最後まで奏でられなかった音楽

どこかお間抜けDQNな不良さんのゆったり更生日誌(笑)
殴り書き書店
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169 不良さん、お礼はチョコシュー

公開日時: 2021年7月25日(日) 00:21
更新日時: 2022年11月30日(水) 13:12
文字数:3,648

●前回までのあらすじ●


 追試をなんとかクリアーし、漸く到着したライブハウス。

だがそこは、崇秀により『倉津君達のバンドから一切の文句が出ない』様に、徹底的に作り上げられた会場に成っており。

彼等にとっては『バンドの解散を賭けているだけに【自分達の棺桶】に成り得るぐらいの出来』に成っていた。


そこで倉津君は、崇秀が徹底抗戦を仕掛けて来た事に気付く。


そんな中、倉津君と山中君は、楽屋へと向かって行くのであった。

 楽屋の中に入ると。

当然、俺と、山中を除くメンバーが全員揃っており、各々の作業をしている。


因みに、見渡してみるとだな……


嶋田さんは、小さなアンプにギターを繋ぎ、念入りにギターの音を調整中。


素直は、歌詞を指でなぞりながら、時折、思い出した様に声を出して自己の最終チェック中。

但し、少し緊張してるのか『そわそわ』している。


ただ、そんな中にあって、奈緒さんだけは、あまり良い状態じゃないみたいだ。

昨日、突然の来宅に疲れてしまったのか、少し俯いて、今の所、なにもしていない様子。


それとも、ひょっとして、また以前の様な、イラナイ緊張感が走っているのだろうか?

そんな奈緒さんを見た俺は、少し心配になり、無駄に元気な声で挨拶をする事にした。



「お疲れッス!!」

「あっ、クラ、お疲れ。君、追試どうだったの?……って、あぁ、その様子だと聞くまでもないみたいだね」

「ウッス!!勿論バッチリっす……嶋田さんにも、奈緒さんにも、素直にも、ホント、お世話になったッス!!あざっす!!」

「そっか。それは良かったね、クラ♪」


へっ?


あぁ……なぁ~~~んだ。

奈緒さんが俯いてた理由って、俺の追試の事が心配だったんだな。


それはまた、精神的にご迷惑をお掛けしました<(_ _)>


けど、その分、俺の追試が上手く行った事を確認すると、奈緒さんの一気にテンションが上がった。

この様子から見ても、今の奈緒さんの機嫌は最高に良いみたいだ。


語尾に『♪』が付く程、機嫌が良い。

当然、前回のライブで見せたプレッシャーから来る『欝』状態は一切見当たらない。


俺は、彼女が楽しくライブを出来る事に、心から安心した。



「あっ、あの……山中君は、どうだったんですか?あの、差し支えなかったら、結果を教えて貰って良いですか?あの、その、僕が山中君の勉強を見たから、どうしても不安が拭いきれないんで」


これも、当然の質問だな。

素直は、殆ど専属で山中を見ていたんだから、心配するのは当たり前。


だから俺には、漸く、素直が『そわそわ』していた理由がわかった。


奈緒さんと同じ心境だったのだろう。



「あんまアホな事を言いなや、アリス。そないなガッカリな事を、わざわざ聞くもんやないで」

「……って言う事は」

「大体やなぁ。マコが大丈夫なもん。なんで俺が『アカン』なんて答えが出てくるんや?俺の方は、アリスのお陰で、何教科かはマコに負けたけど、総合点には完全勝利や」

「そっ、そうなんですか♪だったら僕も、少しは、お2人のお役に立てたって事ですよね」

「あぁ、ありがとうな、素直」

「はい♪」


おぉ、素直も語尾に『♪』付だな。


これは、非常に良い傾向だ。


素直は、少し精神的なもので、歌にブレが生じる場合がある。

だが、逆を言えば、自分のテンションが高い時は、凄い実力を発揮する。


こりゃあ、今回のライブは期待大だな。


ウチの歌姫である奈緒さんと、素直の2人が揃って好調だと言う事は、このライブの成功は、ほぼ決定した様なもんだ。



それにしても山中の奴……ホント、手が早いな。

早くも『素直城砦攻略戦』を開始しやがったよ。


まぁその分、奴のヤル気が満ちてるのも十分確認出来る。


これも本気で期待大だな。



さて、そうなるとだ。



「あの、嶋田さん」

「うん?なんだい?」


嶋田さんは、普段通り、冷静にかつ笑顔で受け答えしてくる。


この人の笑顔は、どこかの嫌味なアメリカ留学生とは違い、安心感を齎せてくれる。

それにどんな状況でも嶋田さんは、誰に対しても分け隔てが無いから話し易い。


本当に大人な人だ。



あぁ因みに言っとくが、俺は決して『ホモ』じぇねぇからな。

妄想好きの女性の方々、此処で変な期待は持たない様に。



「あの、テストの件で、昨日は、ご迷惑をお掛けしました。あぁそれと、歌詞の件も、ホント、助かりました」

「あぁ、あれね。役に立ったかい?」

「お陰さまで」

「そう、それは良かった。……けど、あれってね。実は歌詞を作ったのは俺だけど。仮テストを作ったのは、椿なんだよ」

「へっ?つっ、椿さんが作ったんッスか?」

「そう、椿が作ったの。まぁ椿は、普段があんなんだから、疑うかも知れないけど。椿は、あれでもね『現役東大生』なんだよ」

「へっ?」

「それに普段から塾の講師とかもやってるから、テストを作るのが、結構、上手いんだよね」


うぇ!!

