●前回までのあらすじ●
結局は奈緒さんと素直ちゃんの接し方が思い付かずに、崇秀に頼ってしまう倉津君。
さて、崇秀からは一体、どう言う方法が提案されるのか?
「馬鹿が……そう思ってるんなら、最初から、そう言えつぅ~の。そうすりゃあ、こんな無駄な長話をする必要も無かったのによ」
「そんなもん、軽々しく言えねぇだろ。こんなミットモネェ話、言えねぇつぅの」
「ホントに脳味噌ねぇんだな、オマエって。わからねぇ事はな。さっさと片付けねぇと溜まる一方なんだよ。しかも、その間にも事態はドンドン悪化する。なにも良い事なんてねぇぞ。オマエのプライドなんぞ、なんの意味も持たねぇ、ただの足枷だ。寧ろ、事態を悪化させるだけに性質が悪い」
プライドが性質の悪いものだとは思っていたが。
実質的に、此処まで性質が悪いものだとは思わなかった。
俺が変に自分だけで解決し様とした事が、こんなにも日に日にバンドを悪い方向に向けていたとはな。
みんなに申し訳が立たない。
「さて、そこまで解ったなら、後は簡単だ。……アリスに、ハッキリ言うだけで万事解決するだろ。オマエ、向井さんが一番で良いんだよな?」
「あぁ……素直には悪いが。そこだけは、なにがあっても覆らない。どこまで行っても、奈緒さんが一番だ」
「なら、もぉ言うセリフもわかってるな」
「すまん。……実は、そこも、イマイチ解らんのだ」
「ったく、もぉ面倒見切れねぇな。……良いか?こう言う場合は、こう言えば良いんだよ。『素直、前にも言ったが。矢張り、どう考えてもオマエとは付き合えない。待って貰うのもダメだ。奈緒さんに迷惑が掛かる……だがオマエは、バンドには、必要不可欠な存在だ。素直……俺が我儘を言ってるのは十分にわかっているが、そんな俺に力を貸してくれないか?』ってな」
俺の大嫌いな、女の気持ちを利用する、ご都合主義の嫌なセリフだ。
「それを、俺に言えって言うのか?」
「無理にとは言わねぇ。それに考えりゃあ、これ以外にも幾らでも方法はある。もしこのセリフを吐くのが嫌なら、テメェ自身で、それを考えろ。幼稚園児じゃねぇんだから、俺もそこまでは面倒見切れないな」
「・・・・・・」
「もぉえぇか?話は、全部聞かせて貰たで」
山中が、いつの間にか、部屋の扉に体を預けて立っていた。
そして横には、素直と、あのガキも居る。
そんな中、沈黙する俺をよそに、崇秀は話を始める。
「ほぉ、ソイツは、中々良い趣味だな」
「アホか?そんなもん、隣の部屋まで聞こえる様に言うてた奴のセリフやないやろ」
「ほぉ、よく解ってんじゃねぇか……っで、どうするよ?」
「アホ。そんなもん、俺の知ったこっちゃないわ。重要なんは、奈緒ちゃんが、どうするかや」
「なるほど……オマエの意思は、向井さんに委ねてる訳だな」
「あぁ、その通りや」
「じゃあ、アリスは、どうなんだ?バンド続ける気は有るのか?……それとオマエは、倉津を、どれだけ苦しめたら気が済むんだ?」
なっ……なにも、そんな酷い言い方しなくても良いじゃねぇか。
「ぼっ、僕……そんなつもりじゃあ……」
