第三十二話『ライブ9/14』が始まるよぉ~~~(*'ω'*)ノ
032【ライブ9/14】
コツコツと靴の音を鳴らし、ステージまでの少し長めの向う渡り廊下を歩いて行く。
そして、そこには既にステージ上から流れてくる『あるもの』が渦巻く場所でもあった。
ステージに上がらなくても感じる『期待に満ちた異様な熱気』
何百人もの期待感は、時間と共にドンドン膨れ上がっていき。
今現在居る、この渡り廊下ですら、もぉ息をするのが苦しい程の熱気と、観客から吐き出される二酸化炭素が圧縮されている。
此処にある、なにもかもが飲み込まれてしまいそうな凄いプレッシャーだ。
……だが。
この息苦しさとは逆に、俺のテンションを向上させて行く起爆剤にも成っている。
『早くステージに立たせろ』と俺の心をいきり立たせ、進む歩を少しづつだが早くさせる。
なにもかもが、俺にとっては堪らない感覚。
それのみが、この場所を支配している。
―――凄ぇ良い感じだ!!
だから、今の俺は限界炸裂手前の状態。
一分でも早くステージの上に立ち。
この得も言えぬ二酸化炭素を吐き出す連中に、演奏を聞かせてやりたい。
それで、一曲でも多く曲を演奏をし、崇秀の連れて来たオーディエンスを満足させ、俺達の実力を世間に知らしめたい。
そんな強い欲求にのみ駆られている。
いや、違うな……俺の本心は、全く別の事を考えている。
俺はなにも、そんな小難しい事を考えている訳じゃない様だ。
心の中から湧き出る欲求は、もっと単純でシンプルなものだった。
その辺を大雑把に言ってしまえば、曲を聞いてくれる気持ちさえ有る人間ならば、実際は、誰だって良い。
誰かが、俺達の曲を欲っしてくれるなら、それが例え、どんなクダラナイ奴等でも構わない。
それこそ『犯罪者』だろうが『社会のクズ』と呼ばれる人間でも構わない。
相手が、どんな奴だろうが、今からソイツの元まで行って、目の前で演奏してもやりたい心境だ。
これが恐らく、俺の隠さざる本心だ。
所謂、所構わず演奏だけがしたくて『限界炸裂寸前』なんだろう。
だが……この逸る気持ちだけで、このままステージに上がる訳には、どうしてもいかない様だ。
何故なら、ステージの袖では……奈緒さん・嶋田さん・山中のアホ・素直。
この4人が手を上に重ねて、俺の到着を待っている。
ステージに上がる前の、最後の気合を入れ様としているからだ。
俺は、それに従う様に、無言のまま最後に乗せられた素直の手の上に自分の手を重ねながら、1度、全員の姿を見渡した。
みんな、真剣な良い表情をしている。
このライブに望む気持ちが、素直の手を通してヒシヒシと感じられる様な表情だ。
良い感じに仕上がってる。
「クラ……ほら、君が最後に手を乗せたんだから、掛け声を掛けなよ」
最後に俺が手を置いた瞬間、意外にも奈緒さんは『最後の気合注入』を俺に依頼してきた。
一瞬、俺なんかが、こんな出しゃばった真似をして良いものかとも思ったが。
全員が、この意見に一致しているらしく、各々が俺を見て頷いた。
なら……
「ウッス……じゃあ、僭越ながらイカせて貰うッスよ」
俺は、必要以上に大きく酸素を吸い込んで。
ライブ会場まで聞こえる位の勢いで、大きな掛け声を上げた。
「打倒仲居間崇秀!!滅殺!!」
「「「「「オォ~~~!!」」」」」
今回の掛け声は、いつもの様にバラバラではなく、全員が綺麗に揃った。
初めて、意識の統一が図られた瞬間だ。
まぁ此処まで来て、流石に、こんな失敗は許されないだろう。
そんな掛け声の後、演奏がしたくて堪らない俺は、無茶とは思いつつも、此処での一番槍を、みんなに願い出てみた。
俺の実力じゃあ了承して貰えるかどうかは、かなり微妙な所だが、反対された所で立ち止まる気はない。
ダメって言われても、勝手に突撃する勢いだ。
「んじゃあ俺、ベースなんで、一番最初にステージにイカせて貰っても良いッスかね?勿論、後の順番は、皆さんにお任せしますんで、好きにやって貰って構わないッスから」
気楽に言ってみたんだが、どうだろうか?
みんなは、この無謀な意見を、どんな風に捉えただろうか?
