最後まで奏でられなかった音楽

どこかお間抜けDQNな不良さんのゆったり更生日誌(笑)
殴り書き書店
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030 不良さん ちょっと向井さんの家庭の事情を知る

公開日時: 2021年3月7日(日) 23:19
更新日時: 2022年11月5日(土) 22:51
文字数:3,559

●前回のおさらい●

向井さんの逢う為に、彼女の通う高校の前で待ち伏せする不良さん。


そこではアッサリ再会を果たすが。

崇秀に頼まれた『アンケート』を先に渡そうとしたら、彼女がネット上で世話に成っている『仲居間』なる人物だと気付き、話題は崇秀の方に……


それが面白くない不良さんは『そのネット上の人物が崇秀ではないんじゃないか?』っと向井さんに言ってしまい。

彼女を少し悲しませてしまう。


それを見た不良さんは、反省して言葉が出なくなってしまう。

 向井さんと上手く再会出来たまでは良かったが。

彼女との会話の中に、崇秀に頼まれてたアンケ-トを渡したら、話が一気に崇秀の方向へ。


それを不満に思った俺は、崇秀に嫉妬してしまい。

アイツを貶める様な言葉を発してしまったのだが……

『それは人として違うだろ』感じ罪悪感に包まれて、沈黙してしまった。



「・・・・・・」

「どうかした?」


一瞬にして、俯いた気持ちになってしまい。

湧き上がってきた罪悪感から、向井さんの顔が、まともに見れない。



「倉津君?」

「ごめん」

「えっ?」

「多分、向井さんが言う、そのネットの仲居間って人物は崇秀だ」

「えっ?えっ?どうしたの急に?」

「俺……あまりにも、崇秀の話で向井さんが喜ぶもんだから……」

「えっ?あぁ、そっかぁ。じゃあ私も、ごめんだね」


素直に言葉を発しただけなのにも関わらず、何故か向井さんは謝ってきた。


俺は全く意味が解らないまま、目を白黒させて、向井さんに切り返した。



「なんで向井さんが謝るんだよ?悪いのは俺だろ」

「うぅん。私も、倉津君の気持ちを考えなさ過ぎた……だから、ごめんね」

「えっ?……って事は、俺の気持ちに気付いてたのか?」

「そりゃあね。そんな手を見せられたら、誰だって気付くよ」

「手?」


向井さんの言葉に反応して、咄嗟に自分の手を見る。


練習し続けたベースの弦で散々切れて、絆創膏だらけのボロボロで汚い手だ。

向井さんに好かれたい一心で、必死になっていた自分が、妙に気恥ずかしくなって、その手を素早く隠そうとした。


だが、向井さんは、そんなボロボロの手を、そっと握ってくれた。


暖かで、柔らかい彼女の手の感触が伝わる。



「ベースの練習一杯したんでしょ。じゃなきゃ、簡単には、そんな手にはならないよ」

「おっ、俺は……」

「でも、無茶苦茶だよ。こんなになるまでベース弾くなんて」

「だっ、だってよぉ……俺だって、少しくらい、向井さんにカッコイイとこ見せたかったから」

「ふふっ……馬鹿なんだね」

「うっ、うっさいッス」

「でも、嫌いじゃないよ、そう言う男の子」


向井さんは上目遣いで、俺の視線を完全に捕らえた。


だが俺は、当然の如く、顔を真っ赤にしながら、咄嗟に横を向く。

こう言うシュチュエーションは、人生初めてで、どうすりゃ良いのかすら解らない。

こう言う時、崇秀か、山中に電話すりゃ、対応方法を教えてくれるんだろうが、とても、こんな状況下で電話なんかしてる場合じゃない。


それほど俺の状態は切迫していた。


どうしたらBESTなんだ?

どうしたら、向井さんが喜んでくれるんだ?

どうしたら……

どうしたら……

訳が全く解らなくなり。

ギコチナイながらも、取り敢えず、顔を正面に向ける。


そこには、矢張りっと言うか、当然っと言うか、向井さんの顔がある。

今の彼女は輝き過ぎて、綺麗過ぎて、とても直視出来無い。


この美しさ……中学生の俺には、とても対処しきれるものではない。



「倉津君……今、Hな事を考えたでしょ」

「えっ、えぇ~~と」

「ふふっ」

「なっ、なんで笑うんッスか?」

「だって、不良で有名な倉津君が、こんなになっちゃうなんて……可笑しい」

「全然、可笑しくないッスよ」

「そう……なの?」

「おっ、俺、こんな形だから、みんなに怖がられてるし。女子と付き合った事無いですから、こう言うのなんて言うか……」

「そっか」


漸く、この時点で、向井さんが手を離してくれる。

その時点で、俺は極度のプレッシャーから開放され、安堵する事にはなったんだけど、その反面、心の中では名残惜しくも有った。



「あっ、あの、向井さん」

「なに?」


俺の大好きな向井さんのセリフ『なに?』通常バージョンが出た。

これにより、更に安堵感を増す。


それによって、今までの自分じゃあ、思いがけない様な言葉が出てきた。



「こっ、こっ、こっ、これから少し、時間有りますか?」

「へっ?」

「よっ、良かったらなんっスけど、この前のカラオケBOXに行きませんか?練習の成果を見て欲しいですし……もっ、もっ、もっ、勿論、全額、俺が奢りますから」

「うん。良いよ……でも、お金はワリカンね。年下の男の子に、全額出させる訳にはいかないでしょ」

「けど……」

「口答えは禁止。言うこと聞かないなら、もぅベースは教えてあげないよ」

「……」


どうしたもんか?


