最後まで奏でられなかった音楽

どこかお間抜けDQNな不良さんのゆったり更生日誌(笑)
殴り書き書店
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038 不良さん 無意識に難しいベースを選んでしまう(笑)

公開日時: 2021年3月15日(月) 23:42
更新日時: 2022年11月7日(月) 00:09
文字数:5,569

●前回のおさらい●

奈緒と2人で、新しいベースを買いに来た不良さん。


ただ、どれが、どう良いのかが解らないので、最終的には『インスピレーションで選んでみたら』と奈緒に言われ。

そのインスピレーションに従って選んだ結果は!!


(あぁそぉそぉ、今回はベースの性能についての説明が多いので、解り難かったら飛ばしてくださいね(笑))

「奈緒さん、これとか……なんか良くないッスか?」

「んっ?どれ?」


そう言った俺の言葉に反応して。

身長が低い奈緒さんが、俺の脇ぐらいからヒョコッと顔を出す。


うん……非常に可愛らしいな。

このまま、実家に持って帰ろうかなぁ。



「これッス」

「ふむ、Fenderかぁ。クラって、結構メジャー思考なんだね」

「いや、そう言うんじゃなくて、なんとなく選んだだけなんッスけど……Fenderって、そんなにメジャーなんッスか?」

「うん。メジャーだね。創立が1945年ぐらいで、創業者はレオ・フェンダー。アメリカでも、ギブソンと並ぶぐらいのメジャーな会社なんだよ。本社がアリゾナ州スコッツデール。製造拠点は、えぇっと、確か、カルフォルニア州のコロナだったかな」


オイオイ、なんかスゲェ薀蓄だな。

ギターとか、ベース弾く奴って、こんな事も覚えなきゃダメなのか?


もしそうなら、こりゃあ、楽器の演奏者ってのも大変もんだな。



「あの、それで、これは……」

「んっ?あぁこれ?……これはね。Fender USA American Deluxe Jazz Bassの、今年のモデルだね……うんうん。けど、これなら良いと思うよ。クラのイメージにも合ってるしね」

「そうッスか?」

「うん。まぁただ、これ、ちょっと難しいベースだよ」

「なんでッスか?ベースって、全部弾き方が同じじゃないんッスか?」

「うん、基本的には全部同じだね。ただ、このベースは、ちょっと特殊でね。ベースを弾きなれた人だったら、特に問題はないんだけど」

「はっ、はい」

「……これね。『Fletless』って言ってね。フレットを見れば解ると思うんだけど、何か足りなくない?」


足りないもの?


なんだ?

これって、所謂、不良品ってやつなのか?


いや、店で売られている以上、んな訳ねぇわな。

だったら、何が違うんだ?


・・・・・・


あっ……あぁ、そう言えば、アレがないな。



「あぁ、そう言えば、フレットに付いてる、あの点みたいな奴が無いッスね……それって、なんか問題あるんッスか?」

「あぁっと、ポジション・マークじゃなくて」


うん?それじゃないのか?

だとしたら、後は別に、変わったとこなんてないぞ?


なんだ?



「良く見て。……このベース。ポジション・マーク以前の問題として、フレット自体がないでしょ」

「あっ……」

「これがね。フレットレスの特徴なんだけど。元来フレットレスベースって言うのは、フレットが無いと言う意味のエレクトリックベース。即ち、フレッテッドベースから派生したベースギターの事なのよ。まぁ、フレットが無い事以外は、特に構造上で変わったところは無いんだけど。元来有ったフレットを、抜いて生み出された経緯があるため、このベースみたいに、最初からフレットレスとして作られた楽器にも、フレットに該当するラインが付けられていることが多いのね。ベースギターの前身のコントラバスも、更に、その前身のヴィオラ・ダ・ガンバから考えれば、フレットレスと言えるけど。この場合には、基本的に無関係だね」

