最後まで奏でられなかった音楽

どこかお間抜けDQNな不良さんのゆったり更生日誌(笑)
殴り書き書店
殴り書き書店

138 不良さん 椿さんに相談と、嶋田さんの帰宅

公開日時: 2021年6月24日(木) 00:21
更新日時: 2022年11月24日(木) 22:26
文字数:3,632

●前回までのあらすじ●


 誰にでも簡単に騙されてしまう無邪気な椿さんに、この後の為にも注意をした倉津君。


でも、自分もよく似た事を崇秀にして貰っている事に気付き……凹む(笑)

「後輩さん……急に、どぉしたの?元気ないよ」

「いや、今さっきの椿さんの話で、自分にも思い当たる節が多々有りまして……」

「そうなんだ。……じゃあね、今度は、椿が後輩さんを助けてあげる。相談に乗ってあげるよ」

「そうッスね……」


俺は、椿さんの意見に小さく賛同した。


ただこれは、本心から賛同した訳じゃない。


椿さんは、あぁ言ってくれてはいるが。

正直これは、彼女に相談して、どうこうなる問題じゃない。

寧ろ、他人に騙されてばかりのアナタが、一体なにを教えてくれるって言うんだ?


そうやって、人に文句を思いながらも、頼ろうとしている自分がいる。


これも嫌なものだ。



「あのね、後輩さん。なにも解らない椿が、こんな事を言うのも変だけど……人にはね。出来る事と、出来無い事があるんだよ。椿は無理しちゃダメだと思う」

「けど、それじゃあ、全然、進歩しないんじゃないッスか?」

「あぁそうかぁ……そうだね。あぁでもね、でもね。じゃあ、無理するんじゃなくて、ゆっくりでも良いから一歩一歩前に進めば良いんじゃないかな?」

「まぁ一般的には、そうなんッスけどね。中々、この悪い癖は抜け無いんッスよ。それに俺が頼ってる奴って言うのが、滅茶苦茶器用な奴で、何事も一速飛ばしで進歩する様な奴なんッスよ」

「そっかぁ。凄い人なんだね。……じゃあね、じゃあね、こういうのはどぉ?」

「なんッスか?」

「あのね、あのね。後輩さんが悩んだ時、その人なら、どう解決するか考えてみたらどぉ?」

「まぁ、単純に言えば、そうなんッスけどね」

「これもダメなの?」

「ハァ……まぁ、あの、何て言うか。そうしたいのは山々なんッスけど。俺なんかじゃ、そいつの考えは難し過ぎて、到底思いつかないんッスよ。……って言うかッスね。既に、なにを考えてるのかすら解らない現状ッスね」

「そっかぁ。それじゃあ、これもダメだね……」


これ以降は、会話が途切れる。


俺が、こう自分の無能さをひけらがして、椿さんの意見をナンデモカンデモ否定してしまうもんだから、恐らくは椿さんも、なにも思いつか無くなったんだろう。


2人で俯いたまま、思考するだけの時間を過ごす。


***


「あぁ、疲れた……椿、ただいまぁ」

「あっ!!浩ちゃんだ……浩ちゃん、お帰りぃ~♪」


悩んでいる内に時間が過ぎ、どうやら嶋田さんが帰宅したみたいだな。


椿さんは、彼の声を聞いた途端、直ぐに俯くのを辞め。

嬉しそうに部屋の扉を開けて迎えに行った。


何と言う、立ち直りの早さ。

今迄凹んでいたのは、何だったんだろうか?


それほど彼女の声には、一切の陰りがない。



「ねぇねぇ、浩ちゃん。浩ちゃんに、お客さんが来てるよ」

「お客さん?誰が来てるんだい?」

「えぇっとね。後輩さん」

「後輩さん?……椿、ちゃんと名前を言わないと、誰だか解らないよ」

「えぇっとね……知らない」

「またオマエは……」

「でもね、でもね。今回は、ちょっと違うんだよ。後輩さん、ホント、凄く良い人だから」

「オマエは、一体、それで何回騙されたら気が済むんだ?」

「違うもん。今度は、ホントに良い人だもん」

「……まぁ良いか。取り敢えず、その後輩さんとやらに逢うよ」

「もぉ……ホントに、後輩さん良い人なんだから。浩ちゃん、きっと吃驚するんだからぁ」

「はいはい」

「ぷぅ~~」


嶋田さん弱ッ!!


俺も人の事を言えた義理じゃねぇが、男って生き物は、基本的には女に甘いものなんだな。

アホ中や、馬鹿秀を見てると勘違いしちまう。


その中でも、特に馬鹿秀は酷い。

男女問わず、人の扱いに一切の差別がないからなぁ。


中々あそこまで徹底した奴は珍しいんじゃないか。


その分、誰に対しても容赦がねぇがな。


……っとまぁ、そんな事を考えてると、2人が仲良く部屋に入って来る。

俺は座ったまま、頭を下げて嶋田さんに挨拶をする。



「どもッス」

「えっ?あっ、倉津君?……あぁ、まぁ確かに良い人だね」

「でしょ♪」


俺の善悪の成否は良いとして、椿さんは満面の笑みを嶋田さんに向ける。

この笑顔には勝ち誇った様な様子も無く、一切合切、悪意ってものを感じない。


本当に嬉しそうだ。


俺も、こんな笑顔を、久しぶりに奈緒さんに向けられたいものだ。


勿論、今現在では、自業自得で絶対無理だが……



「まぁ、間違っては無いけど……しかし、倉津君、急にどうしたんだい?」

「いや、あの、実はッスね。いきなり、ミットモナイ話でなんなんッスけど。アメリカに行ってる例の馬鹿が、なにを考えたのか、急に帰省して来てッスね。スタジオで、散々俺達を馬鹿にした上で、俺達の次回のライブを決めて、どっかに行きやがったんッスよ」

