●前回のおさらい●
此処数日の奈緒さんの機嫌の悪さの原因は、美樹さん達の剣などではなく。
ただの季節外れの花粉症と判明した(笑)
「すんません、すんません。全然気付いて上げられなかったッス……あぁでも奈緒さん、その真っ赤な鼻も可愛いッスよ」
「君ねぇ、ぷしゅん!!……もぉ良いよ、どっか行ってよ。この無神経、ぷしゅん!!ぷしゅん!!……もぉやだぁ~。ぷしゅん!!」
……可愛過ぎるぞ奈緒さん。
苦しんでる自分の彼女に、こんな事言うのも非常に心苦しいんだが……なんッスか、その小動物みたいな仕草は?
……ヤバ過ぎッスよ。
あぁダメだ、ダメだ。
こんな事を言ってる場合じゃねぇよ!!
一刻も早く、ティッシュあげねぇと……てか、こうして見ると奈緒さんも、椿さんみたいだな。
「あぁはい、ティッシュを、どうぞ……なんなら俺が拭きましょうか?」
ってか、一度で良いんで拭かして下さい。
俺に甘えて下さい。
「いらない、いらなぷしゅん!!もぉそんな事は良いから、さっさとあっち行ってぷしゅん!!もぉヤダヤダ、見るなぁぷしゅん!!」
「ほら、そんな事を言ってる場合じゃないでしょ。はい『チィ~ン』ってして下さい」
「絶対しなぷしゅん!!あっち行け!!」
『チ~~~ン!!』
そんな音と共に、俺の下半身にはなんとも言えない激痛が走る。
「ぐはぁぁぁぁあぁぁぁぁ~~~っ、奈緒さん……そりゃないッス……」
奈緒さん……お怒りは重々承知してますが……キンタマ蹴るのだけは、やめて下さい。
それ……男にとったら、死ぬ程痛いんですよ。
そんな『チィ~~~ン』はイラナイっすよ。
「自業自ぷしゅん!!だよぷしゅん!!良いクラ、私、今から楽ぷしゅん!!に、入ぷしゅん!!から、誰も入れなぷしゅん!!よ」
クシャミのせいで、奈緒さんがなに言ってるか、既に解らん……
ってか。
それ以前に、下半身に受けた衝撃のせいでキンタマが上に上がってしまい、思考が全く働かん。
あぁ……でも、多分、奈緒さんは『楽屋には誰も入れるな』って言いたかったんだろうな。
「うっ……うっす」
「はっ、ぷしゅん!!」
結局、俺は、奈緒さんの最後の『ぷしゅん』を聞きながら、楽屋の扉を潜る彼女を見送る。
後は、その場でキンタマを下降させる為にジャンプしながら、楽屋を死守する事を誓った。
にしても、まだ痛ぇよ!!
あの人、滅茶苦茶良い角度で、キンタマに蹴り入れたな。
格闘家かアンタは!!
***
30分程、俺は、奈緒さんの命令通り、この扉を守護しきった。
襲い来る数多の敵の攻撃をかわし、それらを駆逐しながら、この地を死守した。
(襲い来る数多の敵【山中・素直】駆逐しながら【事情を言わずバーで待機して貰ってる】の略)
だが……もう限界の時は近い。
理由は簡単だ……俺のこの行為に、嶋田さんが怒ってるからだ。
「そろそろ、そこを退こうか、倉津君。君に、もぉちょっと付き合ってあげたい所なんだけど。今日はね、椿の大切な誕生日なんだ。だから俺は、一刻も早くマンションに帰らなきゃないけないんだよね。……だから、そこ、退いてくれる?」
「すんません、嶋田さん。事情は言えませんが、後10分、いや、後5分だけ待って下さい」
「わからないかなぁ?俺は急いでんの……退かないと、俺も、そろそろキレるよ」
『ゾクッ!!』
オイ……今、俺、この人の殺気で『ゾクッ』っとしたぞ。
喧嘩慣れしてる俺が、そう感じるんだから、相当ヤバイ殺気だぞ。
もしかしてこの人って、実は俺なんかより、凄ぇ怖い人なんじゃないのか?
特に、椿さん関連の話になった時は、尋常じゃ無いよな。
ただな、嶋田さん。
そうは言っても、俺だって、そう簡単に、此処を退く訳には行かないんだよ。
アナタなら、そこ、解ってくれるでしょ……
アナタ同様、扉の向こうには、俺が命に換えても守るべき人間が居るんですから、なにが有っても此処は通せない。
「あれ、嶋田さん?……うん?クラ、なにか揉めてるの?」
「いや、向井さん、揉めてるって程の話じゃないんだけどね。今日は、俺の彼女の誕生日だから急いでる、って、倉津君に言ってるんだけど。倉津君が、一向に、そこを退いてくれないんだよ」
「ハァ~~~……もぉ君って奴は、ホントに融通の利かない子だね。そんな事情なら、直ぐに通して上げなよ。その融通の利かないところ、門を守ってた頃の曹操孟徳にそっくりだよ。それとも悪来の方が良い?」
誰それ?
織田信長って奴なら、多少、なんとなくは解りますが。
中国人の事なんぞを言われても、サッパリわからんッスよ。
特に『悪来』って、誰ッスか?
なに人ですか?