「じゃあ、大した問題は無いって事ッスか?」

「うぅん。問題有り有り。フレットレスはね。音を均質化するフレットが無い為に、左右の指の使い方で、多様な音色を弾き分けられるんだけど。金属のフレットが無い関係上、音色や、奏法を工夫しないと音の立ち上がりが弱く、特にロックでは、バラードを除いては、あまり使用されない傾向にあるのよ。まぁ70年代後半あたりから多く使用される様になってはいるんだけど。ジャコ・パストリアスがフレットを抜き、その跡に船舶用のエポキシ樹脂を詰め込んで、塗り改造したフェンダー社のジャズベースを用いて技術を確立した……まぁ、経緯は別として、実物で言うなら、これって事だね。それで、さっきも言ったんだけど、演奏の仕方が問題なのよ。慣れれば、寧ろ、色々な音を作れるから、良いベースに成り得るんだけど。演奏はフィンガー・ピッキングが基本だし、音程の変化が出易いからビブラート奏法が多用される。また弦に干渉するフレットが無いので、ハーモニクスを発生後にスライドさせるたりもしないといけない。まぁ総称的に言えば、そう言った理由から、初心者が弾くには難しいベースって事だね」


訳わかんねぇ?


恐らく、ある一定レベルのベーシストが聞けば、かなり完璧な説明が、此処で成されているんだろうが。

既に俺には、奈緒さんが、なにを言ってるのかすらサッパリ解らん。


まぁ唯一解った事が有るとすれば『難しいベースだ』と言う事だけだ。



「やっぱ……初心者には無理ッスかね?」

「う~~~ん、そうだね。一概には、そうとも言えないんだけど。やっぱり、初心者が持つには、あまりお薦め出来る一品ではないかな。そう言うのを関係なく弾ける上級者なら、寧ろ、お薦め出来るんだけど。ちょっと、最初に手にするベースじゃないね」


そうだよな。

説明されてる内容すら解らないんじゃ、どう考えても、初心者には向かないベースだよな。

なんか、スゲェ気になったベースなだけに、残念だけどな。


まぁ奈緒さんが、そう言うんだから、此処は間違いないだろう。


今回、これは諦めるか……


……けどなぁ。

1度目に付いたら、それに拘ってしまうのは、人間の心情だよな。



「・・・・・・」

「どうしたの、クラ?これが、気に……入っちゃったの?」

「はぁ、まぁ、無理に、これって決める事はないんッスけど。なんとなくなんッスけど。これかなって感じは見受けられるッスね」

「そっか……じゃあ、それも有りなのかも」

「えっ?えっ?それって、どういう事ッスか?」

「うん?気に入ったんなら、それに見合うベーシストになれば良いんじゃないかなって話。楽器に自分を合わせるのも1つの手だしね」


ちょ……突然、そんな適当な事を言われても困る。

俺は、別にプロになろうとか、そんな厚かましい事は全然考えてねぇし。

第一、俺がベースを弾きたいと思うのは『奈緒さんに好かれたい』と言う不純な動機な訳で、正直、そこまで気合を入れてベースに打ち込めるか、どうかもわからない。


……かと言って、それが理由で諦めるのも、格好悪いしなぁ。


困ったもんだなぁ。



「ちょっと無理そぅ?無茶言っちゃったかな」


がっ……


あれ?これは結構、口惜しいぞ。

なんか『無理そぅ?』とか言われたら、意地でも弾いてやろうかなとか、思い始めてるぞ。



「別に無理な訳じゃないッスよ。……ただ、ちょっと難しいなっと思っただけッス」

「あっ、クラ。ごめん、ごめん。そう言う意味じゃなくて、ベース選びでムキになちゃダメだよって話。後に、後悔するだけだよって話だよ」

「いや、ムキになんかなってないッス。ウッシ!!俺、これに決めたッス」

「ちょ……待ってクラ。せめて試し弾きしないと」

「じゃあ、頼んで良いッスか……店員さ~ん」

「えっ?……」


100%ムキになった俺は、買う方向のみで話を進め始める。


こうなったら、もぉ後には引けない。

好きな女の前で『退却』するなんて、情けなくも無様な2文字は、俺の中には全く存在し無い。



「いらっしゃい。何かお探しですか?それとも、もぅお決まりですか?」

「これ!!買います」

「ぶっ!!ケホッ、ケホッ……」


奈緒さんが、俺のあまりに潔い態度に横で噴出した。


けど、その表情が、これまた可愛いんだよな。


良し良し、奈緒さんのレア顔見た事だし。

コイツを購入して、奈緒さんがビビるぐらい頑張ってみるか!!


