●前回のおさらい●
崇秀の見付けたレアな人材の話をしていたら、副担任の島田千夜が第二音楽室の前の廊下に立っていた。
そして注意される3人。
アリスの成りきりと言う特殊な技能に興味を持った俺と山中。
そんな俺達を見た崇秀は、近々ある自分のライブに誘ってくれて、この話は終了したのだが。
その瞬間、第二音楽室の扉が開き。
そちらの方を見てみたら、俺のクラスの副担任である島田千夜が立っていた。
つぅか、ビックリさせんな!!
「なんや、誰や思たら、千夜ちゃんかいな。あんまビックリさせるもんやないで、心臓飛び出して、相模湾に落下する所やったやんかぁ」
「……山中君」
「なんや?」
あぁまただな。
また此処で、2-Bでは恒例に成っている『あの話』だな。
しかしまぁ、毎度毎度懲りない奴だ。
「いつも、千夜ちゃんって言うなって言ってるでしょ。ちゃんと先生って呼びなさい」
「解った、解った。今度から、ちゃんと島田先生って呼ぶから、今日の所は勘弁してぇなぁ、千夜ちゃん」
「もぉ~~~、今日だけだからね。明日から、ちゃんと先生って呼ぶのよ」
「ホンマ、可愛いな千夜ちゃんは……堪らんわ」
「もぉ」
ホント、この女だけは、教師としての自覚が有るのか?
いつもいつも、山中のアホにからかわれてるのにも気付かずに、同じ事を繰り返す。
コイツには進歩ってもんがねぇ。
現に山中は『明日から、ちゃんと言う』って、昨日も言ってたぞ。
まぁ、顔面が可愛いと言う所だけは否めないがな。
この精神年齢の低さは、とてもとても年上とは思えねぇガキ臭さだ。
「そこの2人も、早く帰るのよ」
「だな。遅くまでゴメンな、千夜ちゃん。仕事頑張りなよ」
「……うん」
出たよ。
女と見たら、誰でも口説く馬鹿秀の悪い習性が……
笑顔で、頭を撫でて、心配そうに見詰めてんじゃねぇよ。
どんな器用な顔してんだ、オマエは?
ってか、島田!!オマエもオマエだ!!
アンタは、もぅちょっと大人としてしっかりしろよな!!
罷り也にも教師なんだろ。
教え子の言葉に、イチイチ、マジ照れしてんじゃねぇつぅのな。
「くっ、倉津君も、早く帰るのよ」
オイ、島田。
今、なんで俺だけ『くっ、倉津君』って1テンポ置く様な『くっ』を付けた?
そりゃあ一体、どういう意味だ?
つぅかオマエは、なにをビビッてんだよ?
心配しなくても俺は、オマエみたいな精神年齢の低い女には興味もねぇわ。
なんもしねぇつぅ~の。
「おぉ、オマエに言われなくても帰るわ」
「気を付けるのよ」
「うるせぇなぁ。テメェに心配される覚えはねぇよ」
「でも……先生、一応、副担任だし」
「おいおいマコ、怖い顔して、千夜ちゃん泣かすなや」
「なんもしてねぇだろ」
「いや、オマエは、もぉ存在自体が恐怖対象だ……自覚しろ」
「大丈夫だよ……先生、泣いてないよ」
なんで、こんな程度の事で半泣きになってんだ、アンタは?
つぅか、俺なんもしてねぇし!!
こんなもん、濡れ衣も良いところだ。
「怖かったやろ。心配せんでもえぇで、俺が身を挺して守ったるさかい」
「だな。俺も味方だから、安心して良いぞ」
「ありがとう」
ちょ……ちょっと待て、オマエ等。
確かによぉ。
俺が少し……ほんの少しだけドスを効かせて、島田に『うるせぇなぁ』とは言ったのは事実だ。
これは事実だから認めてやる。
そんでまぁ、俺みたいな厳つい奴がそんな言葉を言ったんだ。
女の島田にとっては、これは怖かったかも知れねぇから、此処も、ほぼ事実だから百歩譲って認めてやる。
だからって、なんなんだよ、この月9バリの茶番劇は?