「アメリカに行ってる例の馬鹿?……あぁ仲居間さんの事ね。しかしまぁ、いつもながら、あの人は、急に話を振る人だね」

「そうなんッスよ。勝手にも程が有るんッスけどね」


嘘は言ってないぞ。


……って言うかな。

嶋田さんは、馬鹿秀とも付き合いが長いし、その上、矢鱈と察しの良い。

だから多分、これだけで十分伝わると思う。


ただ察しが良いだけに、余計な事まで伝わらなきゃ良いが……



「なるほどね。……っで、倉津君は、ウチにライブの選曲をしに来たと」


なんの反論もなく、呆気に取られる位、あっさりライブを承諾した。


効率的と言えば、それまでなんだが……この人、自分のバンドのライブなのに、他人が決めたって事に関しては、なにも気にしてない様子だな。


普通なら、もう少し根掘り葉掘り聞きそうなものなのにな。


彼の言葉には不満が残るが、取り敢えず、話が前に進まないのも問題だと思い。

此処は同調して、その思考を閉ざす事にした。



「まぁ、そんな感じッス」

「なるほどね。……っで、そのライブって、ウチの単独ライブなの?」

「そうッス」

「単独か、そりゃあまた大変だ。……っで、いつやるんだい?」

「あの……ホント、急な話で申し訳ないんッスけど。実は一週間後なんッスよ。んで場所は、前のライブハウスっす。あぁそれと、客は、アイツが集めるとか言ってました」

「なんとも至れり尽くせりだね。……って事は倉津君。君、仲居間さんと、又、なにか賭けをしたね。今度は、何を賭けたんだい?」


あぁ~~~あっ、一番ばれて欲しくない所が、一瞬にしてバレちまったよ。

勿論、俺だって、話の流れから『バレない』なんて厚かましい事は考えていなかったが、こうも簡単にバレるとも思わなかった。


いや、多分、最初から解ってた様な気もするぞ。


けどだな。

そうは言っても『解散』を賭けたって言ったら、嶋田さんも流石に怒るだろうな。



「バンドの……解散……ッスね」

「なるほど。バンドの解散ね。……悪くないんじゃない」


いつも嶋田さんの言葉には、なんの濁りも無い。


……って言うか!!

『バンドの解散が賭かってる』って言うのに、あまりにもアッサリし過ぎてないか?

普通、此処は、勝手な事をした俺を嗜める所なんじゃないのか?


そんな彼の意外な言葉に、俺は動揺を隠せなかった。



「へっ?」

「うん?だから、バンドの解散を賭けたんでしょ?それは、別に悪くないって言ったんだよ」

「なっ、なんでッスか?」

「だってほら、解散させられるって事は。仲居間さんから見たら、ウチのバンドって、その程度のバンドだったって事でしょ。『それ=真剣さが足りない』って事だよ。だから、真剣にやるつもりがないんだったら、早い内にバンドなんて解散した方が良いからね。……そう言う割り切りも必要だと思うよ」


淡々とした言葉が繰り出されていく。


これが『幾つもバンドを渡り歩いて来た男』の言葉なんだろう。

そんな彼が言うだけに言葉の重みを感じはするが……この意見に、俺は納得は出来無い。


つい反論してしまう。



「えっ?じゃあ嶋田さんは、今のバンドに、全然愛着が無いんッスか?」

「あぁ、いや、そう言う訳じゃないんだよ。あのバンド自体のレベルは高いから、実際良いバンドだとは思うよ。……けど、ほら、それだけじゃ上手くは行かない事も有る訳でしょ。第一俺は、椿を食わさなきゃいけないから『不真面目にバンドをする』なんて無駄はしたくないんだよ。そこが一番重要」

「って事はッスね。嶋田さんのバンドをする理由って、椿さんの為なんッスか?」

「そうだね。それ以外にはなにも無いよ」


一途な思いと言うべきなんだろうか?

それとも、椿さんに、なにか大きな借りでも有るんだろうか?


なんにしても、ガキの俺には到底思いつかない思想だ。


確かに俺も、嶋田さん同様『奈緒さんと一緒に居たい』と言う一心からバンドを始めたのは事実だ。

……が、嶋田さんの話は、そんな生易しいレベルの低い話じゃない。


まずにして『バンド活動=生活が掛かっている』と言う方程式が成り立っていて、同時に『椿さん>バンド』と言う方程式も成り立っている。


これからも解る様に、彼の音楽は、金を稼ぐ為の道具に過ぎない。


故に1つのバンドには、一切固執する事はない。

イヤな言い方をすれば、金さえ生み出せば、メンバーなんて誰でも良いのかも知れない。


一緒にやってるだけに、少し残念な気分になる。


最後までお付き合い下さり、ありがとうございますです<(_ _)>


まぁ椿さんの悩み相談の解答は一般論なので、崇秀が対象に成らないのは仕方がないですね。

そして2人がそんな状態のまま、嶋田さんが帰宅して、ライブの話に流れていきますが……


また少し揉めそうな雰囲気ですね(笑)


このまま激化するのか?

それは次回の講釈。


また良かったら、遊びに来て下さいねぇ~~~(*'ω'*)ノ

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート