●前回のおさらい●
山中君をバンドに誘おうと企む倉津君。
そして、その方法は……
『崇秀をライバル視している所に目を付け、気持ちを煽る』と言う物だった。
さて、その作戦はうまく行くのか!!
「オイ、山中……『One is for the guys, one for everyone』って意味知ってるか?」
「……おい、マコ。オマエ、それどこの『スクールウォーズ』やねん。しかも、なんか微妙に間違うとるで。それを言うなら『one for all,all for one』なんちゃうんか?」
がぁ~~~……
英語の文法自体は間違っちゃいないと思うんだが……そう来るか。
まぁ日本じゃ、そんなラグビーの青春ドラマが有ったから、そっちの言い方の方がそうしてもメジャーな言い方になっちまうんだろうな。
お陰で、早くもしくじった……か?
「まぁ、その、なんだ、あれだあれ」
「みんなで掛かれば、あのアホも倒せるって腹か?まぁアイディアとしては悪くはないな。……ほんで、そんなオマエは、俺をどないしたいねん?」
「そこまで解ってんなら、もぅ言う事はねぇ。後はオマエの良い返答を待つだけだな」
「さよか。ほんだら俺の答えを教えたるわ」
「なんだよ?」
真面目な顔をしている所を見ると、どうやら冗談を言うつもりは無いらしい。
いつになく真面目な顔で山中は話し始めた。
「まぁ、オマエのアホな頭で考えたにしては、おもろい計画では有る。がや、それだけやと崇秀を倒すのには、あまりにも可能性が薄い。……やから正直言えば、あんまりそそらん話やな」
「なんでだよ?」
「よぉ考えてみぃよ、マコ。オマエはドの付く素人。向井さんは俺と被るドラマー。後、ボーカルも居なきゃ、ギターも居れへん。そんなもんじゃあ話にもならんやろ。……オマエ、なんぞあの子に唆されたんか?」
「オマエねぇ、人聞きの悪い事を言ってじゃねぇぞ。奈緒さんは純粋に『崇秀越え』を狙ってんだよ」
「アホ臭い。それに青臭いわ。序に言うなら、オマエ等は、なんも解ってへん……アイツは、マコが思てる以上に怖い男やで」
山中の顔は、更にマジ顔だ。
しかし、不思議な事を言う。
俺なんかよりズッと付き合いが短いオマエに、アイツの何が解るんだ?
「なにが怖いんだかな?所詮、馬鹿秀は馬鹿秀だろ」
「ホンマ、お前は悉く甘い男やな。ほんだら逆に考えてみぃ」
「なにをだよ?」
「敵は何も崇秀1人やないんやで。何所でどうやって手懐けたんかは知らんが、崇秀には既に『アリス』って言う最終兵器みたいなボーカルが付いとんねん。お前もよう知っとるやろ、話を聞いてだけでも、あの女も大概やぞ」
「はぁ?たかがギターと、ボーカルだろ。んなもん、どうにでもなるだろうに」
「オンドレはアホか!!そのギターとボーカルが一番問題なんじゃ。早い話、崇秀に勝とう思たら、自動的にアリスも相手にせなアカン。こんなもん秀2匹と戦うのと同じやぞ」
勘違いするなよ、山中。
アイツの才能って言うのはな。
オマエの思ってる『天才的な感性』があるかも知れないが、どちらかと言えば『努力の結晶』で勝ち得たものなんだぞ。
それを、何も始まってない時点でウダウダウダウダ言いやがって……オマエのやってる行為なんざ、所詮は、崇秀にビビって物事を先延ばしにしてるだけだ。
こんなもん、なんだかんだ因縁をつけてるだけじゃねぇかよ。
こりゃあ残念だが、コイツとは、どうも縁が無かったみたいだな。
「あぁ解った、解った。じゃあ、この話はご破算って事で良いな」
「クククッ……アホ抜かせよ。誰もやらんとは一言も言うてへんやろが。こんな無謀な挑戦……おもろ過ぎるやんけ」
破格の笑顔で笑ってやがる。
って事はコイツ。
わざと弱気な言動を吐いて、俺の本気具合を試しやてやがったな。
「なんだよ。じゃあ、やってくれんのかよ?」
「えぇで。やるのはかまへん……ただし条件付や」
なんだなんだ?
今度は、やけに悪い顔になってるぞ。
関西人ってのは、本当に表情が豊かだな。
&ただ、この表情には嫌な予感しかしないんだがな。
「条件だと……なんだよ、その条件って?」
「俺が満足する様な『アリスクラス』のごっついボーカル連れて来い。ほんだらバンドに入ったるわ」
オイオイ、それまた無理難題を……
冷静に考えなくても、俺に、そんな凶悪な知り合い居る訳が無いだろに。
居たとしても、喧嘩出来る人間しか知らねぇんだぞ。
それともなにか?
足を棒にして全国を駆けずり回ってでも、そんな凄いボーカルを探して来いとでも言いたいのか?
