●前回のおさらい●
何気に出会ったギターリストの嶋田さん。
凄く良い人で、倉津君は、彼の事を気に入って話し込んでいたら。
彼は年齢的にも、このライブが最後のチャンスで、此処でスカウトされなければ音楽を辞めると言う話になる。
それを聞かされた倉津君は、なんとか出来ない物かと考察していた。
嶋田さんが去って、1人に成った俺は再び暇になる。
なので、ぼけ~っとステージを見ているのだが。
俺の周りの演奏が上手過ぎるのか、どのバンドを見ても、あまり見栄えがしない様な気がする。
故に、観客席に居るスカウトマン達の評価は正しいと言えるのではないだろうか。
その他にも『ライブ自体が乱入制』と言う、この特殊なルールも面白いと言えば面白いんだが。
今の俺にとっては、種を明かされたマジックを見る様なものなので、矢張り、インパクトが薄れているだけに、受ける衝撃は少ない。
そんな風な状況なだけに、退屈とまでは言わないが、特にする事が無い。
故に煙草で煙のワッカを作って、連続で天井に飛ばす。
某コナミのモアイみたいだな。
そんな事は、どうでも良いか。
「オイ、そこのボンクラ。なに時化た顔してんだよ。不細工な顔が、百倍不細工になってるぞ」
「あぁ、なんだ馬鹿か」
「馬鹿ねぇ……オマエだけには、死んでも言われたくないセリフだな」
いつものノリなら、此処から崇秀と馬鹿話でもする所なんだが……嶋田さんの年齢の件もあって、俺は少し気分は凹みがち。
矢張り、馬鹿話をする気分じゃない。
「なぁ崇秀よぉ」
「んあ?なんだよ?」
「音楽業界で、夢を追って頑張れる限界って、何歳だ?」
「はぁ?なんだよそれ?また変な事を聞くんだな」
「んで、どうなんだよ?」
「まぁそうだなぁ。敢えて言えば、自分で定めた年齢が限界なんじゃねぇか。自分のやりたい事をダラダラやってても仕方がねぇし。なんでもそうだが、夢って言うなら期限を付けねぇと話に成んねぇからな」
「ハァ、そっかぁ……オマエって、ホントに、そう言う所はドライな奴だよな」
崇秀の言ってる事は正しいのかも知れないが、それを簡単に受け入れられない人間も居る。
それをダラダラと言うのは、ちょっと違う気がする。
実際、この会場に居る奴等を見たら、テクニックや表現力なんてものは団栗の背比べ。
コイツみたいな飛び抜けた存在でもない限り、そんなに変るもんじゃない。
早い話、そんなに実力差が有るとも思えない。
そうなると自然に、運・不運の話になる。
だったら、その機会を待つ事は、決してダラダラでは無いと思う。
俺は、少し嶋田さんの話でセンチになってるらしく、どうにも、今の崇秀の意見を取り入れられないで居る。
「なんだよ?なんかあったのか?」
「いやな。オマエが来るまで、嶋田さんって人と話してたんだがな。どうも年齢的に、音楽を辞め様か、どうしようか悩んでるらしくてな。……なんかな、そう言うの聞いてっとよぉ、厳しい世界なんだなとか思っちまってな」
「不遇の天才ギタリスト嶋田浩輔さんか……確かに、あの人は運がないな」
「なんだよ、知り合いか?」
「あぁ、知り合いだ。あの人はな、高校時分から天才ギタリストの名前を欲しいままにしてた人でな。当時、何所や彼処のバンドから引っ張りダコだったんだがな」
「ほぉほぉ」
「如何せん、彼の入ったバンドは悉く(ことごとく)解散するって不幸にみまわれてな。……まぁ、悪い噂が立ったら関わりたくないのが、この業界の人間だ。嶋田さんも、その例に漏れず【厄介者扱い】されてんだよ。腕が確かなだけに、勿体無い人材ではあるんだがな」
「それってよぉ、嶋田さんのせいで解散するのか?」
「いや、あの人は、あぁ言う性格の人だから、解散の原因にはならない。どちらかと言えば、周りの我儘だな」
オイオイ、なんちゅう酷い話なんだろうか?
周りの我儘でバンドが解散してるんなら、嶋田さん全く悪くねぇじゃねぇかよ。
なんだよ、なんだよ、寄ってたかって虐めか?
気分悪ぃな。
「よぉ、オマエさぁ……」
「先に言っとくが、俺には、なんとも出来ねぇぞ」
崇秀からは、俺が期待していた言葉は出なかった。
しかも奴は、俺の心理を先読みして言葉を被せてきた。
「なんでだよ?可哀想じゃねぇか」
「あのなぁ、オマエの言いたい事も解るが。お互い立場ってもんがあんだよ。俺も自分の立場を、嶋田さん1人の為だけに潰される訳にはいかねぇんだよ……オマエでも、それぐらいはわかんだろが」
「あぁそうかよ。大人のオマエと違って、俺はなんとかしてやりてぇんだがな」
「馬鹿餓鬼か、オマエは?青臭い事をほざいてんじゃねぇぞ。……悪いがな。あの人は、もぅ終わってんだよ」
「テッ、テメェが勝手に決めんな!!」
勝手な事を抜かしてんじゃねぇぞ。
それじゃあテメェも、そこら辺に居る馬鹿と同じじゃねぇか。
情けねぇ野郎だな。
「じゃあ、そこまで言うならオマエが一緒にやってやれよ。……それが出来ねぇんなら、テメェも同じだ」
「あぁ、そうかよ。じゃあ、一緒にやってや……」
「けどオマエ、わかってんだろうな?その言葉を吐くって事は、向井さんや、山中も巻き込むって事なんだぞ。……それでも出来るって言うなら、その言葉を吐いてみろよ。そこまでの責任を取る覚悟は有るんだったらな」
「クッ……」
「諦めろ。……オマエには何も出来無い。それが現実ってもんだ」
俺の我儘だけで、2人を巻き込む訳には行かない。
クソッ!!
