最後まで奏でられなかった音楽

どこかお間抜けDQNな不良さんのゆったり更生日誌(笑)
殴り書き書店
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459 コンクールの裏で今まで動いていた事

公開日時: 2022年5月11日(水) 00:21
更新日時: 2023年1月3日(火) 20:02
文字数:4,042

●前回のおさらい●


 アンコールの拍手の中、曲を一曲しか奏でられない事が前提の倉津君達はアンコールには応えられない。

それを観客達に伝えて、少々落胆させる事に成った瞬間。


ある人物がステージに駆け上がって来た!!(笑)

「はいはい、そこの人。そんなケチ臭い事を言わないの。どうせ、此処のお客さんには入れ替えなんてないんだからさ。サービスで、ちょっとぐらい弾いてあげなよ。それに、この後のライブは、私のライブなんだから、気にせず弾いちゃって良いんだよ。……ご所望なら、私が飛び入りで唄ってあげるよ」


はい……そうなんでゲスよ。


このメイド服を着た、状況をややこしい方向に持って行く可愛い犯人は……


言わずと知れた……『向井奈緒』


その人なんですよ。



「ちょ!!奈緒さん、またそんな無茶苦茶な事を言い出す。ダメっすよ」

「なんでよ?」

「いやいやいやいや、だって、まだ優勝者も決まってないし。それ以前に、ウチのカジとグチが、これ以外、曲が演奏出来無いの知ってるでしょうに」

「じゃあ、除外。口惜しかったら、次回のライブまでに、一杯曲を覚えて置くんだね」


ヒデェ。


既に、それじゃあアンコールの意味さえ変わってる様な気が……



「……鬼ですか?」

「ステラ!!田中モード解除。即座に、通常モードに移行して」

「わかりました。良いですよ奈緒。今のバンドのメンバーに、本当の真琴の使い方を教えて置く必要が有りますからね」


……俺の意見は無視ですか?


まぁそうは言っても、どうやらこの様子から言って、奈緒さんの話にステラの奴は乗り気みたいだな。


その証拠に……アイツの綺麗な青い瞳を隠す為に掛けていた野暮ったい眼鏡を、観客席に投げ込み。

同じく、野暮ったい三つ編みを解除して、輪ゴムを飛ばし長い金髪を靡かせる。


たったそれだけの行為で、観客は、さっき以上にステラに魅了されて行く。



……それにしても『俺の使い方』って、なんだ?



「カズ!!グチ君と変わってドラムを占拠」

「おぉおぉ、来たな、来たな!!それでこそ奈緒ちゃんや。そう来な、普通は、おもろないわな。グチ、ちょっと、そこ替われ」


奈緒さんの呼びかけに、今度は山中のアホンダラァがステージの袖から上がって来やがった。


そんでそのまま、グチの元に行って、ドラムの席を明け渡す事を要求。


けど、不味いぞぉ。

なんて言ってもコイツには、以前のライブでしでかした『ドラムポジション強奪事件(序章-19話参照)』って前科が有るからな。


此処で変にグチと揉めて、おかしな事にならなきゃ良いけどな。



……なんて思っていたら、山中の奴、グチの耳元で、なにかを囁き始めた。


なに囁いてるんだ、アイツ?



「(オイ、山中、これは一体、どう言うつもりなんだ?)」

「(なんて事あらへん。マコの使い方を、今からオマエに教えたるさかい。今は、それをよぅ見とけ)」

「(どう言う事だ?それは、なにかの警告つもりか?)」

「(そや。そこに居るアホはな。本来、こんな狭い場所で燻ッとる様な奴やないんや。そやけど、今の俺等には、ある事情が有って、アイツには、なんも協力したられへんねん。そやから、せめてオマエ等に、コイツの使い方だけでも教えといたろう思てんねん)」

「(なるほどな。しかしだな、山中。俺は、倉津とは、いつまでバンドを続けられる訳じゃないぞ)」

「(今は、そんで十分や。出来る間だけでもえぇから、今はアイツのフォローしたってくれ。これこそが、此処で奈緒ちゃんが無茶をする理由やからな)」

「(向井奈緒の思惑だと?……なんだか納得は出来様な内容ではないが。一応、此処は、席を譲った方が良さそうな雰囲気だな)」

「(そういうこっちゃ。悪いなグチ)」


あっ……グチの奴、山中になにかを言い包められて、お互いの拳を『コンッ!!』と当てた後、ドラム・ポジションを譲りやがった。


この短期間に、一体あの2人の間に何が有ったんだ?

