最後まで奏でられなかった音楽

どこかお間抜けDQNな不良さんのゆったり更生日誌(笑)
殴り書き書店
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053 不良さん 仲介人の登場を待つ

公開日時: 2021年3月30日(火) 22:41
更新日時: 2023年9月2日(土) 12:54
文字数:3,659

●前回のおさらい●


 路上で無駄なまでに全力ライブをやって、逃げ去った崇秀。


その姿を呆気に取られて見ていた倉津君でしたが。

そこに奈緒さんと山名君がやって来て『なんで、仲居間さんが、そんな凄いライブをやってるなら呼んでくれなかったの?』と、ぶぅぶぅ文句を言われた上に、その場に置き去りにされてしまう倉津君。


さて、この後、倉津君は……

 そんな事が有りながらもライブ・ハウスに戻った。

……のは良いんだが。

今回の1件、山中は馬鹿だから放って置いても大丈夫としても、問題は奈緒さんの方だ。


だって、時間が経っても、奈緒さんの機嫌が一向に治る気配が無いんだもんよ。

いや、寧ろ、外に居た時より酷くなっている。


さっきも……



「なんか喉渇いたなぁ」


とか、不機嫌そうに言うもんだから。

急いでカウンターに飲み物を取りに行って来て、彼女の目の前に置いたら……



「頼んでない。……ってか、飲みたいの、これじゃないし」


とか、言うんだよ。


けど、折角、持って来たものを、返しに行く訳にも行かないから、一応、こんな風に薦めてみたんだけどな。



「あぁ、奈緒さん、なんか喉が渇いてたみたいだから、俺が勝手に持って来ただけですから、良かったら飲んで下さい」

「……ありがと」


って、間は有ったにせよ。

一応は笑顔で、そう返してくれたんだけど……


この後。



「シラナイヒト」


って、突然、無表情になった上に。

まるで本当に知らない人を相手にするみたいな喋り方で、意地の悪い事を平気とした顔で言ってくるんだよ。


流石にイラッと来たんで、怒ろうとしたんだが……

これがまた相手が奈緒さんだから、俺としては惚れた弱みで奈緒さんには強く言えない訳だ。


しかも彼女は、それを知ってか知らずか。

その俺が怒りそうな素振りにさえ。

俺の持って来たジュースにストローを差込『ぶくぶく』をしながら、無表情で『なにか用?』みたいな感じで睨むんだよな。


もぉ、こんなもん、どうすりゃ良いんだよ?


あぁ因みにだが、山中は、どこで手に入れたのかは知らないがピザを喰いながら、ズッと横で俺達2人を静観してる。

つぅか、静観してねぇで、少しは助けろやボケ!!


んで、救世主が現れないまま今現在に至り、無駄に時間だけが過ぎて行っている状況だ。


後ろのオーディションの音が、虚しく俺に聞こえてくる。



「オイオイ、こんな所でタムロって、なにやってんだ、オマエ等?まさか、ライブ・ハウスで葬式の真似事か?」

「あっ、違いますよ仲居間さん。知らない人が同席してたもんで、ちょっと静かにしてただけです」

「んあ?知らない人って、誰の事?」

「あっ、この人です」


満面の笑みで、キッチリ俺を指差してる。


もぉ反省しますから、そう言うのは辞めて下さいよぉ。

許して下さいよぉ。


若しくは崇秀……なんとかして助けてくれ。



「!!」


この反応、まさか俺の意思が伝わったのか?

俺を一瞬見た後、崇秀はニヤッと、あの例の不敵な笑みを浮かべる。


けど、崇秀に、俺の意思が完全に伝わったと思った筈なのに、この笑顔には嫌な予感しかしないのは何故だ?



「あぁ、この人だったら、俺、知ってるよ」


あれ?

なにか余計な事を言うだけなのかと思ったら、意外と、まともな方向で話してくれるんだな。


悪ぃな、メロス。

俺は、君を少し誤解してしまっていたらしい。


本当にスマンな、メロスよ。



「そう……なんですか?」

「あぁ、コイツは、倉津真琴って言ってね。向井さんって言う女の子が大好きで仕方が無い。……向井さんって子の飼い犬だ」

「えっ?えぇえぇぇぇええぇ~~~っ、違ッ、違います」

「ブッ!!」


フォローしてくれてるつもりなのかは知らんがな。

言うに事欠いて、なんちゅう事を言うんだオマエは!!


思わず飲んでいたコーラを、全部噴出しちまったじゃねぇかよ!!



「あれ?違ったか、山中?これって俺の認識不足か?」

「ひや(いや)ほほほんへ(おおとんで)はんへんひゃ、ひふひゃひゃ(完全な犬やな)」


ピザを目一杯口に入れながら喋るんじゃない。

食べ物を食べながら喋ったらダメだって、親に言われなかったか?


馬鹿者が!!


まぁしかし、山中の野郎。

面白さに負けて、奈緒さんをアッサリ裏切りやがったよ。


流石、生粋の関西人だな、笑いには貪欲だ。



「ほら、山中も、そう言ってるよ」

「だから、違ッ……」

「まぁなにが有ったかは知らないけど、もぅ許してやっても良いんじゃないかな?……ほら、向井さんの事が大好きな犬が哀願してるよ」


悪戯な笑顔を奈緒さんに向ける。


コイツの軟派の手口だ。


本来なら、こんな行為を奈緒さんにする事自体キレるところなんだが。

俺は今、何も出来無い状況だから、今は大人しく、コイツの取る行動を見守ろう。


それが今は得策ってもんだ。


……にしても、俺は、いつまで犬扱いなんだ?



