●前回のおさらい●
路上で無駄なまでに全力ライブをやって、逃げ去った崇秀。
その姿を呆気に取られて見ていた倉津君でしたが。
そこに奈緒さんと山名君がやって来て『なんで、仲居間さんが、そんな凄いライブをやってるなら呼んでくれなかったの?』と、ぶぅぶぅ文句を言われた上に、その場に置き去りにされてしまう倉津君。
さて、この後、倉津君は……
そんな事が有りながらもライブ・ハウスに戻った。
……のは良いんだが。
今回の1件、山中は馬鹿だから放って置いても大丈夫としても、問題は奈緒さんの方だ。
だって、時間が経っても、奈緒さんの機嫌が一向に治る気配が無いんだもんよ。
いや、寧ろ、外に居た時より酷くなっている。
さっきも……
「なんか喉渇いたなぁ」
とか、不機嫌そうに言うもんだから。
急いでカウンターに飲み物を取りに行って来て、彼女の目の前に置いたら……
「頼んでない。……ってか、飲みたいの、これじゃないし」
とか、言うんだよ。
けど、折角、持って来たものを、返しに行く訳にも行かないから、一応、こんな風に薦めてみたんだけどな。
「あぁ、奈緒さん、なんか喉が渇いてたみたいだから、俺が勝手に持って来ただけですから、良かったら飲んで下さい」
「……ありがと」
って、間は有ったにせよ。
一応は笑顔で、そう返してくれたんだけど……
この後。
「シラナイヒト」
って、突然、無表情になった上に。
まるで本当に知らない人を相手にするみたいな喋り方で、意地の悪い事を平気とした顔で言ってくるんだよ。
流石にイラッと来たんで、怒ろうとしたんだが……
これがまた相手が奈緒さんだから、俺としては惚れた弱みで奈緒さんには強く言えない訳だ。
しかも彼女は、それを知ってか知らずか。
その俺が怒りそうな素振りにさえ。
俺の持って来たジュースにストローを差込『ぶくぶく』をしながら、無表情で『なにか用?』みたいな感じで睨むんだよな。
もぉ、こんなもん、どうすりゃ良いんだよ?
あぁ因みにだが、山中は、どこで手に入れたのかは知らないがピザを喰いながら、ズッと横で俺達2人を静観してる。
つぅか、静観してねぇで、少しは助けろやボケ!!
んで、救世主が現れないまま今現在に至り、無駄に時間だけが過ぎて行っている状況だ。
後ろのオーディションの音が、虚しく俺に聞こえてくる。
「オイオイ、こんな所でタムロって、なにやってんだ、オマエ等?まさか、ライブ・ハウスで葬式の真似事か?」
「あっ、違いますよ仲居間さん。知らない人が同席してたもんで、ちょっと静かにしてただけです」
「んあ?知らない人って、誰の事?」
「あっ、この人です」
満面の笑みで、キッチリ俺を指差してる。
もぉ反省しますから、そう言うのは辞めて下さいよぉ。
許して下さいよぉ。
若しくは崇秀……なんとかして助けてくれ。
「!!」
この反応、まさか俺の意思が伝わったのか?
俺を一瞬見た後、崇秀はニヤッと、あの例の不敵な笑みを浮かべる。
けど、崇秀に、俺の意思が完全に伝わったと思った筈なのに、この笑顔には嫌な予感しかしないのは何故だ?
「あぁ、この人だったら、俺、知ってるよ」
あれ?
なにか余計な事を言うだけなのかと思ったら、意外と、まともな方向で話してくれるんだな。
悪ぃな、メロス。
俺は、君を少し誤解してしまっていたらしい。
本当にスマンな、メロスよ。
「そう……なんですか?」
「あぁ、コイツは、倉津真琴って言ってね。向井さんって言う女の子が大好きで仕方が無い。……向井さんって子の飼い犬だ」
「えっ?えぇえぇぇぇええぇ~~~っ、違ッ、違います」
「ブッ!!」
フォローしてくれてるつもりなのかは知らんがな。
言うに事欠いて、なんちゅう事を言うんだオマエは!!
思わず飲んでいたコーラを、全部噴出しちまったじゃねぇかよ!!
「あれ?違ったか、山中?これって俺の認識不足か?」
「ひや(いや)ほほほんへ(おおとんで)はんへんひゃ、ひふひゃひゃ(完全な犬やな)」
ピザを目一杯口に入れながら喋るんじゃない。
食べ物を食べながら喋ったらダメだって、親に言われなかったか?
馬鹿者が!!
まぁしかし、山中の野郎。
面白さに負けて、奈緒さんをアッサリ裏切りやがったよ。
流石、生粋の関西人だな、笑いには貪欲だ。
「ほら、山中も、そう言ってるよ」
「だから、違ッ……」
「まぁなにが有ったかは知らないけど、もぅ許してやっても良いんじゃないかな?……ほら、向井さんの事が大好きな犬が哀願してるよ」
悪戯な笑顔を奈緒さんに向ける。
コイツの軟派の手口だ。
本来なら、こんな行為を奈緒さんにする事自体キレるところなんだが。
俺は今、何も出来無い状況だから、今は大人しく、コイツの取る行動を見守ろう。
それが今は得策ってもんだ。
……にしても、俺は、いつまで犬扱いなんだ?