「オイオイ、また喧嘩しとんのか。ほんま好きゃなオマエ等」
「おぅ山中、お疲れ。今来たのか?」
崇秀は、今までの話がなにも無かった様に振舞う。
こいつが、此処まで冷たい男だとは思わなかった。
「おぅ、お疲れ。……んで?なにを揉めとんねん?」
「んあ?あぁ、いつものクダラナイ喧嘩だよ」
「なにが、いつもの喧嘩じゃ。マコが、完全に落ち込んどるやないか。オマエ、一体なにしてん?」
「大した事じゃねぇ。ある人の事で揉めてただけだ」
「ある人やと?……まさか、奈緒ちゃんか?それだけは勘弁せぇや」
「違う違う。心配しなくても、人の女に手を出すほど、俺は落ちぶれちゃいネェよ」
「ほんだら誰やねん?」
「不遇の天才ギタリスト嶋田浩輔……名前ぐらい知ってるだろ?」
「バンド潰しの死神・嶋田の事か?」
「テッ、テメェ、嶋田さんの事よく知らねぇクセに『バンド潰し』とか『死神』とか、勝手にほざいてんじゃねぇぞ」
山中の言葉に過敏に反応する。
今日出逢ったばかりの人だが、あんな良い人が、こんな不当な扱いを受けるのはおかしい。
「アホか?どう足掻こうが、それが事実やろがぁ。運が良かろうが、悪かろうが、バンドがポシャッた事実だけは変わらん。あの人が入ったバンドは、悉く、全部ポシャッとる。これは動かぬ証拠や」
「なんだよ、なんだよ。結局、テメェも、この馬鹿と同じ穴の狢かよ」
この言葉を吐いた瞬間、崇秀の目は完全に怒っていた。
「なぁ、倉津よぉ」
「なんだよ、薄情者?」
「オマエさぁ、嶋田さんの何を知ってる訳?さっきから、オマエの話を聞いてたらよぉ。まるで旧知の親友みたいな事を言ってる様に聞こえるんだけどよぉ。あの人が、どれだけの努力を重ねてるとか知ってる訳か?もしそれすらも知らねぇで、そんな知った風な口をきいてんなら、無責任な言葉ばっかり吐くんじゃねぇ。それこそテメェが一番の偽善者だよ」
「ぐっ……」
「それにオマエが『助ける』だの、俺に『助けろ』だのほざいてやがったな……オマエ、何様に成ったつもりなの?」
「・・・・・・」
何も言えねぇ。
コイツの言う通り、完全に感情に流されていた部分は否めない。
ただ1つだけ言いたい事が有る。
嶋田さんの腕がどうこう言う前から、俺は本気で、嶋田さんとバンドをやるつもりでは居たと言う事だ。
勿論、奈緒さんや山中に迷惑を掛けるつもりはねぇ。
なら、俺がバンドから抜ければ済む話だ。
ただ、最後の最後まで決心が付かなかったのも事実。
だから口を閉じざるを得なかった。
「ったくよぉ。お前だけは、ホントどうしょうもないな。言って置くがな『なんとも出来ねぇ』とか『終わってる』って言ったのは、日本での話だ。全てが、どうにもならねぇ訳じゃねぇんだよ」
「はぁ?なんだそりゃあ?一体どういう事だよ」
「あのなぁ、よう考えやマコ。俺は、今の話だけで、内容は全部掴めたで」
「なっ、なんだよ?なに2人で分かり合ってんだよ?」
「良いか、熱血トリ頭?嶋田さんはな、俺のホームページに登録してくれてる大事なお客様だ。俺は、どんな理由が有ろうとも、お客様を粗悪に扱ったりはしない。全員を公平に扱わせて貰う。……これが俺のポリシーだ」
「だったら、なんで『無理』って言ったんだよ?おかしいじゃねぇか」
「あの人をな。日本で扱うにはデメリットが大き過ぎて、今現在の俺の力じゃどうにも出来ねぇんだよ。だから、そう言ったんだよ」
「だからよぉ。だったら、どうするんだよ?」
「秀の考えと、俺の考えが同じやったら、後は本人次第やな」
「正解だ」
なんだよ?なんだよ?なんで話が勝手に進むんだ?
俺だけ、完全に取り残されてないか?
どう言う事?
最後までお付き合いありがとうございました<(_ _)>
倉津君、崇秀や山中君の言ってる意味が、まだ理解できないみたいですね。
メッチャ簡単な理屈なんですけどね(笑)
……って事で次回、答え合わせに成ります♪
気に成ったら、また遊びに来て下さいねぇ~~~(*'ω'*)ノ
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