オマエ等の、その偽善者モード全開の言い草も、虫酸が走るクサさだぞ。
その感じじゃ、この後『先生』とか言って抱き合うつもりか?
なに、俺だけを悪人に仕立てて、自分に浸ってやがんだよ?
これ、色んな意味で、余りにもヒドくねぇか?
俺、この女と出来れば、金輪際……いや、一生関わりたくねぇ。
樫田より苦手なタイプだな。
でも、学校じゃあ、クラスの副担任……どうせぇちゅうんねん。
まぁこの後、ヨロヨロと立ち上がった島田の甘ちゃんは『早く帰ってね』とか、ぬかして立ち去った。
アイツ、マジで何しに来たんだ?
「やっと行きやがった」
一難さって安堵の声を上げた。
「あぁ、ちょっと良いか?千夜ちゃんが来て、ゴチャゴチャなっちまったから確認するぞ」
「なんの……っと、ライブの話な」
「おぉそうだ。確認するぞ。ライブは、2週間後の土曜日、場所は横浜Live-on。山中、倉津共に1人づつの同行。それで良いか?」
「OK。了解や」
「俺も、それで頼むわ」
「よしよし。これで面白くなってきやがったな」
「なんか言ったか?」
「なんでもねぇよ……あぁそうだ、そうだ山中」
「なんや?」
「気が向いたら、これ、読んどけ」
なにか入って膨らんだ封筒を手渡す。
如何にも、胡散臭そうな臭いがプンプンしてならない。
「なんやこれ?」
「家に帰ってから開けてみろ」
「なんや解らんが、おもろそうやから、そないするわ」
「んで倉津、オマエにも、これを渡しとく」
俺には、封筒を2通手渡してくる。
なんで俺は2通なんだ?
しかも、一通は矢鱈と分厚い。
「なんだよ、これ?」
「第二段階の運指運動の仕方だ。そろそろ同じ動作に飽きてきた頃だろうし。ちょっとでも、早く上手くなりたいだろ」
「まぁな……けど、もぅ一通はなんなんだ?」
「そいつは、向井さんにだ」
「なんで向井さんに、オマエが手紙を渡すんだ?」
「変に勘繰るな。以前、彼女のライブに行った時のアンケートの纏めだ」
「って、向井さんもバンドやってんのか?」
「あぁやってるぞ。この辺じゃ、結構、有名なバンドなんだが……知らなかったのか?」
知らないのは当然だ。
彼女と会ったのは、あのコンパの一回だけ。
会話は、そこそこあったが、そこまで深い話をした訳じゃない。
「知らなかった。……けどよぉ、これは、変な勘繰りじゃねぇんだけど、なんでお前が、そんな事を知ってんだ?」
「さっき有名なバンドだって言っただろ。それにな。そこのバンドのメンバーとは昔からの付き合いがある。向井さんが入るズッと前からな」
「なるほどな。そう言う事か。つぅか、オマエって顔広いんだな」
「まぁ、この辺の地域限定だけどな」
ホントに、何所や彼処に顔を出す奴だな。
コイツの無駄なまでの行動力には感心する。
けどよぉ。そう考えたら、オマエの時間の経過って、ちょっと変じゃねぇか?