まだ優勝者も決まってないのに、その場から身を退くなんざ訳わかんねぇぞ?



「嶋田さんもギターを用意して。舞台裏での演奏邪満足なんて出来ずに、弾きたくてウズウズしてるんでしょ」

「はいはい、良くご存知で。向井さんの言う通り、さっき表舞台でしか演奏出来なかったから、ストレスが溜まってたからね。付き合わせて貰うよ」


矢張り、嶋田さんも、奈緒さんのムチャブリに対して躊躇が無い。


なんだ?

見様によっては、まるで『こうなる事が、当たり前だった』みたいな感じじゃないか?


予定調和で動いてるとしか思えない状況だな。



「後、アリス。……私とツィンボーカルで、一気に優勝を攫うよ。もしやるんだったら、ちょっとの間、MC宜しくね」

「えっ?あっ、あっ、はい。勿論やりますよ」


これ、どういう事だよ?


何故『2B-GUILD』でコンテストに登録してる素直まで、そんなにアッサリ、奈緒さんの依頼を引き受けるんだ?


こんな真似しても、優勝が遠のくだけだぞ。


しかも今、イキナリ振られたくせに、二の句も出さずにMCを引き受けたよな。


本当に、なんなんだ?

なんだ、この得も言えぬ様な奇妙な現象は?



そう思っていたのも束の間、素直も何かを納得した様な顔をして、山中同様、カジになにやら話をしだす。



「(ごめんね、カジ君)」

「(いや、俺等は、誰になんと言われても、さっきの1曲しか弾けないから、替わるのは一向に構わないけどさぁ。これって、なんか意味有んの?)」

「(うん、あのね。実は、真琴君の事なのよ)」

「(クラッさん?)」

「(うん、実はね。此処に居るみんなが、本当は真琴君のバックアップをしたいんだけど。色々蟠りが有って、今は誰もなにも出来無い状況なのね。それでね。今のメンバーのカジ君と、グチ君に、それらを託して、頑張って貰おうって話になってるの。……だから、僕の話を信じて、僕に此処を譲って欲しいの。本当に、ごめんなさい)」

「(なるほどね……そう言う事情かぁ。なら良いよ。俺もやるだけの事はやったし。後は、有っちゃんに譲ってあげるよ)」

「(我儘言って、ごめんね)」

「(良いって、良いって。その代わり、最高のパフォーマンス見せてくれよな)」

「(あっ、うん。そこはカジ君の分まで頑張るね。あぁっと後ね。2B-GUILDのみんなにも誤解が無い様に、宜しく言っておいて欲しいんだけど。これって……我儘言い過ぎかな?)」

「(ははっ、有っちゃんは、ホントに我儘だな。良いよ、その件に関しては、俺の方から、ちゃんと、みんなに伝えておくよ)」

「(あっ、ありがとう、カジ君……)」


なんなんだよホントに?

カジの奴も、グチ同様に、お互いの拳を『コンッ!!』と当てた後、アッサリ、素直にポジションを譲りやがったよ。


本当に、なにが起こってるんだ?

なんか俺だけ、蚊帳の外に放り出されてねぇか?



「クラ……最後になっちゃたけど、一緒にやろ」


奈緒さんは、俺の元まで歩いて来る。

そして、微笑みながら手を差し伸べてきて、自分のバンドに参戦する事を、最後の最後に誘ってきた。


いや……誘ってくれるのは、大いに結構なんッスけどね。


だから、なんなんッスかね、これは?

