●前回までのあらすじ●
オープニングから無謀な速弾きアレンジをかまして、ソロでステージインした倉津君。
その後、ステージインした山中君は、それに対しても比較的協力的だったが。
嶋田さんは、その逆で、挑発に挑発重ねる様な演奏で、更なる速弾きアレンジをかましてくる。
だが、それに付いて行けるかどうか微妙な倉津君が困っていると……
あっ……あぁ、なるほど。
オーディエンスの様子を見て、どうやら俺の動揺を見るに見兼ねた奈緒さんが、此処で強引にステージインして来てくれたみたいだな。
助かったぁ~~~!!
さっきの状態のまま、やけっぱちでベースを弾いてたら、間違い無く大惨事になる所だったからな。
マジ助かった……
……だが、その安心感は長くは続かなかった。
あっと言う間に、遥か彼方に吹き飛ばされる事になる。
嬉々として、背中越しに奈緒さんの顔を見てみると。
彼女の表情は、俺が思い描いた表情とは、かなり違ったからだ。
何故そうなったのかは知らないが、奈緒さんの顔は、かなり険しい。
寧ろ、怒っていると言った方が正確かもしれない。
いや、これってまさか……
……只管イヤな予感がした。
「良いじゃない、良いじゃない。嶋田さんが【メンバー狩り】を、私達に仕掛けてくる来るなんて面白い事も有ったもんだね。良いよ、なら、私が、その喧嘩、クラに替わって買ってあげる。……ほら、クラも、私の動き速攻で憶えて、次から一緒に来るんだよ。わかった?……私は、君がやられっぱなしなんて、絶対に許さないからね」
「ウッ、ウッス」
……やっぱりな。
この様子からして、根本的に負けず嫌いな奈緒さんは、嶋田さんの挑発がトコトン気に入らなかったのだろう。
この人、変な所だけ熱いんだよな。
けど、このままの奈緒さんじゃ、流石にマズイよな。
少しはクールダウンしてあげないと……
「あっ、あの、奈緒さん、奈緒さん。このスピード、本当に大丈夫ッなんスか?」
「くすっ……なに言ってるのよ、クラ。この曲を作ったのって私だよ。だったら、こんな程度のスピードアレンジなんて、なんの問題があるって言うのよ」
「あっ、そッ、そッスか」
ダメだ。
完全に火が入っちまってる。
多分、俺がなにを言っても止まらない。
「……それにね、クラ」
「ハッ、ハイ、なっ、なんッスか?」
「私は、嶋田さんのあの態度が、どうしても気に喰わないの」
「へっ?」
「幾ら、クラが自分勝手な事をしたからって、あの態度はないんじゃない?彼女の前だからってイキリ過ぎだよ。私はね、そんな事の為だけに、自分の彼氏に恥を掻かせた相手を許せる程、寛大な人間じゃないの……それが、例えバンドのメンバーであってもね」
「あっ、あの、奈緒さん?」
マジ怒りの奈緒さん、超怖ぇぇ~~!!
嶋田さん同様……いや、それ以上に完全に眼がイッちゃてるぞ。
親の仇でも見る様な眼で、嶋田さんを見てるぞ。
あぁダメだ。
俺も、これに懲りて、もぅイラネェ事しねぇで居よ。
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「ほら、私が音を恵んであげる!!君達も、こんなギターと、ドラムの音だけじゃ満足出来無いんでしょ」
「「「「「奈緒様最高~~~~!!もっと音を恵んで下さい!!」」」」」
あぁ~~あっ、奈緒さんが、完全に山中と、嶋田さんを挑発しちゃてるよ。
あの2人を相手に、同時に真っ向勝負を仕掛けるなんて、この人は、どこまで良い度胸してるんだよ?
……って言うか奈緒さん、テンション上がり過ぎてね?
まぁそんな事は、兎も角、奈緒さんのベースは、他の2人と引けをとらない速さだ。
しかも彼女は、ドラムを叩くのが本業だけに一切リズムを崩さない。
綺麗に他の2人の音にシンクロしている。
しかしまぁ、この人、ホント、なんでも出来るよな。
よくもまぁ、こんな原曲を留めてない様な速くなっちまった曲を、平気な顔して弾けるもんだ。
けど、奈緒さんのお陰で、少しだが光明が見えてきたぞ。
今、奈緒さんの手の動きを見たところ、なんとかギリギリだが、俺でもベースの早弾き出来そうな雰囲気ではある。
多分、俺には、彼女みたいな余裕はどこにもねぇだろうがな。
罷り也にでも、弾いてしまえれば問題はない。
しかし、これが、山中の言う経験値って奴か……奴の言う通り、コイツは、かなり厳しくなりそうだな。
つってもな。
そんなネガティブな事を、いつまでもグジグジ言ってても埒が明かねぇ。
自分の才能(目コピ)を信じて、俺もそろそろ行くぜ!!
