最後まで奏でられなかった音楽

どこかお間抜けDQNな不良さんのゆったり更生日誌(笑)
殴り書き書店
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155 不良さん、奈緒さんの勉強法に驚く

公開日時: 2021年7月11日(日) 00:21
更新日時: 2022年11月27日(日) 22:57
文字数:4,354

●前回までのあらすじ●


 奈緒さんの家での勉強会が始まった。

そしてまずは素直ちゃんが、馬鹿2人に勉強を教えるが……ある程度理解できている山中君とは違い、倉津君はチンプンカンプン。


けど、その姿を見た奈緒さんは『これで大丈夫』だと認識した上で、みんなに食事を勧める。


そして此処からは、奈緒さんが倉津君に勉強を教え始める。

「ん。後片付けも終わったし。じゃあ、そろそろ。本格的に勉強を再開しよっか……アリス、君は、引き続きカズの勉強を見てくれる?私は、少しの間、このどうしようもない馬鹿を見るから」

「あっ、はい」


即座に素直は、奈緒さんの指示通り、山中と勉強を始める。


そんな素直を見て思ったんだが。

素直は、奈緒さんを、何処かしろ信頼し切っている様子すら窺える。


故に彼女は、的確に、山中に要領を教え始めた。


そして、俺は……



「さてさてクラ……始めるよ」

「……あぁ、うっす」


抑揚のない返事をしてしまった。


これじゃあ、生返事より性質が悪いな。



「もぉ元気ないなぁ。そんなんじゃ、直ぐにへばっちゃうよ」

「すっ、すんません」

「しょうがないなぁ。……じゃあクラ」

「あぁ、はい」

「余り時間が無いから、此処からは全て私の言った通りにやって貰うよ。反論せずに黙々とやってね。まず現国」

「あぁ、うっす」

「コラコラ、そんなに身構えなくても大丈夫だって……テスト範囲を読むだけの事なんだから」


一瞬、奈緒さんの言葉に逆らって、無駄な反論しようと思ったが……辞めにした。


読むだけで、点数が上がるなんて有り得ない話だが。

何か奈緒さんには、キッチリとした思惑が有るんだろう。


だから、教え方に実績のある奈緒さんの言葉を信じよう。


俺は文章を眼で追って、読み始めた。


***


 一読して、奈緒さんを見てみると。

軽く1度納得して、こんな事を言ってきた。



「うん?クラ、読むのは良いけど。口に出して読まないとダメだよ」

「えっ?読むたって、此処で声を出して読むんッスか?」

「そぉだよ。そうじゃないと、私が、君の実力を測れないじゃない」

「そりゃあ、そうッスけど……」

「ふぅ~~~、わかってないかぁ……良いクラ?現国で一番大事な事は、作者の意図を素早く読み取る事。だから、今の君みたいに、ただ眼で文章を追ってるだけじゃ、あまり意味が無いのよ。眼で追いながら、言葉にする事によって、眼と、耳、それに口や、脳が、それぞれ学習する。そうする事によって、見えなかった作者の意図も、少しずつ見えてくる様になるって訳。……わかった?要するに、声に出して読む事を恥ずかしがってる場合じゃないって事ね」

「ウッ、ウッス」


なんだか、よく解らないが。

それで点数が取れるなら、やってみるしかないよな。


時間ねぇし……


俺、馬鹿だし……


そんな訳なんで。

俺は恥ずかしがらずに、やや大きめの声で文章を読み始めた。


***


 更に一読して、奈緒さんを見る。


すると今度は……



「ん、じゃあ、現国終わりね」

「えぇ~~~!!」

「なに、不満なの?」

「いや、奈緒さん。こんなんで大丈夫なんッスか?」

「大丈夫だよ……なんで?」

「いや、なんて言うか。奈緒さんを疑う訳じゃないんッスけど。テスト勉強って、こんなに簡単なもんなんッスか?」

「そうだねぇ。まぁ中間・期末に関しては、こんなもんだね。けどまぁ、実力テストなんかの場合は、こうは簡単に行かないけどね」

「はぁ」


まぁ奈緒さんが、そう言うなら、そうなんでしょうが……『口に出して読む』って言うのは、そんなに効果のある作業なんですか?


矢張り、馬鹿の俺には、よく解らないなぁ。



「よし。じゃあ、この調子で数学行ってみようか?」

「はぁ」

「うん。じゃあ、範囲の教科書を開いて」

「ウッス」


俺が意気揚々と教科書を開いたら、奈緒さんは、それをアッサリ閉じた。


今度はなんだ?