俺にだけ見えてない部分が有り過ぎて、全然、納得出来ねぇんッスけど。



「ちょっと奈緒さん!!これは、あんまりじゃないッスか?プロの連中集めて、素人集団から優勝かっ攫うなんて、あまりにも非道すぎますよ。それに、そんな勝手な真似は、他のバンドが、絶対許さないッスよ」

「大丈夫。まずにして、今のこのバンドって、全員プロじゃないし。……大体にして、君が素人じゃない」

「がっ!!」

「それにね。お客さんの反応からして、今回の優勝者は、誰がどう見ても、君達で決まり。だったら、そんな茶番を続ける必要は無し。君達に対する挑戦権を、私に頂戴よ。優勝商品も、副賞も、全部、全~部、要らないからさ」

「いや、そう言う問題じゃ無くて」

「じゃあ、やらないなら、君のベース、私に貸してよ。もぉ会場をひっくるめて、私達は、誰も止まれないから……ねっ♪」

「えっ?……」



「「「「「奈緒様ぁ~、早く音を恵んで下さ~~い!!奈緒様~~~~~~!!」」」」」

「「「「「死神~~~~~!!アンタの音を、バシバシに聞かせてくれぇ~!!」」」」」

「「「「「再度、光臨キタァァ~~~~~~!!アリス~~~~~~~~~!!」」」」」

「「「「「うんこ垂れぇ~~~!!響かせろぉ!!響かせろぉ!!早く響かせろ!!」」」」」

「ウンコ垂れちゃう言うねん。……オマエ等、何回言うたらわかんねん!!」

「「「「「魔虎兄貴~~~~!!行ったれぇ!!元メンバーも全部喰っちまえ!!」」」」」

「なっ!!」


さも当たり前の様に観客達は、轟音の様な歓声で、バンドに演奏を要求してくる。


なんなんだよ、これ?



「「伝説!!復活キタァ~~~~!!」」


『!?』


そっ……そうか!!

なるほど、これは、そう言う事だったのか!!


今のモヒ&ロンの『復活』って声援で、漸く、この事態の全貌が把握出来たぞ!!


解ってしまえば、なんて事もない話しなんだがな。

このコンテスト……これ自体が、なんの勝負性もない、奈緒さんの仕組んだ『やらせ』に過ぎなかったんだ!!


元のバンドのメンバーみんなと、俺を一緒に演奏させる為のみに効果を求め。

恐ろしく以前から、細部に渡って綿密に計算された『ただの企画の一部』だったって事だ!!


途中から、なんか、みんなの様子がおかしいとは気付いていたけどよぉ。



……完全にやられた気分だな。


それにだ。

この計画が、もし俺の思った通りのものであるとしたなら『出来レース』である以上、出場してる他のバンドからの苦情なんて、端っから出る筈がない。


要するに、最初から、奈緒さんの独壇場だったって事でもある。


この仮説さえ正しければ、全てが頷けるってもんだ。


ただ、出来レース故に、奈緒さんは、俺達に有る課題を与えたのも否めない話だ。

俺のクラスメイトや、俺には、この事には一切触れず、まずにして何も教えなかった。


これは『優勝』って目標に対して、日々の努力を怠らない為の布石だったんだろう。

そして、その努力の賜物が『優勝するだけの実力』があると観客に思い込ませる為の布石だった、って事でもある訳だな。



しかしまぁ、どこまで綿密にモノを考えてるんだよ……もぉ、この人だけは(´;ω;`)ブワッ


最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございましたぁ<(_ _)>


奈緒さん……恐ろしいまでの策士ですね。

此処までの流れを作る為だけに、裏で無茶苦茶動いてたみたいですしね(笑)


さてさて、そんな奈緒さんの思惑に気付いた倉津君は、一体どうするんでしょうかね?


それは次回の講釈。

良かったら遊びに来て下さいねぇ~~~(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾

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