流石に、この条件は無茶苦茶だ。
『ガチャ』
「おはよう……」
そんな無謀な条件を突き付けられた所に、まだ少し眠たそうな奈緒さんが帰ってきた。
「おぉ、おはようさん、なんや自分、もぅ起きたんかいな?」
「……うん……今起きた」
小動物の様に眠そうに目をクシクシ擦りながら、ややフラフラした足取りで椅子に、ちょこんと座る。
その後は、何故か、山中の顔をジィ~っと見てる。
なんだ?奈緒さん寝惚けてるのか?
反応が、いつもと違ってやけに緩慢な気がするぞ。
「……ねぇ……山中君、さっきの話ほんとなの?」
「さっきの話?あぁ、なんの事かと思ったら、バンドの話かいな」
「……うん」
「あぁホンマやで。但し、マコが条件をクリアー出来たらの話やけどな」
「……ハイ、じゃあ、私が唄う」
まだうつら・うつらしながら、真っすぐに手を上に挙げて山中の難題に答える。
「ちょ……向井さん。向井さん、確かに歌は上手いけど。あの子ほどやないやろ」
「……さぁ」
首を傾げて、まだ寝惚けたままの様だ。
これじゃあ、ただ単に、山中の言葉に反応してるに過ぎない。
「『さぁ』って」
「……あの子より上手いかは解んないけど……昔コーラスで、スカウトされた事ならあるよ」
「なっ、なんやて?……それ、ホンマか?ほんで、その話はプロの話なんか?」
「……プロの話じゃなきゃ。ここで、そんな話はしないよ」
「ほんだら、なんでプロになれへんかってんな?おかしないか?」
「……ん?だって、歌は嫌いじゃないけど、そこまでの思い入れが無いのよ。……でも、クラのバンドに山中君が入ってくれるって言うなら話は別。喜んで唄わせて貰うよ」
「マジか。なんやねん、それ。アンタなぁ……」
「……なに?」
「腹立つ位えぇ女やな……」
「……へぇ?」
「ハハッ……まいった、まいったわ。アンタにゃあかなわへん。こりゃあ飛んだ伏兵がおったもんやわ。男の為に自分の身を切るなんて、今時の女子には中々出来るこっちゃない。気に入ったで。アンタがそうしてくれるにやったら、俺もその心意気に応える事にするわ」
「……ほんと?……ありがとカズ」
山中寛和=カズ。
なんとも解り易い渾名だが。
なんで山中が名前の方で、俺が苗字の方なんだろうか?
なんか、ちょっと腑に落ちない気分だな。
まぁまぁ、そんな事よりもだ。
山中の奈緒さんを見る目が、おかしな事になってないか?
まさかコイツ……
「オイオイ山中。バンドに入ってくれんのは有り難いがな。オマエ、絶対に奈緒さんには手を出すなよ」
「そんな無茶言うなや、マコマコ」
「誰がマコマコだ!!」
「こんなえぇ女を目の前にして、惚れんなって言う方が無理な話なんちゃうか?」
「ちょ、オマエ……」
「なんや、マコマコ?」
ニヤニヤ笑いながら、なに言ってやがんだオマエは?
まさか、本気で奈緒さんに惚れたのかコイツ?
なら、こちら側としても対応策を講じるしかないな。
「いや、あぁヤッパ、オマエ、ウチのバンドにはイラネェわ。俺、他当たるしよ」
「そない邪見に扱うなや。今さっき、なったとことは言え『打倒崇秀』を誓ったバンドの仲間やんけな。仲ようやろうぜ~、マコマコ」
「コイツ、マジでうぜぇ~~~っ」
喜んで良いのやら、悲しんで良いのやら。
確かに山中の参入は、バンドを成立させるには不可欠な存在だ。
かと言ってだ。
奈緒さんを見るコイツの目は『女誑し』の本質的な目。
奈緒さんの傍に置いておくだけで危険極まりないし、なんか奈緒さんが穢れそうだ。
んでだ。
当の本人の奈緒さんは、まだ寝惚けたままで、コンビニ袋から何かを取り出そうとしている。
しかも、それが上手く取れないのか、ズッとゴソゴソ弄くってる。
狼に狙われてるというのに、この可愛い羊は危機感0。
こんな状態で大丈夫なのか、このバンド。
最後までお付き合いありがとうございました<(_ _)>
奈緒さんのお陰で、山中君の勧誘に成功しましたね。
もう一度言います『奈緒さんのお陰で、山中君の勧誘に成功』しましたね(笑)
冷静に考えると、倉津君、条件を引き出しただけで、実は何もしてないんですよね(笑)
まぁまぁ、その辺は結果オーライ、と言う事で。
さてさて、そんな中。
奈緒さんは、寝ぼけたまま、なにやらコンビニの袋をごそごそしていますが。
この後すぐに、ある恐ろしい出来事が起こります!!
それはもぉ恒例になっている……次回の講釈と言う事で(笑)
また遊びに来て下さいねぇ~~~(*'ω'*)ノ
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