……っと思っていたら、奈緒さんに水を差された。


何故だ?



「あっ、あの……一応、購入は考えてるんですけど。取り敢えず、まずに、一度試し弾きしても良いですか?」

「でっ、ですよね。これ、学生さんには、結構、高いもんだし……あぁ、直ぐに、アンプとシールド用意しますね」

「おっ、お願いします」


あぁ、そう言う事か。


勢いが付き過ぎて、スッカリ忘れてた。

なんか良く解らんが、奈緒さんが試し弾きってのをしてくれるんだったな。



「すんません」

「もぉ、慌てすぎだよ。ビックリしちゃった」

「いや、重ね重ね、すんません」


いや、ホントすんません。


気だけが、先に行っちゃったみたいッスね。



「ところで、なんで試し弾きなんてするんッスか?俺、どうせ音なんて、なんもわかんないッスよ」

「うん?あぁ、実は楽器ってね。結構、本体に当たり外れがあるのよ。だから購入前には、必ず1度は弾いてみるのが、楽器を買う時のセオリー。音が解らなくても、変なのは嫌でしょ」

「そっか、そっか。しかしまぁ、楽器にも当たり外れとか有るんッスね」

「だよ。あぁ、因みになんだけど、当たったと言っても、ベース2本は貰える訳じゃないからね」

「へっ?ちょ!!それぐらい解ってますよ!!」


そんなもん、アイスじゃないんだから『ベース2二本目当たった』なんて話、聞いた事もない。


……にしても、奈緒さん面白い事を言うよな。

そんな企画が有るんだったら、ちょっと参加してみたい様な気がするな。


何処かの楽器屋でやってくんねぇかな?


まぁコスト的に無理だろうけど……



「ごめん……面白いかなって思って」


あぁ、俺のツッコミがきつかったのか、奈緒さんしょげちゃったよ。

ホント、そんな事で一喜一憂するなんて、この人、どこまで可愛いんだよ。


まぁ、最初のクールなイメージとは、全然違うけどな。


そこが、また良い。



「怒ってないッス、怒ってないッス。ってか、寧ろ、面白かったッスよ」

「嘘だぁ。ホントは『面白くねぇ』とか思ってるくせに」

「いやいや、マジッス。『ベース2本目当たりました』とか、突然、店員に言われたら、多分って言うか、確実に噴出しますよ」

「もぉ、馬鹿にして……」


なんだろ?全然、怒る気になれねぇな。


知らない女なら『オマエうぜぇよ、鬱陶しい』とか言ってしまいそうなんだが。

奈緒さんに関しては、もぅね、可愛いしかねぇんだよな。


これがギャップ萌って奴か?

だがもし、これを狙ってやってるんだったら、奈緒さんは、本当に恐ろしい人だ。



「いや、ホントすんませんって……どうしたら許してくれるんッスか?」

「だって……クラ、嘘つくんだもん」

「あっ、あの、準備出来てますよ。閉店も近いんで、出来れば、早くお願いしたいんですが……宜しいですか?」

「あぁ、すんません。あっ、あの、奈緒さん、お願い出来ますか?」

「はいはい、やりますよ」

「奈緒さ~~~ん」


甘えた声を出す俺。

生まれて初めて、女に向かって、こんな声を出したよ。


店舗の中だけにハズっ!!



「弾くよ」


うわっ、スルーですか。

今に、なって無視されてた山中の気持ちが良くわかるぞ。

これは、結構キツイな。



「あの、店員さん。このボディ通常のジャズベースより、ちょっと小降りなんですか?それにネックも長い様な気がするんですけど」

「そうですね。お客様の言われる通り、ボディは通常のものより小さ目ですね。ネックに関しては、ロングスケールなんで、まぁ通常ですかね」

「あっ、そっか。私、いつもミディアムスケール使ってるから長く感じるのか」


なに話してるか、全然わかんねぇな。

こりゃあ、完全に奈緒さんと店員の2人の世界だ。


俺、完全に蚊帳の外だな。

まぁ楽器の事が、わかんねぇとこんなもんだよな。

取り敢えず、後で奈緒さんに聞いた所、ベースには、ロングスケールネック・ミディアムスケールネックって言う2種類があって、ネックの長さを表しているそうだ。


序に言うと、スケールは『弦長』だそうだ。


俺的に解ってるのか、解ってないのか、解らない解説終わり。


そう考えてる間に、今度はペグを弄りだす。

あぁ、因みにペグって言うのは、上に付いてるネジみたいな奴な。

(↑最近、崇秀に聞いて知った)



