●前回のおさらい●
向井さんの気持ちを少し凹ましてしまった事を反省して、謝罪をする不良さんだが。
その不良さんに対して向井さんは『不良さんの気持ちに気が付かなくて、ごめんね』と逆に謝罪してくれる。
そんな心優しい向井さんと話している内に、とうとうベースの練習の成果を見て貰う話に成って、2人は繁華街へと向かって行く。
会話がお互いの家庭の事情の方向に向き、暗い雰囲気に。
それを感じ取った奈緒さんは、即座にその話を辞め……面白い場所に連れて行ってくれると言い出す。
そして奈緒さんに連れられて来たのは、如何にも怪しげなビル。
そのビルのある場所に行く為に地下に向かい、彼女が先行して階段を降りていく。
そこに向かうまでの階段の壁には大量のチラシが張られ、落書きもアチラコチラにされている。
それらは、どれも、これもバンド関係のもので『ライブの告知』や『バンドメンバーの募集』が大半。
中には『バンギャ募集』なんて広告もあるが、これは何の事か解らない。
そんな中、扉の前に到着すし、勿論、奈緒さんは、なんの躊躇も無く中に入っていく。
なので、俺も続いて中に入る事にした。
「こんばんわ」
「はいよぉ~。いらっしゃ~い」
店員らしき男は、来客に対して、如何にも面倒臭そうな応対をし。
煙草を噴かしながら、そのままの舐めた態度を取ったまま新聞を読んでいる。
オイオイ。
この光景、なんか、どこかで見た様な嫌な光景だな。
けど、コイツに比べたら、ウチのカラオケ・ボックスのアホ店員の方が、幾らかマシってもんだ。
「『JAZZ-R』で予約が入ってる、と思うんですが」
「あぁ、なんだ、国見さん所の子か?」
「あっ、はい……それで国見さんは?」
「とっくに来てるよ。先にスタジオに入ってやってるみたいだから、行ってみれば」
まだ煙草を噴かした、そのままの体勢で。
奈緒さんに向って、顎だけでスタジオの扉を指す、素っ気無い態度で対応。
流石にこの態度を見た瞬間は、瞬時にイラッっと来たから。
この糞みたいな店員に、そのまま説教でも垂れてやろうかと思ったが、奈緒さんが首を振って、その俺の行動を制する。
チッ、命拾いしやがった。
今此処にテメェの命があった事を、精々奈緒さんに感謝しろよ。
「どうも」
「ところで国見さんの所の子、そっちのデカイのは?」
「この子は見学です」
「あぁそう。でも彼、素人さんなんだったら、機材には触らせない様にしてくれよな。変に汚されでもしたら、後で無駄に掃除しなくちゃいけないし。機材でも壊されたら、それこそ面倒だからな」
「あっ、はい……じゃあ、行こっか、クラ」
俺が、かなりイラついてるのを感じたのか、奈緒さんは足早に扉に向かい、コチラに向かって手招きをしている。
……殴り飛ばしたい所だが、此処は仕方がない。
奈緒さんがそう言うのなら、此処は1つ奈緒さんの顔を立てて我慢しよう。
「あぁ、彼、さっきも言ったけど。此処の機材、本当に高いから、勝手に触らないでね。学生に弁償なんて出来た代物じゃないからさぁ。……ってか、触るなよ」
「オイ、オマエ……大概にしろよ」
「あぁ?」
「ちぃとは常識の範疇でモノ言えや。接客態度が悪いにも程があんぞ」
「なっ、なんだよ、オマエ?」
俺は徐に財布を取り出し、中の金を全部カウンターに吐き出す。
金額は100万程度。
それを置くと、俺は店員を捻り上げた。
「テメェよぉ。さっき弁償がどうとか、こうとかぬかしてたよな。それを全額支払ってやったら、この店を全部ぶっ潰しても構わねぇって事だよな?それで足りねぇ分は、悪ぃがな、テメェの生命保険で補ってくれや……なぁ、それで良いよな?」
