●前回のおさらい●
ライブ前に、眞子の音を楽屋で確かめ様とする山中君だったが。
それに反して崇秀と奈緒さんは、眞子の正体が『音でバレるのを懸念して』却下。
それが原因と成って諍いが起こり、全員が違う方向を向いてライブに向かう事になるが……
そんな感じで、ライブが始まる前から、ややこしい状態に成ってしまったのですが。
此処での最大の問題は、この楽屋から一番最初に出て行った『世界の異端児』かつ『ライブの問題児』
なので、このイザコザ企画の主犯格である崇秀を探してみる。
ホンで、崇秀が扉から出て行った方向である左回りでスタッフ専用廊下を、ちょっと探したら、少し離れた場所にある喫煙場所で、電話をしながら、普通にタバコ吸ってた。
此処からもわかる様に……当然、先程の一件について反省してる様子は無い。
まぁ、そんなこったろうと思っってはいたんだけどね。
……っで、一応、電話が終わるのを待って、話しかける。
どうせ、平然としてる筈だしね。
「崇秀」
「んあ?あぁ、誰かと思ったら眞子か、どうかしたかんか?」
「うぅん、別にぃ。たださ」
「ただ?」
「『さっきのは、なにがしたかったのかなぁ?』っと思ってさ」
「あぁ、さっきのあれなぁ。あれ奴なら。最近みんなが、金に塗れたツマンネェ糞ライブばっかやってるからよ。此処で一発、ガツンっと気合を入れてやろうと思ってな」
「ヤッパリなぁ。……だと思ったよ」
「おっ?なんだよ。気付いてたのか?やるじゃん」
私の解答に対して、崇秀は、まるで悪戯っ子みたいに笑う。
矢張り崇秀は、日本GUILDのメンバーに及ぼした悪影響として『急激な人気』と『慢心』
それに伴う『成長の無さ』を懸念した上で、こんな馬鹿げた事を思い付いたみたいだ。
でも、これだけの事をしている以上、どうにも、それだけで終わるとも思えない。
まだ、なにか隠してる様な気がしてならないんだよね。
「ふふっ。そう簡単には騙されないよ。……崇秀、まだ、なんか隠してるでしょ」
「ほぉ~~~、中々鋭いな。それって女の勘って奴か?」
「うぅん。これは、そんなアヤフヤなものじゃなくて、付き合いの長さから来る確信」
「ほぉほぉ、して、どう読む?」
「崇秀の目的は『圧倒的な実力差』を見せ付ける事……違う?」
今回は、間違いなく、これだと思う。
本人は『気合いを入れる為』とか言ってるけど、実際は『人気により慢心』している心を完膚なきまでぶち壊すのが、崇秀の目的。
これで日本の音楽業界の『ぬるさ』を指し示すつもり。
崇秀は、GUILDに登録してる人々の更なるレベルUPを望んで、このイザコザを起したと思う。
「ふ~~~ん。冴えてるな。当たりだ。よく解ったな」
「そりゃあね。アメリカで、あれだけ口を酸っぱくして言ってたら、誰だって気付くよ……でも、勝算ありなの?」
「さぁな。確率で言えば、勝率が94%程度だからな。敗因になりえる6%もの数値がある以上、意外な事を起こるかも知れない。……まぁ、なんとも分の悪い賭けだ」
「敗因の6%って……そんなの気にする様な数値じゃない様に思えるんだけど」
「いやいや、敗因に成り得る可能性で6%ってのは、かなり高い数値だぞ」
「なんで?」
「確かオマエ、計算得意だっただろ。100÷6をやってみな」
計算?
