最後まで奏でられなかった音楽

どこかお間抜けDQNな不良さんのゆったり更生日誌(笑)
殴り書き書店
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302 不良さん、求める物と、求められる物

公開日時: 2021年12月5日(日) 00:21
更新日時: 2022年12月19日(月) 13:38
文字数:3,824

●前回のおさらい●


 奈緒さんの見解の深さに驚きながらも、彼女が一番の理解者であってくれる事を嬉しく感じる倉津君。


そして、そんな彼女から『今後どうするのか?』を尋ねられる。


倉津君は一体、どの様な回答を彼女にしてあげられるのだろうか?

「そうッスねぇ。まっ、正直言っちまえば、まだ何も考えてない状況ッスね」

「そっか。……まぁ、話が急だったろうから、今の段階じゃ、なにも思い付かないのも現実なんだろうね」

「ッスね。あぁけど、一応ではあるんッスけど、目標みたいなものだけならあるッスよ」

「うん?なにそれ?」


その言葉に呼応するが如く、奈緒さんは、何かを期待する様な目で俺を見詰ている。


いや……現時点で、そんなに期待に満ち溢れた目を向けられても困るんですけどね。

大体にして、俺の考えている野望なんて、所詮は泡沫の夢にもならない妄想レベルでの話。


単なる夢物語ですから。



「いやいや、奈緒さん。奈緒さんが思う様な、そんな大層な話じゃないッスよ。これは、そうなりたいなって思うだけの話であって、主だった事は、まだ何も決めてないんッスよ」

「うんうん、それで良いんだよ、クラ。夢は、まず『そうなりたい』って思わなきゃ、なにも始まらないんだからさ。……それに夢を語るのは無料。もっと気楽に自分の夢を語ってみ」