「ヒッ」
「やめてクラ」
「悪いが辞めねぇ……俺は、こう言った手合いが大嫌いなんだ。テメェで商売してる訳でもねぇハンパもんのバイト風情が、与えられた仕事ですらロクにしやしねぇで、人に講釈だけは一丁前に垂れやがる。テメェなぁ、人の事を云々言う前に、その腐った接客態度を何とかたら、どうなんだよ?えぇ?なんか言ってみろよ」
「わっ、解ったから、はっ、離してくれ」
「テメェ、ホントに解ってんだろうな」
「はっ、はい」
「次来た時、同じ態度とりやがったら、マジでバラして臓器バンクに売ッ飛ばすからな……覚悟しとけよ」
「はっ、はい」
言い終わったら、ソイツを座っていた椅子に投つけた。
何が起こったのか解らない店員は、呆然としている様だが、俺は、それを無視して奥に進む。
……っとだ。
奈緒さんがワナワナしながら、コチラを睨み付けてる訳だな……これが。
怒られるな、こりゃあ。
「すっ、すんません」
「クラ……君ねぇ……」
奈緒さんの手が振り上げられた。
この様子から察するに、俺はきっと奈緒さんに引っ叩かれるのだろう。
女に叩かれるのは、恐らくこれが初めてだ。
威力が無いと解っていながら、身を竦める。
・・・・・・
ところが。
ところがだ。
いつまで経っても、奈緒さんの振り上げられた手は、振り下ろされる事はなく、何故か、その場でプルプル震えているだけだ。
あれ?
「ぷっ……あははは……」
身構えた俺に反して、何故か聞こえてきたのは、奈緒さんの笑い声。
っと同時に。
振り上げられてた手は、俺の肩をポンポン叩いている。
なんだこれ?
「クラ、君って、もぉ最高だよ。私もね。前からアイツが嫌いだったんだけど。此処、国見さんのスタジオだから、あまり文句も言えなかったのよ。ありがとクラ……ほんとスッキリした」
「そっ、そッスか。そりゃ良かった」
「でも、程々にね……ぷっ……くっくっくっ」
この様子だと、奈緒さんも、本当は、あのカス店員の態度には腹を据え兼ねてたんだろな。
今の奴の姿を想像して、怒るどころか、未だに笑おうとしてる。
ってか、奈緒さんって、普段は、こんなに笑うんだな。
ってか、笑うと奈緒さん、更に可愛いな。
そこに……
「なんだ、なんだ?今日はヤケに騒がしいな。こりゃあ何事だ?」
「ぷっ……くっくっ……」
「なんだ奈緒ッぺ、もぉ来てたのか?」
「ぷっ……はい」
「お前……その笑い方をしてるって事は、また何かやらかしたな?」
「私は、何もしてない……ぷっ」
「ダメだ。話にならんな。……あぁ少年、何があったか知らないか?」
突然、扉の中から出て来たオッサンに、そんな質問をされるんだがな。
そんな事を、当事者の俺に聞いて、どうすんだ、このオッサン?
俺を尋問にでも掛けるつもりなのか?
まぁこのオッサンが、どこの誰かは知らねぇが、知らねぇおっさんに答える義務はねぇな。
っと言いたい所だが、このおっさん。
奈緒さんと会話してたって事は、明らかに奈緒さんの知り合いだよな。
だったら無碍に扱う訳にもいかねぇか。
しゃあねぇな。
一応、事の顛末を話してやるか。
「あぁ?この店の店員の態度が異常に悪ぃから、俺が厳重に注意してやっただけだ」
「少年がか?」
「悪ぃかよ」
「なるほどな。それで奈緒ッぺは、この有様な訳か。……奈緒ッぺは、アイツが嫌いだからな……しかし、それにしても少年がねぇ……プッ……ハハハハ」
なんだよ?