「無意識の嫌がらせとはな。……ホント、オマエって、つくづく性質が悪いよな」
「オイ、そこまで言わなくても良いじゃ……」
「黙れな。……オマエが、そこで変に格好つけて、コイツのフォローしたら、また振り出しだぞ。それに俺は、アリス自身に直接聞いてるんだ。だからテメェは黙ってろな」
「くっ……」
崇秀は部外者なんだが、気迫に押されてしまった。
「なぁアリス。勘違いしない内に言っとくがな。別に俺は、オマエを攻めてる訳じゃねぇ。寧ろ、自分からバンド活動に参加した事は賞賛に値する。……だがな、オマエのやってる事は、なんだ?アレは、バンドの手伝いじゃなく、邪魔をしてるだけなんじゃねぇのか?現に、このバンドは、オマエのせいで全然成長していない。オマエ……一体、此処で、なにがしたいんだ?」
「ぼっ、僕は……真琴さんのお手伝いがしたいだけで……他には何も」
「じゃあ、手伝いするつもりが、逆に足を引っ張っててどうするんだよ?それにオマエが、このバンドで、最初にすべき事はなんだよ?呑気にシンセ弾いて練習してる程、このバンドには余裕なんてねぇぞ」
「でも、向井さんは、僕と違って色々出来るから……」
「それも、勘違いも良いところだな。あのなぁアリス。向井さんはな、このバンドに入る前から持っていたスキルをアップしているだけだろ。これは、当然、バンドの為にしている事だから、なにも問題はない。……だが、オマエのやっている事はなんだ?自分に出来無い事へのチャレンジか?ハンッ!!そんなものは家でやれ。みんなでスタジオを借りてる時にやる事じゃない。大体にして、バンド内で、オマエのスキルアップするべき点はなんだよ?此処を良く考えてみろ。……此処は、オマエの満足を満たす為だけにある場所じゃねぇんだぞ」
「ぼっ、僕は……」
今にも泣きそうだ。
こんな酷い事を連発で言われたんじゃあ、女の子だったら泣くのは仕方が無い。
けど、素直は必死に耐えている。
「なに泣きそうになってんだよ?オマエが、そんなに心配しなくても、此処には、オマエの居場所は幾らでもある。だからオマエは、今の自分の修正すべき点を考えれば良いんだよ」
「えっ……」
「『えっ』じゃないつぅ~の。ホント、このバンドは馬鹿ばっかりだな。良いかアリス?オマエは、女としての魅力が十分な程に有る。それなのに、そんな自分の魅力を殺して、向井さんに対する敵対心ばっかり育てて、どうすんだよ?本気で、そこの馬鹿を振り向かせたいなら、姑息な真似なんてする必要はねぇ。正面から向井さんとボーカルで勝負すりゃ良いんだよ……その方が、オマエの魅力が、この馬鹿にも伝わる筈だ。だから倉津の馬鹿を追うんじゃなくて、振り向かせる位の意気込みで練習してみろ。それがオマエの、このバンドでの存在意義だ」
「いっ、いっぱい、ご迷惑を掛けたのに、僕は此処に居て良いの?」
「それは、俺にはわからねぇ。そこを決めるのは、このバンドのメンバーだ」
最後の一線は越えなかったが、結局、コイツに纏めて貰っちまったな。
バンドとして、本当に、これで良いのか?
それに俺自身も、これで良いのだろうか?