「いや、あの、なんっちゅうか……滅茶苦茶、無謀な話ッスよ。そんなんでも良いんッスか?」

「全然良いよ♪」


まぁ……聞いてくれるって、本人が、そう言うなら別に良いか。


奈緒さんの言う通り、例えどんな『無謀な夢を語った所』で、その夢の中身が減るもんじゃないしな。



「そうッスか。じゃあ、軽く言わせて貰いますけど。実はッスね……」

「うんうん」

「俺、崇秀が作るバンドよりも、もっと凄いバンドを作りたいなっとか思ってるんッスよ。『最強のバンド』って奴を」

「ふ~~~ん。そうなんだ。……ねぇねぇ、クラ。ところでさぁ、そこに私は居るのかな?」

「勿の論ッスよ。奈緒さんと、俺を基本にしたバンド。それ以外のメンバーは、俺が血眼になっても必ず探して見せます」

「言い切ったな、コイツぅ。……そんなに言い切ったら期待しちゃうぞ♪」


うわぁ……過度の期待が来たよ。

まぁ奈緒さんの事だから、この話をしたら、絶対にこう言う反応が返ってが来ると思ってたんだけどな。

ついつい、彼女の真剣な目を見てたら話しちまったよ。


まぁ、そんな訳で、ちょっと危険を感じたから、一応、此処で保険を打ッとこ。



「あの……出来れば、その期待と言うものは、程々な方向でお願いします」

「やだ」


また……この人は、平気でそう言う事を言うだろ。

さっき『夢を語るのは無料』とか『気楽』にとか、優しい言葉を投げ掛けたクセに、舌の根も乾かない内に『期待』を込めた上に『強制』までして来るんだもんな。


話が違うじゃないですか。



「いやいやいやいや」

「なにが嫌なのよ?私とやるのが、そんなに嫌なの?」

「あぁ、いや、そうじゃなくてッスね」

「そうじゃなくて……なに?」

「いや……そんなに期待されても、出来るか、どうかなんてわかんないッスよ」

「そんなの別にドッチでも良いよ。出来なきゃ、出来無いで、それはそれで仕方ないじゃん。だから、そこは問題じゃないの」

「うん?じゃあ、なにに期待してるんッスか?」

「期待って言うかね。……私はね、そうやって、なにかを必死にやろうとしてるクラの姿勢が嬉しいの。……君、少しづつだけど成長してるよ」

「そうッスかねぇ?俺としては、周りが凄過ぎて、なんか取り残された気分なんッスけど」

「ハァ……クラが、そう言うって事は、演奏について仲居間さんに何か言われたんだね」


奈緒さんは、なにか納得した様な表情を俺に向けた。


どうやら、また言葉の深層心理とやらが発動して、簡単に露見してしまった様だ。


なんて俺は、単純な生き物なんだろうな。



「……まぁ」

「そんなに気に病まなくても良いんじゃない。言ったの仲居間さんだし」

「けど、そうは言っても……奴のセリフは、自然に気になりますよ」

「そっかぁ。気になっちゃうか。……ふむ、じゃあ、こんな話はどぉ?」

「どんな話ッスか?」

「うん、あのね。大体にして、あの人は、ナンデモカンデモ『完璧を求め過ぎ』なんじゃないかな?って思うの。演奏を聞いてくれる、みんながみんな、完璧な演奏を求めてる訳じゃないんだからさ。私自身は、演奏に多少ムラが有っても良いんじゃないかな?とも思うの。……その証拠に、私、今のクラの音が好きだもん♪」


う~~~~む。

そう言って貰えるのは非常に嬉しいんだが、どうにも釈然としない意見だな。


まずにして、奈緒さんのこの言動は、判官贔屓されてる気がして成らないしなぁ。


それにだな。

俺が観客の立場で物を言うなら、金を払ってる以上、出来れば、より完璧なものを見たいっと思っちまいそうだしなぁ。


っとなると、どう解釈すべきなんだろうな?



「確かに、奈緒さんの言う通り、俺も、全部が全部、完璧である必要性は無いとは思いますけど。……それでも観客は、より完璧なものを求めるもんなんじゃないッスかね?……違うッスか?」

「『間違ってる』とは言わないけど。私にしたら違うかな」

「なんでッスか?」

「うん?だって、観客が、クラに、それを求めてるのか、どうかが一番の問題なんじゃないの」

「じゃあ俺は、それを求められてないと」

「あぁ、そう意味じゃないんだよ。……言葉が悪いのかな?上手く伝わらないや」


奈緒さんは言葉で上手く表現しきれてないのを、口惜しそうにしている。


その態度から、彼女の本気が伝わる。


そんな彼女の言葉を、曲解しか出来無い、俺って……



「馬鹿で、すんません。俺が、もう少し理解力が有れば、奈緒さんの言いたい事が伝わり易いのに……」

「違うよ。これは、私の説明が下手なだけだから……こう言う時の説明をするのって、日本語じゃ、本当に難しいんだよね」

「いや。じゃあ、やっぱ、俺が馬鹿だから、悪いんッスよ」

「じゃあ、こんな事を言い合ってても仕方が無いから。クラが馬鹿だから悪いって事にして……私は思考を変換するね」

「そうッスね。そうして下さい」


馬鹿です。


……悲しい。



「んじゃさ、こう言う考えは、どぉかな?」

「どういう奴ですか?」

「クラが考える。観客が、仲居間さんに求めてる物って、なに?」

「『完璧さ』じゃないですか?アイツは、ナンデモカンデモ面白おかしくしますからね」

「そっか、そうなっちゃうか。仲居間さんじゃ、どうにも例えが悪いか。……じゃあ、その仲居間さんの部分を、私に置き換えたら、どぉ?」

「奈緒さんに置き換えるか……だったら、それも同じじゃないですか?だって、奈緒さんも崇秀同様、楽しそうにライブをしてますからね。観客は、それを見たいと思いますが……違うッスかね?」