「ふふ~~~ん。どうせ見ても解らないでしょ」


ヒデェ……


『教科書を開け』って、自分で言ったくせに。



「ちょっと奈緒さん。教科書も開かずに、どうやって勉強するんッスか?」

「ふふ~~~ん……君が覚えるのは、XとYの関係だけ」

「X・Yって、縦と横の関係ッスよね」

「あぁ、そこは知ってるんだ。じゃあ、数学終了」

「へっ?はぁ~~~~?」


なんだそりゃあ?

そんなもんぐらいなら、流石の俺でも知ってるぞ。


ドンだけ馬鹿扱いなんだろうな?



「次行くよ」

「あっ、あの」

「はいはい。質問は、後で聞いてあげるから、取り敢えず今は、言われた事だけをやってみ」

「はぁ」

「じゃあ、古文ね……これもさっきの現国と一緒。読むだけで十分。いや、寧ろ、それよりも簡単な作業で、点数が取れるんだよね」

「えぇ~~~、なんでッスか?」


わからねぇ。


現国は、まだ奈緒さんの言う通り『読めば解る事もある』かも知れないが。

古文は、なにやら、ややこしい変換をしなきゃ成らないじゃないですか?


なのに、なんで、こっちの方が簡単なんだ?



「うん。言ってる意味が解らないみたいだから、じゃあ、ちょっとだけ説明するね」

「うっす。お願いするッス」

「あのねクラ、良い?古文の目的って言うのは、基本解析なのよ。此処は解る?」

「はぁ、まぁそうっすよね」

「でしょ。なら、解析をするだけで、ほぼOKな訳じゃない。じゃあそれを=に置き換えると、それが解答になるんじゃないの?だったら、解析なんか出来なくても、解析した文章だけを覚えれば良い。それで終わりなんじゃないの?」


あっ……そう言う事か。


スゲェ発想の転換だな。



「だからね。今の君に必要なのは、解析する方法を覚えるんじゃなくて、解析した文章を覚える事。短時間でテスト勉強をするって言うのは、そう言う事なのよ。……解析は、また今度、ゆっくり教えてあげる」


なるほど……簡略化する事によって、意図的に『その場しのぎを作る』って事か。


ホント、凄い事を考えるな、この人。


普通なら、無理矢理にでも解析の手法を教えるんだろうけど。

彼女は、そんな常識すら無視して、今必要な効率だけを重視してる。


理に適ってるだけに、もぉ奈緒さんを疑う必要なんてないな。

だから俺は、奈緒さんの指示通り、奈緒さんが解析した古文を読んだ。



「じゃあ次ね。えぇっと、次は英語か……クラ、英会話は出来たよね」

「あっ、ウッス。一応ッスけど。外人と話しても大丈夫なレベルではあるッスね」

「そぉ。だったら簡単じゃない。単語覚えるだけ……はい、終わり」

「えぇ~~」

「なになに?また不満なの?」

「いやいや、楽が出来るから、全然、不満じゃないッスけど。ヤッパリ、こんなんで良いんッスか?」


いや、ホントな。

さっき言った通り、奈緒さんの言葉は、全部信じるけどな。


そこまで単純に考えて良いものなのか?



「うん、別に良いよ。……勉強なんて、ホント、所詮はそんなもんだよ。意外と、覚える事や、やる事って少ないんだよね。みんな、難しく考え過ぎなんだよ」

「はぁ」


なんか納得出来た様な、出来無い様な……


けど、兎に角、時間もねぇ事だし、先に進めて貰おう。



「じゃあ、次からは纏めて行くよ。……って言っても、此処からも、さっきと同じで、教科書を読むだけで、問題無いんだけどね」

「えっ?いや、今度のは暗記ッスよ奈緒さん」

「良いの良いの、それで良いの。騙されたと思ってやってみ」


俺は、言われた通りテスト範囲を読んで行く。


勿論、口に出してだ。



「うん。じゃあ、これで一通り終わり……休憩しよっか」

「えぇ~~~」

「だからぁ。さっきからなにが『えぇ~~~』なのよ。あのねぇクラ、さっきも言ったでしょ。人間の集中力なんか1時間も続かないって」

「あぁ、うっす」


不本意なまま、コチラの勉強は終了する。

だが、山中と素直は、いまだ悪戦苦闘している様子だ。


アッチが、あぁなのに、出来の悪い方の俺が、こうで良いのか?