「そうかい……じゃあ、倉津君の好きにしたら良い。先にイッて切り開いておいで」
「ウッス!!お先にイカせて貰うッス」
バンド最年長の嶋田さんが、俺の我儘を了承してくれたので、これがメンバー全員の共通認識だと思い込む事にした。
だが、これで、もう後には引けない。
覚悟を決めたと同時に、照明スタッフに合図を送り。
一旦ステージのライトを、全部、落として貰う事を促した。
指示通り一気に照明が落とされ、ライブハウス全体が、一旦、暗闇に包まれる。
当然、それによって、会場は、ざわめきが起こり始めた。
だが、俺は、直ぐに、ステージには上がる事はしない。
30秒程の間を持って、バンドの出番を待っている観客を焦らす。
効果は未知数だが、有名なライブとかでよく使われる手法だから、こんな短銃な演出でもソコソコの効果は得られるだろう。
さてと……そんじゃあカウントダウンといきますか。
……1。
……2。
おっと、此処で30秒ほど時間が出来たので。
この間に、少し説明しておきたい事が有るので、大まかに説明だけしておこう。
今から奏でるオープニングセレモニーを飾る曲。
1曲目である『Serious stress』(重いストレス)
作詞:向井奈緒/作曲:向井奈緒
……についてだ。
以前、説明したかも知れないが。
この曲は、普通に弾けば、嶋田さんの心理を唄った曲、と言う名目で作られてた曲んだが……俺は、この曲をアレンジしている時に、ある事に気付いたんだ。
実はな、この曲は、聞けば聞く程よく解るんだが……曲自体、他人を表現して出来た物ではなく、全て奈緒さんの本心を現した曲だと理解出来るんだよな。
勿論、この他の奈緒さんの作曲した曲も然りなんだが。
全部が全部、奈緒さんの気持ちを唄った曲なんだよな。
まぁ、俺なんかに言われなくても、賢明な奴なら、よく考えてくれれば解る事なんだが、全ての曲に彼女の意思が入っているんだ。
例えば……
①【Please look at me】(私を見て下さい)
これは奈緒さんが、俺に対しての本心であり。
俺が余所見をせずに、自分だけを見て欲しいと言う欲求がバラードとして込められている。
だが、変な所で恥ずかしくなったのか、素直の曲として発表。
素直の性格を上手く使えば、これは、彼女の曲と言い張る事も可能だからな。
②【Serious stress】(重いストレス)
これも自分に掛かっている、俺に対するストレスを歌にした曲。
彼女は、あまり自分の悩みを口に出すタイプじゃないから、きっと気持ちが行き詰って、こんな曲を書いたのだろうと推測される。
当然、あの時点で、バンドに不満があった嶋田さんの曲に変換は可能だ。
③【Original intention accomplishment】(初志貫徹)
聞いた当初は、山中の曲と言われて納得したが、実際は、これも奈緒さん自身の事。
彼女自身の心のブレを無くす為に、意識的に作られた曲であり、自分を戒める為の曲。
勿論、これも上手く山中をシンクロさせている。
④【Miserable fellow】(情けない奴)
この曲については、他の曲とは、少し勝手が違う。
恐らく【Serious stress】を作った後に、作曲された曲だと推測される。
一瞬でも弱音を吐いた自分を戒めた曲だとも思われる。
順番から言って、自分しか残っていなかったので、自分と言い張っているのだろう。
⑤【Troubling】(四苦八苦)
……まぁこれは偶然に出来た、俺をからかう為のオマケだな。
何度聞いても、遊びの域を超えていない。
っとまぁ、少し強引かもしれないが。
俺は、これ等の曲達から、そんな感覚を受け止めた訳だ。
だから俺は、みんなで作った完成版とは別に、無理をしてでも、それに付随する形のメロディーラインを作ってみる必要があった。
自分の彼女の気持ちを代弁する曲を扱うんだから、これは他の人間のする事ではない。
これは、俺だけに与えられた使命だ。
そんな訳で、曲の更なるアレンジを敢行した訳だ。
序に言えばな。
このライブの一曲目【Serious stress】を選曲したのにも理由は有る。
この曲は、特に、奈緒さんの気持ちが篭っている。
人間のストレスって奴は、本音を出すには一番だからな。
それに、この曲、曲の基本がパンクだから、ベースの低音と相性が良く。
俺が一番アレンジし易かった物だ。
故に、自ずと完成度も高くなる。
最初から、ステージに一番乗りを敢行するつもりだった俺が。
この曲を、ライブ最初の曲にチョイスしたのも、そんな理由があったからだ。
まぁゴチャゴチャと御託を言ったが、結局、なにをしても、オーディエンスの反応が悪い様じゃ、全く意味が無い。
必死にアレンジをしようが何をしようが、なにしようが。
一般客が盛り上がらないのでは、俺の独り善がりな思い過ごしになってしまう。
大切なライブで、こんなギャンブル染みた事をするのは、自分でもどうかと思うが。
俺は、なにを犠牲にしてでも、奈緒さんに、この気持ちを伝える必要性を感じたんだ。
故に、みんなには悪いが、此処だけは、俺の我儘に付き合って貰う。
一番乗りの特権としてな。
……おっと……そろそろカウントも無くなって来たな。
此処からは、余計な事を考えず、曲に思い切り集中しなくちゃな!!
……28。
……29。
……30。
カウントダウン終了!!
よっしゃ!!此処からは、出し惜しみは一切ナシだ!!
初っ端から飛ばして行くぜ!!
最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございましたぁ<(_ _)>
さてさて、倉津君。
なにやらライブハウスの空気を読んだのかして、特攻隊長を買って出たようですが。
一体、何をする気なんですかね?
ライブなどでは、メンバーが順番に入って来ると言う演出をする際に。
決まって最初に入って来るのは、音の基準になるベースかドラムの人の在確率が高いので、倉津君のこの行為はなにも間違ってはいないのですが。
それ以外にも何か企んでるのかもしれませんね(笑)
さてさて、何を仕出かすのやら?
そこはまた次回の講釈。
良かったら、また遊びに来て下さいねぇ~~~(*'ω'*)ノ
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