最後まで奏でられなかった音楽

どこかお間抜けDQNな不良さんのゆったり更生日誌(笑)
殴り書き書店
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115 不良さん 苦悩の日々は続く

公開日時: 2021年6月1日(火) 00:21
更新日時: 2022年11月20日(日) 14:29
文字数:4,408

●前回のおさらい●


 浮気判定される様な倉津君のバンドでの占有権を賭けて、奈緒さんと素直を戦わせようと企む崇秀(笑)


その答えを今、奈緒さんは口にしようとしていた!!

「んで……そこまでわかってるんなら、向井さんやってくれるよね」

「やりません!!そう簡単には、仲居間さんの口車には乗らないんだから」


自分を殺して、奈緒さんは、崇秀の提案をキッパリと断った。


良いぞ、奈緒さん。

こんな人の心理を付いて、全てを思い通りにしようとする悪人の思い通りになっちゃいけない。


こんな悪党に屈するって事は『正義が死ぬ』事に匹敵する。


頑張れ奈緒さん!!

負けるな奈緒さん!!


正義はアナタの双肩にかかってる。



「またまたぁそんな事を言っちゃってぇ……向井さんさぁ、コイツがモテるの知ってるんでしょ。アリス以外も監視しないとイケナイ奴が、他にも沢山居るんじゃないの?」

「・・・・・・」

「……まぁそれ以前にコイツには前科が有ったよね。ピッタリくっつく為にも、この独占出来るって条件は大きいと思うけどなぁ」


うぉ、オマエは、その話を今ワザワザするか?


ドンだけ卑劣なんだよ。


だがな、ボケ、オマエにも誤算が有るぞ。

確かに、オマエ言う通り、俺には『前科』があるが、今の2人の間にそんなものは問題にならない。

今度こそ奈緒さんは、きっと俺の事を信用してくれる筈だ。


それにさっき俺は、心の中で、本当に奈緒さんに忠誠を誓ったんだ。


故に、他の女に興味を持たない。

だからそんな俺には、監視なぞ必要ない。

第一これは、奈緒さんが懸念するほどの問題じゃないしな。


虚しいが、俺はオマエと違って『モテない』んだよ。


そんな心配をする事自体が無駄なんだよ。


ははは……って事で、今回ばかりは俺の勝ちの様だな!!



「……意地悪」


へっ?あっ、あれ?

奈緒さん、ひょっとして、俺の事を全然信用してない方向ッスか?


なんで、そんなに簡単に疑心暗鬼に掛かって、ぷぅって膨れてるんッスか?


ちょっとで良いから、俺を信用して下さいよ。



「じゃあ、結局、どうするのかな?」

「あぁもぉ、わかりました。……やりますよ、やれば良いんでしょ」


あっ、あれ?やるの?やっちゃうの?

さっきの意気込みと、俺に対する信用はどこに行ったんッスか?


こうもアッサリ、正義は死んだのか?



「んじゃ決定。あとの奴は面倒臭いから、まぁOKって事で良いか」

「オイオイオイオイオイ、ちょっと待てな、オマエ。他の人間が選択権無しって言うのは、明らかに、おかしいだろ?」

「いや、俺は、なにも強制はしないぞ。だから勿論、全員に拒否権は有る……ただな」

「ただ、なんだよ?」

「オマエ、バンド纏めんだろ。1人が決まったら『受け入れるか』か『弾く(はじく)』かしかないぞ。……オマエ、向井さん弾く(はじく)つもりか?」

「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待てな、オマエ。俺に、このバンドを纏めろって言うのか?」

「当たり前だろ。……それは、最初から、キッチリ約束したよな」

「いやいやいやいや」

「じゃあ、逆に聞くがな。このバンド、オマエ以外に、一体、誰が纏めるって言うんだ?山中か?アリスか?嶋田さんか?……違うよな。向井さん引き止めたオマエがやるのが筋ってもんだろ。ちゃんと責任取れよ」


詭弁だ。


元を正せば、オマエが、そうしろって言ったんだろうがよぉ。



「良いよクラ」

「奈緒さん、全然良くねぇッス。俺なんかが、人を纏められる筈が無いッス」

「良いの。大丈夫だから……このシステムだと、纏める必要なんて無いのよ。良い物を作る為に小競り合いをすれば良い。その辺に関しては、全然問題無いよ。それに指名権も、私が指名出来るんだから有利に事が運べる。私が仲居間さんを、こき使って纏めさせれば済む話なのよ」

