどね。


ハァ~~~……もぉ奈緒さんには、なにやっても、なに言ってもダメだな。


これはもぉ完全に諦めた。


しょうがねぇから、このままトイレで寝よ。



「じゃあね。クラ、おやすみ……ごゆっくり」

「がっ……」


そう言って、奈緒さんの足音は段々遠退いて行く。


ったくもぉ、マジで布団に入って寝る気だよ。


まっ、良いけどな。

こうなったらせめて、布団の中で『良い夢を見て下さいよ』奈緒さん。


結局……俺は、この奈緒さんとの残り少ない時間を、夏の熱気が篭ったクソ暑いトイレで一夜を明かすと言う、予想もし得ない最悪の事態になった。


まぁ、ある意味、これも奈緒さんを思えばこその行動だ。


だってよ。

仮に此処を出て、寝室に行って奈緒さんと一緒に寝たとしてもだな。

また俺が急に便意が催したら、その都度、奈緒さんを起しちまう可能性が有る訳だろ。


そんなの可哀想じゃん。



んな訳で……俺と奈緒さんの3日目は、これにて終了。


なんだこれ?


最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございましたぁ<(_ _)>


奈緒さん……悪いですねぇ。

喰い合わせで生じた腹痛は並大抵のものではないので、倉津君にしたら地獄ですよ。


まぁ言うて、余計な事ばっかり言った倉津君が、事の発端なんですけどね(笑)


さてさて、そんな中。

次回はトイレで寝る羽目になった倉津君が、この後どういう行動をとるかをお楽しみください。


まぁどうせ、またロクデモナイ事をするとは思いますが。

良かったら、また遊びに来て下さいねぇ~~~(*'ω'*)ノ

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