●前回のおさらい●
自分の大事な悩みを他所に、奈緒さんのイメージについて樫田さんと考察する倉津君。
そして、2人の奈緒さんに対するイメージの持ち方の違いから、更に考察を続ける羽目に成ってしまった。
でも、それで良いのかもしれない。
彼にとって一番大事な事は、奈緒さんの事だし。
こうして俺は、奈緒さんに対するイメージの違いを、樫田に説明してみたんだが……どう言う反応が返って来るんだろうな?
「……が、俺の知ってる奈緒さんのイメージなんだが」
「そっか……あの奈緒がねぇ。そんな一面を持ってたんだ」
「なんだよ。やっぱ全然イメージが違ったか?」
「そうだね。あたしには、アンタが言った様な奈緒のイメージは、全然無いね。……あっ、でも、そう言えば」
何か思い当たる節でも有ったのか、一瞬悩んだ様な顔をしてから声を出した。
「なっ、なにか有るのか?」
「いや……そんな期待される様な話じゃないんだけど。あの例のコンパ以降に、奈緒が妙な事を1度だけ私に言って来た事が有ったのよ」
「妙な事だと?」
「うん。普段のあの子からは、絶対に聞けない様なセリフ」
「なんだそりゃあ?」
奈緒さんが言いそうに無いセリフって、なんだ?
「まぁ普通に聞けば、どうって事ない話だと思うんだけど。奈緒が『ヒデのライブのチケット取れる?』って、私に聞いてきたのよ」
「なんだそりゃあ?また豪く普通の話だな」
「あぁまぁ、普通ならね。確かに、そう聞こえてもおかしくないんだけどね。奈緒の場合は、これだけでも十分特殊なのよ」
「はぁ?」
「あの子ね。さっきも言った通り、学校じゃ殆ど人と喋らないのよ。それがライブになんてなったら、それこそ誰かが誘わない限り、絶対行く様な子じゃないのよね。だから、あの子の方からライブのお誘いをしてくるなんて事は、ほぼ有り得ない訳よ」
おかしな話だ。
奈緒さんは説明マニアと言っても良い程、良く喋る。
なのに学校では、無口キャラの上に、人を避ける様な雰囲気なんだよなぁ。
なんだこれ?
「けど、なんでまた、馬鹿秀のライブなんて行く気になったんだろうな?」
「さぁ……でも、そこじゃないんじゃない」
「なんでだよ?」
「だって奈緒、その時、アンタが来るか、どうかも聞いてたもん」
「はぁ?」
そんな馬鹿な……って言う話でもないな。
当初の奈緒さんは、金目当てで俺に近付いていた節も有る訳だから、この話自体は有り得ない話でも無い。
樫田を、証人にでも仕立てたかったのだろうか?
「それにね。私と奈緒が2人で下校してる時に、何度かアンタの話をした事も有ったしね……序に言えば、その時の奈緒は、妙にソワソワしてた……って事はなに?その時点で奈緒は、アンタに惚れてたって事になるの?」
「オイオイ、そりゃあ、どう考えてもねぇだろ」
「そう……だよね。じゃあなんで、わざわざアンタの話なんか聞いてきたんだろ?ちょっと、意味わかんないよね」
樫田の意見は、全て合っている。
俺は自分の事だから、なんとも言えないが。
奈緒さんの程の器量が有れば、他の金持ちの男を騙すのも非常に簡単な事だと思うし。
そうなれば、ワザワザ俺みたいなややこしい奴に近付く必要性など皆無だ。
そう考えれば、奈緒さんって本当に、俺の事が好きだったりするのか?
