●前回までのあらすじ●
少しの間自習してたら、山中君が突然、なにかを宣言し始めた。
「なっ、なんだよ急に?」
「ぶっちゃけて、正直に言うぞ」
「えっ?だからなんだよ?」
「俺……俺な……実は、アリスの事がメッチャ好きやねん」
「へっ?オイオイオイオイ、なんで急に、そんな話になるんだよ?」
山中は、突然「素直が好き」宣言をした。
いや、素直が『良い女』だって事は解ってるんだぞ。
けど、そのカミングアウトは、イキナリ過ぎないか?
それに本気なのか?
こんな事を俺が言う義理じゃないんだが、遊びだったら、絶対に許せねぇからな。
「実を言うとやな。これはなんも、今に始まった話やないんや。豪い前から気にはなっとってん」
「前って言われてもよぉ、それって、いつ位からだよ?」
「ズッと前や。それこそ、アイツが男の格好で学校来とる頃からや」
「オマエ……それ、知ってたのか?」
「悪い冗談やでマコ。それこそ当たり前の話やないか?あんな女性フェロモン撒き散らす男なんぞ居るかちゅ~ねん。もし、それで、わからん様な奴が居ったら、相当な鈍感か、100%純正のホモやで」
俺って『相当な鈍感』か『100%純正のホモ』なのか?
アイツがカミングアウトとしたライブの時まで、俺は、全く気付きもしなかったぞ。
って言うか、気付いた時、アイツは、既に女だったしな。
「鈍感とかホモは、さて置き。なんでオマエは、アイツが女だって事を、ズッと黙ってたんだ?」
「アホか?好きな女が『男のフリ』して学校に来てるなんざ、良ぇ隠れ蓑やんけ。男やったら、ホモや言われとうないから、それが解ってても、アリスには告白なんか出来へんやろ。だから黙ってたんや」
「なら、なんで今更、告白する気になったんだよ?女の姿に戻って学校に来てるからか?」
「違う。そんなショウモナイ理由やない。俺はな『オマエを見てる』アイツを見とったら、なんか居ても立ってもおられへん様になってん。報われへん恋愛なんか、アイツはすべきやないんちゃうか?」
そう言う意見が出るって事は、かなりマジなんだな。
この発言の中では、先程の曇った表情は一切見受けられない。
それ処か、山中のこの告白自体に一点の曇りすらない。
真剣に、素直の事を考えてる様にも見える。
それに、今になって考えてみれば。
奈緒さんと出逢ったコンパの際にMACで話した『素直を、俺が救出した話』だって、いつまでもコイツが、そんな事を憶えてる必要なんてないもんな。
そうやって思い返してみれば。
山中の奴、素直の気持ちを、俺に気付かせる為に、あんな話をしたんじゃないか?
まぁ此処まで来たら、考え過ぎかもしれないがな。
「確かにな。……けど、オマエ、アイツを大事にする自信はあんのかよ?オマエ、浮気性だろ」
「浮気はせぇへん。そんなもん、当たり前や。それになぁ、もし付き合い事が出来たら、アリスの事は、必ず幸せにしたるわ。序に言うたら、奈緒ちゃんをメジャーにする話も嘘やない。全部、男に二言はない」
「そうか……なら、俺も微力ながら応援してやるよ」
「悪いけどなぁ。オマエに応援して貰うんだけは、遠慮するわ」
「迷惑か?」
「あぁ迷惑や。オマエが下手にそんな事をしたら、絶対、アリスが傷付くだけや。そやからオマエは、特になんもせんで良ぇ。いつも通りにしとったら良ぇねん」
山中は、そう言って、この話を締めくくった。
これ以上の話は必要ないと感じたのだろう。
此処で、やや沈黙が続く。
「あっ、あの……真琴君、山中君、準備が出来たから、コッチに来て貰って良いかな?」
一斉に部屋全体に甘い香りが充満した。
この独特の桃の香りがするって事は、素直が、少なからず汗を掻いてるって事だ。
勿論、変な事は考えないが、奈緒さんと、本当に何をやってたんだ?
大体にして、2人で一体、何の準備をしてたんだ?
「おぉ、何や知らんけど、今行くわ」
何も無かった様に、奴は素直に着いて行く。
奴がそう言う態度を取るなら、それには従うべきだろう。
***
部屋を移すと、奈緒さんは、何故かギターを持って居た。
それに素直同様、結構、汗を掻いている。
なんだ?コレは一体、なにが起こってるんだ?