「さて、ちょっと時間も出来た事だし、お茶でも入れてくるね」


そう言って彼女は、俺を、その場に残して、再びキッチンに消えて行った。


あぁ~~~~れぇ~~~?

奈緒さんは、どうやら本気で、コレで良いと思ってるらしい。


でも、俺は不安にかられるばかりで、今まで自分で開いた事も無い教科書を見ている。

いつの間にか、大嫌いな筈の勉強が気になって仕方なくなっていた。


***


「あれ?アリスも、カズも、まだ休憩しないの?」

「あの、まだ範囲終わってないんで」

「あらま」

「あの、向井さんの方は……もぉ終わったんですか?」

「終わったよ」

「えっ?えっ?あの、どうして、そんなに、早く終わるんですか?」

「うん?それはクラが馬鹿だから」

「えっ?」


いや、奈緒さん。

さっきから、全部、丸聞こえなんッスけど……



「馬鹿って……」

「あぁ、わかんないか……あのね、アリス。馬鹿に一杯モノを教え様としても、馬鹿だから憶え切れないのよ。だから馬鹿には、必要以上の事を教えちゃダメなのね。必要最低限の要点だけを馬鹿に教えないと、馬鹿は混乱するだけだからね。……馬鹿だから」


6回も『馬鹿』って連続で言われたよ。

此処まで馬鹿にされてるとは、思いも寄らなかった。


まぁそりゃあ、奈緒さんは賢いですよ。

ナンデモカンデモ自分で出来る凄い人ですよ。

だからって、そこまで俺の事を『馬鹿馬鹿』言わなくても良いじゃないッスか。


くそぉ~~~、なんか妙に悔しいぞ。


単純な俺は、悔しさのあまり、奈緒さんの言った勉強法を必死に始めた。


……っと言ってもだ。

ただ反復しているだけの事だがな。


『ポコ』


そんな俺は、何故か奈緒さんに頭を殴られた。



「いてっ」

「コ~~~ラッ、クラ~~……なんで休憩中まで勉強するのよ?私は、休憩って言わなかったっけ?」

「いや、けど、奈緒さん……」

「もぉ……まぁやりたいんだったら、別に止めはしないけどさぁ。そんな事やっても、どうせ無駄だよ無駄」


くそ~~~!!腹が立つなぁ。


なんで必死に頑張ろうとしてる俺に、そんな意地の悪い事ばっかり言うんだよ、この人は?



「イヤ、無駄じゃないッス。もぅ少しやるッス」

「あぁっそ。じゃあね。後30分ね。それ以降は、絶対に休憩する事……良い?」

「わかったッス。30分ッスね30分」

「ハァ~~~、もぉ、無駄だって言ってんのに……」


思い切り、深い溜息までつかれたよ。


そんな中。

『ポワワワワワワ……』

『ポワワワワワワ……』

『ポワワワワワワ……』

……っと、不意に、隣の部屋から電子音が聞こえてきた。



「あっ、電話だ」


そんな電話に。奈緒さんは意気揚々と和室の扉を潜り。

例のショップもどきに部屋に、電話を取りに行った。


俺は、このチャンスを逃すまいと勉強に打ち込む。


まぁ打ち込むって言っても、さっき言った通り『反復』してるだけだけどな。

しかも、素直と山中の邪魔になっちゃイケネェから、教科書を眼で追うだけ……


ホント、奈緒さんの言う通り、これって意味無いのかなぁ?


そんな間にも、奈緒さんは、電話を終えてコチラに声を掛けてくる。



「ごめん。ちょっと出かけて来るから、アリス、適当にやっといて……あぁそれと、台所に、お茶用意しといたから、勝手に飲んどいてぇ」

「あっ、はい」


何所に行くのかは知らないが、何か急用か?


まぁ良い。

その間にも、少しでも成果を出してやる。


俺は、奈緒さんの言葉にドンドンと意地になって、解らないなりに勉強を続けた。


最後までお付き合い下さって、誠にありがとうございますです<(_ _)>


倉津君……完全に奈緒さんの術中に嵌ってますね(笑)


ほんとアホですね。


さて、そんな中、奈緒さんは電話を終えて、どこかに出かけて行ったみたいですが。

彼女は一体、何を考えているのでしょうか?


その謎は、また次回の講釈。


良かったら、また遊びに来て下さいねぇ~~~(*'ω'*)ノ

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