●前回のおさらい●
奈緒さんと過ごせる日にちが後5日。
そんな中、中々マニアックな会話をしながら、食事を摂る2人だったが……
「あぁそうだ、そうだ。そう言えばさ、クラ。私が家で漬けた梅干があるんだけど。……良かったら、それも食べる?食べてみる?」
「梅干ッスか?あぁ頂きます。実は俺、結構、梅干好きなんッスよ」
「そうなんだ。じゃあ、ちょっと取ってくるね」
「あぁすんません」
そう言って、奈緒さんはチョコチョコと台所に行き。
キッチンの下からゴソゴソと梅干が漬かった瓶を取り出し、重たそうに持って来る。
そんで部屋に戻って来たら、それを小分けにして俺の前に出してくれた。
その出してくれた梅干って言うのが、また上手くシワシワになって、見るからに、なんとも美味そうな感じなんだよな。
「沢山作ってあるから、遠慮せずに、いっぱい食べても良いよ」
満面の笑みを浮かべる奈緒さんに、薦められるまま、口の中に頬張る。
これがまた、思った通り……『美味い!!』んだよな。
あぁ……こんな美味い梅干を、ワザワザ俺の為に持って来てくれたって事は、あれだな。
奈緒さんの表情からして、さっきの話が気まずくて『奈緒さん秘伝の梅干を出して来てくれた』って所だな。
ホント、どこまでも気を使う人だよな。
にしても、これ、マジで美味いなぁ。
プロが漬けた物と遜色が無いぐらい美味いから、幾らでもいけるぞ。
多分、これって、奈緒さんが漬ける際に、蜂蜜かなんかを上手くブレンドさせてんだろうな。
蜂蜜の甘さが少し勝ってる感はあるが、独特の甘酸っぱい風味が上手く醸し出されていて、兎に角、絶品だ。
ホント、この人だけは、なにやらしても器用な人だな。
俺は、この後も、調子に乗って、何個も何個も梅干を頬張って、鰻も勿論、完食した。
当然、後の事を考えれば、タップリと精力を付ける必要が有ったので、肝の吸い物も残さず全部喰った。
余は満足じゃ♪
***
痛い……腹が尋常じゃなく痛い。
時折、内臓が『ギョルギュル』と変な音を立てて、うねり倒している感覚に陥るのは、一体、なんでなんだろうな?
しかも、その音と同時に、耐えがたい腹痛が起こるんだが……なんなんだよ、これ?
この痛烈な痛みは、今まで一度も体験した憶えが無い程の痛みだぞ……
ナイフなんかで刺された外部からの怪我等に関しては、多少の事では、なんとも思わない俺だが……事、内部からの痛みに対しては、滅法抵抗力が薄い。
現に今も、あまりの激痛に我慢が出来ず、腹を押さえたまま、畳の上をのた打ち回っている。
付け加えて言えば、俺は、昔から、胃腸が異常なまでに弱いんだよな。
だから多分、なんかに当たったんだろうけど……その原因が、奈緒さんの作った料理とは、なにがあっても思えないんだよな。
だって、あの人、事細かに物をする人だから、調理の際に、そんな初歩的なミスはしない筈だろうしな。
その証拠に、奈緒さんは、何事も無かった様に台所で片付けをしてる。
だとしたら、ひょ、ひょっとして、これって、俗に言う『盲腸』とか言う奴じゃねぇのか?
奈緒さんとの残り時間が、後4日しか無いって言うのに……
ってか、痛ててて……
痛い痛い痛い……
こりゃあ、本格的にヤバイな。
……っと成るとだ。
考えるのは、取り敢えず後だ。
今は、這ってでもトイレに行って、まずは様子を見よう。
俺は、激痛のあまり真っ青な顔をして、トイレに行こうとした。
すると……
「あれぇ~~~、クラ。そんな真っ青な顔して、どうしたのかなぁ~~~?まさか、お腹が痛いのかなぁ~~~?君……ひょっとして、私のエキスとやらに当たったんじゃないのぉ~~~?」
奈緒さんは、俺が此処に来るのを予想していた様にトイレの扉に凭れ掛かって、俺の行く手を阻む。
……って事は。
あぁ~~~!!最悪だぁ!!
奈緒さんの、この表情と、言動は……間違いなく、嵌められた証拠じゃねぇか!!
けど、そうなると、何が原因だ?
俺と奈緒さんの食べた物の違いって、なんだっけな?
・・・・・・
あぁイカン。
腹が痛くて、タダでさえキッチリ動かない思考が、全然なにも想像してくれない。
そこに奈緒さんが、何か入った瓶を手にして、俺の眼の前をプラプラさせる。
なっ、なんだ?
「これ、なぁ~~~んだ?」
俺は腹痛を堪えながら、奈緒さんの手にしている物を凝視する。
中には、皺くちゃになった赤い食べ物が入っている。
うっ、梅干!!
そっ、そうだ!!
俺が喰ってて、奈緒さんが、全く口にしていない物と言えば『梅干』だ!!
