●前回のおさらい●
アンコールにて、崇秀が最期に繰り出した『狂奔・Dancing-Marionette』
これによりライブ会場に居る全ての人間は、完全に彼の支配下に置かれてしまう。
当然、演者は観客達以上の支配を受け。
自分の意思に反して、高度なテクニックを強要され、地獄の様なアンコールの時間を過ごす事になるのだが……
それに反して、観客達は盛大に盛り上がり。
全ての嫌な事を忘れるが如く、狂った様に、このライブに楽しむ。
そして、そんなサバトとも言える狂演のアンコールにも終焉の時が……
……悪夢が終わったのは、あの後4曲後。
4曲程の曲を弾いて、なんとか満足行く結果を得たのか、漸く此処で崇秀は演奏を中断してくれた。
けど、今もまだ、全くと言っていい程……生きた心地がしない。
この4曲は、まさに永遠に続く無限地獄の様な時間だった。
私は……呆然となりながら、その場に立ち尽くし。
命を削られた様な究極とも言える疲労感と、力が抜け切って全く力が入らないまま垂れ下がった両腕を、ただ見詰ているだけしか出来無いでいた。
しかも、その腕の先に有る指先からは、当然の様に血が滴り落ち。
ピックと使わずに演奏で使った爪は、殆ど、上を向いて割れている。
でも……不思議と、それらの痛みにもなにも痛みは感じなかった。
ただただ、爪が割れてるんだなぁ、って言う、まるで他人事の様な認識にしかならなかったから。
どうやら私は疲れ果てて、そんな風に痛覚すら麻痺してしまっている様だ。
だから……ただ、その指先を見詰るしか出来無かった。
***
……そんな中、私の前を影が横切った様な気がしたので。
少しだけ……ほんの少しだけ、無作為に首を上げてみると。
崇秀が、奈緒さんに近付き、なにやら彼女に言い始める光景が眼に入ってきた。
なんだろう?
此処に来て崇秀は、まだ……なにかするつもりなのかな?……
だとしたら奈緒さん……可哀想だなぁ……
今現在の私には、もぉそんな無慈悲な感想しか浮かんでこない。
奈緒さんを助け様とする気力すら、完全に消失させられてしまっている。
第一今の私じゃ、奈緒さんに、なにもしてあげられない。
それ処か、奈緒さんに、なにかを感じる余裕すらもうない。
ただ呆然としながら、スケープゴートにされた『哀れな奈緒さん』を眺めているだけだった……
「さてと、結構盛り上がった事だし。アンコールも、これぐらいにして、そろそろ新曲発表して終わるか。……なぁ、向井さん」
「ヒッ、ヒィ!!嫌……お願い、もぉ辞めて」
「ダメダメ。最後は、ちゃ~~んと気持ち良く終わらせてやるからさぁ。……約束通り最後まで唄えよな」
「いや……いや……」
「ほぉ、此処に来て俺との約束を破ると?って事は、自分の置かれてる立場てもんが、まだ解ってねぇ証拠だな」
「違っ……」
「なら、もっと自分の立場を理解して貰う為にも、もう少し別の歌を唄ってもらうしかねぇか。向井さんが、そんな態度を取るんなら、アンコールの継続するしか選択肢はねぇぞ。……観客も、その方が喜んでくれるだろうしよ」
「いや……もぉいや……ぐすっ……お願いです。新曲を歌いますから。それで、それで許して……許して下さい」
「はいはい、そりゃあ、良い心掛けだ。じゃあ此処からは、向井さんと俺でライブ締めるから、他の2人は、もぉステージから下がって良いぞ。お疲れさん」
「あぁ……はい」
「……そやな」
まだ何かをさせられる可哀想な奈緒さんを虚ろなめで眺めながら。
私と、山中君は、歩いている事にすら、なにも感じないまま、そのままステージを降りて行った。
***
「うぷっ!!うえぇぇぇえぇぇ~~~~……」
バックヤードに向かう階段を2人で降り終わった後。
緊張感が完全に抜け、同時に気が抜けたのか、山中君は、そのまま床に倒れ込み……床に向って、そのまま吐いた。
可哀想に……