別に良いけど。
『100÷6』だね。
「うん、16,66666……割り切れないね」
「まぁ、小数点以降は繰上げとして考えてだ。早い話、6%ってのは、約17回に一回、敗因に成り得る程の問題が起こる訳だ。だから6%を正当に考えるなら、100回中に6回しか負けないと考えてる時点で呑気過ぎる考えなんだよ。……故にだ。本来、こう言う悪い方向に転がる確率は、ライブが始る前に全て消去してから、ライブに望むもんなんだけどな」
ふ~~ん。
なんか、昔の戦術家の人みたいな考え方なんだね。
昔の戦国時代の戦術家って『戦が始る前に、出来るだけの事を積んで置き、その戦の終結が見えた』って言うからね。
きっと崇秀は、そんな感覚でモノを見てるんだろうな。
凄いね。
「……って事はなに?その6%埋められなかった原因は、時間が足りなかったって事」
「まぁなぁ、此処まで突発で企画をやっちまったら、どうやっても、それぐらいの確率は残っちまうんだよな。それにライブ構成で、新曲が12曲中3曲も入ってるのは、結構、曲者だからな」
「新曲?」
「あぁ、ライブ・プログラムに有った曲目では、そうなってたぞ」
嘘……聞いてないし。
だからか!!
山中君が、矢鱈と音合わせをしようとしてたのか!!
なら、これは……困ったぞぉ。
「崇秀……どうしよう?」
「なんだよ?」
「私……奈緒さんの新曲なんて、1曲も知らないよ」
「はぁ?……あぁ、大丈夫、大丈夫だって、オマエは全曲知ってるよ」
「えぇ~~~っ、知らないって!!本当に、なんにも知らないから!!」
「なんでだよ?オマエ、向井さんの新曲ノートを見て練習してたんだろ。それだけで十分知ってんじゃん」
あっ……新曲って、あのノートに書かれてた、あれの事だったんだ。
けど、あの曲達って、練習で弾いた感じ。
スッゴク、未完成っぽいままの曲だったんけどなぁ。
あれで、本当に完成形なのかなぁ?
「奈緒さんの新曲って……あれなの?」
「あぁ、俺も、昨日ノートを勝手に見せて貰ったが。ありゃあ、酷く出来の悪い未完成な曲だったな。まぁ、そこを、向井さんが、どう仕上げて来るかが、このライブの成功を握る鍵にはなるだろうな」
……そうなんだよね。
崇秀の様に『出来が悪いと』までは言わないんだけど……正直言えば、なんか全部が全部、アリキタリ感しか感じない。
余り良い曲だとは思わなかった。
今までの奈緒さんが作った曲の様に、なにかを感じさせる様な輝いた部分が、全くと言って良いほど無く。
気が入ってないって言うか、まるで『適当に売る為だけの要素』が適当に盛り込まれた様な曲だったんだよね。
『媚びた曲』
『奈緒さんらしさが全くない曲』
初めてベースで、あの曲を弾いた時は、奈緒さんの才能が壊されて行く様で、凄くショックだった。
あんなの、全然、奈緒さんの曲じゃないよ。
「……って事は崇秀。ひょっとして、アレンジ出来てるの?」
「当然。昨日の内に、全部アレンジ済みだ。まぁ但し、もぉ既に、原形を留めていない。向井さんが作った物とは、全くの別物になってるけどな」
「曲のコンセプトを、そのままに?」
「勿論だ。原形は留めてなくても、基本的なラインは同じ。まぁ、唯一問題があるとすれば……」
「問題があるとすれば?」
「今の俺以外の人間には、まともに弾ける奴は、早々いないかもしれねぇな」
それって……新曲として発表して良いの?
後々、奈緒さんが困るだけじゃないの?
・・・・・・
いや、違う。
そうじゃない……この一件は、そんな話に止まらない話だ。
「あの、崇秀。ひょっとして、この一件で、嶋田さんのレベルUPを狙ってるんじゃない?」
「ほほぉ~~~、鋭いねぇ。正解だ。なんで解った?」
「えっ?だって、バンドの知り合いのギタリストって限定したら、奈緒さんの立ち位置に一番近い嶋田さんが最有力だし。それになんと言っても、スランプに陥ってて、嶋田さんのギター技術が、最近向上してなかったから……かな」
「ふむ。眼の付け所は良いな。但し、間違ってる点が1つあるな」
なんだろ?