「仲居間さん……意地悪です」

「そぉかなぁ?俺は仲が悪いより、仲良い方が好きなだけだけどなぁ。それに、こんな雰囲気を続けててもツマンナイだけだしね。……それでもまだ、向井さんは怒り続けるの?」

「もぉ良いです。怒ってません」


いやそれ、言葉とは裏腹に、どうみても怒ってますよ。



「OKOK。じゃあ、仲直りで良いかな?」

「……はい」


納得出来無い様子だ。


でもまぁ、崇秀の口に掛かれば、こんなもんなんだろうな。



「本当に仲直りしたって、約束出来る?」

「します」

「じゃあ、仲直りの印に、その犬の喉を撫でてやってよ。……向井さんが『良い子、良い子』してあげたら喜ぶから」

「えっ!!そんなの無……」

「あれあれぇ、おかしいなぁ?さっき確か、向井さんは犬と仲直りするって約束した筈なんだけどなぁ?……あぁ、あれって、ひょっとして嘘だったのかなぁ~~~?俺、上手く騙されたんだなぁ」

「えっ?ちょ!!だって、そんなの仲直りとは関……」

「まぁ騙すより、騙された方がマッシか。その方が相手を傷付けないしな」


あぁこれは、コイツの得意なやり方の1つだ。


相手に、絶対イニシアチィブを取らせない方向で話を進めた上で、自分は相手に騙されたっと言う悲劇を気取る。


そうなれば、言われた相手はムキになって。

気付けば済崩しに、相手の条件を呑んでしまうしかないパターンだな。


イヤイヤ、相変わらず怖い男だな。


……って、ちょっと待て!!

静観していたのは良いが、実は、大変な事になってる事に、今気付いたぞ!!


つぅか、冷静に成って考えてみたら『喉を撫でる』って、なんだよ?


奈緒さん!!今更なんですが、悪魔の罠に嵌ったらダメです!!

俺、奈緒さんに、そんな事されたら、この場で死んじゃいますよ!!


ダメだぁ、奈緒さ~~~ん!!



「……やりますよ……やれば良いんですよね」


……終わった。


ハイ、俺、終了。



「そうだね」

「仲居間さんは、やっぱり、意地悪だ」

「そぅかぁ?……ほら、そんな事より、犬が、おあずけ喰らって悲しそうな顔をして待ってるよ」

「テメッ!!崇秀!!」

「オマエは黙れな。犬が『ワン』以外喋るな」


オイオイ、俺の意見は、全て却下か?

少しぐらいなら、反論の余地が有っても良いんじゃないか?


『『ワン』以外喋るな』は、幾らなんでもヒド過ぎるぞ。



「でも……本当にするんですか?」

「別に良いよ、しなくても……」

「意地悪」


恥ずかしいんだろうな。


ムキになった奈緒さんの手は、俺の喉に近付いて来てはいるが、可哀想にプルプル震えてる。

しかも恥ずかしさのあまり、少し涙目になりながら、神妙な面持ちで、俺をじっと見ている。


……助けよう。

俺に少し意地悪をしたからって、これは、あまりにも奈緒さんが可哀想過ぎる。



「馬鹿秀、テメェ!!やっ……」

「クラ……動かないで、私、約束を破るの嫌だ」

「奈緒さん……」


そう言ってる内に。

奈緒さんの艶かしい指が、俺の顎に近付いてくる。


俺は、それを直視出来ずに、思い切り目を閉じた。


この時点で俺は、全開勃起野郎。

今トイレに行ったら、2時間は帰って来ないに自信がある。


そんな風に思った瞬間、指が顎に触れ、体がビクッとなった。



「良い子……良い子……」


いや、それは口に出して言わなくても……



「なぁ、倉津よぉ……事情は知らねぇが、オマエも、向井さんになんか言う事あんじゃねぇの?」

「奈緒さん、さっきはゴメン……」

「ううん、私も……意地悪してゴメンね」


なんか一変して、良い雰囲気だな。



「ハイハイ、もぉ終了や、終了!!そんなラブコメ、いつまでも見てられへんちゅう~ねん。勘弁してくれ……アホ臭い」


2人のラブコメに嫌気がさして。

この場を制止させた山中の声に、2人して同時に反応。


恥ずかしさのあまり、顔を真っ赤にしたまま俯いてしまう。



「・・・・・・」

「・・・・・・」

「公衆の面前で、鼻の曲がる様な臭いラブコメした罰じゃ。そこで2人して、恥ずかしい思いしながら反省しとけ」

「プッ!!オマエって、何気に酷いな」

「アホっかぁ!!この茶番が終わるまで待ってたっただけでも、神の所業じゃ。存外に感謝して欲しいぐらいやわ」

「ククク……まぁ、そうだな。そうなのかもな」


オマエ等なぁ……


つぅかオマエ。

待ってたも何も、横でピザ喰ってただけじゃねぇかよ!!



「あぁそやそや、このこっぱずかしい馬鹿カップルとは、全然関係ない話やねんけど。秀に、ちょっとした頼みがあんねん」


無惨にも俺達は放置されたまま、山中は違う話を始める様だ。


でも、奈緒さんには悪いけど。

もぉちょっと、この余韻に浸っていたかったから、これはこれでOKだな。


俺達2人は放置してくれてて構わんぞ。



けど、ほんとゴメンな、奈緒さん……こんな俺で。


最後までお付き合いありがとうございました<(_ _)>


『犬扱いされて』漸く、奈緒さんの不機嫌状態から脱出した倉津君(笑)

しかし、その代償は大きく。

山中君から『いつまでも、くっさいラブコメ見せてるちゃうぞ』と言う、ありがたくもない言葉を頂戴する。


そして山中君は、そんな2人を放置して、なにやら崇秀に話があるみたいですね。


その話とは一体何でしょう?


それは次回の講釈です(笑)

また、遊びに来て下さいねぇ~~~(*'ω'*)ノ

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