●前回までのあらすじ●
話の流れから、奈緒さんが書いて来た曲の話題に成りました。
おわり(笑)
「うん?憶えてないかなぁ?以前、仲居間さんがクラに、曲を作る際のコツを教えてくれたでしょ」
「はぁ……けど、あの時って、俺と、アイツしか居ませんでしたよね」
「うぅん。私、ズッとアソコに居たよ」
「いや?へっ?何所に居たんッスか?奈緒、何所にも居なかったじゃないッスか?」
「それがね、居たのよ。丁度、私が階段から降りてる途中、仲居間さんが作曲の話をし始めたから、悪いとは思ったんだけど、勝手に2人の話を聞かせて貰ったのよ。……ほら、だから、クラがステージ1人でベース弾いた時、直ぐに拍手出来たでしょ」
「あぁなるほど、あの時のは、そう言うカラクリだったんッスね。……けど、なんで、直ぐに声掛けてくれなかったんッスか?一緒に喋れば良かったじゃないッスか」
「だって、折角2人で話してるのに、私が入っちゃ悪いでしょ」
奈緒さんって、妙な所まで気を使うんだな。
あの馬鹿との会話なんぞ、いつでも出来るのに。
「そんなの、気にしなくて良かったのに」
「う~~ん、ごめん。今のは、ちょっと嘘付いた」
「へっ?どういう事ッスか?」
「実はね。話し掛けなかったのは、それだけじゃないんだ。……仲居間さんが、クラに、どんな教え方するのか興味が有ったのよ」
「あぁ、あの『下向くな』とか『ストレートに表現しろ』とか言う、あれですか?」
「そぉ。簡潔に説明して、大きな成長をさせる、あの独特の言い回し。後に、なんかの役に立つかなっと思って、隠れて聞いてたのよ」
「あぁ、なるほど」
崇秀程じゃないが、この人も大概、貪欲な人だな。
『学ぶ』機能が付いてる人って、みんな、こんな感じなのか?
「……で、まぁそんな感じで、コソコソ2人の動向を見て色々学んだ訳よ」
「はぁ」
「その中でも秀逸だったのは、仲居間さんの言ってた作曲の心得。『組み合わせ』『ストレートな表現』『英語』『感情』って言う項目。っで、折角、そうやって学んだんだから、これをお題目にして、今回の作曲にチャレンジしてみたのよ。それが今回の真相。……どぉクラ、理解出来た?」
「けど、話を聞いただけで。そんな簡単に、真似が出来るもんなんッスか?」
「だ~か~ら~、それも、さっき言ったじゃない。此処最近イライラしてたって」
そっかそっか。
確かに、そう言ってたな。
それにしても奈緒さん、イライラしながらでも出来るって、何気に凄くないッスか?
俺だったら、少し上手く行かないだけで、絶対、紙を破り捨ててますよ。
ヤッパ、才能の有る人って、諦めない事から始まるんだな。
「ところで奈緒」
「うん?なに?」
「何曲ぐらい書いて来たんッスか?」
「うんとね。メンバー全員分の曲を書いたから5曲かな」
「まっ、まじッスか?」
「うん、マジ……聞く?」
「そりゃあ、勿論!!……って!!その前に服を着て下さい!!」
「あっ、そうだね。忘れてた、ごめん」
ホント、この人だけは……直ぐに、話に夢中になるんだから。
俺以外の前で、そんな事しちゃダメっすよ!!
他の男なら、間違いなく襲われるから、少しは自覚して欲しいもんッス。
しかしなんだねぇ。
女子の着替え(?)って、凄くエロいッスなぁ。
奈緒さん、先にシャツだけ着るからチラチラパンツ見えるし、スカート履く時だってパンチラ。
本当なら、その可愛いお尻に顔を埋めたいぐらいッスよ。
***
着替え(?)が終わった奈緒さんは、俺の横にチョコンと座り。
以前同様、左のイヤホンを俺に渡す。
それで自分は右にイヤホンを付けて、俺の肩に頭を乗せる。
思わぬ行動にドキドキしている俺を尻目に、奈緒さんは『聞いて』っと一言添えて、PLAYボタンを押す。
だが、ドキドキして動揺していたのは此処まで。
直ぐに、耳に心地の良い音が流れ始めた。
●1曲目は素直の曲●
曲名は「Please look at me」(私を見て下さい)
少し切ないバラード。
好きな男の為に、必死に努力して振り向いて欲しいって言う、素直の感情が上手く構成されている。
聞いているだけで感情移入しそうなぐらい、心理描写が表現されていた。
●2曲目は嶋田さんの曲●
曲名は「Serious stress」(重いストレス)
バンドに対しての不満をぶつけたパンク。
内なる気持ちが爆発して、全てをぶち壊しそうな感じが良い。
奈緒さんから見た嶋田さんのストレスは、これ程までに溜まっている様に見えたのだろう。
●3曲目は山中の曲●
曲名は「Original intention accomplishment」(初志貫徹)
固い意志を貫く山中にピッタリのロック。
奴の性格を見事に再現した曲は、ドラムの早いビート、ギターの早弾き等で構成されている。
兎に角、曲全体が早く、アイツのセッカチな性格も、序に、表現されていたのには思わずニヤってなってしまった。
●4曲目は奈緒さんの曲●
曲名は「Miserable fellow」(情けない奴)
イメージに合わないブラックメタル。
だが聞いてみると、何故かピッタリなイメージが沸く。
ただなんて言うのか……これって、翌々聞くと『俺批判じゃねぇのか?』っと言う疑問が残る程、1人の男を批判している。
……俺が聞く事を前提にした虐めか、これは?