嶋田さん自身が、まだスランプを脱してないから、強引に向上させるって事?
……それも違うなぁ。
もしそうなら、こんな『間接的』じゃなく、崇秀なら、もっと『直接的』にアクションを起す筈だ。
ならなに?
「なに?」
「オマエの唯一の間違いはな。嶋田さんは腕の話だ」
「『嶋田さんの腕』って、どういう事?」
「まぁ、結論から言えば。嶋田さんの腕は、既に向上してないんじゃなくて、停滞下降し始めてるんだよ。あの人の『死神の鎌』は、絶頂期に比べると、確実に腐り始めてる」
「そんな……」
「いいや、これは紛れもない事実だ。あぁ、但し、これは年齢云々の話じゃなくて、あの人の気持ちが完全に落ちてるんだよ」
「そんな事ないと思うんだけどなぁ。嶋田さん、確かに、今はスランプ状態だけど。そこまで言う程、酷い状態じゃないよ」
「本当に、そうか?……じゃあ聞くが、嶋田さんが、オマエの言う『スランプ』とやらには、いつ陥ったか憶えてるか?」
「時期?」
「そう時期だ」
確かぁ……
「正確にはわかんないけど、文化祭の後だから、11月の中旬位だったかなぁ」
「まぁ、その辺が順当なラインだな」
「順当なラインって、どういう事?」
「『安心なライン』を得るには、順当なラインって事だ」
うぅん?全然解らなくなってきたよ。
「ゴメン、さっぱり」
「だろうな。要は、毎度毎度の心理の話だ」
出た……恒例の心理作用話だ。
「どういう心理作用が、嶋田さんの心に芽生えたの?」
「まぁ、簡略した話。今まで苦労が耐えなかった嶋田さんは、一定の金を手にして安心しちまったんだな。……要するに『腑抜けた』状態になっちまったんだな。そんで、今まで気を張っていた分、なにも手に付かなくなったって訳だ」
あれ?
いつもみたいに小難しい事を言わずに、今回は豪く簡略した話だね。
でも、この話で、全てが解らなくもないよね。
『長い下積み』→『成功』→『お金の確保』→『生活の安定』→『スランプ』って方程式が、嶋田さんは下積みが長い分、上手く成立してる。
そこで才能が壊れるのを嫌う崇秀は、再度、嶋田さんにしか弾けない様な曲を用意して、彼の心に火を入れ様としている。
要するに……結局は、お節介なんだよね。
「そっかぁ、なんか納得しちゃった」
「おっ!!なんだ、なんだ、今回は、やけに飲み込みが早いじゃねぇかよ」
「うん。まぁ、今回は小難しい話が無かったからね。それに崇秀の考えそうな事と、今、聞いた嶋田さんの心理を合わせればね。それなりの回答は出て来るよ。それにね……」
「『それに』?……ほぉ、まだ続きが有るのか?」
「うん、それにね。嶋田さんって、お金に固執してるみたいに見えて、実は、全然、無欲なんだもん。安全なマージンを得たら、安心する気持ちも解るよ」
「うん。人の心を良く理解した良い見解だ。……OK、だったら嶋田さんの話は、これで終わりだ。……次はオマエの番だ」
「私?」
えっ?
あぁそうかぁ。
これからの奈緒さんのライブの話をしようと思ってたんだった。
ははっ……私って、緊張感ないなぁ。
「いやいや、変に構えるな。今更なにかを、どうこうしようって話じゃねぇんだ。今のオマエに、どうしても1つだけ聞いて置きたい事があるだけだ」
「えっ?なに?」
「オマエさぁ。このライブで、一番多くの喝采を浴びたくねぇか?」
「えっ?『喝采』って、どういう事?」
「なぁにな。今日は、オマエと遊ぶって宣言した以上。最後の最後に、最高の演出をしてやろうと思ってよ。もし、オマエがそれを望むなら『バック・アップ』に徹してやろうと思ってな」
「崇秀が!!私のバックアップ!!なっ、なっ、なっ、なに、その気持ち悪い発想?熱でもあるんじゃないの?」
「どういう意味だよ?」
どうしたの、この子?