「さてと龍斗……序に聞くが、オマエは、此処でなにやってんだよ?」
「いや、俺は、倉津のおにぃちゃんに、素直おねぇちゃんにシンセを教えてって頼まれたから」
「この馬鹿が。そんなに見事なまでに、本質を外してどうすんだよ?」
「いや、でも」
「……あのなぁ龍斗、アリスに、シンセを教えるのは一向に構わねぇがな。もぅちょっと場の空気ってもんを読めよな。シンセを教えてバンドのパワーアップを図るのが目的の筈なのに、その要と成るバンド崩壊させてどうすんだよ」
「いや、でも、仲居間さんが言った通り、手段を選ばずやったつもりなんですけど……」
「アホ。アリスのシンセを上手くする為に手段を選ばないのは、大いに結構な事だがな。やり方が、あまりにも下手過ぎる。オマエのやり方じゃ、アリスが上手くなっても、コイツの居場所がなくなるだけだぞ。……オマエ、そんなにアリスの事が嫌いなのか?」
「違う違う。俺は、素直おねぇちゃん事は好きだよ」
「なら、もぅ少し『やり方』と『バランス』ってもんを考えろ。ガキだからって、全てが許されるなんて思う甘い根性は、早めに直した方が良いぞ」
「あっ、はい」
「返事に『あっ』はイラネェ」
「はい」
「うっし……じゃあ最後に1つ警告だけするな。各々自分のすべき事を、もぅちょっとキッチリ把握してねぇと、このバンドは、ほんとダメになっちまうぞ。その辺を気をつけろ。……んじゃあな」
あぁあぁ……なにからなにまで、全部纏められちまったよ。
しかも、そのまま立ち去って行きやがった。
空気重っ。
「あの餓鬼だきゃあ。自分の言いたい事を言うたら、さっさとどっか行ってまいよった。……ホンマ、どこまでも自分勝手なやっちゃなぁ」
「あっ、でも僕……その……こんな事を言うのも変だけど。ヒデ君のお陰で、自分のすべき事が見えた様な気がする」
「あぁ、さよかさよか、それは良かったな。……そやけどな。よう考えよアリス。アイツが作って行った、この状況は、バンドとしては最悪やと思わんか?」
「そりゃあ、多少は……」
「わかっとる思うけどな。部外者に纏められる様なバンドやったらアカン。しかも、それが、アイツって言うのが最悪の極みや」
「まぁまぁ、そう怒るなっての。別に良いじゃねぇかよ」
「アホか!!全然良い事あらへんわ!!」
かなり怒ってるな。
まぁそりゃあそうだ。
「まぁまぁ、そうカッカしなさんなっての。怒る前に、取り敢えずは、俺の話を聞けって」
「……なんやねん?」
「さっき、あの馬鹿が言ってたじゃねぇか。モノは考え様だってな」
「はぁ?なんやねん、それ?急に、なにを悟った様な事を抜かしとんねん?」
「なんも悟っちゃいねぇよ。ただ俺は、今回の件は、アイツを上手く利用したと考えてるだけだ。自分に出来ねぇ事を、他人がしてくれたんだから、それはそれで万事良いんじゃねぇの?」
「いや、だからやな。それがよぅない言うてんねん。自分等の問題ぐらい自分等で解決せな意味無いやろ」
「まぁ、確かに良くはねぇな。けどよぉ、解決しねぇより断然良いし。なにより無料で解決方法を学んだと思えば、これは、お得な事なんじゃねぇのか?……そう思わね?」
「チッ……なんや、解らんでもない理屈やから。納得出来んのぉ」
そりゃあ、納得出来る訳が無い。
実際は俺自身も、なにも納得してねぇからな。
大体にしてなぁ。
全部部外者にやられて、納得なんか出来る奴が居る訳ないだろがぁ!!
正直言えば、俺だって滅茶苦茶口惜しいわ!!
……っとかまぁ、心では、そう思いながらも。
崇秀の馬鹿のお陰で、山中と素直と俺、この3人は、なんとなくだが上手くいきそうな気がしていた。
……って訳でだ。
今は、この2人を放置しても大丈夫だと判断した俺は、バンドに対する不信感を持つ嶋田さんの説得に向かう事にした。
なんせ、あの人は、不平や不満をあまり口に出さないタイプ。
山中に愚痴を言ってたって時点で、相当、不満が溜まってる筈だからな。
ホント、迷惑ばっかり掛けてるな……俺。
下手したら、街で暴れ回ってた不良をやってる時より性質が悪いぞ。
今は反省しかねぇ。
最後までお付き合い、ありがとうございましたぁ<(_ _)>
これにて第二十四話『納得出来ねぇな』は終了と成ります。
結局、完全に崇秀に仕切られてしまいましたね(笑)
まぁでも、やっぱり、崇秀も心配なんでしょうね。
口は無限大に悪くても、友達想いなのだけは間違いなさそうですし。
さて、そんな訳で次回は、この纏まった話を嶋田さんに伝えに行く話。
第二十五話『嶋田さん家の家庭の事情』をお送りしますです。
次は、どんなトラブルが待ち構えているのかは、次回の講釈です。
また良かったら、遊びに来て下さいねぇ~~~(*'ω'*)ノ
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