●前回までのあらすじ●
ハードな演奏に耐える為に、意識を飛ばして演奏を続ける倉津君。
このまま最後まで突っ走れるのか?
俺が我に返ったのは、7曲目の『Miserable fellow』が終了して、素直がMCを入れてる途中。
それまでの俺と言えば、全ての調和を無視して無我夢中にベースを弾き捲くっていた。
……っで、そんな俺が、何故、突然7曲目で集中力が切れてMCが入ったかと言うとだな。
『Miserable fellow』が終了後。
俺が無意識の内に、突然、糸が切れて壊れた操り人形みたいに腕をダラ~んとさせ、ベースから手が離れ。
8曲目の嶋田さんの作った曲『朧月』を演奏をしなかったのが原因だ。
それを素早く察知した素直が、唄う体勢を辞め、此処で初めてMCに入れてくれたらしい。
この様子からして、どうやら俺は、また後先考えずに一曲目から一気に飛ばし過ぎて、両腕の疲労度が限界近くまで来てしまったみたいだ。
自分で言うのもなんだが、相も変わらずペース配分等と言う物はないみたいだな。
……ってな感じなので、言うまでも無く、此処までの記憶は一切無い。
上手く弾けていたか?
ミスは無かったか?
なにを何曲目に弾いたのか?
プログラム通りに事を起していたのか?
どんなパフォーマンスをしたか?
……なんて事は、自慢じゃねぇが、なに1つとして憶えていない。
バンドの解散が賭かっていると言うのに、どこまでも無責任な俺。
大体にしてな、俺は、今現在の自分の姿が上半身裸になっている事すら、今気付いた始末だ。
多分、前回のライブで『Tシャツ投げ』をやったら盛り上がるのを体が覚えていて、本能的に、それをやったんだろうな。
着替えを持って来てないって言うのに、なんともお粗末な話だ。
ただ、俺が、そんな間抜けな状態にあっても、今の所ライブの出来が悪くなかった事だけは確証が持てる。
冒頭で言った通り、曲や演奏の評価を決めるのは、観客であって俺達じゃない。
故にだ。
その観客が盛り上がっていたら、それは自ずと成功と言って良い。
会場全体が狂った様に盛り上がってるし、熱気も、俺が意識を飛ばす前よりもズッと上がってる。
なら、これだけでも、今までの経過が十分上手く言っていると認識出来る。
記憶が無いだけに、訳は解らんが、満足は満足だ。
「ねぇクラ……」
「あっ……なっ、なんッスか?」
うぉ!!いつの間にか奈緒さんが、マイクポジションから離れて、俺の近くまで来ていた。
これって、ひょっとして……自分勝手な事バッカリしたから、奈緒さんが腹に据えかねて、怒りに来たんだろうか?
なら……マズイな。
そう思いながらも、恐る恐る奈緒さんの表情を見てみると。
不思議な事に、そういった怒った様子は一切なく、寧ろ怒るどころか、そんな雰囲気ですらない。
だって奈緒さん、俺に微笑みかけてるし、妙に機嫌よさそうなんだもんよ。
なら、ホントになんだ?
「あのね、クラ。さっきまで、凄く激しくて良かったよ♪」
いや、奈緒さん。
こんな時になんなんですがね。
それ、Hの後に、俺が一番言って欲しいセリフっすよ。
勿論、童貞の俺が、女の子に、そんな事を言われた事がある筈は無いがな……
うるせぇわ!!ほっとけ!!
どうせ俺は虚しい童貞野郎だよ!!
……等と、心で糞しょうもないノリツッコミが出来る程、奈緒さんの表情は、俺自身に余裕を齎してくれる。
「そッ、そうッスか?」
「うん。とっても気持ち良かったよ。それに一番気持ち良かったのは、この7曲目まで、完全に君が、この空間を支配して事。嶋田さんや、カズ、それに私や、アリスを完全に圧倒してたよ」
はぁ?なんッスか、それ?
「あっ……あの、すんませんッスけど、それ、なんの話ッスかね?俺、今の今まで意識が飛んでて、みんなに迷惑掛け捲ってただけだと思うんッスけど」
「うん?意識が飛んでた?……なにそれ、どういう事?」
不思議そうな顔で、俺をジッと見詰ている。
だが、その表情には、同時に『好奇心』が満ち溢れている。
いや、そんな眼をキラキラさせて、期待の眼で俺の顔で見られても……この人って、ホント、奇人変人の類が好きだよな。
まぁ取り敢えず、そうは言っても、奈緒さんには『俺の真実』を知って貰って置きたいから、此処は1つ、キッチリと奈緒さんの質問に解答ッスかな。
「いや、あのッスね。実は、前回のライブの時もそうだったんッスけど……実は俺ッスね。テンションが無駄に上がっちまうと、後先の事なんか、もぉなにも考えずにモノをしちまう癖があるんですよ。それでッスね。その間、全意識が完全に飛んじまうんッスよね」
「そう……なんだ。じゃあクラは、その間の事って、なにも覚えてないって事だよね?」
「ウッス。面目ない話なんッスけど、自分に酔っちまってるちゅう~んッスかね。全くと言って良い程、周りなんてお構い無しに突っ走ってるんで、なんも憶えてないッスね……ホント、面目ないッス」
でも奈緒さんは、これを聞くと、何故か、さっきよりも、断然良い笑顔で俺を見る。
俗に言う100万ドルの笑顔って奴だ。
けど、なんでだ?