「仲居間さん……意地悪です」
「そぉかなぁ?俺は仲が悪いより、仲良い方が好きなだけだけどなぁ。それに、こんな雰囲気を続けててもツマンナイだけだしね。……それでもまだ、向井さんは怒り続けるの?」
「もぉ良いです。怒ってません」
いやそれ、言葉とは裏腹に、どうみても怒ってますよ。
「OKOK。じゃあ、仲直りで良いかな?」
「……はい」
納得出来無い様子だ。
でもまぁ、崇秀の口に掛かれば、こんなもんなんだろうな。
「本当に仲直りしたって、約束出来る?」
「します」
「じゃあ、仲直りの印に、その犬の喉を撫でてやってよ。……向井さんが『良い子、良い子』してあげたら喜ぶから」
「えっ!!そんなの無……」
「あれあれぇ、おかしいなぁ?さっき確か、向井さんは犬と仲直りするって約束した筈なんだけどなぁ?……あぁ、あれって、ひょっとして嘘だったのかなぁ~~~?俺、上手く騙されたんだなぁ」
「えっ?ちょ!!だって、そんなの仲直りとは関……」
「まぁ騙すより、騙された方がマッシか。その方が相手を傷付けないしな」
あぁこれは、コイツの得意なやり方の1つだ。
相手に、絶対イニシアチィブを取らせない方向で話を進めた上で、自分は相手に騙されたっと言う悲劇を気取る。
そうなれば、言われた相手はムキになって。
気付けば済崩しに、相手の条件を呑んでしまうしかないパターンだな。
イヤイヤ、相変わらず怖い男だな。
……って、ちょっと待て!!
静観していたのは良いが、実は、大変な事になってる事に、今気付いたぞ!!
つぅか、冷静に成って考えてみたら『喉を撫でる』って、なんだよ?
奈緒さん!!今更なんですが、悪魔の罠に嵌ったらダメです!!
俺、奈緒さんに、そんな事されたら、この場で死んじゃいますよ!!
ダメだぁ、奈緒さ~~~ん!!
「……やりますよ……やれば良いんですよね」
……終わった。
ハイ、俺、終了。
「そうだね」
「仲居間さんは、やっぱり、意地悪だ」
「そぅかぁ?……ほら、そんな事より、犬が、おあずけ喰らって悲しそうな顔をして待ってるよ」
「テメッ!!崇秀!!」
「オマエは黙れな。犬が『ワン』以外喋るな」
オイオイ、俺の意見は、全て却下か?
少しぐらいなら、反論の余地が有っても良いんじゃないか?
『『ワン』以外喋るな』は、幾らなんでもヒド過ぎるぞ。
「でも……本当にするんですか?」
「別に良いよ、しなくても……」
「意地悪」
恥ずかしいんだろうな。
ムキになった奈緒さんの手は、俺の喉に近付いて来てはいるが、可哀想にプルプル震えてる。
しかも恥ずかしさのあまり、少し涙目になりながら、神妙な面持ちで、俺をじっと見ている。
……助けよう。
俺に少し意地悪をしたからって、これは、あまりにも奈緒さんが可哀想過ぎる。
「馬鹿秀、テメェ!!やっ……」
「クラ……動かないで、私、約束を破るの嫌だ」
「奈緒さん……」
そう言ってる内に。
奈緒さんの艶かしい指が、俺の顎に近付いてくる。
俺は、それを直視出来ずに、思い切り目を閉じた。
この時点で俺は、全開勃起野郎。
今トイレに行ったら、2時間は帰って来ないに自信がある。
そんな風に思った瞬間、指が顎に触れ、体がビクッとなった。
「良い子……良い子……」
いや、それは口に出して言わなくても……
「なぁ、倉津よぉ……事情は知らねぇが、オマエも、向井さんになんか言う事あんじゃねぇの?」
「奈緒さん、さっきはゴメン……」
「ううん、私も……意地悪してゴメンね」
なんか一変して、良い雰囲気だな。
「ハイハイ、もぉ終了や、終了!!そんなラブコメ、いつまでも見てられへんちゅう~ねん。勘弁してくれ……アホ臭い」
2人のラブコメに嫌気がさして。
この場を制止させた山中の声に、2人して同時に反応。
恥ずかしさのあまり、顔を真っ赤にしたまま俯いてしまう。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「公衆の面前で、鼻の曲がる様な臭いラブコメした罰じゃ。そこで2人して、恥ずかしい思いしながら反省しとけ」
「プッ!!オマエって、何気に酷いな」
「アホっかぁ!!この茶番が終わるまで待ってたっただけでも、神の所業じゃ。存外に感謝して欲しいぐらいやわ」
「ククク……まぁ、そうだな。そうなのかもな」
オマエ等なぁ……
つぅかオマエ。
待ってたも何も、横でピザ喰ってただけじゃねぇかよ!!
「あぁそやそや、このこっぱずかしい馬鹿カップルとは、全然関係ない話やねんけど。秀に、ちょっとした頼みがあんねん」
無惨にも俺達は放置されたまま、山中は違う話を始める様だ。
でも、奈緒さんには悪いけど。
もぉちょっと、この余韻に浸っていたかったから、これはこれでOKだな。
俺達2人は放置してくれてて構わんぞ。
けど、ほんとゴメンな、奈緒さん……こんな俺で。
最後までお付き合いありがとうございました<(_ _)>
『犬扱いされて』漸く、奈緒さんの不機嫌状態から脱出した倉津君(笑)
しかし、その代償は大きく。
山中君から『いつまでも、くっさいラブコメ見せてるちゃうぞ』と言う、ありがたくもない言葉を頂戴する。
そして山中君は、そんな2人を放置して、なにやら崇秀に話があるみたいですね。
その話とは一体何でしょう?
それは次回の講釈です(笑)
また、遊びに来て下さいねぇ~~~(*'ω'*)ノ
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