第十八話、始まるですよぉ~~~(*'ω'*)ノ
018【葛藤】
俺のファンを名乗る例のオーディエンス2人組み『モヒ&ロン毛』を引き連れ、ライブハウスの専用通路から店内に入って行く。
当然、チケットがソールドアウトしているのだから、ライブハウスの中は人・人・人で溢れ返り、既に満員御礼な状態。
そんな状況を見ているだけで、モヒもロンも、その他の観客同様に早くもヒートアップし始めているが解る。
きっと他人から出る熱気に宛てられて、みんな興奮が感染しているのだろう。
だが……そんな盛り上がる2人を見ても、俺は一緒に盛り上がる気分には成れずにいた。
ライブハウスの中に入った瞬間、言葉少なに、俺は2~3言2人と話した後、直ぐに奴等の前から立ち去る。
『盛り上がれない理由も』『別れて行動する理由も』勿論、言うまでもない。
さっきの崇秀との話が引っ掛っての事だ。
だから『ライブハウスの中に入れる』と言う約束を果たした以上、今の俺には、これ以上、この2人に付き合う義理は無い。
故に、モヒ&ロンとは離れて行った訳だ。
けどなぁ。
そんな風に2人と別れて1人に成ったまでは良かったんだがな。
実際の所、このライブでの俺の出番までには、果てしなくまだまだ時間がある。
どう考えても、とてもとても1人で過ごせる時間の長さじゃない。
かと言ってだ。
誰かと話す様な気分にも成れないのも事実。
だから俺は、少しだけ頭の整理を付ける為にも落ち着ける場所を探し。
出来るだけ人気のない場所が、ライブハウスの中にもないものか?とキョロキョロと見回して見た。
でもな。
さっきも言った通り、店内は満員御礼。
何所を探そうが、このライブ会場には、そんな余計なスペースは何所にも存在しなかった。
どこを見ても、会場内は人が溢れ返り。
唯一、俺が欲する隙間あるとすれば……会場内の隅っこの隅っこのみ。
後は、何処をどう探そうと、それらしき場所は見つからなかった。
だから仕方なく俺は、そこに向かって移動する事にした。
それにしてもなんだな。
こうやって冷静にライブを見てみると凄い盛り上がり方だな。
2部のライブが始まって間なしだって言うのに、1部の盛り上がりとは、まるで比べ物にならない程の盛り上がりを見せている。
俺が今現在立っている場所以外なら、何所に居ても、激しいまでの熱気が伝わってくる位だ。
熱狂……そんな言葉が頭をよぎる。
その熱狂だと言う証拠を挙げるとすれば。
1部と、2部とでは、幾つかの変更点が見受けられる。
①まずは客層。
第1部の客層が若い連中がメインだったのに比べて。
第2部は、様々な年代の人間が入り混じって、そこやかしこに居る。
それらの人間を観察すれば……
楽器に未来を託し、明るい未来に夢を見る未成年。
嶋田さんの様に、音楽で喰っていくには辛くなって来て、これからも音楽を続けるのか悩んでいる成人。
夢破れて、音楽関係から一線を退き、今はただのサラリーマンになった中年層。
未だ音楽が好きで堪らなくライブに赴いた熟年層。
それら全ての人間は、一往に『音楽を愛する者』のみで形成されている。
此処には1部とは比べ物にならない程、誰一人として冷めた態度で見ている奴はいない。
②2つ目に上げられるのは、ミュージシャンやバンドマンの質。
第1部では、ある程度のレベルに達したものなら誰でも参加も出来る様な安いイメージが否めなかったが、この第2部は、そこら辺からして違う。
まずにして、この第二部に出てくる出演者からは、第一部の様な甘さも無ければ、一切の妥協も見受けられない。
全ての出演者が全員、そんな腕に自信のある者で構成されている。
この様子からして、素人とは言え、この第二部は、神奈川県に居る高レベルのアーティストが集まっている様子だ。
それに良く見ると、まだメジャー契約までには行きついていないインディーズのミュージシャンすらチラホラ混じっている有様だ。
それ故に楽器捌きや、歌の質が、第一部とは全く違うものとも言える程の変わり様だ。
ただその分、先程挙げた『音楽で喰っていくには辛くなって来た成人』が多く見受けられる為、若さと言う点では、少なからず欠落している……が、それでもこのライブは一見の価値がある。
勿論、中には俺と同年代よりも、少し上程度の奴もいるんだが。
腕の甘さからか、その殆どは、他のアーティストに喰いものにされている。
兎に角、そんなサバイバル感がハンパじゃない雰囲気だ。
少しでも気を抜けば、他の者に喰われ地獄行き確定だろう。
これ等を総称すれば、この第2部こそが『このライブの本番だった』と言う事は火を見るより明らかの様だ。
ただ知っての通り、この崇秀特有のライブスタイルには、オーディエンス達にとっての、お目当てのバンドっと言うものは存在しない。
個人個人での登録が多いので、ある意味、ステージに上がるもの全てが、即席の塊の様なバンド。