けっ、けど、なんで梅干なんだ?
梅干を喰っただけで、容易に腹を壊すって事は『物自体が腐ってた』って事か?
って事は、なにか?
奈緒さんは、何らかの怒りを俺に覚えて、復讐の為だけに梅干の賞味期限が切れてるのを承知の上で、俺に鱈腹喰わしたって言うのか?
いやいやいや……流石に、悪戯女王の奈緒さんでも、そこまで無慈悲な事はしないだろう。
この腹痛の原因は、他になんかあるな。
「こっ、この腹痛……まさか、奈緒さんのせいッスか?もし、そうなら酷過ぎるッスよ」
「どっちがよ。人の事を、散々『味の素』みたいに言ってさぁ。それはきっと天罰だよ天罰。だから君が悪いの」
怒りの原因は、ヤッパリそこかぁ。
奈緒さんの今の言動からもハッキリわかる様に、あの『エキス』って言葉が、相当、気に入らなかったみたいだな。
しかしまぁ……腹が立ってたにも拘らず、よくもまぁあれだけ感情を抑えた上に、あんな満面の笑みで微笑みかけて、俺に梅干を薦められたもんだな。
感心するよ。
……ってか!!
んな、悠長な事を考えてる暇なんてねえよ!!
もぉ限界だ!!
もし此処で、不覚にも屁の一発でもこいたら最後……奈緒さんの前で、見せたくも無い、無様な姿を晒す事になっちまう。
その一発は、俺の命運を掛ける事、間違いなし!!
『うんこ垂れ座衛門』になってしまうか否かは、全てそこに掛かってる。
けど……それだけは、絶対に嫌だ。
死んでも山中とは、同列に見られたくねぇ!!
「あっ、あぁ、あの、お願いッス、奈緒さん。頼みますから、そこを退いて下さい」
「ダメだよ。行かせてあげない」
「なんでッスか?あぁもぉマジダメっす……出るッス!!出るッスよ!!」
「知らない。……ってか、その前に、なぁ~~~んか、私に言う事あるんじゃないの?」
「あっ、あのッスね、奈緒さん……」
「先に言っておくけどね、クラ。言葉には、ちゃ~~~んと気をつけるんだよ。今の君だったら、女の私でも、指先1つで、余裕で喧嘩に勝てちゃうんだからね。……ほれ♪ほれほれ♪」
「ぎゃあぁぁああっぁあぁぁ~~~!!辞めてぇ~奈緒さ~~~ん!!マジで出るぅ~~~!!」
彼女のやった事は、人差し指を立てて、俺の横腹をツンツン突いただけ。
だが、その一見なんのダメージも無い小さなダメージでも、今の俺にとっては、致命傷を与えるに値する大きなダメージになる。
それによって、俺の腹の内部が刺激されて……ああぁぁぁ~~~!!辞めて~~~!!んな事したら、出る!!出る!!マジで出るってば!!
『マジで指先1つでダウンさぁ!!』って!!北斗の継承者かアンタは!!
「ねぇねぇクラ」
「あぅ、あぅ……なんッスか、今度は?もす、勘弁して欲しいッス」
「ぷぅぷぅぷぅぷぅぷぅ、どか~ん!!ぷぅぷぅぷぅぷぅぷぅ、どか~ん!!」
あぁ……もぉ最悪だよ、この人。
なにを言い出すかと思えば、口を窄めて『ぷぅ』と言う『屁』リズムを取り『どか~ん』と言うリズムで『糞』の出るタイミング計る。
マジで辞めて下さい!!
マジで、その正確で、奇妙なリズムを刻むのは辞めて下さい。
ついつい音に合わせて、大変な物が出ちゃいそうですよ!!
これは、音楽やってる奴に対しては、かなり効果的な嫌がらせだ!!
「奈緒ざ~ん、ごべんださい。もぉ二度と『エキス』なんて言葉は、口が裂けても言いませんから、お願いですから、そご、退いて下ざ~い」
「ふむ、わかれば宜しい」
奈緒さんは、凭れたいた扉を開放すると、速攻で俺がトイレに駆け込める様に扉を開いてくれた。
そんな親切をしてくれるなら、最初から、こんな意地の悪い事をしないで下さいよぉ。
まぁそれは兎も角、俺は、トイレに飛び込んで……
♪~~~♪~~~♪~~~……
(画像・音声に不備がございますので、少しの間、別の画面をお楽しみ下さい)
***
『コンコン』
地獄の腹痛から、丁度一段落したぐらいに、扉の向こうから奈緒さんがノックしてきた。
……ってか、ズッと居たのねぇ。
「ぷぷっ……ねぇねぇ、大丈夫、クラ?」
「全然、大丈夫じゃねぇッスよ!!今もまだ、腹の痛みが止まらねぇッスよ」
「ぷっ……そうなんだ。梅干って、ホント効果抜群だね」
「あぁそれっすよ、それ?それって、なんか腹痛を起す、特別な梅干なんッスか?」
「うぅん。違うよ。これは、至って普通の梅干」
「じゃあ、なんで俺は、こんな酷い目に遭ってるんッスか」
「ふふ~~~ん。昔からね。『鰻』と『梅干』は、一緒に食べちゃイケナイって言う話があってね。それを一緒に食べると、お腹を壊すのよ」
「なんッスか、それ?」
「……俗に言う『喰い合わせ』って奴だね。知らなかった?」
そっ、そうなのか?