家の手伝いをしながら、ギターを弾いて、コンパ三昧。
それでいて勉強でも、運動でも、あんな上位の成績を叩き出せるんだろ。
既にもぉ時間を操る『能力者』としか思えのだが……
「しかしよぉ。オマエって、どこに、そんな時間が有るんだ?そんだけやる事が有ったら、時間が幾ら有っても足りねぇんじゃねぇの?」
疑問に思った事は、直ぐに口にする。
俺は疑問を溜め込まない。
「はぁ?んなもん、毎朝スケジュールを立ててりゃ問題ねぇだろ。後は、そのスケジュールに従って行動すりゃ良いだけなんだからな。これで大概の事なら出来んぞ」
「はっ、はぁ?ちょオマ!!おまえ、まさか、その日のスケジュールなんかを毎日立ててるのか?」
「あぁ、立ててるも、なにも。そんなもん、小学校に入った時からズッと立ててるぞ」
スケジュールなんて、有って無いが如しの俺にとって。
コイツの、この徹底した自己管理には呆れ果てた。
しかも、スケジュールを立て始めたのが、小学1年生からだと……ありえねぇ。
俺なんか、スケジュールはおろか、その日、何をするかすらも考えてねぇってのによぉ。
どうなってんだ、コイツの精神は?
頭がおかしいんじゃねぇか?
ただ、そう思う反面、不安が無い訳でもない。
同級生で幼馴染の崇秀が、そんな事を毎日していると解った以上。
ひょっとして、俺だけスケジュールを立ててないのかも知れないからだ。
そう思いながら、山中の方を見てみると……
矢張り、山中の奴も呆れ返っていた。
良かった、良かった。
普通の中学生なんざ、どう足掻いても、所詮はそんなもんだよな。
「秀」
「なんだ?」
「時間がオーバーした時は、どうすんねん?」
「なんの話だ?」
「さっきのスケジュールの話や」
「あぁ、そん時は、寝なきゃ良いだけだろ。睡眠時間を削るぐらい、なんの問題ねぇよ」
寝ずにスケジュールを意地でもこなすって……オイ!!
どこのノルマに追われてる銀行員だよ!!
「なんだよ?2人して、そんな奇妙な顔してよぉ。俺、なんかおかしい事を言ったか?」
「いや、間違いなく、オマエは正しい。スケジュール通りに事を進めるなんざ、まさに学生の鏡だ」
「あっ……あぁ、そうか」
「ただ、正しいだけに、オマエはおかしい」
「はぁ?なんでだよ」
「アホか!!どこの世界に、スケジュールをキッチリ守る中学生なんぞ居るんだよ。そんな奴、オマエ以外、誰も居ネェわ!!」
「そっかぁ?結構、居ると思うぞ」
「そんな気持ちの悪い奴、早々居るか」
そう言われた後、崇秀は後ろ髪を弄くりながら、なにやら思案している。
この動作は、コイツが何かを考えてる時に起こす昔からの癖だ。
ただ問題なのは、コイツがそれをすると、十中八九飛んでもない事を言い出す前兆でもある。
明らかに危険だ。
そんな危険を感じた俺は、この場は山中にだけ喋らせて、ダンマリを決め込む。
「気持ち悪いねぇ……けど、俺にしたら、そうやって時間を無駄に使ってる奴の方が気持ち悪いがなぁ」
「なんでやねん?普通、無駄な時間の方が有意義に過ごせるやんけ」
「そっかぁ?まぁ、有意義って言うんなら、有意義でも良いけどな。ダラダラして生産性のない時間を過ごすのは、間違っても有意義とは言わねぇぞ……それは単なる、現実逃避してるサボりだ」
やっぱり、おかしな事を言い出した。
こりゃあ、ちょっとの間、このややこしい話は止まらねぇぞ。
「グッ……」
「まぁ、有意義の定義なんざ、人それぞれだから、俺は特別、他人の事にまで干渉する気はないがな」
「ちっ、因みに、その辺のお前の定義は、どないなっとんねん?」
この馬鹿!!
そんな無謀な事を聞いて、どうすんだよ。
そんな話をしたら、この理屈馬鹿が、もっとややこしい事を言い出すじゃねぇかよ!!
黙れ山中!!