なので一見すると、そう言う理由から盛り上がりに欠ける様に思えるだろうが。
そこは演奏の腕や、パフォーマンスで観客を盛り上げていっている。
これはもぉ、1部の人間(スカウトマン)を除けば、ただ只管盛り上がるだけに存在するライブと言って良い程だ。
まるで、この会場自体が、ストレス社会に於ける捌け口を見るぐらいだ。
兎に角、始まって間のないライブだが。
既に、異様な様相を感じさせるライブに成りつつあった。
俺は、そんな盛り上がりの中に有っても。
矢張り、他の人間より、どうにも冷めた感じに成ってしまっている。
勿論、他人の演奏する音楽が、どうこう言うつもりはない。
それ以前の問題として、そのどうこう言うレベルに達していないのだから、それを言う事自体『愚行』だ。
―――なら、なにを冷めているのか?っと聞かれたら。
……結局は、先程の崇秀の持って来た話に巻き戻ってしまう。
『バンドに来ないか』
この奴の言葉が耳にこびり付いて離れない。
確かに奴の話は、何所の誰が聞いても魅力的な話では有る。
……いや、誰彼と言うより、正確には、俺の先の人生を考えれば、これ程メリットが多く、リスクの少ない話は、そう多くは存在しない。
しかも、その中には、俺自身の就職の問題も考慮されているおり。
アイツは、この1年限定で限界値まで俺の知名度を引き上げ、ヤクザにならないで済む様にマスコミを使う、っとハッキリ断言している。
だが、これは所詮中学生の考えでしかないだけに、多少の甘さは否めないだろう。
どう考えても、世の中そんなに甘い物じゃないだろうからな。
……がだ。
恐らくアイツが本気で奔走する事によって、間違いなく、これが事実に変わる様な気がしないでもない。
それは、アイツの口から語られた概要からも判断出来るし、奴の持つ人材をもってすれば可能な領域だとも思える。
実にアイツらしい、効率を重視した提案だけに、こんな事を平然と思い付くアイツは、本当に恐ろしい存在だと言えよう。
そして、俺なんかの事を、マジで考えてくれてる本物の『友達』だとも言えよう。
だから本来なら、このお節介にも似た好条件の提案を、断る要因は1つもない。
寧ろ、断る方が、頭が、どうかしてるんじゃないかとも思える。
ただそうは言ってもだな。
俺が『その勧誘に対して悩んでいないか?』と聞かれれば。
そんな好条件を突きつけられているにも拘らず、まだ悩んでハッキリしない自分もいる。
別に、これ以上、何かを多くを望んでいる訳ではない。
俺が懸念する事は、たった1つだけだ。
『奈緒さんと山中の件だ』
俺みたいなド素人の為に、なんの躊躇もなく、今のバンドを辞める事を前提にしてまで『一緒にやろ』って言ってくれた奈緒さん。
今、考えても無謀な事だと思う『打倒崇秀』を掲げた俺の勧誘に賛同してくれた山中。
この2人を、自分の都合だけで、簡単に裏切る様な真似をしても良い物なのだろうか?
なにをどうやっても、俺の裏切りに対して……
『悲しそうな顔をする奈緒さん』
『怒って罵倒する山中』が浮かび上がってくる。
想像とは言え、1度してしまったビジョンが、頭にこびり付いて離れてくれない。
当然、もしそうしてしまった場合、そうなっても、文句の言えない立場なのも良くわかっている。
それが解っていても、その2人を裏切ろうとしている自分もいる。
だが、良い格好をする訳ではないが、正直、俺は、この2人を裏切ってまで音楽を続けたいとは思わない。
けど、それと同時に『ヤクザに成らずに済む』のなら、そういう道を歩んでみたい、と言う気持ちがない訳でもない。
そんな風に俺は『自分の事すら決められない優柔不断な男』なのだろう。
そしてそれと同時に、俺は崇秀の様に『効率のみを重視した生き方』が出来ない人間だと認識をせずにはいられなかった。
要するに、3人の気持ちに挟まれて、感情に流される甘ちゃん。
俺は……盛り上がるライブハウスにあっても、自分が今後、どうして良いか解らなくなっていた。
最後までお付き合いありがとうございました<(_ _)>
この第十八話では『崇秀にバンドに誘われた倉津君の葛藤』を描いていきたいと思います。
倉津君は自分の『利』を取るのか?
はたまた奈緒さんや山中君との『義理』を取るのか?
この辺の心の揺れを上手く書ければ良いなぁとか思っています(笑)
まぁそれにしてもあれですね。
崇秀の前では比較的冷静な態度を取ってはいたものの。
矢張り、自分の周りに誰もいなくなってしまえば。
不良とは言え弱い部分が出てきて『普通の中学生』と何ら変わらないものですね(笑)
いっぱい悩み給え。
そんな感じで次回は……
彼のもとに、ある人物が訪れてきます。
その人物は、彼にとっての救済者の成るのでしょうか?
それは次回の講釈で。
良かったら、また遊びに来て下さい~~~(*'ω'*)ノ
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