●前回のおさらい●
奈緒と2人で、新しいベースを買いに来た不良さん。
ただ、どれが、どう良いのかが解らないので、最終的には『インスピレーションで選んでみたら』と奈緒に言われ。
そのインスピレーションに従って選んだ結果は!!
(あぁそぉそぉ、今回はベースの性能についての説明が多いので、解り難かったら飛ばしてくださいね(笑))
「奈緒さん、これとか……なんか良くないッスか?」
「んっ?どれ?」
そう言った俺の言葉に反応して。
身長が低い奈緒さんが、俺の脇ぐらいからヒョコッと顔を出す。
うん……非常に可愛らしいな。
このまま、実家に持って帰ろうかなぁ。
「これッス」
「ふむ、Fenderかぁ。クラって、結構メジャー思考なんだね」
「いや、そう言うんじゃなくて、なんとなく選んだだけなんッスけど……Fenderって、そんなにメジャーなんッスか?」
「うん。メジャーだね。創立が1945年ぐらいで、創業者はレオ・フェンダー。アメリカでも、ギブソンと並ぶぐらいのメジャーな会社なんだよ。本社がアリゾナ州スコッツデール。製造拠点は、えぇっと、確か、カルフォルニア州のコロナだったかな」
オイオイ、なんかスゲェ薀蓄だな。
ギターとか、ベース弾く奴って、こんな事も覚えなきゃダメなのか?
もしそうなら、こりゃあ、楽器の演奏者ってのも大変もんだな。
「あの、それで、これは……」
「んっ?あぁこれ?……これはね。Fender USA American Deluxe Jazz Bassの、今年のモデルだね……うんうん。けど、これなら良いと思うよ。クラのイメージにも合ってるしね」
「そうッスか?」
「うん。まぁただ、これ、ちょっと難しいベースだよ」
「なんでッスか?ベースって、全部弾き方が同じじゃないんッスか?」
「うん、基本的には全部同じだね。ただ、このベースは、ちょっと特殊でね。ベースを弾きなれた人だったら、特に問題はないんだけど」
「はっ、はい」
「……これね。『Fletless』って言ってね。フレットを見れば解ると思うんだけど、何か足りなくない?」
足りないもの?
なんだ?
これって、所謂、不良品ってやつなのか?
いや、店で売られている以上、んな訳ねぇわな。
だったら、何が違うんだ?
・・・・・・
あっ……あぁ、そう言えば、アレがないな。
「あぁ、そう言えば、フレットに付いてる、あの点みたいな奴が無いッスね……それって、なんか問題あるんッスか?」
「あぁっと、ポジション・マークじゃなくて」
うん?それじゃないのか?
だとしたら、後は別に、変わったとこなんてないぞ?
なんだ?
「良く見て。……このベース。ポジション・マーク以前の問題として、フレット自体がないでしょ」
「あっ……」
「これがね。フレットレスの特徴なんだけど。元来フレットレスベースって言うのは、フレットが無いと言う意味のエレクトリックベース。即ち、フレッテッドベースから派生したベースギターの事なのよ。まぁ、フレットが無い事以外は、特に構造上で変わったところは無いんだけど。元来有ったフレットを、抜いて生み出された経緯があるため、このベースみたいに、最初からフレットレスとして作られた楽器にも、フレットに該当するラインが付けられていることが多いのね。ベースギターの前身のコントラバスも、更に、その前身のヴィオラ・ダ・ガンバから考えれば、フレットレスと言えるけど。この場合には、基本的に無関係だね」
「じゃあ、大した問題は無いって事ッスか?」
「うぅん。問題有り有り。フレットレスはね。音を均質化するフレットが無い為に、左右の指の使い方で、多様な音色を弾き分けられるんだけど。金属のフレットが無い関係上、音色や、奏法を工夫しないと音の立ち上がりが弱く、特にロックでは、バラードを除いては、あまり使用されない傾向にあるのよ。まぁ70年代後半あたりから多く使用される様になってはいるんだけど。ジャコ・パストリアスがフレットを抜き、その跡に船舶用のエポキシ樹脂を詰め込んで、塗り改造したフェンダー社のジャズベースを用いて技術を確立した……まぁ、経緯は別として、実物で言うなら、これって事だね。それで、さっきも言ったんだけど、演奏の仕方が問題なのよ。慣れれば、寧ろ、色々な音を作れるから、良いベースに成り得るんだけど。演奏はフィンガー・ピッキングが基本だし、音程の変化が出易いからビブラート奏法が多用される。また弦に干渉するフレットが無いので、ハーモニクスを発生後にスライドさせるたりもしないといけない。まぁ総称的に言えば、そう言った理由から、初心者が弾くには難しいベースって事だね」
訳わかんねぇ?