黙らねぇと、きっと後悔する事になるぞ。
「俺の定義か?俺の定義は、全ての事象に対して80%以上でこなす事だ」
「なんや高い数値なんは解るけど。なんとも言えん、微妙な数値やな」
「いやいや、80%は微妙な数値なんかじゃねぇぞ。これは分析した上での、キッチリと割り出された数値だ」
「80%がか?」
「あぁそうだ。まぁ例えばなんだがな。ある物事を80%の理解で他人に話したとするだろ。さすれば8×8=64……64%の話が相手に伝わる可能性があるんだよ。だが70%だと7×7=49、49%の話しか相手には伝わらない。故に、自分自身に最低でも80%理解力がないと、相手には半分以下の意思しか伝わらないって事に成るんだよな。これじゃあ意味がない。そう言う理屈だ」
「なんで、掛け算の数値が同じなんや?」
「そこに関しては、付き合う人間のレベルだな。80%理解してる奴は、80%近く理解してる奴と付き合いを持てる可能性が高い。なら、仮に、その理解力が70%だと、ヤッパリ70%レベルの人間としか付き合えない訳だ。これは統計的に見ても、社会の基準がそう語っているんだから、恐らくはこれで間違っていない筈だ。まぁもっと解り易く言うと、これは、人と人とが出会う確率を上昇させる為に必要な話だな」
コイツ……トコトン狂ってやがる。
どこの世界に、こんな社会の基準を考察する中学生がいるんだよ。
普通の中学生なら、もっと、こう、なんて言うのか無邪気なもんだろ。
ホント、果てしなく可愛げのない奴だ。
まぁまぁ、そうは言ってもな。
俺は、こうなる事を予測出来たから、別にどうでも良いんだが、山中は違う。
崇秀の『理屈祭りに初参加』の山中は、完全に肩を落として、呆然としながらコチラをチラチラ見て、俺に助けを求めている。
だから俺は、心の中でキッチリ『ヤメとけ』忠告したのによぉ。
けど、お前の、この変人に対する気持ちは良く解る。
だから、コンパの件もあるから、今回は助けてやるよ。
心配しなくても、御代は結構だ。
「山中よぉ。気が済んだか?」
「あぁ済んだ……2度と秀とは、この話はせぇへん。もぉこりごりや」
「そうか……よし、なら、もぉ行こうぜ、山中。所詮、一般人の俺達には、天才の言う事なんざ、理解不明なもんさ。……だからオマエは、この理屈馬鹿と、よく戦ったよ」
「おおきにマコ。そやけど……」
「もう何も言うな……さぁ帰ろう」
「そやな……」
こうして俺は、精神的に傷ついた山中に肩を貸し歩き始め。
俺達の長い学校生活は終わっていく。
「ちょ……なんなんだよ、この訳の解らねぇ雰囲気は?俺はなんも納得出来ねぇぞ」
理屈馬鹿の叫びは、俺達の耳には届かない。
はい、第5話はこれにて終了です。
ご清聴ありがとうございました<(_ _)>(笑)
さて、今回のこの第5話なのですが。
私個人としましては【倉津君の日常】を知って欲しくて書いてみたんですね。
……っで、それらをピックアップしますと。
①倉津君は、自分に害をなさない限り、そんなに暴力的ではない。
②でも不良なので、他の生徒からはビビられて、崇秀や山中君以外はほぼ話し掛けてこない。
③少々調子者なので、考え無しに話をしてしまい、悪意は無いのだが喧嘩の元を作ってしまう事がある。
④典型的に学校の先生が嫌い。
まぁ、これらを見て頂ければ解るのですが。
【不良】と言うカテゴリーさえ除けば、何処にでも居る様な普通の中学生なんですよね。
ただ言葉遣いが汚いので、誤解はされ易いのかも知れませんね(笑)
(なのでブッチャケて言えば【崇秀の方が異常】だったりします)
さてさて、そんな倉津君なのですが。
次回第6話では『向井さんをライブに誘いに行く話』に成っています。
ちゃんと誘えるのかは、非常に不安な所ですが。
もしお時間がありましたら、第6話も読みに来て下さると、ありがたいです。
ではでは、これにて後書きはお仕舞。
ま~~~たねぇ~~~(*'ω'*)ノ~バイバイ
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