向井さんは、あぁ言ってはくれてるけど、年下とは言え俺は男。

女子に、お金を出させる男子って言うのは、自分でもちょっとどうかと思う。

それに、これは、ベースの成果を見て貰う訳だから、単なる俺の我儘。

これに付き合って貰っている以上、ワリカンとは言え、向井さんにお金を出して貰うのは、なにか変だ。


こうなったら、尚更、ワリカンして貰う訳にはいかない。


……けど、それじゃあ、ベースを教えて貰えなくなる。

何が困るって、それが一番困る。

向井さんに逢う切欠を失う事に繋がるんだからな。


簡単には返事出来無い……悩みどころだ。



「黙るのも禁止ね。倉津君、返事は?」


なんとも強制的なものを感じる言葉だ。

言う事を聞かなかったり、反論でもしようもんなら、怒られそうだな。


なら、ここは、素直に従った方が良さそうだ。


でも、俺って、こんなにMだったんだな。

自分でも初めて知った。



「はい……じゃあワリカンで」

「そっ。年下は、年長者の言う事を、素直に聞くもんだよ」

「あぁ、はい……」


年長者って……2つ位の歳の差だったら、そんなに変わんないのにな。

向井さんって、結構、言い出したら聞かないタイプなんだな。


こりゃあ、新しい発見だ。


それに、この人、もっと無表情な感じがあったんだが、良く観察すると、細かい部分で表情が変わっている。

それでいて、極稀に大きな表情の変化を見せる。

その時の新鮮な感じが、特に目を引くんだよな。


今も、口元に手を当ててクスクス笑ってんだよな。


うわっ……タマンネェ~~~。



「なにボォ~っとしてるの?早く行こ、クラ」

「クラ?……俺の事ッスか?」

「あっ、ごめん……嫌だった?」

「いやいや、いやいや、全然良いですよ。寧ろ、それで良いです。いつまでも他人行儀なのも、なんか変ッスからね」

「ありがと。じゃあ、私の事も、いっそ奈緒って呼んでみる?」


それは……無理。

ベースの師匠で、年上(都合よく年上扱い)の向井さんを呼び捨てするなんてもっての他。


絶対無理。



「いや、それは、ちょっと……」

「自分ではそう言う割に、他人行儀なんだね」


悪戯っぽくて意地悪な顔が、俺を覗き込む。



「違う……他人行儀とか、そんなんじゃなくて。向井さんには、色々世話になってるし」

「ふ~~~ん。クラって、色々面倒な事を考えるんだね」

「いや、普段は、そんな事お構いなしなんだけど。向井さんは、俺にとって特別な人だから」

「そっか。特別か……なんか、そう言われるのって嬉しいね」

「そっすか?ヤクザの息子の俺なんかに、特別扱いされても、迷惑なだけじゃないですか?」

「うぅん、嬉しいよ。大体、そんな小さな事で迷惑だなんて思わないよ」


向井さんは、崇秀と同じ事を言ってきた。



「それに、クラはクラなんでしょ。ご両親とは別人。関係ないんじゃない?」

「けど……」

「それにね」

「はぁ」

「私の両親は揃いも揃ってロクデナシ。ヤクザでも働いてる分ズッとマシだよ」


言葉尻が、少しキツクなってきた。



「向井さん、ひょっとして、ご両親の事……」

「うん、大嫌い。今も『アイツ等なんか、早く死んじゃえば良いのに』と思ってる」


少し影のある面持ちと、力ない笑顔が交差して、なんとも言えない様な表情で彼女はポソポソと話す。


この表情と、言い分から解る様に、彼女は、ご両親に対して、相当な嫌悪感を持っている。

どうやら、それを再認識させてしまったらしい。


また俺は、人を傷つけてしまったのだろうか?



「……奈緒さん」

「クスッ……この場面で、それ、言うんだ?」

「すんません。気の利いた事が言えないもんで」

「違うよ。……やっと名前で呼んでくれたね」

「あっ……」

「私の話を聞いて安心した?それとも同情?」

「安心も同情も、そんなクソッ喰らえなもんしてないッス……ただ境遇が、少し似てるのかな、っとか思って、それで共感した部分は多々有りますけどね」

「クスッ、なにそれ?どこが似てたの?」

「すっ、すみません……やっぱ似てないッスよね」


再びクスッと笑って、俺を見直す。



「って言うか。ツマンナイ大人の話なんか辞めにして……行こ。もし私に付いて来てくれるなら、カラオケなんかより、ズッと面白い所に連れて行ってあげるよ」


そう言って奈緒さんは、俺に手を差し伸べてくる。

一瞬、彼女の手を取って良いものかと考えてしまったが……

向井さんの事が気になって仕方がない俺は、本能的に彼女の手を握ってしまう。



「ッスね」


そして、そんな彼女と手を繋いだまま、繁華街に向かって歩き出す。


なんか色々あったけど、これは極上の幸せだぁなぁ~~~。


最後までお付き合いありがとうございました<(_ _)>


倉津君の実家もそうなのですが。

どうやら向井さん方も家庭に問題のある子みたいですね。


『親に死んでほしい』なんて思う事は、この年代にありがちな事ではあるのですが。

仕事をしていない親に対してなら、そう思うのもおかしくは無いのかもしれませんね。


さて、そんな2人が次回は、どこに行くのやら。

それは次回の講釈。


でわでわ、また遊びに来てくださいねぇ(*'ω'*)ノ

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