「確かになぁ。俺なんて、ほぼヤクザみたいなもんだから。敢えて、自分から近付く意味なんて無いよな」
「あぁ、そこは認めちゃうんだ」
「あぁ、流石に自覚ぐらいは有る。俺が奈緒さんの立場なら、絶対に俺みたいな奴には近付かねぇからな」
「なによそれ?聞き方によっちゃあ、まるで自分がモテる様な言い方に聞こえるんだけど」
「悪ぃ。そう言うつもりで言ったんじゃねぇんだ。これは、あくまで一般論だ」
「あぁそうなんだ。ごめんごめん。けど、そうなるとやっぱり、奈緒がアンタに気が有ったって線が濃くなるよね」
「まぁ嬉しいが、シックリ来ない話だな」
「なんでまた?」
なんでも糞もねぇつぅ~の。
奈緒さんが、俺に惚れる理由なんて、何所にもねぇからだよ。
それをモロに言うと虚しくなるから、遠回しに話を構成してみるか。
「じゃあ聞くがよ。同姓から見て奈緒さんって、どう思うよ?」
「まぁ、少し怖そうな感じは有るにせよ。『凄く綺麗な子』だって認識は強いよね」
「まぁ良くも、悪くもそうだよな。なら、コンパで逢っただけの俺なんかに、そんな奈緒さんが惚れるか?」
「あぁでも、それって微妙かもよ」
「なんでだよ?」
なんかあんのか?
ヤッパ金?
「だって真琴って、一見怖そうに見えるけど。実は、不良のクセに、妙に優しかったりするじゃない。……そこを気に入る可能性は有るんじゃないかな」
「いや、初対面だから、本性を隠してるとか思わねぇのか?」
「あぁ、女って好きになったら、そう言うとこスルーするところが有るよ……それに」
「それになんだよ?」
「アンタにだけ自分を曝け出してる所なんて『惚れた』って言う以外考えられないんだけど。……第一私は、アンタがさっき言った様な奈緒を1度も見た事がないからね」
奈緒さんが、本気で俺に惚れてるだと……
何と言う大胆不敵な発想だろうか。
ただ、樫田の言う事を信用するなら。
彼女の気が変ったのは、少なからずあるかも知れない。
昨晩、此処横浜でした喧嘩が原因のそれだ。
確かにあれ以降、奈緒さんの様子が、少し変った気がしないでもない。
けど。
①山中や関西人を勘違いして『美味しくなってる』とか、無茶苦茶オチョコチョイな事をしたり。
②俺の買い物にも拘らず、オマケや値引きを、楽器屋の店員に催促する様なお節介な事をしたり。
③崇秀にからかわれて、ムキになって自分が恥ずかしい様な事をしたり、無駄に緊張してみたり。
④1度笑い出したら、自分で制御出来なくなったり。
⑤物知りで説明マニア、これも1度話し出すと止まらないし、上手く説明出来無いと膨れる。
は、③を除けば、あの喧嘩以前のものが殆ど。
敢えて違いを言えば、喧嘩以降は、表情が明るい事と、俺には我儘を言ってくれてる事ぐらいだな。
っと言う事はだな。
奈緒さんは、俺のあの時に言ったセリフ『逆に、自分から自分を曝け出してみろよ』を誠実に守っている事になる。
それって、彼女は、本気で、俺なんかに心を開いてくれてる訳だな。
だとしたら、余計に崇秀の勧誘を受け入れ難いな。
矢張り、そんな彼女を裏切れない……
「なに?神妙な顔して」
「樫田よぉ……悪いが、ちょっとだけ相談に乗ってくれねぇか?」
樫田と話しているうちに、俺の口からは、自然にそんな言葉が出てきた。
年上に人間に相談したかったのは言うまでもないが。
今までの会話の中で、思ってた以上に樫田が良識のある人間と判断出来たからだ。
迷っている時の、一時の気の迷いなのかも知れないが。
今の俺では、崇秀の件を、1人で解決出来無い問題だと踏んでの事だ。
こんな話、樫田にとっては迷惑な話かもしれないがな。
最後までお付き合いありがとうございました<(_ _)>
奈緒さんの考察を終えて、漸く本題に入れる感じに成りましたね。
さてさて、この悩みに対して樫田さんは、一体どのような回答を導き出すのでしょうね?
それはまた次回の講釈。
また良かったら、遊びに来て下さいねぇ~~~(*'ω'*)ノ
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