恐らく、ある一定レベルのベーシストが聞けば、かなり完璧な説明が、此処で成されているんだろうが。
既に俺には、奈緒さんが、なにを言ってるのかすらサッパリ解らん。
まぁ唯一解った事が有るとすれば『難しいベースだ』と言う事だけだ。
「やっぱ……初心者には無理ッスかね?」
「う~~~ん、そうだね。一概には、そうとも言えないんだけど。やっぱり、初心者が持つには、あまりお薦め出来る一品ではないかな。そう言うのを関係なく弾ける上級者なら、寧ろ、お薦め出来るんだけど。ちょっと、最初に手にするベースじゃないね」
そうだよな。
説明されてる内容すら解らないんじゃ、どう考えても、初心者には向かないベースだよな。
なんか、スゲェ気になったベースなだけに、残念だけどな。
まぁ奈緒さんが、そう言うんだから、此処は間違いないだろう。
今回、これは諦めるか……
……けどなぁ。
1度目に付いたら、それに拘ってしまうのは、人間の心情だよな。
「・・・・・・」
「どうしたの、クラ?これが、気に……入っちゃったの?」
「はぁ、まぁ、無理に、これって決める事はないんッスけど。なんとなくなんッスけど。これかなって感じは見受けられるッスね」
「そっか……じゃあ、それも有りなのかも」
「えっ?えっ?それって、どういう事ッスか?」
「うん?気に入ったんなら、それに見合うベーシストになれば良いんじゃないかなって話。楽器に自分を合わせるのも1つの手だしね」
ちょ……突然、そんな適当な事を言われても困る。
俺は、別にプロになろうとか、そんな厚かましい事は全然考えてねぇし。
第一、俺がベースを弾きたいと思うのは『奈緒さんに好かれたい』と言う不純な動機な訳で、正直、そこまで気合を入れてベースに打ち込めるか、どうかもわからない。
……かと言って、それが理由で諦めるのも、格好悪いしなぁ。
困ったもんだなぁ。
「ちょっと無理そぅ?無茶言っちゃったかな」
がっ……
あれ?これは結構、口惜しいぞ。
なんか『無理そぅ?』とか言われたら、意地でも弾いてやろうかなとか、思い始めてるぞ。
「別に無理な訳じゃないッスよ。……ただ、ちょっと難しいなっと思っただけッス」
「あっ、クラ。ごめん、ごめん。そう言う意味じゃなくて、ベース選びでムキになちゃダメだよって話。後に、後悔するだけだよって話だよ」
「いや、ムキになんかなってないッス。ウッシ!!俺、これに決めたッス」
「ちょ……待ってクラ。せめて試し弾きしないと」
「じゃあ、頼んで良いッスか……店員さ~ん」
「えっ?……」
100%ムキになった俺は、買う方向のみで話を進め始める。
こうなったら、もぉ後には引けない。
好きな女の前で『退却』するなんて、情けなくも無様な2文字は、俺の中には全く存在し無い。
「いらっしゃい。何かお探しですか?それとも、もぅお決まりですか?」
「これ!!買います」
「ぶっ!!ケホッ、ケホッ……」
奈緒さんが、俺のあまりに潔い態度に横で噴出した。
けど、その表情が、これまた可愛いんだよな。
良し良し、奈緒さんのレア顔見た事だし。
コイツを購入して、奈緒さんがビビるぐらい頑張ってみるか!!