「来たね……クラ、カズ、勉強を再開するよ」
「「はっ?はぁ?」」
「良いから、良いから。私の言う通りにして」
「「はぁ」」
「アリスは、さっき教えた通りボーカルね。カズはドラム。クラはベース。ギターは居ないから、私が代理で弾くね……OK?」
「ちょ、奈緒さん、何の事ッスか?勉強するんッスか?それとも練習するんッスか?」
「良いから、良いから」
訳が解らないまま、俺はベースを握って、山中はドラムの位置に座る。
素直は、マイクの高さを調整しながらテストをする。
……数分後。
準備は整ったんだが……本当に、なにをする気なんだ?
明日のライブは、確かに大切なライブだが。
今は、それよりも、勉強をしなくちゃいけない時じゃないのか?
謎は深まる一方だ。
「準備は良い?じゃあ始めるよ。まずは【Please look at me】!!」
あぁそれ!!
明日のライブでやる、奈緒さんが作った曲じゃないッスか?
しかし、なんで、敢えて今?
なにも解らないまま、俺は、奈緒さんの指示に従ってベースを鳴らす。
山中も、俺同様、曲に合わせてドラムを叩く。
……だが、歌詞が入った瞬間、様相は一転した。
アリスが唄う歌は、全部、日本語の歌詞で『現社』の略語や、年表の内容が含まれている。
しかも、それが一切の違和感も無く、曲として上手く紡がれて行く。
そんで、その次に【Serious stress】を奏でるんだが。
これも先程同様『歴史』の暗記すべき事が歌詞になっている。
勿論、そうなれば【Original intention accomplishment】もそうだ。
コチラは、理科の暗記物が含まれている。
「はい、終わり」
「えっ、えぇ~~~!!なんッスかこれ?」
「うん?曲に暗記するべき事を、全部入れてみたのよ」
「えっ?えっ?まさか、あの短時間で奈緒さんが作ったんッスか?」
「うぅん。作ったのは嶋田さんだよ。私はさっき、それを駅まで取りに行っただけ」
はぁ~~~っ、これまた、凄い事を考えるもんだ。
俺や、山中……特に俺なんかが、暗記が苦手だと踏んで。
時間削減の為に、曲の中に暗記物を全部盛り込んだんだな。
確かに、これなら、歌詞を覚えるだけで暗記が終わる。
それに勉強だと思ったら、中々覚えられなくても、音楽なら覚え易い。
ホントに、凄い事を考えたもんだ。
それにしてもだな。
そんな事を簡単に歌詞にしてしまう嶋田さんは、矢張り、只者じゃないな。
マジで凄ぇな、この人達って。
「無茶苦茶な事すんなぁ。そやけどまぁ、これやったら、覚え易いのは否めんわな」
「でしょ……じゃあ、序に現国もやっちゃう?」
「現国?なんや?それ、どないすんねん?」
「気になる?」
「そりゃあまぁ、気には成るわな」
「ん、だったら、今此処で現国の教科書を朗読してみ」
「おぉわかった」
山中は隣の部屋から、素直に借りてる教科書を持って来て、テスト範囲を朗読し始める。
すると奈緒さんは、いつの間にかシンセの場所に移り。
朗読の感情部分を、音で上手く奏でだす。
これは聞いてるだけで、文面に込めた作者の意図が見える気がする。
要するに、これは、楽器を使った文面の表現。
もっと解り易く言えば、映画で言う『音響効果』みたいなものだな。
即ちだ、文面のみ<読まれる文面<読んで音が入った文面<文面の映像化<文面の映像化+音響。
……っと言った様に、解り易い表現を加えていけば、ドンドン作者の意図が解り易くなる訳だ。
ただ、今日の場合、映像までは、流石に作る時間が無かったんだろう。
それでも凄いな。
「はい、現国終わり。これで少しは作者の意図も掴めたんじゃないの?」
「そやなぁ。そやけど奈緒ちゃん。何や知らんけど、こんな事よう思い付いたな」
「うん?これは、仲居間さんの技法のパクリ。あの人ほど表現は出来無いけど、それなりにだったら出来るかな?って思ってやってみたのよ」
「そう言う事かいな。そやけど、ホンマ、奈緒ちゃんって、凄い事を考えんねんな」
「まぁね……って言う事で、後は、それを聞いて、歌詞を覚えてくれたらテストは万全の筈。明日の朝、仮のテストをして腕試し。……まぁ後の本テストは、自分でなんとかして。以上、本日の勉強お仕舞い」