食い物を合わせて喰うだけで、そんな殺人的な事が簡単に出来ちゃうんッスか?
もしそれが事実なら、喰い物って、おっかねぇし、奥が深いんだな。
それにしても奈緒さん……アナタって人は、ホント、余計な知識バッカリ一杯持ってますね。
戦国の時代とかに生まれたら、きっと名のある策略家になってましたよ。
きっとアナタなら、平然と敵の兵糧に『鰻』と『梅干』を混ぜ合わせた物を入れて、敵を混乱に陥れるんでしょうね。
まぁ……結局、アナタは、人の嫌がる様な悪さバッカリする策略家ですよ、きっと。
けど、あれっしょ。
奈緒さんは可愛いし、美人だから、なにをやっても、全部、許されちゃうんでしょ。
やるせね!!
「もしそんな事を知ってたら、易々と、こんな酷い目には遭ってないッスよ」
「くすっ、だよね」
ダメだ。
この人には、全く反省の色ってものが無い。
いや、それ以前に、彼女には反省する機能が、残念な事に欠落してる。
マジでダメだ、この人……
でも、そんな奈緒さんも好きッスよ。
(↑学習する機能が付いてない俺)
「あっ、あの、奈緒さん」
「うん?なに?」
「つかぬ事をお伺いしますが……これって、いつぐらいに収まるもんなんッスか?」
「あぁそうだねぇ。良くは解らないけど。朝には収まってるんじゃないかな?……多分だけど」
もぅ、鷲巣クラスの巨悪だよ……この人。
普通ッスね、『エキス』って言葉が気に入らないだけで、そこまでしますか?
しませんよね!!
奈緒さんは、可愛い顔して、やる事、なす事、えげつな過ぎますよ。
まぁ……それでも結局、ナンデモカンデモ許してしまう自分がいるんだよな。
マジでダメだな俺……
「じゃあ、あれっすよ。俺、トイレにズッと篭ってますから。奈緒さんが、おしっこに行きたくなっても使えませんからね」
これが、今の俺に出来る精一杯の抵抗。
『トイレ篭城』
……今の現状じゃ、これ以外なんも出来ん!!
「うん、別に良いよ。私、もぉそろそろ寝るし。……それに私、1回寝たら、多分、朝まで起きないしね」
「がっ……」
「それにね。もし私が、おしっこに行きたくなってトイレに行ったら、絶対、クラ出て来てくれるもん」
有り得ねぇ!!
これだけの悪事を働いて置いて、布団で寝る気だよ、この人!!
そんで自分がトイレに起きて来たら、俺が、出る事を前提にしてるし!!
マジ有り得ねぇ!!
って、言ってもぉ。
まぁ……その時は、俺もトイレからは出て来るんッスけどね。
ハァ~~~……もぉ奈緒さんには、なにやっても、なに言ってもダメだな。
これはもぉ完全に諦めた。
しょうがねぇから、このままトイレで寝よ。
「じゃあね。クラ、おやすみ……ごゆっくり」
「がっ……」
そう言って、奈緒さんの足音は段々遠退いて行く。
ったくもぉ、マジで布団に入って寝る気だよ。
まっ、良いけどな。
こうなったらせめて、布団の中で『良い夢を見て下さいよ』奈緒さん。
結局……俺は、この奈緒さんとの残り少ない時間を、夏の熱気が篭ったクソ暑いトイレで一夜を明かすと言う、予想もし得ない最悪の事態になった。
まぁ、ある意味、これも奈緒さんを思えばこその行動だ。
だってよ。
仮に此処を出て、寝室に行って奈緒さんと一緒に寝たとしてもだな。
また俺が急に便意が催したら、その都度、奈緒さんを起しちまう可能性が有る訳だろ。
そんなの可哀想じゃん。
んな訳で……俺と奈緒さんの3日目は、これにて終了。
なんだこれ?
最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございましたぁ<(_ _)>
奈緒さん……悪いですねぇ。
喰い合わせで生じた腹痛は並大抵のものではないので、倉津君にしたら地獄ですよ。
まぁ言うて、余計な事ばっかり言った倉津君が、事の発端なんですけどね(笑)
さてさて、そんな中。
次回はトイレで寝る羽目になった倉津君が、この後どういう行動をとるかをお楽しみください。
まぁどうせ、またロクデモナイ事をするとは思いますが。
良かったら、また遊びに来て下さいねぇ~~~(*'ω'*)ノ
読み終わったら、ポイントを付けましょう!