……っと思っていたら、奈緒さんに水を差された。
何故だ?
「あっ、あの……一応、購入は考えてるんですけど。取り敢えず、まずに、一度試し弾きしても良いですか?」
「でっ、ですよね。これ、学生さんには、結構、高いもんだし……あぁ、直ぐに、アンプとシールド用意しますね」
「おっ、お願いします」
あぁ、そう言う事か。
勢いが付き過ぎて、スッカリ忘れてた。
なんか良く解らんが、奈緒さんが試し弾きってのをしてくれるんだったな。
「すんません」
「もぉ、慌てすぎだよ。ビックリしちゃった」
「いや、重ね重ね、すんません」
いや、ホントすんません。
気だけが、先に行っちゃったみたいッスね。
「ところで、なんで試し弾きなんてするんッスか?俺、どうせ音なんて、なんもわかんないッスよ」
「うん?あぁ、実は楽器ってね。結構、本体に当たり外れがあるのよ。だから購入前には、必ず1度は弾いてみるのが、楽器を買う時のセオリー。音が解らなくても、変なのは嫌でしょ」
「そっか、そっか。しかしまぁ、楽器にも当たり外れとか有るんッスね」
「だよ。あぁ、因みになんだけど、当たったと言っても、ベース2本は貰える訳じゃないからね」
「へっ?ちょ!!それぐらい解ってますよ!!」
そんなもん、アイスじゃないんだから『ベース2二本目当たった』なんて話、聞いた事もない。
……にしても、奈緒さん面白い事を言うよな。
そんな企画が有るんだったら、ちょっと参加してみたい様な気がするな。
何処かの楽器屋でやってくんねぇかな?
まぁコスト的に無理だろうけど……
「ごめん……面白いかなって思って」
あぁ、俺のツッコミがきつかったのか、奈緒さんしょげちゃったよ。
ホント、そんな事で一喜一憂するなんて、この人、どこまで可愛いんだよ。
まぁ、最初のクールなイメージとは、全然違うけどな。
そこが、また良い。
「怒ってないッス、怒ってないッス。ってか、寧ろ、面白かったッスよ」
「嘘だぁ。ホントは『面白くねぇ』とか思ってるくせに」
「いやいや、マジッス。『ベース2本目当たりました』とか、突然、店員に言われたら、多分って言うか、確実に噴出しますよ」
「もぉ、馬鹿にして……」
なんだろ?全然、怒る気になれねぇな。
知らない女なら『オマエうぜぇよ、鬱陶しい』とか言ってしまいそうなんだが。
奈緒さんに関しては、もぅね、可愛いしかねぇんだよな。
これがギャップ萌って奴か?
だがもし、これを狙ってやってるんだったら、奈緒さんは、本当に恐ろしい人だ。
「いや、ホントすんませんって……どうしたら許してくれるんッスか?」
「だって……クラ、嘘つくんだもん」
「あっ、あの、準備出来てますよ。閉店も近いんで、出来れば、早くお願いしたいんですが……宜しいですか?」
「あぁ、すんません。あっ、あの、奈緒さん、お願い出来ますか?」
「はいはい、やりますよ」
「奈緒さ~~~ん」
甘えた声を出す俺。
生まれて初めて、女に向かって、こんな声を出したよ。
店舗の中だけにハズっ!!