ってかね、奈緒さん。
一応、これでもアナタの為に、必死に扉を守ったんッスから、そんな事を言うもんじゃねぇッスよ。
なので俺は、ちょっとだけムッとする。
「だって奈緒さん。さっきまで酷い『ハクション大魔王女』になってたじゃないッスか。そんな姿、なにが有っても、俺以外には見せられないッスよ」
「ったくもぉ、この子は……すみません、嶋田さん。クラが、ご迷惑お掛けしました」
「あぁ良いよ、良いよ。帰り支度が出来るんなら問題はないよ」
「ホントに、すみませんでした」
「うん。じゃあ、俺、帰り支度があるから、また練習の時ね。あぁそれと10日間お疲れ様。……後、花粉症、早く治ると良いね」
「あっ、はい、お疲れ様です。それと出来るだけ早く治しますね。心配してくださって、ありがとうございます」
奈緒さんは、笑顔で嶋田さんを見送る。
そして。
彼が扉を閉めるのを確認すると同時に『クルッ』と反転して、俺を睨む。
なんで?
「……っでさぁ、クラ。さっき言ってた『ハクション大魔王女』って誰の事を言ってたのかな?まさかとは思うけど、花粉症で苦しんでた私の事を言ってたんじゃないよね?」
もぉこの人は……
最初は、見事なまでにスルーしてたくせに。
なんで今になって、思い出した様に、そこを怒るんだ。
一回でも流したんなら、そのまま流しときゃ良いじゃないですか。
「いや、あの、なっ、奈緒さんッスかね……たっ、多分」
「じゃあなに?私は、クシャミした人の所へ、ツボの中から飛んで行く訳?」
「あぁそれなら、俺がコショウ片手に、一生、クシャミし続けますよ」
「あっそ……じゃあ私は、その都度『呼ばれて飛び出てジャジャジャジャ~ン』って言わなきゃいけない訳?ねぇ……言わなきゃいけない訳?」
「あっ、あの……すんませんした。二度と言いません」
「そっ、じゃあ許してあげる」
「あっ、あざっす」
「その代わり、ちゃんと約束守ってよ」
???
なっ、なんの話だ?
俺、奈緒さんと、なんか約束したか?
「あっ、あの、おっ、俺、なんか奈緒さんと約束しましたっけ?」
「君は、さっき『私がドキドキするデートをしてくれたら、秘密を教えてあげる』って言ったのを、もぉ忘れたの?アルツハイマーかなんかなの?」
「あっ……いや、けど、それって、花粉症の話じゃなかったんッスか?」
「どうかな?」
「いや、話の流れから言って、そうじゃないッスか。だから奈緒さんには、秘密はないッスよ」
「でも、もし、そうだと思うんなら、尚更、君は、私が満足するデートを、絶対にしなきゃいけないんじゃないの?……罷り也にも、私の秘密を知っちゃったんだし」
「あっ、そうか……なるほど、そう言う意味か」
「納得するんだ」
そりゃあ、納得しますよ。
奈緒さんとデート出来る権利を得たのに。
なんで、それを破棄する様な選択肢を、ワザワザ俺が選ぶ必要があるんッスか?
それに、今からデートするって事は、勉強しなくて良いって事ッスよね。
だったら、そんな美味しい話に乗らない手はないッスよ。
「つぅか、奈緒さん。どこか行きたい所が有ります?」
「そうだねぇ~。今からだと赤レンガ倉庫かな」
「赤レンガ倉庫ッスか?……別に良いッスけど、豪くまた近場ッスね。そんな所だったら、いつでも行けるのに。そんなんで、ホントに良いんッスか?」
「それで良いよ。……少しね。海風に当たりたいなぁとか思ったの。此処んとこ、室内ばっかりに居たでしょ……だからね」
「そッスか……では、私目がエスコ-ト致しますよ、お嬢様。お手をどうぞ」
「きもっ」
ダメ・パターンだと解っててもやってしまう、悲しい重度の山中病感染者な俺。
でもよぉ。
偶には乗ってくれても良いじゃねぇか、奈緒さん?
「早く行くよ」
「……うっす」
ハイ、乗らないッスね。
っとまぁ、そんな感じで、2人でライブハウスを後にする。
だが、階段を上がり終えて直後に。
奈緒さんが、自分の鞄を開けて、何かを確認し始めた。
なんだ?
「あぁっと、いけない。ないないっと思ってたら。やっぱり、楽屋に忘れたみたい。……クラ、悪いけど、私、忘れ物を取って来るから、先に駅に行って、切符を買ってて貰って良い?」
「全然、良いッスよ……にしても、奈緒さんも、意外とドン臭いんッスね」
「しょうがないでしょ。忘れたんだから」
そう言って奈緒さんは、再度ライブハウスの地下に戻って行く。
俺はと言うとだな。
デートと言う言葉に浮かれて、ご機嫌なまま駅に向う。
最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございましたぁ<(_ _)>
さてさて、なにやら訳の解らないまま、デートに行く事に成った2人なのですが。
今回は、何事も無く普通のデートで終わる事が出来るのでしょうか?
勿論、そんな訳ありません(笑)
でも、その辺ついては次回の講釈と言う事で。
また良かったら、遊びに来て下さいねぇ~~~(*'ω'*)ノ
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