彼女は、そう言った後。
歌詞カードと暗記物の入ったMDを渡し、大きく伸びをした。
本当は、疲れてんだろうな。
「さてと、アリス。風呂にでも行こっか?近くに銭湯が有るのよ。大きくて気持ち良いよ」
「あぁ!!行きます、行きます。一杯汗掻いちゃいましたし。……あっ、けど、人前で裸になるのって恥ずかしくないですか?」
「混浴じゃないんだから……銭湯って言っても、女湯には、女の人しか居ないのよ」
「あっ、そうか、そうですよね」
「ん。じゃあ、君が着替え取って来たら、早速行こっか」
「あっ、はい」
嬉しそうに素直は、自分の着替えを取りに行った。
恐らくは、実家が金持ちだから、大きな家風呂はあっても、銭湯に行くのなんて初めての経験なんだろうな。
さて、素直が、そうやって着替えを取りに行ってる間に、少し奈緒さんには言って置か無きゃいけない事があるな。
此処までして貰える事なんて、当たり前の事じゃないしな。
「奈緒さん」
「うん?なに?」
「マジで、ありがとうございます」
「ふふっ、なになに?また急に改まって」
「なにも改まってへんで。奈緒ちゃんには、俺も滅茶苦茶感謝してる。勉強もそうやけど、場所も、飯も、勉強方法まで準備してくれた。ホンマ、感謝しとるで」
「何言ってんだかね……私は、ただ単に、バンドの中に馬鹿が居るのが嫌なだけ。それに感謝する相手が違うでしょ。私なんかに言うより、アリスに、その言葉を言ってあげなよ。あの子、多分、嘘まで言って家を出て来てるんだから」
「そうッスね。わかってるッスよ」
「あの……どうかしたんですか?」
「アリス、ありがとうな。ホンマ、助かったで」
「えっ?いや、あの、そんな……僕はただ……」
チラッと俺の方を見た。
でも、これってよぉ。
なんか、さっきの山中の話が有るから、複雑な心境だな。
「兎に角、俺も助かった。ありがとうな、素直」
「あっ、はい」
「さっ、風呂に行くよ、アリス。馬鹿共のお陰で、今日はホント疲れた。私は風呂から帰ったら直ぐ寝るよ」
「あっ、じゃあ僕も、そうさせて貰います」
「それじゃあ君達は、ライブの練習と、勉強ね。此処、防音効いてるから、音ガンガン鳴らしても平気だから」
「わかった。アホみたいにデカイ音で、奈緒ちゃんも、アリスも寝かせへんからな。みんなで寝不足コースや」
「どうぞ、ご勝手に。私、雑音には、結構、慣れてる方だから」
「ヒドッ」
山中がオチになった後、奈緒さんと、素直は、仲良く風呂に出掛けて行った。
そして、そんな2人を見送った俺達は、楽器を手にした特殊な勉強法を始めた。
***
気付けば休憩もなしに、無心で、深夜まで楽器を鳴り響かせていた。
恐らく、この3曲は、一生忘れられないぐらい、かき鳴らした筈だ。
勿論、お互いド下手糞な歌を交互に歌いながら、暗記する事も忘れていない。
こうして俺は、生まれて初めて、テストが待遠しい気分になっていた。
勉強も少しでも解れば、こんな気分に成るもんなんだな。
自分でも驚きだ。
最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございますです<(_ _)>
山中君……素直ちゃんの事が好きだったんですね(笑)
まさか、此処で、その宣言を倉津君にしてくるとは思わなかったでしょうね。
そして、奈緒さんの編み出した暗記方法。
これ、実は、私も学生時代によくやっていたのですが。
自分の好きな曲に合わせて、暗記物をすると。
その曲で暗記が出来ちゃうと言う奇妙な現象が起こるんですよ。
(暗記物は、大体、これで70点以上は堅かったです)
ですので、暗記物が苦手な方は、一度お試しください。
但し、集中してやらないと何も憶えないですよ(笑)
さて、そんな訳で次回からは
第二十九話『ライブ前の試練・結果編』をお送りしたいと思います。
ホント、進行が遅い小説でゴメンね。
1つ1つ大事に書きたいのさ(´;ω;`)ブワッ
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