まぁけど、なんとも奈緒さんらしい表現だ。
んでだ。
●問題は、この5曲目●
曲名は「Troubling」(四苦八苦)
恐らくは、俺の為に奈緒さんが書いてくれた曲なんだが。
聴いた瞬間……思わず噴出してしまった。
ジャンルはアニソンっぽい曲。
馬鹿な主人公が、曲名通り、四苦八苦している様なPOPな曲なんだが……兎に角、その男はドン臭い。
必死にやっても、なにも好転せず、空回りばかり。
そして学習能力もなく、同じ過ちを何度も繰り返す……なんとも馬鹿な男が笑える。
……けど、よく考えたら、これって俺の事だよな。
気付いた瞬間、アッサリ凹む。
しかしまぁ、よくも、こんなに上手く曲が作れるもんだ。
総称的にみれば、崇秀の作り方を忠実に守って作られた作品だし、ジャンルも多い。
この事から、奈緒さんの音楽の幅の広さを思い知る。
ホントに、凄い人だよ。
俺は自分の受けた感動を、彼女に伝えようと自分の肩口を見た。
「くぅ~~~~、くぅ~~~~」
……っと書いた本人は、俺の肩にのっかかったまま眠りに付いていた。
この様子だと、相当、疲れてるんだろうな。
作曲する人って、いつもこんな感じで疲労困憊してるんだろうな。
そんな彼女を見て、起すのも悪いと思い。
俺は、このままの体勢で、少し彼女が目覚めるのを待つ事にした。
すると……終わった筈のMDから、奈緒さんの声が聞こえてきた。
『えぇっと、えぇっと、最後まで聞いてくれて、ありがとうね、クラ。奈緒です。今回の曲は、どうだった?愉しんで貰えた?』
「笑えないのが、2曲ほど有りましたよ」
『私ね。今回のこの作曲、結構、苦労したんだけど、かなりの自信作なのよ。気に入って貰えたら嬉しいな。まぁけど……人には、それぞれの感性が有るから、あんまり気に入らなかったかもしれないけどね』
「そんな事ないッスよ」
『さて、議題が1つ上がった所で、君に宿題。……この5曲、全てのベースパートを2日間で、自分が思った様にアレンジしなさい』
「なっ!!」
『1つの感性で作った曲より、沢山の意見で曲を完成させた方が、より良いものが出来るからね。勿論、アレンジが出来ないは聞きません。……じゃあ頑張ってみてね、クラ。諦めない君が大好きだよ。向井奈緒でした』
はぁ~……相変わらず、みんな無茶振りが好きだなぁ。
アレンジなんて俺、やった事ねぇのに……
けど、弱音を吐いてる場合でもねぇよな。
こんなに必死になって頑張った奈緒さんをみて、そんな間抜けな事を言う程、俺も腑抜けた人間じゃない。
兎に角、出来る、出来無いとかはド返しにして、まずはやってみなきゃな。
ダメならダメで、誰かにやり方を聞けば良いだけだし、まずは始める事が肝心だよな。
そんな訳で俺は、大切な奈緒さんを、そっと畳の上に置いて、掛け布団をかけた。
そして、奈緒さんに出されたアレンジと言う課題をやるなら、今からだ。
俺はつまらない事で、恋愛も、バンドも、もう悩まない。
深く考える前に、もっと行動した方が俺らしいしな。
そんな訳でだ。
ベースとアンプを繋ぐシールドをぶち込んで、ヘッドホンを付け、早速アレンジを開始した。
「頑張れ……クラ」
必死に頑張ってる俺に、後ろで寝ている奈緒さんが、そう言ってくれた様な気がした。
最後までお付き合い下さり、ありがとうございますです<(_ _)>
これにて第二十六話『奈緒の気持ち』はお仕舞なのですが……如何だったでしょうか?
私自身は、少々我儘でも、奈緒さんの気持ちを上手く表現出来たと思っているのですが、皆様には、どう感じて頂けたでしょうか?
元々自暴自棄に成ってた時代があって「援助交際」をする様な子なのですが。
彼女は、倉津君と出会ってから、出来る限り、自分を倉津君に見合う女にしようと考え、必死に努力を繰り返して、更生して行ってるみたいですね。
過去がどうあれ、私は、こうやって現在頑張る子が好きです(笑)
さて、そんな感じで、次回からは。
第二十七話『ライブ前日の試練・発動編』が始まる訳なのですが……一体、どんな試練が待ち構えているのでしょうね?
奈緒さんが課題として出した「アレンジ」が試練なのか?
それともまた、何か困った事が倉津君の身に起こるのか?
それは次回の講釈。
また良かったら遊びに来て下さいねぇ~~~(*'ω'*)ノ
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