俺が奈緒さんの立場なら、こんな奴『100%ナルシスト』っぽくて、スゲェ気持ち悪いと思うんだがな。
ホント、わかんねぇ人だ。
「良いね、良いね、クラ。私、そう言う感覚的なのって大好きだよ♪」
「へっ?あぁ、いや、奈緒さんに、そう言って貰えるのは非常に有り難いんッスけど……そんな風に自分の世界に入ってる奴って、傍から見たら気持ち悪くないッスか?」
「全然……って言うかね。そう言うのカッコ良いと思うけど」
「へっ?なんでッスか?」
「うん?君は、私が、さっき言った事をなんにも憶えてないの?」
「なんの話ッスか?」
「ほら……『空間を支配してた』って奴」
「へっ?あぁ、確かに、そんな話してましたね……けど、それがなんか関係あるんッスか?」
わかんねぇ?
『ナルシスト』と『空間支配』?
なんだ?
浮かんでくるとすれば、どこぞのラノベにでも有りそうな題名って事ぐらいだな。
けど、こんなのなんの解答にもなって無いよな。
……だとすると、俺には解らない、なにかしろの力が、奈緒さんの中で働いてるって事だよな。
けど、その答えが、サッパリわからん?
まぁつっても、奈緒さんに嫌われるどころか、好かれてるんだから、それはそれで良いんだけどな。
あぁそうだ、そうだ。
奈緒さんが機嫌が良い間に、今現在のライブ状況を、序に報告しとくな。
今8曲目の『朧月』が、嶋田さんのギターと素直の歌で始まったところだ。
なんか知らんが、この曲は、嶋田さんと素直の2人でやるみたいだな。
まぁ確かに、スローバラードな曲だから、静かに奏でるのも良いだろう。
それに嶋田さんも、セミアコのギターに変えてるみたいだし、会場内は実に良い雰囲気だ。
その分、1人で暇を持て余した山中の奴は、ドラムに座ったまま鼻くそ穿ってやがるがな。
んじゃあ、奈緒さんとの続きを……
「有るも有る。大有りだよ」
「なにが有るんッスか?」
「ふふ~ん。私の自慢の彼氏はね。無意識の内に、人を引っ張る力を持ってるんだよ。凄いでしょ!!」
「はぁ?いやいやいやいやいや、なにを言うかと思えば……あのね、奈緒さん。俺なんかに、そんな大それたもんは無いッスよ。気のせいッス、気のせい」
「あっそ……人が盛り上がってるのに、そんな白ける様な事を言っちゃうんだ。そうやって君は、自分の彼女の言葉が信じられないと、言いたい訳だね」
また直ぐに、そう言う事を言う。
奈緒さんの言葉は、全部纏めて信じますけど。
それにしたって、今回のは、かなり強引過ぎやしませんか?
その『人を引っ張る能力』の話……対象者、俺ですよ俺。
どこをどう考えても、無理が有り過ぎッスよ。
「いやいや、そうじゃないんッスけど。流石に……」
「あっそ、あぁっそ。じゃあ、そうやって信じれないって言うなら。そのまま意識を飛ばして、最後までライブをやってみなよ。多分、私も、アリスも、嶋田さんも、カズも、下手したら此処の会場居る全員が、ぶっ倒れる筈だから……やってみなよ」
またぁ~。
また直ぐにそうやって、自分の意見が通らないと、ぷぅって膨れて、意地の悪い事バッカリ言うんだから、この人は。
大体ッスね。
そんな漫画染みた事態が、早々に起こる訳ないじゃないですか。
俺だって、それが本当に出来るんなら、一生に一回ぐらい、そんな光景を見てみたいもんッスよ。
けど、それは、俺の願望であって、現実は厳しいもんッスよ。
つってもぉ~、どうせ奈緒さんは言い出したら聞かないだろうからなぁ。
一応、奈緒さんの意見も含めて、バンドの為になるなら、勿論やるだけの事はやりますが……絶対そんな事態だけは有り得ないッスよ。
「あぁじゃあ、わかりましたよ。奈緒さんの言葉を信じて、腕がチョン切れる位の勢いでやってみますよ」
「ホント?……良いね。良いねぇ~。クラは男の子だねぇ~♪」
あっ!!くそぉ~!!
言う事を聞かす為に、機嫌悪いフリしてたな。
俺とした事が、キッカリ、チャッカリ騙されちまったよ。
この悪戯好きのティンカーベルめ!!
腹が立つから、なんか条件つけてやる!!
「あぁその代わり、誰も倒れなかったら、奈緒さんにはHなお仕置きしますよ」
「うん、別に良いよ」
「がっ!!」
即答?
ダメだ……これじゃあ、奈緒さんをビビらす効果が0だ。
あぁでも、もしもの為に再確認しとこ……
「あの、先に言って置きますけど。俺の言うHな事って言うのは、奈緒さんの想像を絶する様な滅茶苦茶エロイ奴ですよ。ホントに、その条件でも良いんッスか?」
「うん?君は、私に、どんな事がしたいのよ?」
おっ!!『滅茶苦茶エロイ』ってキーワードが功を奏したのか、奈緒さんが、少しだけ眉を顰めたぞ。
どうやら奈緒さんにも、自分の置かれた現状が、漸く、理解出来たみたいだな。
この反応からして、ひょっとして中学生の性欲に少々ビビッたか?
ならだな、妄想に塗れたドロドロのエロ話を熱く語って、いっちょう脅してやるか!!
「そりゃあもぉ、好き勝手やりますよ。色んな所にチューしまくりだし。奈緒さんのおっぱいも一杯揉んだり・舐めたり・しゃぶったりするかもしれないッスよ。……そっ、それに最後には、奈緒さんが、幾ら嫌がっても、挿入だってしちゃいますからね。ホント、俺は歯止めがないッスから、どうなっても知りませんよ」
「あっ、あの、クラ、それって……」
ははははっはっはっ……これでトドメに成った筈だから、奈緒さんも完全にビビッたな。
エロ中学生の妄想を舐めて貰ったら困るな。
特に俺は、深夜アニメとか見て、エロに対する研究に余念がありませんから、結構、エロ知識が豊富なんですよ。
……って事で、奈緒さんは、完全にビビッた。
俺の完全に勝利だな!!
……とは言っても、流石に、これは可哀想だから、辞めて上げますけどね。
但し!!これからは、無闇矢鱈に、そんな無謀な賭けに乗っちゃダメですよ。
良いですね。
「なんッスか?今なら、特別、辞めてあげても良いッスよ」
「いや、そうじゃなくてね。あのね、クラ。熱弁して頂いてる所、非常に申し訳ないんだけど……それ、普通のHだから。特別なにもエロくないよ。……それに私、君が相手だったら、そんな程度の事なんて嫌がらないけど」
「がっ!!」
うそ~~~ん。
俺の妄想を総動員したエロ話が、いとも簡単に破れたって言うんッスか?
大体、女の人って、一杯オッパイ舐められたりしたら、恥ずかしいもんじゃないんッスか?
それに俺だったら、奈緒さんの事が大好きッスから。
口は勿論、首筋とか、脇の下とか、その他諸々色んな所にキスしちゃうんッスよ。
・・・・・・
……わからん?
本当にわからん?
それを普通だと言う奈緒さんの心境がマジ謎だ?
……あぁでもッスね、『嫌がらない』ってのだけは本気で嬉しいッスね。
いつか、その時が来ても嫌がらないで下さいね。
大好きっすよ、奈緒さん……
……ってハズッ!!ステージ上で、なにを考えとんじゃ俺は!!
「OKOK、他の人ならイザ知らず。クラなら、その条件でもOKだよ」
うわっ!!しかも軽ッ!!
こんな重要な話を、そんなに簡単に請け負っちまっても良いんッスか?
Hしちゃうんッスよ俺達!!
良いんッスか、奈緒さん?
「いや、あの、奈緒さん、あの、俺」
ショボッ!!
それに比べて、この俺の対応のショボさったら無いな。
女の人ならドン引きする勢いのショボさだな、オイ!!
「なぁにクラ?あぁそうそう、条件は飲んであげるけど。その代わり優しくしてよ。……痛いのは嫌だよ」
「あっ、あの、あの……アイッ!!喜んで!!」
「くすっ。じゃあね、クラ。最後まで、その調子で頑張るんだよ」
「ウッス!!ウッス!!」
奈緒さんは、それを言い残すと。
悪戯な笑顔で『クスクス』と笑いながら、自分のポジションに戻って行った。
なんか楽しそうだな。
あぁ因みにだがな。
この俺と奈緒さんの会話中に、8曲目『朧月』9曲目『Anarchy』は、あの2人によって終了。
その後、少しの間、素直が上手く話題を作って、観客との掛け合いをしながら時間を引っ張っていてくれていたみたいだ。
勿論、素直大好きのアホの山中も、それに協力していた。
さて……此処からは、後半戦の残り5曲だ。
バッシバシバシに気合入れて行くぜ!!
うん?いや、ちょっと待てよ!!
俺が気合入れて演奏したら、みんな『気絶』するんじゃなかったっけ?
どうしたもんだ、こりゃあ?
本当に、それで良いのか、俺?
最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございましたぁ<(_ _)>
奈緒さん強し!!
しかしまぁ、あれですね。
山中君の言った通り、ホント、色んな意味で「経験値」っと言うのは大切なものですね。
ひょっとしたら、あの言葉は、こう言う所も示唆していたのかもしれません。
さてさて、そんな中。
ライブ9/14は、これでお仕舞です。
次回からは、第三十三話『アクシデント』が始まりますので。
また良かったら、遊びに来て下さいねぇ~~~(*'ω'*)ノ
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