「弾くよ」
うわっ、スルーですか。
今に、なって無視されてた山中の気持ちが良くわかるぞ。
これは、結構キツイな。
「あの、店員さん。このボディ通常のジャズベースより、ちょっと小降りなんですか?それにネックも長い様な気がするんですけど」
「そうですね。お客様の言われる通り、ボディは通常のものより小さ目ですね。ネックに関しては、ロングスケールなんで、まぁ通常ですかね」
「あっ、そっか。私、いつもミディアムスケール使ってるから長く感じるのか」
なに話してるか、全然わかんねぇな。
こりゃあ、完全に奈緒さんと店員の2人の世界だ。
俺、完全に蚊帳の外だな。
まぁ楽器の事が、わかんねぇとこんなもんだよな。
取り敢えず、後で奈緒さんに聞いた所、ベースには、ロングスケールネック・ミディアムスケールネックって言う2種類があって、ネックの長さを表しているそうだ。
序に言うと、スケールは『弦長』だそうだ。
俺的に解ってるのか、解ってないのか、解らない解説終わり。
そう考えてる間に、今度はペグを弄りだす。
あぁ、因みにペグって言うのは、上に付いてるネジみたいな奴な。
(↑最近、崇秀に聞いて知った)
「このベース、結構、ギア比が高いですね」
「そうッスね。でも、逆にそれが、チュ-ニングやり易くしてないですか?」
「うん、そうですね。いい感じ。……後、このベースのウリって、他にもなにか有りますか?」
「そうですねぇ。まぁ、面白いと言えば9Vの電池入れたら、アクティブの3バンドイコライザーを搭載してるんでトレブル/ミドル/ベースのブースト/カット行えますね。だから結構、幅広い音作りが出来ますね」
「へぇ、そうなんだ。……なんか、話を聞いてたら、私が欲しくなちゃいそう」
「ですか。まぁ、その分、いい値段しますからね。それ、相応の性能の良さですよ」
奈緒さんの反応をみたら解るんだが、なんかスゲェベースみたいだな。
これを俺なんかが、ホントに持って良い物なのか?
彼女の反応とは裏腹に、逆にドンドン不安になっていく俺。
「じゃあ、そろそろ弾かせて貰いますね」
「どうぞ、どうぞ」
しかしまぁ、此処の店員は丁寧だよな。
どっかのボケたカラオケBOXや、アホしか居ない、何処かのボンクラ・スタジオの店員とは大違いだな。
本来、店員は、こうあるべきだよな。
いやはや、楽器屋に来て、社会勉強させられたよ。
あのアホ共も、此処の店員さんを見習って、此処に修行しに来ればいいのにな。
……っと、そんな事より、奈緒さんのベース聞こ。
♪♪♪・♪♪♪・♪♪・♪♪♪・♪♪・♪♪♪♪・♪……
奈緒さんは、この間、カラオケBOXで弾いた曲を弾いている。
ただ、この間みたいに、激しくベースを弾いてる印象ではない。
かなり軽めの弾き方だ。
けど、まぁそりゃあ、そうだわな。
購入してない商品を弾いてる訳だから、激しく弾く奴はいねぇわな。
「どうですか?」
「うん、凄く良い感じですね、これ。まぁ慣れないと難しいのは否めないけど……クラ、このベース当たりだよ」
「えっ?じゃあ、このベースを2本貰えるんッスか?」
「へっ?どう言う……」
「ぷぅ」
咄嗟に、さっきの奈緒さんの言ったネタを飛ばしてしまう。
当然、意味の解らない店員は素っ頓狂な声を上げて、奈緒さんは膨らむ。
おもしれ。
でも、これは確実に怒ってる方向だよな。
……ついつい、やっちまったよ。
最後までお付き合いありがとうございました<(_ _)>
今回は、奈緒さんの蘊蓄が炸裂した回なので。
楽器に興味がない人が見たら『なんのこっちゃ?』っと思ってしまうと思います。
なので、簡単に纏めて置きますね。
名称 :Fender USA American Deluxe Jazz Bass
販売元:Fender社
特徴 :Fletless
こんな感じのベースの説明をしていた訳です。
……っで、此処で上げられた特徴である『Fletless』なのですが。
元来、近代弦楽器には『フレット』と呼ばれる、指板にはめ込まれた金属の帯があるのですが。
これを付ける事によって、音の均一化を図れたり、和音を作りやすいと言った特徴があるんですね。
それがない物を『Fletless』と言うだけの話なんですよ。
早い話、一般的には、演奏が難しいベースと言う事です。
実は、それだけの事です(笑)
って事で、そんなベースを購入しようとする不良さん。
そして奈緒さんのネタをついつい使ってしまって、彼女を膨れさせてしまいました。
さてさて、次回はどうなる事やら。
それはまた、次回の講釈と言う事で(笑)
読み終わったら、ポイントを付けましょう!