彼も私同様、既に限界を超えてたんだ……
「うぇ」
私も、そんな山中君に釣られて吐きそうになったが、此処では、なんとか耐え。
可哀想な山中君を、その場に放置して、足取りもおぼつかないまま、逃げる様にトイレに向かって行った。
この時点では、他人の事を考える余裕なんて無かった……
考えたくも無かった……
……そんな中、最後まで、崇秀に付き合わさせられている哀れで可哀想な奈緒さんの声が、ステージから聞こえてきた。
♪♪----♪-♪-♪♪♪--♪-♪-♪--♪-♪--♪♪♪--♪-♪-♪--♪-♪--♪-♪-♪--♪-……
その声は、儚くも、美しく……それでいて、凄く悲しい声。
けど、その声は、崇秀の弾く見事な『三味線』の音色に、完全にフィットしており。
この崇秀の出す音と、奈緒さんの声を聞くだけで『家に帰りたい』と言う望郷の念にだけに駆り立てられる。
そっか……それで……新曲最後の曲名は『帰郷』だったんだ。
この静謐で少しノスタルジックな曲を奏でる事で、全ての観客に『気持ち良く家に帰りたい』っと言う望郷の念を植え付け。
今までアンコールであった最悪な部分だけを収拾し、そんな嫌な気持ちさえも全て打ち掻き消す為だけに用意された曲だったんだね。
完全に計算し尽くされた演出。
此処からも解る様に、最後の最後まで、崇秀の演出には隙なんて物はなかったんだ……
奈緒さん達が『引き分け』に持ち込もうとした事すら、無謀な程に……
あぁでも……もぉ限界だ。
これ以上は、どうやっても思考が廻ってくれないや。
もぉなにも考えられない……
この後の私は、冒頭で言った様に、そのままトイレに篭り。
数時間に渡って、まったく身動きが1つ取れない様な酷い状態に陥った……
最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございますです<(_ _)>
これにて『第一章・第三十話 Dancing-Marionette』はお仕舞に成るのですが……眞子が冒頭で、完全グロッキー状態になったライブの全容は、こんな感じに成ります。
まぁ、自分でこんな事を言うのもなんですが、これは眞子も酷い目に遭わされたもんですね(笑)
こんな自由意思のないまま演奏をさせられた演者にしたら、地獄の様な時間だったでしょうしね。
……ただ、今回のお話を通して、1つだけ、どうしても誤解して欲しくない事が有るんですが。
『崇秀が繰り出した技』についてだけは誤解しないで欲しいんです。
あの常軌を逸した技。
一見すれば『まるでご都合主義の塊の様な漫画みたいな技に見える』かもしれないんですがね。
……実はアレ、現実的にも可能な技なんですよ。
勿論、そこに至るまでには『多くの練習や研究』等が必要な話ではあるんですが。
『人間の心理』『人体の構造』『奏でる音の選別』などを、崇秀の様に【複合原理】で構築すれば不可能ではない技だったりするんですね。
まぁ勿論、物語なので過剰演出をしている部分はあるのですが。
効果の大小に関わらず『観客を支配する事』位なら、そんなに難しい事ではありません。
いや寧ろ、ミュージシャンの皆さんなら【知らず知らずの内に使ってる方も多い】と思いますです(笑)
さてさて、そんな小難しい話はさておき。
次回からは「第一章・第三十一話 After-talk・time」が始まるのですが。
今回のライブで完全グロッキーに成った眞子は。
果たして、これらの事象を乗り越えて復活する事が出来るのか?
それとも、完全に打ちひしがれてしまうのか?
その辺の心理状況を書いていきたいと思いますので。
良かったら、また遊びに来て下さいねぇ~~~(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾
読み終わったら、ポイントを付けましょう!