普段なら、こんな馬鹿げた事は、絶対言わない筈なのに。
なになに?
本当に勉強のし過ぎで、頭おかしくなっちゃったのかなぁ?
怖ッ!!
・・・・・・
あっ、違う!!
崇秀が見てるのは、私なんかじゃなく、ライブの底上げだ。
多分、奈緒さん、山中君、それに私と、崇秀。
この4人の中じゃ、明らかに一番演奏が下手糞なのは私。
だからこそ、自分が『バック・アップ』して、それを上手く補おうって事だ。
あぁ……凄い凄い!!
今日の私は冴えてるかも♪
「ゴメン、ゴメン。じゃあ、お願いしよっかな」
「ほぉ。その様子じゃあ、俺の意図が読めたって事か?」
「あぁっと、正確にじゃないけど」
「して、どう読む?」
「ライブの底上げ?」
「ふむ、正解だ……但し」
「但し?」
「但し、俺が、オマエの『バック・アップ』するのは本番のみに限らせて貰う。さっき山中に啖呵を切った以上、アンコールは、俺の好き勝手にさせて貰うぜ」
う~~わっ、この言い様……
絶対、アンコールの際に、なんか良からぬ事を企んでる証拠だ。
ヤダなぁ……
……あぁでも。
奈緒さんのライブが、本番だけでも上手く行くなら、それはそれで有りか。
今のまま演奏を始めたんじゃ、どの道、ライブ自体が崩壊しかねないもんね。
此処は私が、奈緒さんの為にも『スケープ・ゴート』になるべきだよね。
私って健気♪
「うん。好きにすれば良いと思うよ。全部が共闘だと面白くないしね」
「言ってくれるねぇ。……まぁ、OKOK。なら、本番は、全力でオマエをバックアップしてやる。それと、これ、本番まで残り1時間だから、一旦、全部耳に通しておけ」
そう言って崇秀は、MDの本体ごと投げて来る。
「なにこれ?」
「実は、昨日の内にな。パソコンの打ち込みで作って置いた、向井さんの新曲アレンジだ。基本のラインは同じで簡単だから、全部、頭に叩き込んどけ」
ヤッパリ、昨日も寝てなかったんだ……
ほんと、倒れちゃうよ。
……けど、今は、そんな説教してる場合じゃないから、なにも言わないけどね。
「あっ、うん。任せとけぇい!!」
「良い返事だ。……じゃあな」
背中を向けたまま、一切振り返らずに、手だけを振る。
いつもの去り方で、崇秀は、どこかに消えて行った。
あの調子だと……まだ、この一時間の間に、なにか仕込む気の様だ。
でも、それは、彼が、崇秀と言う特殊な生き物である以上、仕方のない事だと思う。
最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございますです<(_ _)>
この一連の揉め事も、今回の崇秀の言い分からして。
奈緒さんが、現状でのライブに不満を持ってる事を感じての行動かもしれませんね。
そして、嶋田さんの話についてなんですが。
勿論、崇秀は、本気でこんな事を言ってる訳ではなく。
彼の思惑としては『ある人物の事が気に成っていて』嶋田さんを出汁に使って、その人物に指摘しようと考えている様です。
まぁ、この部分に関しては、非常に解り難い表現で書いていますので。
誰の事を指摘しているのかが『謎』に成っている可能性が高いのですが。
此処に居るメンバーの内の1人に指摘をしたいが為に、この様な行為を行っている、っと言うのだけ忘れないで下さるとありがたいです♪
さてさて、そんな中。
最後の最後で、崇秀にアレンジした曲が入ったMDを渡された眞子なのですが。
この後、眞子は、一体、どの様な行動を取るのでしょうか?
それは次回の講釈に成るのですが。
良かったら、またお気軽感じで、その内容を確かめに来て下さいですぅ~~~(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾
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