「ぐむ……期待過多だよ。私、そんなに何も出来てないんだけどなぁ」

「いやいやいやいや、あれで出来てないって……ドンだけ貪欲なんですか?」

「ぐぅ……困ったなぁ。私、結構、あれでも、普通にやってるつもりなんだけどなぁ」


むむっ……奈緒さんが必至に説明してくれてるのに、上手く意思疎通が取れないなぁ。


しかも、まるで俺の思考が、話の展開を阻害してる様な感じだ。



「あっと……」

「じゃあさぁ、そこを素直に入れ替えたら、どぉ?なにか違和感を感じない?」

「素直ッスか。……あぁ確かに、素直だったら、奈緒さんや、崇秀ほどの期待感は無いッスね。どちらかと言えば、そこに居て、歌を唄ってれば、万事OKな感じッスかね」

「あらら……酷い言い方だね」

「あぁっと、えぇっと……日本語難しいッスね」

「でしょ。自分では上手く表現したつもりでも、実際は、こうやって、上手く伝わらない事が多いんだよね。……っと、そんな話じゃないか」

「そっ、そッスね」


同意して、話を進める様に努力しよう。


じゃなきゃ、また話が脱線してしまいそうな話題だからな。



「じゃあ、説明に戻るね」

「ウッス」

「えぇっとね、この素直を例に挙げた話の場合。素直に対する観客の期待って言うのは、歌と、容姿に集約されてると思うのよ。だから、彼女が唄うだけで観客は満足する……因みにだけど、パフォーマンスに関しては、殆どと言って良い程、期待されて無いと思うけど……どぉ?」

「あぁ確かに、そうッスね。そう言った意味での過度の期待は素直には無いッスね」


分析の話だな。



「じゃあ、少し理解出来たところで、続けて他の人を考察してみよっか」

「うっす」

「じゃあ次は、嶋田さんの場合……嶋田さんも素直同様、ギターに観客の注目が集約されてると思わない?」

「確かに、それも言えてますね。嶋田さんに対して、マイクパフォーマンスを求める奴は少ないですからね」

「でしょ……じゃあ最後に、一番解り易い『Fish-Queen』の面々を、例にとって見よっか」

「美樹さん達ッスか?……まぁ単純に考えて『歌』って言うより『ダンス』がメインになってくるッスよね」

「そう言う事だね。正解。……ほらね。こうやって1人1人考察すれば、自分が何をすれば良いか見えてくるでしょ」

「そうッスね。俺、難しく考え過ぎてたのかなぁ」

「そう言う事。……結局、観客って言うのは、その人の特長みたいなものを捉えて、そこに重点を置いて『期待』する。だからクラは、誰かに引けを取ってる訳じゃないんだよ」


なるほどなぁ。

そんな考えは、全くと言って良い程、浮かばなかったな。


PLAYERで有る以上、矢張り、演奏がメインになってくるのは変わらないが、やり方次第では色々な方向が見えてくるって事だな。


悪くない考えだ。



けど……



「あの、奈緒さん」

「うん?なに?」

「因みにッスけど、俺の特徴ってなんですか?」



俺は一体、観客に何を求められているんだろうか?


最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございますです<(_ _)>


理解力の高さ、説明の上手さ。

それに何より『今後の倉津君の為に、今、自分に何が出来るのか?』を模索する優しい心。


こう言う事が平然と出来る奈緒さんって『まさに理想の彼女』じゃないでしょうかね?


まぁ倉津君(彼氏)としては、崇秀の言う通り『非常に甘やかされた状況』ではあるのですが。

大人びた言動をしてるとは言え、何処まで行っても倉津君も、まだ物事を知らない中学2年生。

こう言う彼氏の成長のさせ方があっても良いのではないかと思いますです。


まぁただ……これが慢性化してしまったら『ただのダメ人間』に成っちゃいますけどね(笑)



さてさて、そんな中。

次回は、奈緒さんの考える『観客が倉津君に求めている特徴』の話に成るのですが。


一体、どんな答えが飛び出すのでしょうね?


もしそこが少しでも気に成りましたら、また遊びに来て下さいねぇ~~~(*'ω'*)ノ

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