あのスットコドッコイな事バッカリを平気でする椿さんが、現役東大生ですと?


いや……あの人って言えば……


①初対面で、俺を謎の『楽器訪問販売員』と間違えたり……

②慌てて、Tシャツにパンツ一丁で玄関口に出てきたり……

③廊下で自分のスカートがズレて、それに躓いてコケたり……

④こけた時、少しも受身も取らずに、デコと鼻を同時に打って鼻血を出したり……

⑤スカートのホックを平気で付け忘れたりする子供みたいな人なのに……


東大に入れる程、そんなに頭が良いのか?


世の中って、不思議な事が一杯有るんだな。


それにしても、何故、こんなに頭の良い人が、俺の周りに集まるんだろうか?

……って言うか、頭良過ぎじゃね?


なんか俺と山中だけ、不良の劣等性で申し訳ないな。


きっと、この人達には『追試』なんて言葉、一生無縁なんだろうな……


虚しいな……


まっ……まぁ、それはさて置き、嶋田さんも、いつも通りな対応だな。

まぁこの人の場合は、どんな精神状態でも演奏にムラが出ないから、最初から問題にはしてなかったんだが。

それでも人間、機嫌が悪いより、良い方が良いに決まっている。


嶋田さんが、この調子なら、また、あの恐ろしい様な演奏が期待出来るな。



……オイオイ、今回マジで、崇秀討伐が出来るんじゃないか?


・・・・・・


いやいや、よく考えろよ俺。

いつも、こうやって、俺を慢心させておいて、最後には美味しい所を、全部持って行くのがアイツのやり方じゃねぇか。


なにを簡単に、勝った気になってんだよ。


大体アイツの事だ。

これ程までに用意周到にステージを作ってるのに、なにも無いんなんて有り得ない。


それに、どこでなにを仕掛けて来るか解ったもんじゃない。


第一会場に来た時から思っていたんだが、どうしても拭いきれない不明瞭な部分が一点だけある。

いつもなら、なにを置いても、直ぐに、この楽屋に押し掛けて来てもおかしくないのに……今回に限って奴は、この会場にすら姿を現していない。


だとすればだ。

どんなにウチのメンバーが調子良くても、安心するのはまだ早い。


きっと、これにはなにかの理由がある筈だ。


故に、最低限度の警戒は、まだするべきだな。



昨日、少し知恵を付けた俺は、1人警戒を怠らない事を心に誓った。


そして同時に、嶋田さんとの会話を再開する。



「そっ、そうなんッスか。じゃあ今度また、椿さんにお礼を兼ねて、嶋田さん家に挨拶に行かせて貰います。あの、嶋田さん、椿さんって、なにか好物とか有るんッスか?」

「あぁ良いよ、良いよ。アイツ、元々そう言うの作るの好きだからさ。多分、本人は、なんとも思ってないから。そんな事は気にしなくて良いよ」


この人達カップルって、ホント、掛け値なしの善人だよな。

何所をどうやったら、そんな献身的で善良な人間になれるんだろうな?


俺にも少しで良いから、その『善行』と『知恵』を授けて欲しいもんだ。



「けど、それじゃあ、俺の気が済まないッス。だから、せめて、なんかお礼位しないと」

「あぁじゃあね。ヒロタのチョコシュークリームでも買って来てやってくれる。あれ……アイツの大好物だから」

「やっ、安ッ!!たっ確かに、ヒロタのシュークリームって美味いッスけど、1箱200~300円位しかしませんよ。そんなんで、本当に良いんッスか?」

「うん、それで良いよ。アイツ、放って置いたらヒロタのチョコシューなら、幾らでも食べるからさ。この間も、俺の知らない所で、1人で黙々と5箱ぐらい食べてたんだよ」


5箱ってアンタ……あの人、ドンだけチョコシュー好きなんだよ?


けど、そうは言ってもな。

残念な事に、椿さんの場合だけは、俺なんかでも、容易に、その現場が想像付くんだよなぁ。


なんか『わ~い』とか言って、嬉しそうな顔をしながら。

パクパクと可愛い音を立てながら、一杯ほお張ってそうなイメージが有るんだよな。


オマケに、口の周りにチョコが付いて、嶋田さんが拭き取ってる姿も容易に想像出来る。


ただ椿さんは、見た目が綺麗な人だけに、ギャップが有って想像し難い部分はあるんだが、多分、この想像で、殆ど間違って無いと思われる。


だって、嶋田さんが拭き終わった後に『浩ちゃん、ありがとぉ~』とか言いそうじゃないか?



「わかりました。じゃあ、5箱ぐらい買って、お邪魔させて貰います」

「うん。きっとアイツ、それが一番喜ぶと思うよ……さて、話は、これ位にして、みんな揃った事だし。そろそろ軽めのリハでもやろうか?」

「うっす」

「ほな、一丁やったりましょか」

「あっ、はい」

「ハァ~~~、ヤッパリ、此処は締まらないんだ……」

「はは……向井さん、そんなもんだよ」


奈緒さんの溜息と、嶋田さんの乾いた笑いを聞きながら、全員でステージに向った。


最後までお読みいただき、誠にありがとうございましたぁ(*'ω'*)ノ


今回は、椿さんにお礼するチョコシューのお話でした(笑)


あんま必要ありませんでしたね。

はい、すみません。


さて、そんな中、次回は。

ライブ前の音合わせについて、ちょっと触れていきたいと思います。


そんなに小難しい話ではありませんので。

また良かったら、遊びに来て下さいねぇ~~~(*'ω'*)ノ

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