「このベース、結構、ギア比が高いですね」

「そうッスね。でも、逆にそれが、チュ-ニングやり易くしてないですか?」

「うん、そうですね。いい感じ。……後、このベースのウリって、他にもなにか有りますか?」

「そうですねぇ。まぁ、面白いと言えば9Vの電池入れたら、アクティブの3バンドイコライザーを搭載してるんでトレブル/ミドル/ベースのブースト/カット行えますね。だから結構、幅広い音作りが出来ますね」

「へぇ、そうなんだ。……なんか、話を聞いてたら、私が欲しくなちゃいそう」

「ですか。まぁ、その分、いい値段しますからね。それ、相応の性能の良さですよ」


奈緒さんの反応をみたら解るんだが、なんかスゲェベースみたいだな。

これを俺なんかが、ホントに持って良い物なのか?


彼女の反応とは裏腹に、逆にドンドン不安になっていく俺。



「じゃあ、そろそろ弾かせて貰いますね」

「どうぞ、どうぞ」


しかしまぁ、此処の店員は丁寧だよな。

どっかのボケたカラオケBOXや、アホしか居ない、何処かのボンクラ・スタジオの店員とは大違いだな。


本来、店員は、こうあるべきだよな。


いやはや、楽器屋に来て、社会勉強させられたよ。

あのアホ共も、此処の店員さんを見習って、此処に修行しに来ればいいのにな。


……っと、そんな事より、奈緒さんのベース聞こ。


♪♪♪・♪♪♪・♪♪・♪♪♪・♪♪・♪♪♪♪・♪……


奈緒さんは、この間、カラオケBOXで弾いた曲を弾いている。


ただ、この間みたいに、激しくベースを弾いてる印象ではない。

かなり軽めの弾き方だ。


けど、まぁそりゃあ、そうだわな。

購入してない商品を弾いてる訳だから、激しく弾く奴はいねぇわな。



「どうですか?」

「うん、凄く良い感じですね、これ。まぁ慣れないと難しいのは否めないけど……クラ、このベース当たりだよ」

「えっ?じゃあ、このベースを2本貰えるんッスか?」

「へっ?どう言う……」

「ぷぅ」


咄嗟に、さっきの奈緒さんの言ったネタを飛ばしてしまう。


当然、意味の解らない店員は素っ頓狂な声を上げて、奈緒さんは膨らむ。


おもしれ。


でも、これは確実に怒ってる方向だよな。


……ついつい、やっちまったよ。


最後までお付き合いありがとうございました<(_ _)>


今回は、奈緒さんの蘊蓄が炸裂した回なので。

楽器に興味がない人が見たら『なんのこっちゃ?』っと思ってしまうと思います。


なので、簡単に纏めて置きますね。


名称 :Fender USA American Deluxe Jazz Bass

販売元:Fender社

特徴 :Fletless

こんな感じのベースの説明をしていた訳です。


……っで、此処で上げられた特徴である『Fletless』なのですが。

元来、近代弦楽器には『フレット』と呼ばれる、指板にはめ込まれた金属の帯があるのですが。

これを付ける事によって、音の均一化を図れたり、和音を作りやすいと言った特徴があるんですね。


それがない物を『Fletless』と言うだけの話なんですよ。


早い話、一般的には、演奏が難しいベースと言う事です。

実は、それだけの事です(笑)


って事で、そんなベースを購入しようとする不良さん。

そして奈緒さんのネタをついつい使ってしまって、彼女を膨れさせてしまいました。


さてさて、次回はどうなる事やら。

それはまた、次回の講釈と言う事で(笑)

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

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