「あぁなるほど。自分の番の時は、この馬鹿を必ず指名するって事ッスね」

「そぉそぉ」

「いや、話が盛り上がってる処で、水を差す様で悪いんだが……それ、無理だぞ」

「えっ?」

「だってよ。俺、このバンドに在籍する気ねぇし。最初から、俺は、一言も一緒にバンドやるなんて言ってねぇよ」

「「えぇ~~~っ!!」」


なにを言い出すかと思えば……言うの事欠いて『メンバーじゃねぇ』だと。


これだけ引っ掻き回して、そんなもん許されるか。



「ふざけんなぁ!!どこまで自分勝手なんだよ」

「果てしなく」


反省する様子は微塵も無い。

それどころか、ニヤニヤしてやがる。



「おっ、オマエなぁ」

「ん?なんだよ?」

「オマエさぁ。自分で言ってて恥ずかしくないのか?」

「全然」

「あの……流石に、それは酷くないですか?」

「酷い?……なにが?誰が?」

「えぇ~」


無自覚魔王の言葉に、奈緒さんは声を上げるしかなかった。



「勘違いしちゃあいけないな。俺を服従させたいなら、キッチリ、俺を服従させたい部門で、俺に勝たなきゃ無理。……故に、今の俺1人に惨敗する様な無様なバンドへの参加なんざお断りだ」

「でも、それじゃあ……」

「でもは無し。それに……そうしないと、みんな俺の『操り人形』になって成長しないだろ。俺とやりたきゃ、それ相応のレベルにならねぇと話にならない」


ふてぶてしい……が事実だ。


確かに、本人の言う通り、ギターのテクニックは群を抜いている。

しかもコイツが居たんじゃ、みんなコイツに依存して、バンドの成長は止まる可能性は高いって言うのも頷ける。


故に、その行為は、無駄ではないにしろ、やる意味はあまり無い。


くそ~~~!!この馬鹿!!変な所だけは、自覚有るんだな。


しかしまぁ、コイツがそう言う事を言うって事は、良くも悪くも『期待してる』って事だよな。


コイツが他人に期待するなんて、珍しい事もあったもんだ。



「わかりました。もぉ良いですよ。……そこまで言うなら、仲居間さんなんて要りませんし」

「流石、向井さん……自分の立場が良くわかってらっしゃる」

「腹が立つなぁもぉ。ネット上だと、あんな良い人なのに。なんで実物は、こんなに意地の悪い事バッカリ思い付くんだろ」

「あぁ、幻覚だな、そりゃあ」

「もぉ良いです。……ところで仲居間さん」

「んあ?」

「私達がバンドをしてる間って、何するつもりなんですか?それぐらい教えてくれても良いですよね」

「俺?……俺は1年間アメリカ留学するつもりだけど」

「ブッ!!」


オイオイオイそんな話、俺も聞いてないぞ。

その留学とやらは、いつの間に決まってんだよ?


まさか、適当な事を言ってんじゃねぇだろうな?



「そんな眼で見るかねぇ。俺もこう見えて、結構、多忙でね。やる事が多過ぎて、効率良くものをしないと、幾ら時間が有っても足りないんだよ。……けど、勉学は勿論の事、音楽もハンパをするつもりは無い。んで思い付いたのが、完全実力主義のアメリカへの留学。コイツは効率的にももってこいの環境だ。それによ」

「それに?それになんだよ?まだなんかあんのかよ?」


なんか聞きたくねぇな。


音楽と勉強以外に、何をするつもりなんだよ?



「いやな、これがアメリカに留学する一番の理由なんだがな。お袋を助ける為に、もっとカットの勉強をしようと思ってな。……ほらほら、日本だけでカットの勉強したって、底が知れちまうだろ。そう言った事に対して、日本は遅れてるからな」


あっ……アホだ。

コイツは、究極のアホだ。


今のまま音楽や勉強してるだけでも、十分やっていけるだけの素質を持ってるにも拘らず、まだ他のものに手を出すつもりか?


ドンだけ貪欲なんだよ?