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「おおおぉっぉおおぉ~!!ラストは、兄貴復ッ~活ァ~ッ、キタァ~~~!!ダークヒーローは、ヤッパ最後に現れるのが、カッコイイよな、ロン」
「あぁやべぇ!!これはやべぇぞモヒィ。なんつっても、地獄の4楽器超速演奏だからな!!ヤバ過ぎる!!」
んが!!
イテ……
イテテッテッテテ……
イテテテッテテテテッテテテテッテテ……
指イテェ……指イテェ……
この速さシャレになんネェぐらい指イテェ!!
指吊る……指吊る……
指がピキピキ変な音を立てて指が吊るぅ~!!
序に手首の関節がぁ~~~~!!
タッピングしてる左手が死ぬぅぅ~~~!!
いや、あの……調子こいて自分勝手な事バッカリして、ホントすんませんでしたぁ~~~!!
金輪際、2度と、こんな真似は致しませんので、早く曲終わってくれ~~~~!!
こんな事を続けてたら、一曲目にも拘らず、マジで左手が死んじまう~~~!!
ご臨終だ、ご臨終!!
結局、格好をつけられたのは、最初に1人で入ったソロの時だけ。
一曲目の冒頭で、既に『ポンコツ』になる俺。
そして、なんとか早くこの事態を収拾を図りたい俺は、懇願する様にステージの袖で待機している素直に目で合図を送る。
すると素直は、アッサリ俺の意図を汲み取って、真剣な眼差しで『コクッ』っと頷く。
その後、直ぐにタイミングを見計って、観客に手を振りながら、会場に足を踏み入れてくれた。
「Every-bady Are you ready?」
「「「「「Alice!! Yeaaaaa~~~!!」」」」」」
「OK let`s singing【Serious stress】……Here we go!!」
「「「「「おおおぉぉおぉぉおぉぉおぉ~~~ッ!!」」」」」
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やっ、やっと曲が始まった……
素直がパンキッシュな毒歌詞を吐く事によって。
漸く、長かったイントロが終わり、やっとの思いで曲が始まった。
♪~~~~
おぉ……
今、唄い始めたこの素直の歌の冒頭を聴いてて思ったんだが……今日の素直は、前回とは比べ物にならないぐらい『メリハリ』が付いていて歌唱の完成度が高いなぁ。
しかも誰かに『なりきってる』のではなく。
今日の素直は、素のままの自分で歌っている感じが見受けられる。
これが恐らく、いつもより『出来が良い』と、俺に感じさせる最大の要因なのかもしれない。
兎に角、今日の素直は、規格外に良い感じだ。
あぁでも、これって……以前、崇秀が言っていた『奈緒さんには出せるが、素直には出せない音がある』って言う話の奴じゃねぇのか?
少し俺の推測を言うとだな。
奈緒さん場合は、元々、人真似をして唄う様な歌い方をしていない人だ。
要するに『歌い方がオリジナル』
それに対して素直は、人真似だけしかしない唄い方。
これは一般的に『コピー』と言われる歌い方だ。
これを考慮すれば一目瞭然なんだが。
奈緒さんは自己表現をする為に歌を唄う事が出来るが、今までの素直は、全くそれが出来ていなかったんだな。
自分の本質的な音を出そうとしたら、当然、自分自身を曝け出さないと、本来の声は出ないもんだからな。
他人の真似は、どこまで行っても他人。
恐らく、崇秀が言っていた事は、こう言う事だったんだろうな。
ホント、あの馬鹿だけは、人をよく観察してるよな。
まぁそれをひっくるめても、今日の素直は良い出来だな。
よっしゃ!!
じゃあ俺も、もうひと頑張りしてみるか。
バンド継続の為にも、此処で出来る限り以上の事をして、限界まで出しきらなきゃな。
此処まで素直が、自分を曝け出して頑張ってるなら、俺も最後まで突っ走るしかないよな。
微力だが、少しぐらいは素直の援護射撃にはなるだろうしな。
俺は、必死にみんなに付いて行ける様にベースをかき鳴らした。
その後は、いつもの様に覚えていない。
一曲目から真っ白だ。
けど、これも悪くない気分だな……
最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございましたぁ<(_ _)>
ちょっとグダグダに成りかけましたけど。
なんとかかんとか、この場は持ちこたえられた様ですね(笑)
ですが、この後、何処まで出来るのかは不安な所。
大丈夫なのでしょうかね?(。´・ω・)?
……っと言う不安を他所に、ライブは続いていくのでありました(笑)
なのでまた良かったら、遊びに来て下さいねぇ~~~(*'ω'*)ノ
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