今度はオッサンまで、何故か笑い出したぞ。
「なに笑ってやがんだ、テメェ?」
「いやいや、笑ってスマン。少年の言う態度の悪い店員って言うのは、実はワシの甥っ子でな。えらく迷惑かけたみたいだな」
「ッたくよぉ、テメェの家は、馬鹿を放し飼いか?出来ねぇなら出来ねぇなりに、しっかり教育ぐらいしやがれつぅ~の。接客態度ってもんが、全くなっちゃいねぇ」
「そうかそうか、それはスマン事をしたな」
「……ところで、アンタ、誰だよ?奈緒さんの知り合いみてぇだから話しちゃいるが、一寸、馴れ馴れし過ぎやしねぇか」
「あぁ、自己紹介が遅れて悪かったな、少年。ワシは国見篤(クニミ・アツシ)。奈緒ッぺのバンド仲間兼、この店のオーナーだ」
「オーナーねぇ……つぅことは、どうやら家族経営ってのは、ほんとにイケねぇみたいだな。甘ちゃんバッカリしか生みやがらねぇ。幾ら身内だと言っても、もっと厳しくやんねぇと、オッサンの店、アッサリ潰れんぞ」
「それはそれは、助言痛み入るよ、少年。因みにだが、少年の家も何か事業をしているのか?」
なんだよ、このオッサン?何が言いたいんだよ?
「あぁやってるよ。因みに、先に言っとくがな。自営業だ自営業」
「ほぉ、興味深い。すると少年は、経営の有り方を、少しは理解してると言う事か?」
「んなもん知るかよ。知ったこっちゃねぇわ」
「じゃあ、何故、注意した?」
「くっだらねぇな。社会生活を送る上で、当たり前の事を言っただけの話だ。俺には、アンタが思う様な崇高な経営理念も、糞もねぇよ。ただの不良だ不良」
「ほぉ~~~っ、自分で、ただの不良と言うか、少年」
「おいおい、オッサンよぉ。さっきから聞いてりゃ少年、少年言いやがって、気分悪いんだよ。俺には倉津真琴って、立派な名前があんだ。憶えとけ」
「そうか、それは悪かったな。では、君の事をなんと呼べば良い?」
「なんとでも呼びやがれ。俺の知ったことか」
変なオッサンだよな。
なに、俺なんかに興味持ってだ、コイツ?
頭おかしいんじゃねぇか?
「クラですよ。この子はクラ」
「クラ?……あぁ、苗字の倉津から取った渾名か」
「もぉ奈緒さん……なんなんッスか、このオッサン?俺の事、根掘り葉掘り聞いて来て気持ち悪いんッスけど」
「ごめんね、クラ。この人、そう言う人なのよ」
「はぁ?」
どういう人っスか?
ホモ親父とかなんッスか?
「ごめん。説明不足だよね」
「はぁ、そッスね」
「この人はね。自分が興味を持つと、ナンデモカンデモ知りたくなっちゃう人なの」
奈緒さんの説明に、オッサンは腰に手を当てのけぞり、何故か偉そうなポーズをとる。
序に、背後には『エッヘン』と言う文字が浮かんでいる。
なんじゃコイツは?
だが、それはさておき。
このまま話を続けるのは危険だな。
この様子じゃ、永遠に、この訳のわからねぇオッサンと会話し続ける羽目になる様な予感しかしねぇ。
そんなのは金を貰っても御免だ。
折角の奈緒さんとの時間が、丸潰れになってしまうからな。
なら、此処は一発、奥の手だ。
最後までお付き合いありがとうございました<(_ _)>
奈緒さんと2人で、伴その練習スタジオにやってきたまでは良かったが。
受付ではダラシナイ店員に説教する羽目に成ったり。
奈緒さんのバンド仲間のオッサンには、ウザ絡みされると言う災難に見舞われてしまった(笑)
次回、このピンチを、どうやって切り抜けるのか?
そして倉津君が最後に放った『奥の手』とは一体何なのか?
それは次回の講釈(笑)
また遊びに来てくださいねぇ(*'ω'*)ノ
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