いや、自己鍛錬に対して、ドンだけ抑制力がねぇんだよ。


頭が狂ってるとしか言い様が無いな。



「まぁ心配すんな。全部のレベルを上げて帰ってくるからよ。楽しみにしとけ」

「もぉ勝手にしてくれ。オマエには付き合いきれん」

「あぁ、言われなくても、そのつもりだが」


なに澄ました顔して、さも当たり前みたいな顔してるんだよ、この異常者。

ホント、呆れるぐらい身勝手な奴だ。


ただ、そんな気紛れが許される人間って、ホントにいるんもんなんだな。

俺も、そんな人間なってみたいが……コイツみたいに、苦労するのを愉しむ様な馬鹿な人生は御免だ。


その辺は無理なものは無理。

人間、諦めも肝心って事だな。



「あぁそっかよ。ホント勝手にしろ。もぉオマエの話なんざなんも聞きたくねぇよ」

「いやいや、待て待て、倉津。悪いがもぅ1つだけ話が有る。一番重要な事を言い忘れる所だった」

「なんだよ?まだあんのかよ。それに、この期に及んで一番重要だと?……もういい加減勘弁してくれ」

「そう言うなって……本当に、これで最後だからよ」

「んだよもぉ?聴いてやるから、その重要な事とやらを、早く喋って地獄に帰れ」

「おっ、じゃあ言うぞ」


その言葉を聞いた崇秀は、今日最高に嫌な笑顔をした。


なら、きっと最後の最期で、ロクデモナイ事を言う筈だ。


そんな諦めに似た感覚が俺に充満してくる。

奈緒さんも同様に、うんざりしていたらしく、コチラも諦めムードだ。


ただ俺と、奈緒さんの諦めは少し違う。

俺の諦めって言うのは、コイツの言う事を、予め予測しての諦めだ。


多分、コイツの性格上、絶対アレを言うぞ……



そんな空気の中にあっても、何事も無い様に奴は平然と口を開く。



「あのな。さっき言ったシャッフルの話なんだけどよぉ……あれさぁ……ただの思い付きの冗談だから、気にせず楽しくバンドをやってくれ。以上!!」

「えぇ~~~~」

「んじゃま、そう言う事で、眠いから帰るわ……あばよ」


言い残して、風の様に素早く立ち去る。


奈緒さんは呆れ果てるを通り越して、放心しながら口を開いた。



「あっ、あれだけ人を煽って、引っ掻き回しておいて……しっ、信じられない」

「やっぱりな……言うと思ったよ」


この言葉を俺が発した瞬間。

奈緒さんの顔をクルッと素早い動きでコチラを向き。

凄く驚いた様な表情が、こちらに向けられる。


これって……俺が崇秀の行動を予想していた事が、相当、意外だったんだろうな。



「えっ?クラ……仲居間さんが、あんな事を言うのがわかってたの?」

「えぇ、長い付き合いですからね。多分、そうじゃないかとは思ってましたよ」

「なっ、なんでわかったの?」


更に驚いた顔をする。


この様子からして、奈緒さんって多分、俺の事を相当な馬鹿だと思ってるんだろうな。


まぁ正解なんだけよぉ……自分の彼女に、この扱いをされるのは辛いな。


なら彼女に、この考えを払拭して貰う為にも、少しは勉強した方が良さそうだな。



「あぁ言えば、インパクトに残るからですよ。……それに我々が、ちょっとでも面白いと思ったら、行動に出ると踏んだんでしょう。実に、アイツらしいやり方ッス」

「ふ~ん。そんな事がわかるなんて、仲が良いんだね」

「うげっ!!止めて下さいよ、気持ち悪い」

「くすっ」


やっと笑ってくれた。


やっぱり、奈緒さんには笑顔が一番だ。


今度こそ、この最高の表情を崩させない様に頑張ろ。



「まぁ兎に角、あのキチガイの話なんかよりも。今は奈緒さんの復帰を、みんなに伝えましょう。その方が重要な事ですしね」

「そうだね」


漸くみんなが、納得する形でバンドが完成した。


俺は、安堵感に包まれたまま、奈緒さんの手を握って、みんなの元に向っていく。



今度こそ、上手くやって行かなきゃな。


最後までお付き合いありがとうございました<(_ _)>

これにて第二十一話『離別』はお仕舞と成ります。


それにしても、奈緒さんを説得出来て、漸くバンドとして成立しましたね(*'ω'*)ノ

これでバンドとしての活動が出来る様に成りました♪


ただ倉津君……これで全てが上手く行くと思ったら、大間違いですよ。

今までの数々の悪行の清算が終わってないんだから、まだまだ君の苦悩は終わりませんよ(笑)


そんな訳で次回から第二十二話『プレゼント』が始まります♪


一体、なんのプレゼントが送られるのやら……


また良かったら、遊びに来て下さいねぇ~~~(*'ω'*)ノ

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