●前回のおさらい●
ライブの説明を終えた崇秀は。
宣言通り、奈緒さんのベースの腕前を確認するためにステージに上げる。
そしてそこで、突発メンバーとして、ドラマーの山中君と、やっさんと言うボーカルを得。
メタリカの『ONE』の演奏を始めようとしていた。
『ボン!!ボン!!ボン!!ボン!!ボン!!ボン!!……』
唐突にライブハウスに鳴り響く、そんな爆撃音。
なんだ、この爆発音わ?
誰も楽器を弾いてないのに、突然会場内に爆弾の音がするぞ。
つぅか、なにかの演出なのか、これは?
あぁまぁ、確かに『One』の最初は、こう言う始まり方をするけど。
まさか、奈緒さんの実力計る為だけに、そこまでするのか、あの馬鹿わ?
♪~~~~~~~
まぁ兎にも角にも、そんな無駄とも思える演出の後、漸く音が流れ始めた。
だが、そう思ったのは、最初一瞬だけだった。
イントロ部分から崇秀のギターの音だけが、他とは常軌を逸していた。
確かに、山中のドラムは上手い。
勿論、奈緒さんのベースも上手いんだが、あの馬鹿の音だけは、他のものとは、根本的な部分からして何かが違う。
ギターの音色からは『One』特有の思想的側面が見え隠れしている。
奴の音からは、なにがそうさせるのか知らないが、メタリカのPVで見た『ジョニーは戦場に行った』の映像が思い出させる。
まるで、ジョー・ボナムが407号と呼ばる様に成ってからの絶望を、耳元で語り掛けて来るような感じすら受ける。
なんなんだ、コイツのギターは……そして、この湧き上がる恐怖感にも似た感覚は、なんなんだろうか?
俺は、この時点で、他の音を聞いていない。
いや、聞こえてすらいない。
そう思ってる間に、約8分が経過し、曲は終わっていく……
「うん、良い。ヤッパ、向井さんは、何をやらせても上手いな。……良い感覚してる」
「はぁ……はぁ……」
「うん?向井さん、どったん?」
「あっ……あの、はぁ…はぁ…仲居間さん、ありがとうございます」
「うん?……つぅか、山中も思ってた以上に上手いな。流石、元バンドマンだよな」
「おっ……おおきに」
「うん?……なぁ、やっさん。ヤッパ、メタリカと言えば、やっさんだよな。最高だな」
「おっ、おぉ、そうか……」
「うん?」
これが崇秀が弾くって宣言した時に、此処に居る全員が全員嫌がって静まり返った理由か。
どうやらこの様子からして、そう感じているのは俺だけではなく。
コイツの弾くギターは、曲そのものの意味を、音に乗せて直接脳に叩き込んでくるのが、良く解った。
その音はまるで、その場所に居たかの様な錯覚さえ起こさせる。
それ故に、この曲『One』の様な物なら最悪だ。
曲に対してのPVが存在し。
そのPVを見た事が在る者ならば、必ずしも『ジョニーは戦場に行った』を思い出してしまう。
あのジョー・ボナムの無惨な心境が、自分の脳裏に浮かんでしまうんだから。
客ならまだしも、奴の近くで演奏しているプレイヤーなら、尚更かなりハードな物になってしまうのだろう。
コイツは、俺が思っていた以上に本物の化物だ。
これだけのテクが有って、あまりバンドに所属出来無かった理由は、恐らく、そこに有るんだろう。
しかしまぁ、表現力が桁違い過ぎて、誰ともバンドが組めないなんて悲劇を通り越して喜劇だな。
ある意味、可哀想な奴だが。
多分、奴は、それを自覚して、こんな企画を始めたのかもしれないな。
「はい、じゃあ、俺のお遊びは、コレぐらいで御仕舞い。……ちょっくら休憩してくるから、後ヨロ」
それだけ言い残して、奴はギターを持ったまま外に出て行った。
そしてこの後、奴の指示通り、スタッフが手際良くオーディションを開始する。
その間に俺は、ステージ上に残されたメンバーを下に降りるのを手伝って、少し休める様にテーブルのある椅子に誘導し、飲み物を手渡していった。
「だっ、大丈夫ッスか、奈緒さん?」
「うっ、うん……大丈夫。……でも、ごめん。今はまだ、あまり喋れそうにないから、もぉちょっとだけ休ませて……心配掛けてごめんね、クラ」
崇秀との共演を、たった一曲しただけで奈緒さんはダウン。
完全にグロッキーな状態に成っちまってる。
「あぁ良いッス、良いッス……ってか、オッサンも大丈夫か?」
「あぁ、俺はまだ平気な方だ……けど、ちょっと向こうで休憩してくる。久しぶりの仲居間さんのギターは堪える。俺も、もう年だな」
そう言って、オッサンはフラフラと壁際まで行って、その場にへたり込んだ。
あんなに疲弊するほど、オッサンには、一体なにが見えたんだろうか?
想像しただけでも、恐ろしい。
「山中」
「あぁ心配すな、俺は、なんとか無事やで」
「オイオイ、本当に大丈夫なのかよ?」
「あぁ、心配すな。大丈夫や。……そやけど、あれ、なんやねん?人が弾くギターの音色やなかったで」
「オマエも感じたのか?」
「あぁ、感じた。アイツの近くで演奏しとったから余計にキツかった。まるでジョーや。あのPVの映像みたいに、爆弾で手足捥がれて、それでもドラム叩いてる気分やったわ。お陰で途中から、なにをやってのか、全くわかれへん様になったわ」
「だろうな」
「マコ……秀のギターは普通やないで、これだけは断言出来る」
あの音から山中は、そこまで酷い状態を脳裏に叩き込まれたらしい。
言葉で聞けば単純だが。
山中の言葉には、間近で体感した者にしか解らない恐怖感すら感じさせられる。
あんな凶悪な音、殆ど『音楽で人は殺せますか?』の世界だからな。
「あぁ、残念だが、アイツの桁外れな実力は認めざるを得ないな。……正直言えば、俺には、奈緒さんのベースの音も、山中のドラムの音も、オッサンの声も聞こえてなかったからな」
「そやろな。そやけど、ホンマなんなんやろうな……アイツの音?」
「わからん」
ってか、俺に解る訳ねぇだろ。
「あぁそやそや、マコ。ちょっと、アイツんとこ行って来たれや。あの調子やったら、かなり凹んどる筈やで」
「そうだなぁ。多分、アイツは、これを繰り返してそうだからな」
それだけ言い残して、俺は馬鹿の後を追った。
その悲劇の天才の元に。
はい、第九話は、これにて終了でございますです。
皆様、お付き合いして下さり、誠にありがとうございました<(_ _)>
さてさて、第九話の前半は山中君をネタにして、比較的和気藹々(?)として雰囲気が続いていたのですが。
後半に成って、とうとう、この物語で一番の危険人物(崇秀)が動き始めて来ましたね(笑)
圧倒的な音楽の才能をもって『音を使って、頭に映像を叩き込む』と言う離れ業を駆使して。
ただこれ……実は全く不可能と言う訳ではないんですね。
此処では詳しくは説明をしませんが。
その理論や理屈については、後々語っていきたいと思います(*'ω'*)ノ
……っと、そんな訳で次回からは第十話が始まります。
演奏後、言葉を残しただけで、外に出て言った崇秀は、一体、どんな心境でいるのでしょうか?
そして倉津君は、そんな彼を見て、どういう反応をするのか?
それは次回の講釈。
また遊びに来て下さいねぇ~~~(*'ω'*)ノ
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